【幸福学・前野隆司さん】不幸なエンジニアと幸せなエンジニア、違いをつくるのは「工夫・視点・強み」の3つ
自分の技術で世界をあっと驚かせるような“新しい何か”を生み出したい。
自分のアイデアで世の中をもっと便利にしたいーー。
多くのエンジニアが、そんな夢を持ってキャリアをスタートさせたはず。しかし、現実はどうだろう。いつの間にか仕事はただの作業となり、会社に行くことさえも苦痛。将来を考えると不安なことだらけで、毎日が何となく不幸モードという人もいるかもしれない。
元キヤノンのエンジニアで、幸福学者の前野隆司さんは「若手エンジニアは、不幸のループに陥りやすい」と話す。その理由とは一体なんだろうか。エンジニアが幸せに働いていくための秘訣とあわせて聞いた。
「やらされ感」で仕事をしてはいないか?
一般的に20代のエンジニアは、会社の中でも末端の仕事を任されることが多いですよね。本当はどんな仕事だって大きな目的につながっているし、人の役に立っているはずなんだけど、その片隅を任されているから、「何のための仕事か」ということが分からなくなってしまいがちです。
そもそもエンジニアは、部分的に切り出されたものを“ちゃんと仕上げる”のが仕事というところもあるので、全体を見る視点を失いがちなんです。すると、「やらされ感」がどんどん大きくなっていきます。
この、「やらされ感」というのは幸せの天敵で、エンジニアを不幸のループの中に閉じ込めてしまいます。
やらされ感で仕事をしてる人って、周りの目から見ても分かりますよね。「あ、なんだかあいつ、つまんなそうに仕事してるな」って。すると、ますます面白い仕事を任せてもらえる機会は減るし、新しいことにチャレンジできないまま出世からも遠ざかる。ずっと末端の仕事が流れてくるようになります。
20代ならまだいいです。でも、どこかで自分がその状況を変えないと。30代になっても40代になってもそのままで、50代になってもまだやらされ感で仕事をしているなら、それはとても悲惨なことです。
不幸のループを抜け出すには「一つ上」の視点を持つこと
では、どうすれば若手エンジニアは「やらされ感」を払拭できるのか。大切なのは、視点を変えること。具体的なポイントは、一つ上のポジションに立ったつもりで仕事の全体像を把握してみることです。
いま管理職でない人なら、課長になったつもりで。課長なら、部長になったつもりで。部長なら、社長になったつもりで自分が任されている仕事を俯瞰的に捉え直してみましょう。すると、それが何のための仕事であるか、どうしたらもっと改善できるのか、視野が広がっていきませんか?
そうしたら、自分なりの工夫を仕事の中で増やしていきましょう。どんな小さなことでもいいから、自分の創造性を発揮していくことが幸せを感じる鍵になります。場合によっては上司に「もっとこうした方がいい」と改善提案をしてみるのもいい。ただの批判でなければ、歓迎されると思いますよ。
不幸な人と幸せな人の違いは、「部分」を見るか、「全体」を見るかです。不幸な人は物事のパーツだけを見て悲観的になり、悩みにとらわれて立ち止まってしまいがちです。
幸せな人は物事の全体を見ているから、例え部分的に悪いことがあったとしても俯瞰的に改善策を見つけられますし楽観的でいられます。これは、仕事でも人生でも同じことが言えます。
幸せな人は「自分の強み」を知っている
また、人が幸せを感じるためには自分らしさを発揮する「創造性」に加えて、人から感謝されるということが欠かせません。僕が科学者ではなくエンジニアになることを選んだ理由も、ここにあります。
僕はキヤノンにいた時、特許を書いて新しいものを世の中に送り出す「創造性」と、自分が作ったものがちゃんとプロダクトになって人から「ありがとう」と言われることが、何よりの幸せだと感じていました。どちらの喜びも得られるエンジニアの仕事は「なんて最高なんだ!」と思っています。
当時から「幸せ」をエンジニアリングする研究には興味があったので、大学に活動の場を移し、30年かけて本当にやりたかったこと(幸福工学)ができる環境をつくっていきました。今は57歳ですけど、20代の頃より100倍くらいハッピーです。
そんな僕から改めて、若手エンジニアの方に幸せに働くためのアドバイスを送るとすれば、できるだけ早いうちに「自分の強み」を見つけましょうということです。強みがあると、自分に自信が持てるからイキイキと働けるようになるし、面白い仕事や上流の仕事がどんどん舞い込んでくるようになります。
じゃあ、自分の強みはどうすれば見つかるのか。
これはすごく簡単で、周りの人に聞いてみるといいですよ。自分では気づけなかったような答えが返ってくるかもしれません。
また、自分の苦手なことに目を向けてみるのも一つの手。人と関わって働くのが苦手な人は、一人で仕事に集中するのが得意な人ということになるかもしれないし、細かい仕事が苦手なら、物事の全体をざっくり把握する仕事が得意かもしれない。苦手と得意は表裏一体で、自分がコンプレックスだと感じていることも、捉え方を変えると長所になることはよくあります。
人生100年時代、20代〜30代のうちに何もかも成し遂げようなんてことは考えなくていいと思います。焦る必要はありません。
ただ、歳を重ねるごとに人生をハッピーなものにしていくためには、ネガティブを一度断ち切らないといけません。そのために、部分ではなく「全体を見る視点」、「自分らしさの発揮」、「強みの発見」はぜひ日々の仕事の中で意識してみてください。
取材・文/栗原千明(編集部)
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