エンジニアの“自由研究”をうまく事業に活かすには~社内SNS『Talknote』の新機能リリースに学ぶ
導入企業が2万1000社を突破した社内SNSの『Talknote』。2016年3月には、利用企業ごとの独自スタンプも使用可能になる「スタイルスタンプ」を提供開始するなど、ユーザー企業の利便性を高めるためにさまざまな取り組みを行っている。
その前の今年1月にはWeb版デザインのリニューアルも実施。ユーザビリティの向上に力を入れていく中で、同時にある新機能が追加されていた。社外の『Talknote』ユーザーともコミュニケーションを取りやすくする、「社外コミュニケーション機能」だ。
社名と名前で他社の『Talknote』ユーザーを検索し、承認されたらすぐにメッセージのやり取りができるこの機能は、協力会社/発注企業とのコミュニケーションや、会社間での相談・交渉ごとをよりスムーズに進められるようにと考えて追加された。相手に申請を拒否されたら二度と会話できない仕組みになっており、無用な勧誘などは来ないように配慮してある。
社内SNSである『Talknote』としては意外な新機能のように感じるが、ユーザー企業が増えたこのタイミングで、ビジネスをより支援するサービスに進化するべく搭載が許可されたという。
ここで「許可」と書いたのには理由がある。実はこの機能、3年前の2013年にプロトタイプが開発されていたからだ。
トークノートの開発部で開発責任者を務める藤井拓也氏は、「僕が勝手に作り、社長にボツを食らった機能だったが、サービスのフェーズが変わったことで正式にリリースすることにした」そう。ある意味で、エンジニア自身が作るべきだと考えたモノを作る“自由研究”のような取り組みから生まれた新機能というわけだ。
なぜ、3年前は「不要」と判断された機能が今になって搭載されたのか。その裏側を藤井氏に聞くと、開発とサービスグロースの関係性について興味深い経験則が浮き彫りになった。
一度お蔵入りした機能を、事業フェーズに合わせて調整・搭載
藤井氏がこの外部コミュニケーション機能を思い付いたのは、2013年にトークノートへ入社して約半年後の、既存顧客や見込み客にヒアリングをしている最中だった。当時はまだ『Talknote』が今ほど普及しておらず、導入企業を増やすには何がカギになるのかを模索していた。
ヒアリングを経て、「既存のコミュニケーションツールから『Talknote』に置き換えてもらうコストは思っているより高い」と感じた藤井氏は、導入コストを下げる意味でも「社内に閉じずいろんなユーザーとつながる機能があったらいいのでは?」と開発に着手した。
しかし、プロトタイプとして作ったクローズドβ版を懇意のユーザー企業に試してもらったところ、評判は芳しくなく、経営陣にもUI面などを強烈にダメ出しされたという。
いわばお蔵入り状態になっていた機能が、このタイミングで正式リリースとなった理由は、主に2つあると藤井氏は分析している。一つは、「単純に、僕の作ったプロトタイプがイケてなかったから(笑)」。もう一つは、『Talknote』が置かれていたフェーズの違いだと話す。
「2013年当時、『Talknote』はまだまだ社内SNSとしての知名度が低かった。ですから、社外の人とつながる機能を追加するより、社内の情報共有ツールとして使いやすいモノにすることの方が優先順位が高かったんです」
プロダクト開発の初期段階ではMVP(Minimum Viable Product)を重視して進めるべき、という考えは、リーンスタートアップの普及で多くの人が知るところとなった。『Talknote』もこの鉄則に則って社内SNSとしての価値向上に努めた結果、2014年には国内の社内SNSサービスとして導入社数No.1という実績(シード・プランニング調べ)を築くことができた。
そこで次の展開として、約1年前くらいから、「情報共有ツール」から「生産性向上ツール」へと進化させるフェーズに入っていたという。
「必要最小限の機能開発を優先的に進めてきて、それがひと段落したのが今。生産性向上という観点では、社外コミュニケーション機能も有益な機能になると判断して、3年越しに正式リリースすることになったのです」
プロトタイプづくりは、エンジニアが「自分の力で事業を動かす武器」
この機能は藤井氏のプロトタイピングから生まれたが、外部のエンジニアも含めて9名いる開発チーム全体としては「他にも個人が開発し、お蔵入り状態になっている機能がいくつかある」という。ある程度までは社内で認められて“自由研究”を進めながらも、リリースするには至っていない機能たちだ。
これらは、「エンジニアが自分の力で事業を動かすにはどうしたらいいのか?」という問いをずっと自問してきた藤井氏が、「まずはプロトタイプを作ってみせる」ということに注力してきた結果といえる。自分が必要だと思う機能は、プロトタイプを作って人に見せながら、反応を確かめる。「こういうモノづくりこそが理想」と藤井氏は語る。
「モノを見せて、ユーザーの声を聞かないと、何が支持されるのかなんて分からんじゃないですか。だから、『まずやっちゃえ』の精神で開発を進めたいし、実際にそれができるようにメンバーの時間を確保するようにもしてきました」
ただし、『Talknote』が現在の地位を得るまでの過程を見ても分かるように、サービスを育てていくには打ち手の順番も大事だと藤井氏は続ける。
「直面している事業課題を無視して、好き勝手に開発をしていくのは言うまでもなくナンセンス。また、特にBtoBサービスでは機能追加や変更を繰り返し過ぎるとユーザーに不便な思いをさせてしまいます。『まずやっちゃえ』という開発姿勢も、良い時と悪い時があるということです」
「信頼を前提とした自由」をチームに根付かせる3つのやり方
そのかじ取りを行うのが、開発責任者である藤井氏の役割だ。事業判断から行うトップダウンでの開発と、現時点のプロダクトから改善点を見つけ出すボトムアップの開発の間でバランスを取ることは、言うほど簡単なマネジメントではない。
仮に過度な納期優先、タスク優先で仕事を割り振り、長期間にわたって自由な開発を阻害してしまうと、「僕の経験上メンバーの質とモチベーションを下げてしまう」と言う。
開発責任者になる前は「完全に『まずやっちゃえ』派の人間でした(笑)」と明かす藤井氏は、どのようにこのバランスを取っているのか。
「僕自身、バランスを取るのが今でも課題なんですけどね。ただ、一つ大事にしていることは、常に『信頼を前提に作る』ということ。経営陣に対しても、開発メンバーに対しても、不信を与えたままでは何もうまく行かない。だから、まず信頼関係がある状態をきちんと作ってから、自由な開発に取り組むべきだと考えています」
藤井氏の語る「信頼がある状態」をもう少し噛み砕いて説明すると、
【1】やろうとしていることが合理的だと、論理的に説得できているか
【2】やろうとしていることが魅力的と思ってもらえるか
【3】「あいつが言うなら仕方がない」とあきらめてもらえるか
という3つのうちのどれかしかない、と言う。
【3】は少々意外な答えだが、大切なのは「あきらめてもらう」までのプロセスだ。
「時には社長とケンカして、僕がボロカスに言い負かされることもありますよ(笑)。それでも、真剣に議論をした結果、『今はビジネスサイドの意向を優先するべきだ』となれば、僕はもちろん、チームの皆にも理解はできるでしょう。だから僕は、どんなに叩かれても、議論と時間を重ねるのを避けることはしません」
ちなみにこれは、「誰でも自由に作れるし、誰に対しても自由に指摘ができる」という開発風土を作りたいという思いもあって実践してきたことだ。
議論を厭わず、本当に良いプロダクトを作るためにも、風通しのよさは今後も大事にしていきたいと話す。
「開発責任者の仕事をしている今も、コードは書く人ではあり続けたいんですね。だから、空き時間にGitHubからプルリクして機能開発をやるわけですが、ウチのメンバーは僕より優秀なので、しょっちゅう『そのコード必要あります?』などとdisられています。それでシュンとしてしまうこともありますが、ある意味で『良いチームになってきた』とうれしく思っています」
自らを「開発村の村長」と呼ぶ藤井氏の“村運営”には、どこか人肌の温かさがある。
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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