キャリア Vol.819

「土触るって、いいよね」アグリテック社長・秋元里奈が目指す中小農家改革とは?

近年注目されている「アグリテック」。農業用ドローンの活用や人工衛星による農場のリモートセンシング、農業ロボット、植物工場など、さまざまなテクノロジーが登場し、農業はハイテク産業になりつつある。しかし、中小規模の農家にまで目を向けてみると、超アナログな世界も依然として残っているのが現状だ。

オーガニック野菜の直売サービス『食べチョク』を運営する株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長の秋元里奈さんは、「日本の農業の未来を考えると、中小規模の農家においてもITの活用を進めていくことが欠かせない」と話す。

農家に足を運ぶことも多いという秋元さんの目には、どんな課題が映っているのか。それを、ITの力でどう変えようとしているのか。20代、アグリテック社長に聞いた。

株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長
秋元里奈さん
慶應義塾大学理工学部を卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にvivid gardenを創業。実家は相模原の農家
■『食べチョク』(https://www.tabechoku.com/

「まずはユーザー理解から」
アナログ業界向けのプロダクト開発の極意

ビビットガーデンでは、農家全体の約0.5%とも言われるオーガニック・自然派農家を約250件も束ね、農作物の栽培情報をデータとして蓄積している。各オーガニック農家が育てている野菜は何か、それは今どんな生育状態か、いつ収穫できるのか、どんな農薬や肥料が使われているのか、栽培状況の管理を可能にしたという。

実は、こうしたデータは「官公庁も正しく把握しきれない“宙に浮いたデータ”」なのだと秋元さんは話す。

「これまでは、農作物の栽培状況の管理一つとっても暗黙知であることが多かったんです。『いつどの野菜が採れるか資料をください』と農家の方にお願いしても、『自分の頭の中にしかない』と回答する人が多く、スプレッドシートへの入力を依頼しても実際にやってくれた方はほとんどいませんでした」

そこで秋元さんが考えたのは、徹底的に農家に歩み寄ることだった。作業着を着て長靴を履き、共に畑で農作業に勤しむところから始めた。より良いIT活用の形を探るため、まずは農家の現状を把握し、関係構築をすることが肝心だと考えたからだ。

農家の仕事に深く入り込むようになって気付いたのは、「アナログで行っている作業には、アナログである理由がある」ということだった。例えば、農家ではFAXによる受注管理が一般的だが、それも、野菜が積まれた作業場でPCを操作しながら仕分け作業をするとミスが起こりやすいからだと知った。PCを見ながら作業をするのは非効率なので、わざわざ受注メールをプリントアウトして配送の作業をする。プリントアウトの手間を挟むことで、かえってヒューマンエラーが生じ、配送漏れが発生していたのだ。そこで、『食べチョク』のシステムで受注メールを受信すると、農家にFAXが届くシステムを導入することにした。

「アナログな業界向けのプロダクトを開発するなら、ユーザーの業務フローを徹底的に知り、その中にテクノロジーをうまく組み込むことが大切。そうしなければ、システムを作ることはできても、日常的に使ってはもらえず、変革は起こせないと思ったんです」

ITソリューションのほとんどは大規模農家に向けられたもの

また、農業の世界に深く足を踏み入れるほど、秋元さんの目の前には次々と“新たな課題”が浮かび上がってきた。

「『空き農地の課題を解決したい』というのが、ビビットガーデン設立の原点でした。でも、農家の方と関わる中で、後継者不足、収益の確保など、解決すべき課題は他にもいっぱいあると気付かされたんです」

その中でも今は、「中小農家の販路開拓」に焦点を絞り、IT活用による課題解決に取り組んでいる。

また、近年アグリテックにおける新しいソリューションが次々と登場しているが、そのほとんどが大規模農家向け。業界全体の約9割を占める中小農家向けのITソリューションは、ほとんどないのが現状だという。

「中小農家は作地面積が小さいので、生産できる量にも限りがあります。そのため機械化・仕組み化がしづらく、コストを削減したくてもできない事情があるのです。『食べチョク』のサービスで、中小農家が“ちゃんと儲かる仕組み”を整えていければ、就労人口の増加にもつながるかもしれないと考えています」

こうしたビジョンを実現するために必要となるのが、エンジニアの力だ。

「どちらも職人」農家とエンジニアは相性がいい!?

秋元さんは「今こそ、エンジニアに農業分野で働く醍醐味を知ってほしい」と熱を込めて呼び掛ける。

「他のIT化が進んでいる産業ならテクノロジーで90を100にする段階だと思うのですが、農業には10を100にするような面白さがある。喜んでくれる人との距離が近く、ユーザーの顔が直接見える。そこに手応えとやりがいを感じるエンジニアは多いはずです」

同社にはフルタイムで働くエンジニアが3人いるが、全員が農業分野に興味を持ち入社。入社時点では知識はそこまで深くなかったが、開発過程の中で課題解決にのめり込んでいったという。そしてエンジニアの1人に至っては、なんと来年から青森で実際に農家になることを決めたそうだ。「農家エンジニア」の誕生だ。

「エンジニアと農家って、どちらも職人気質な人が多いので、実は相性が良いと思っています。実際、エンジニアから農家に転身する人も増えていると感じます。農作物には『こう育てたらこうなる』という生物学的なロジックがあるため、そこもエンジニアにとって理解しやすいポイントなのかもしれません。また、うちのエンジニアなんかは、ずっと座ってコーディングをしていると、キーボードを置いて土を触りたくなるみたいですよ。『土触るって、いいよね』っていう感じで」

農業の世界は、エンジニアにとってのブルーオーシャン。“農家エンジニア”も、技術者にとっての新しいキャリアの一つと言えるかも知れない。

取材・文/石川 香苗子  撮影/赤松洋太

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