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シタテルが仕掛ける“アパレル産業革命”とは? ファッションテックが実現する未来

働き方

    様々な産業がテクノロジー活用に乗り出したことで世に浸透した「○○Tech」という言葉。次から次へと誕生する新たなマーケットの動向全てをキャッチするのは、多忙なビジネスパーソンにとって容易なことではありません。
    そこで、各領域で存在感を放つ企業に直撃取材を実施!気になる市場の現状と、各社が見据える未来の話。そして、注目市場で活躍するエンジニアに求められる素養について解き明かしていきます。

    消費者ニーズの多様化とともに、ファッション業界ではいま、テクノロジーによるさまざまな革新が起こっているところだ。「ファッションテック」という言葉を聞くと、『ZOZOSUIT』を思い浮かべる人も多いかもしれないが、ファッション・アパレル領域におけるデジタルトランスフォーメーションは衣服のパーソナライズ化を推し進めるものだけにはとどまらない。

    その良い事例となるのが、アパレル工場と生産者をつなぎ、小ロットからの衣服製作を実現するプラットフォームを提供する、シタテル株式会社の取り組みだ。同社CTOの和泉さんに、シタテルの挑戦、そして、ファッションテックの現在と未来についてお話を伺った。

    シタテル株式会社 CTO 和泉信生さん

    シタテル株式会社 CTO 和泉信生さん
    2009年に博士(情報工学)を九州工業大学大学院情報工学府にて取得。専門はソフトウェア工学。同年4月から9年間、熊本県の崇城大学情報学部助教として教育・研究活動に従事。「市民共働のための雨水グリッドの開発」「市街地のユニバーサルデザイン支援ツールの研究」などの学術研究を行う。一方、iOSやアンドロイドアプリを企業と共同開発するなど、エンジニアリングを実社会に応用するソフトウェア開発者としても活動。スタートアップイベントのメンターを務めたり、ソフトウェア技術者の育成を目指した「社会人若手エンジニアのための逆インターンシップ」「子供向けプログラミング教室」などの実施等、社会活動も行う。2017年4月、シタテル技術アドバイザーに就任。2018年4月、シタテル株式会社に入社し、CTOに就任。著書は、『Unity4マスターブック―3Dゲームエンジンを使いこなす』(カットシステム刊)

    ファッション業界で働き始めて知った
    「人の自己実現」に関わるものづくりの醍醐味

    ――和泉さんはもともと大学の助教だったそうですね。シタテルのCTOになった経緯について教えてください。

    和泉さん(以下、敬称略):もともと情報工学の領域で研究をしていて、学生と一緒にアプリ開発をしたり、地元の熊本県の企業とiOS、アプリの共同開発などをしていました。シタテルには、立ち上げ時から技術顧問として関わり、今年、CTOに就任しました。熊本でも活動していたCEOの河野が僕の研究開発に興味を持ち、直接声を掛けてくれたことがきっかけです。
    アカデミックの世界を離れ、ファッションの世界で働き始めて僕が感じたのは、人間の自己実現に関わるものづくりの面白さ。衣服は工業製品と違い、服を着る人たち一人一人の多様な価値観や理想がダイレクトに反映されるものです。そこに、技術の力をどう生かせるかが問われています。

    ――最近よく耳にするようになった「ファッションテック」という言葉。『ZOZOSUIT』などをイメージする人が多い印象ですが、和泉さんはどのように捉えていらっしゃいますか?
    シタテル株式会社 CTO 和泉信生さん

    和泉:確かに『ZOZOSUIT』のインパクトは大きかったですよね。『ZOZOSUIT』がリリースされる1年ほど前から同様の計測技術をモーションキャプチャーに利用する製品はあったのですが、体の計測とECを直結するビジネスにした着眼点は本当に素晴らしいアイディアだと思いました。
    でも、僕自身は、ファッションテックというものは、もっと広義に捉えていて、ファッション・アパレル領域における課題をテクノロジーで解決しようとすることすべてが含まれると考えています。“テック”というと、どの業界でも機械学習やIoTを駆使することを最初にイメージしがちですが、そうとは限りません。“解決したい課題”に対し、適切なテクノロジーを使い、衣類の生産者や消費者、双方にとって快適な構造をつくる。それが、ファッションテックが果たすべき役割だと考えています。

    店舗を持たないブランドも登場
    店舗は「買う」場所から「体験する」場所へ

    ――ここ数年でますます進化しているファッションテックですが、それによって世の中にはどんな変化があったと感じますか?

    和泉:まず、衣類を作る工場の自動化は急速に進んでいますね。かつては、縫製を自動で行う技術はあっても、「2枚の布の柄を合わせて、所定の位置に正しく配置する」といったことを機械にやらせるのは難しかった。しかし今は、機械学習を使うことでその課題もクリアされました。

    シタテル株式会社 CTO 和泉信生さん

    また、実店舗での販売が当然だった時代から、Webサービスのみで顧客に直接衣料品を販売する企業も徐々に増えてきています。海外では、店舗を持たないブランドが人気を博している例も誕生しています。
    一方で、今の時代に店舗を持つブランドは、「体験の提供」を重視する傾向が強まっています。ファッション業界ではないですが、寝具を販売する米国ベンチャー企業『Casper』の取り組みは良い事例だと思います。『Casper』では店舗で「30分の睡眠体験」ができる仕組みを取り入れています。これによって、わざわざ店舗に来店するからこそ得られる価値を提供しているわけです。ネットで服を買うのが当たり前の時代、ファッション業界でもこうした店舗革命は加速するのではないかと見ています。

    ――なるほど。生産サイドでも消費行動に合わせた構造の変化はありますか?

    和泉: 大量生産、大量消費は“今の流行り”ではなくなったことは多くの人が実感するところだと思います。それによってアパレル業界では、パーソナライズがキーワードに。例えば、『GUCCI』は、個人がオンラインでアイテムを好きなようにカスタマイズして発注できる『GUCCI DIY』プログラムをスタートしました。10年前には、店頭での販売が中心のために顧客数は限られ、かつ、ワンバイワンの生産技術もなかったので、実現できなかったことです。

    コミュニケーションを中心に設計した「シタテル」の仕組みとは?

    ――シタテルでは、どういった課題をどのようなテクノロジーで解決しているのでしょうか。

    和泉:そもそもはCEOの河野が、前職で生産工場の疲弊を目の当たりにしていたことから始まります。工場には閑散期と繁忙期があるので、これらをうまく活用すれば小ロット・多品種の生産が可能になり、生産現場を盛り上げていけるだろうと。彼らと、「小ロットで衣服の生産をしたくても、どこに頼めばいいのか分からない」という悩みを抱える企業・デザイナー・個人をつなぐことで、既存の産業構造を変え、業界全体の課題を解決することを目指しています。

    ――“個”に落ちていくファッション業界の流れにも添ったサービスですね。具体的にはどんな仕組みをつくっているんでしょうか?
    シタテル株式会社 CTO 和泉信生さん

    和泉:シタテルでは、既存のファションブランドや非アパレル企業、個人をターゲットに、小ロットの衣服生産を可能にした『sitateru』という衣服生産サービスを提供しています。ユーザーはアカウント登録をして、生産の相談や発注の依頼をメッセージで送ります。その後は、社内の担当者がヒアリングを行い、最適な生産工場や生地などのサプライヤーの紹介から生産における知識の提供や工場とのやり取りまで、全てをサポートします。また、これまで電話やファックス、LINEなどを使っていた生産工場にも無料でシステムを導入してもらい、受発注構造の効率化を実現しました。

    ――テクノロジーは組み込みつつも、かなり人力な部分が多いんですね。

    和泉:衣服を作る行為は数字やデータのやり取りだけでは実現できないクリエーティブなものであり、人と人とのコミュニケーションが非常に重要となります。だからこそ、僕たちが導入するシステムを使う人の快適さを一番意識し、必要なテクノロジーを正しい位置に配置するように心掛けました。

    ――地方の縫製工場などではITの導入そのものを歓迎しないケースも多そうですよね?

    和泉:工場では古いPCやブラウザを使っているケースも多く、最初は不安もありました。そこで、当社のエンジニアが現地に伺い、ソフトウェアのインストールから使い方の指導まで丁寧に行う形を取った結果、皆さん、使ってくれるようになりましたね。このサービスをローンチした2018年の6月にシステム導入を開始し、現在までに全体の79%の工場が導入し、78%がオンライン取引をされています。

    「誰もが自由に服が作れる」世界を実現したい

    ――今後、シタテルの事業を通じて実現したいことは何ですか?
    シタテル株式会社 CTO 和泉信生さん

    和泉:誰もが「自由に服を作れる」未来を、テクノロジーの力でつくっていくことですね。誰もが国内外の最適な工場をスムーズに使えるようにして、一人一人が納得できる服を着てほしい。ファッションテックの領域では、言語や距離の壁を超え、人が自己実現をするサポートができるところが醍醐味です。自分個人の純粋な興味としても、「世界中の人が自由に服を作れるようになったら、世の中はどうなるのか」という、まだ見ぬ世界を見てみたいという気持ちがあります。

    ――先ほど、ファッションはよりいっそう「個」に落ちていくというお話もありましたが、そんな中でファッションテックはどのように進化していくのか、アパレル業界で必要とされるエンジニアとは一体どんな人なのか、お考えをお聞かせください。

    和泉:トレンドはある程度の周期でまわってくるものなので、今はカスタマイズが主流でも、また少しすれば“みんな一緒”のファッションがブームになる可能性があります。人々の価値観やニーズは衣服にダイレクトに反映されるので、その変化を汲み取りながら、提供すべきサービスを常に模索していくことが僕らには求められています。

    また、この領域でエンジニアとして活躍していきたいなら、技術に精通しているだけでなく、「人とは何であるのか」「社会とはどういったものなのか」という根本を理解する必要があると思います。人間の自己実現を叶えるものづくりに携わるのは非常に奥が深く、芸術や哲学などに触れることも大切です。エンジニア一人一人の「教養」が事業の質をひとつ上へと引き上げると信じています。

    取材・文/上野真理子 撮影/吉永和久

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