仕事にとことん没頭する人生もいいけれど、職場の外にも「夢中」がある人生は、もっといい。「偏愛」がエンジニアの仕事や人生に与えてくれるメリットについて、実践者たちに聞いてみた!
サスケ完全制覇者・エンジニア森本裕介の素顔「この先もSASUKEを諦める選択肢はない」【サスケくん】
ひたすら仕事をすることが良しとされていた時代は終わり、副業や趣味など、仕事以外の活動が注目されつつある。
一方で、技術革新のスピードが早まる中、「実利のない趣味に没頭する時間があったら、新しい技術を学んだ方がいいのでは?」なんて疑問も頭をよぎる。
そんな人に、IDEC株式会社のソフトウェアエンジニア・森本裕介さんを紹介しよう。
15歳からスポーツ・エンターテインメント番組『SASUKE』(TBS)に出場し、史上4人目となる完全制覇を果たした選手だ(※2020年末には史上2人目の2回の完全制覇も経験)。「サスケ君」の愛称で親しまれる彼は、会社員になってからも変わらずSASUKEに挑戦し続けている。
彼はなぜ、SASUKEに取り組み続けるのか。そして、SASUKEを続けていることが、エンジニア・森本裕介の仕事人生にもたらしたものとは……?
※2019年3月4日に公開した記事を、最新情報を入れて2023年12月1日に更新しています
「会社員でもSASUKEは続けて当たり前」迷いはなかった
2016年に、ファクトリーオートメーション分野を中心とする制御機器の総合メーカーであり、制御用操作スイッチで国内トップシェアを持つIDECに入社した森本さん。大学で情報科学を専攻していたこと、担当教官がメーカー出身だったことから、『プログラミングの知識を生かしてものづくりをしたい』とメーカーを志望した。
数ある企業の中からIDECを選んだのは、「雰囲気が合うと思ったから」だそう。入社してからはプログラマブル表示器のソフトウェア開発に一貫して携わってきた。
「例えば回転寿司屋に注文ができるパネルが設置されていることがありますが、プログラマブル表示器はまさにあの機械。
画面のボタンを押して、それに対応している機械を動かしたり、逆に機械の状況を確認したり、各種センサーから拾った情報を確認したりできる製品です。
動きが視覚的に分かるので、うまくいった時の達成感が味わいやすいのが好きですね。
必要とされる知識量が多くて最初は全然分からなかったんですけど、少しずつ勉強していくうちに理解できるようになって、できることが増えていくのがうれしいです」
一方で、プライベートではSASUKEの選手でもある。SASUKEとの出会いは7歳の時だった。
「僕は運動が苦手で、体育も全然ダメだったんですよ。ただ、公園なんかにあるアスレチックだけは大好きで、よく遊んでいたんです。だから、初めてSASUKEをテレビで見たときは、『僕が大好きなアスレチックに競技として、真剣に大人が挑戦してる!』って強い衝撃を受けました」
小学生男子が戦隊ヒーローに憧れるように、テレビで見たSASUKE選手に夢中になった。
15歳で番組に初出場し、これまでの出場回数は12回。23歳で史上4人目となるステージ完全制覇を果たし、今では視聴者から「サスケ君」の愛称で親しまれる選手になった。
SASUKEに心奪われてから20年がたつが、情熱はずっと変わらず、これまでにSASUKEをやめようと考えたことはないという。会社員になるタイミングでも、「当たり前のように続けるものだと思っていた」と振り返る。
「不思議と、これまでに一度も飽きたことがないんです。僕にとって、SASUKEはいつでも一番楽しいもの。
選手になってからは特に、難関をクリアして成長を実感できるのが好きなんです。SASUKEのステージはどんどん難しくなっていくんですけど、自分も一生懸命練習して努力して、『絶対にクリアしてやろう』って思っています」
20年間SASUKEに向き合う中で身に付いた力が、仕事で生きている
入社したIDECでは、基本的に残業はない。18時に会社を出て、1時間かけてSASUKE仲間の家の練習場に向かう。19時~22時まで練習をし、仲間と夕飯を食べて帰宅する。それが基本のスケジュールだ。
「IDECは、社員のライフの充実があってこそ仕事も充実できるという、『ライフワークバランス』という考え方を重要なコンセプトとしています。
働き方改革の一環として、年休取得率100%を目指しているため、連休も取りやすいですし、趣味に没頭している人は多いですね。
例えばトレイルランをやっている先輩は、僕も驚くくらいハードに鍛え込んでいます(笑)
だから、僕がSASUKEに出るときは、皆さんすごく応援してくれますね。昨年末は繁忙期だったのに、大晦日に放送された『SASUKE2018』の収録の前後でお休みをいただけて、本当に感謝しています」
学生時代から変わらずSASUKEへの出場を続けている森本さんだが、あくまで本業はエンジニアの仕事だ。
入社直後の研修時にはSASUKEを欠場し、普段の仕事でも「絶対に手は抜かないし、仕事中はSASUKEのサの字も考えない」と話す。
オンとオフはきっちり切り分けているけれど、相乗効果も感じているという。
「SASUKEも仕事も、『いつまでに何をするのか』という段取りを考えて計画を立てることが重要なんです。
限られた時間の中で効率良くトレーニングをするために『やらなくていいこと』を思い切って捨てるように意識していますが、優先順位を考えて実行するという点では仕事に通じるものがあるような気がします。
学生時代はホームセンターで材料を買ってSASUKEのセットを自作していましたけど、最初の設計が甘いとちゃんとしたものができないのは、ものづくりの仕事との共通点です。
20年間SASUKEに向き合う中で身に付いた力は仕事で生きていますし、その力は仕事の場でさらに鍛えられているように感じています」
ステージをクリアできるまで粘り強く取り組み、本番のプレッシャーに立ち向かう。こうしたSASUKEで培ったメンタルを「今後は仕事でも生かしたい」と森本さん。
「予期せぬ不具合が起きて周りが動揺しているときに平常心でいられたらいいんですけど、それはまだまだですね(笑)
冷静になれずに慌ててしまうのは、経験と知識が足りないからなのかなと思います。やはり仕事に関しては、先輩方に全く敵わないですね」
仕事もSASUKEも、後輩と一緒に楽しく高め合っていきたい
森本さんのSASUKEのキャリアは20年にもなるが、仕事のキャリアはまだ3年。まだまだうまくいかないこともあるけれど、そんな時はSASUKEのトレーニングが良い息抜きになっているという。
仕事とSASUKEも、モチベーションの源泉は先輩の存在だ。
「SASUKEの人気選手の山田勝己さんや長野誠さんに憧れているのと同じように、社内にもすごいと思える先輩がたくさんいるんです。
実力はもちろんですが、仕事への向き合い方や、人として魅力的なところを尊敬しています。僕も将来は先輩たちのようになりたいし、そのためには技術的にも精神的にも、まだまだ勉強しないといけないことがたくさんある。
仕事でも、『課題を達成したい』という気持ちはかなり強い方だと思いますね」
エンジニアとしての今後の目標は、「チームの戦力になって、ものづくりの楽しさを伝えられる先輩になる」こと。
一方のライフワークであるSASUKEでの目標は、「2度目の完全制覇はもちろん、後輩のお手本になるパフォーマンスをする」こと。
どちらも後輩へ対する姿勢という点は同じだ。
「仕事もSASUKEも、後輩と一緒に楽しく高め合っていきたいですね。今はまだ部署に後輩はいないですし、僕がこんなことを言うのはおこがましいんですけど、心地よく働ける環境を今後も継承していきたいです。
IDECって、人が本当に良い会社なんですよ。そういう人間関係の良さは強みだし、僕が先輩になったときに後輩にも快適に働いてほしいっていう気持ちはすごくあります。
SASUKEでも、後輩が活躍できる舞台を整えたいですね。同時に、視聴者の方にSASUKEを見たいと思ってもらえるような、番組自体を牽引する選手になりたいです」
SASUKEは、テレビ番組にすぎない。「なぜここまで頑張るの?」と疑問に思う人もいるかもしれない。
完全制覇をしたからといって、オリンピックのように大きく話題になるわけではないし、コードがうまく書けるようになるわけでもない。
それでも森本さんがこれほどの情熱を捧げるのは、やっぱりSASUKEが楽しくて、好きだから。その一言に尽きる。
効率や生産性が重視される世の中だけれど、損得勘定ばかりでは退屈だ。森本さんの話を通じて、「好きなことが活力になる」というシンプルな事実を再確認した。
【森本裕介さん SASUKE戦歴】
『SASUKE』第18回大会に当時中学3年生で初出場。1stステージでリタイア。第19回では高校1年生となり「まだ修行中」と書かれたTシャツを着て挑戦。1stステージリタイア。第20回は足の骨折のため欠場。第21回、第22回も1stでのリタイアが続き、第23回から第26回までは応募するも出場資格が得られず。
第27回では2年半ぶりに出場し、初2ndステージへ進むも「メタルスピン」でリタイア。第28回は欠場。第29回では初の3rdステージへ進出。誰も成功者がいなかった「クレイジークリフハンガー」を番組史上初めて攻略。最終エリアで落下しリタイアするも、今大会の最優秀成績者となり『SASUKE ASEAN OPEN CUP』 の日本代表に選ばれた。第30回記念大会では2stでリタイア。
第31回は就職活動中の合間での出場だったが、ファイナルステージに初進出。完全制覇を成し遂げ、二度目の最優秀成績者となる。第32回大会は、IDEC社の入社後研修への参加で欠席。第33回では、3rdステージまで進出するも、フライングバーでリタイア。第34回は、完全制覇までは届かず、3度目の最優秀成績者となる。
第35回、第36回も、ファイナルステージ進出および最優秀成績者となるも、完全制覇は果たせず。第37回大会は1stステージのそり立つ壁で無念のリタイア。
第38回大会ではファイナルステージで2.52秒残し、二度目の完全制覇を達成。第39回もゼッケン100番で登場したが、降雨の中での挑戦となり二つ目のそり立つ壁を登れずタイムアップ。2大会ぶりの1stリタイアとなった。
第40回大会はファイナルステージに進むも「残り1秒」で制覇ならず。涙をのむも、その激闘ぶりに「シリーズ最高傑作」と評された。
来たる第41回大会は、2023年12月27日(火)よる6時放送。今回こそ、前人未到の「三度目の完全制覇」を狙う。
取材・文・構成/天野夏海 企画・編集/栗原千明(編集部) 写真/TBSテレビ提供
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