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専門学校中退からミクシィCTOへ。「エンジニアは技術よりも”幸せ”と向き合うべき」と語る理由とは?

ITニュース

    プログラミングの学習には終わりがない。覚えることのあまりの多さに圧倒され、必死で学習したにもかかわらず、1年経つとそれらの技術は過去のもの……ということも珍しくないだろう。

    mixi』、『モンスターストライク』で知られる株式会社ミクシィCTOの村瀬龍馬(むらせ たつま)は、「技術のドラスティックな変化を、僕は全て楽しんできました」と語る。変化を楽しむ姿勢の裏にあるのは、村瀬さんの尽きない好奇心だ。

    村瀬さんは「エンジニアは、エンジニアである前に人。技術と向き合う前にまず自己と向き合うべき」とも語る。ミクシィ・村瀬CTOに自分の「喜び」「楽しみ」を大事にする働き方について、聞いてみた。

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬(むらせ たつま)

    1985年、神奈川県生まれ。高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。09年に1度退職し、ゲーム会社の役員や京都のゲーム会社でエンジニアなどを経験。13年に株式会社ミクシィに復帰し、別部署を経て『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAG開発本部本部長としてXFLAGのエンジニア全体を統括した後、現在は執行役員 CTOを務める

    「2年間通うくらいなら、就職しよう」ゲーム専門学校の学生が一転、ITの世界へ

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬
    ――村瀬さんは現在、ミクシィでCTOをしています。CTOに就任されるまで、どんなキャリアを歩んできたのか教えてください。

    高校卒業後、ゲームの専門学校に通っていました。入学のきっかけは「ものづくりをやりたいな」という単純な欲求です。ですが、通い続けるうちに「早く仕事としてプログラミングを利用して、ものを作っていきたい」という気がしてきたんです。授業のスピード感も、環境もちょっと物足りなく感じたこともありましたが。

    だったら、もう就職しちゃおうと思い、いち早く就職活動を始めたんです。IT企業を中心にたくさん面接を受けて決まったのが、当時、SNS企業として注目を集めていたイー・マーキュリー(現・ミクシィ)です。

    イー・マーキュリーに入社後、転職で会社を離れた時期もありましたが出戻ってきました。そうして今の役職に至ります。

    ゲームの世界に進まなかった理由は「全体の一部しかプログラミングできない」ことへの不満

    ――ゲームの専門学校に通っていた村瀬さんが、SNSで注目されていたイー・マーキュリー(現・ミクシィ)に入社を決めた理由はなんだったのでしょう?

    ミクシィは「ものづくり」「SNS」「コミュニケーション」という技術的に楽しい分野が山盛りの会社なんですよ。ゲームを学んでいた僕から見ても「携わってみたい」と思えるような魅力がたくさんありました。

    また、当時のSNSは黎明期でした。だからこそ変化が激しく、開発のスピード感が極めて早かったことも魅力で。

    一般的なテレビゲームの業界では、開発が細分化されており、最初はプログラマーが携われるのはごく一部の工程だけです。狭く深いところを触ることができる魅力があるとも言えますが、それだけ業界の歴史も長いし、開発規模が大きくて開発にかかる時間も長いです。

    当時の僕には、そうした開発はあまり魅力的に見えなかったです。もっとスピード感のある業界で、プロジェクト全体を見渡しながら開発をしたいと思いました。だからこそ、Web業界に入ることを決めました。

    「mixiで得た知見をモンスターストライクへ」 エンジニアから見たモンスターストライク大ヒットの裏側と、会社の変化

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬
    ――モンスターストライクのリリースは2013年。他社のソーシャルゲームアプリよりも後発です。ご自身が開発に参画される際、既存アプリとの差別化はどう考えていましたか?

    あの頃は、リアルタイムでマルチプレイが可能なソーシャルゲームはほぼなかったです。「非同期型ではなく、同期型」「シングルプレイではなく、マルチプレイに注力」という点は、モンスターストライクとその他のアプリの大きな差別化ポイントだったと思います。

    モンスターストライクの魅力がユーザーにもしっかり伝わって、爆発的にユーザー数が伸びたことは嬉しかったです。その分、スケーリングの難易度が高くて、負荷対策は本当に大変でしたが(笑)

    ――ミクシィはモンスターストライクのヒット以後に、ゲーム事業が急拡大。XFLAGスタジオを立ち上げています。一人のエンジニアとして、モンスターストライクのリリース~XFLAG立ち上げまでの会社の変革をどのように感じていましたか?

    嬉しいことにmixiとモンスターストライクは、成長スピードや売り上げの伸び方の形がほぼ同じくらいだったんですよ。使用言語やフレームワークこそ両者は違いますが、負荷対策のノウハウには引き継げる箇所が多くて。なので、技術的な観点からいえば「mixiで得た知見を、きちんとモンストに活かせているぞ」という手応えを感じてました。

    個人としてはエンターテイメントと、そのための「場づくり」に関心を持ち続けています。だからこそ、ミクシィがゲーム事業を手がけることへの抵抗感は一切なかったですね。XFLAGの立ち上げについても、同様です。

    会社が大きく変わっていった時期であることは確かですが、社内で混乱が起きていたわけでもなかったです。開発部門の場合、問題解決型のビジネスに関心があるエンジニアは既存の事業部に残り、ゲームやエンターテイメントに関心があるエンジニアはXFLAGに注力するといった形でした。XFLAGの立ち上げによって、エンジニアの棲みわけは明確になったと思います。

    ――ミクシィで現在使用しているプログラミング言語、フレームワークを教えてください。

    mixiのプログラミング言語はPerlです。フレームワークは自社開発したものを使っています。バックエンドはAWSです。

    モンスターストライクの言語はRuby。フレームワークはPadrinoです。バックエンドはやや複雑で、オンプレミスとGCP(Google Cloud Platform)などのクラウドを並行して使っています。

    ――モンスターストライクは台湾、香港、マカオでも展開。以前は北米などでも展開していました。海外版と国内版で、使用する言語やフレームワークは分けていますか?

    昔は海外版と国内版で、仕様が分かれて(海外版のバージョンアップが)遅れていました。ですが、今では統一しています。なぜなら、海外版をやり込んだユーザーの方は国内版の情報を検索します。すると、海外版と国内版の仕様の違いに気づき、ネタバレになってしまうからです。

    バージョンアップはどうしてもローカライズのコストの分、国内版を優先せざるを得ない形になりがちです。そのため海外版のバージョンアップは後回しになるので、そのことが海外ユーザーの不満に繋がったりします。

    弊社としては驚きを提供していきたいので、今はバージョンを追従できる形にシステムを合わせてあります。違うのは、サーバーを置く場所くらいですね。

    全てのエンジニアは技術ではなく、まず自己の幸せと向き合うべき

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬
    ――ミクシィには現在、何名のエンジニアが在籍していますか?

    約300名です。

    ――エンジニアは売り手市場とされ、多くの企業が採用に苦戦していますよね。「リモートワークの許可を積極的に行う」「給与を引き上げる」「海外アウトソーシングを行う」など、多様な採用戦略が存在しています。ミクシィではどういった採用方針を掲げていますか?

    技術の多様性を一番大切にしていますね。ミクシィでは新規事業が数多く生まれていますが、特定の技術を必ず使って開発をする、ということはなく、その事業に合ったものをエンジニアが自ら考え、提案し、開発をしていきます。そのため、常に決断するための技術への探求が必要ですが、ルールはないので多様な挑戦ができます。また、ミクシィが大事にしている「コミュニケーション」に対して、技術的な面から興味を持ってもらえたらベストです。

    給与は、決して他社に対して安すぎるということはないと思いますが、個々の評価をしっかりすることと、常にエンジニアの市場を把握するように動いています。

    働き方に関しては、部署や担当する業務内容によってちょっと違います。

    リモートワークの許可は、サーバーエンジニアやインフラエンジニアに対してはやや緩くしています。そもそも、どうしてもサーバの故障などの原因によって深夜勤務など不規則な仕事が発生しがちな職種ですから、リモートワークといった柔軟な働き方を許可する必要があるんです。

    一方で、ゲームなどエンターテイメントに関するクライアント周辺の部門は対面での仕事がメインです。人を楽しませる仕事って、何よりも大事なのは「感覚」です。「こういう操作性って気持ちがいいよね」というような微妙な感覚を伝え合うには、face to faceでやり取りをするのがコミュニケーションロスを防ぐ意味でも今のところベストです。

    ――村瀬さんが信頼するエンジニアとは、どんなエンジニアですか?

    出来事を事実と感情を切り離して観察し、前に進むことだけを考えられる人です。あとは変化することを恐れず、好奇心旺盛な人は好きです。

    弊社ではものづくりをするチームとしてセクショナリズムにならないように心がけてます。

    「自分はエンジニアだから、この部分の仕事しかしない」「この仕事は、自分の仕事ではない」という具合に、自分で自分のロール(役割)をあえて宣言し、仕事の内容をチームの合意なしに縛ってブロックしてしまう人は、うまく動けないと思います。

    行動するときにロールを縛りがちな人は、いざという時に「自分の意見が通らない」というデメリットと向かい合うべきだと思います。

    自分がもし「こうしたい」と思ったときに、他の人に「あなたの仕事はこの範囲だけですから」と制限をされる可能性があるので、上手く物事を進めるのに無駄な宣言だと感じます。

    エンジニアは、そもそもエンジニアである前に「人」です。技術と向かい合うのも大事ですが、それ以前にまず物事の進め方を円滑にするための手法や、「自分は何に喜びや楽しさを感じるのか」を知っておくといいと思います。全てのエンジニアはまず、技術ではなく自己の幸せと向き合うべきですね。

    ――エンジニアはマネジメントや経営陣と言葉が通じず、うまくコミュニケーションが取れない問題に直面しがちです。ミクシィはコミュニケーションを大事にする会社です。ミクシィではこうした問題にどう対応していますか?

    エンジニアの範囲であれば、細かな言葉の違いや、伝わりにくい部分はエンジニアのマネジメントのレイヤーで吸収しています。「何を言いたいのか」が互いに理解でき言葉を使い分けて伝えれば、それほど大きな問題にはならないです。

    そのため、こまめに行っているのが1on1です。一人一人と一対一で話すことで、性格や考えていることを正確に把握するようにしています。1on1は各部門のマネージャーが率先してやってくれていますし、僕自身もやっています。

    大まかで構わないので部下のことを把握することができていれば、社内でミスコミュニケーションが起きても周囲の人間がフォローに入ることができます。

    技術のドラスティックな変化を全て自分は受け入れ、楽しんできた

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬
    ――村瀬さんの業務における、マネジメントと実際のコーディングの比率を教えてください。

    CTOとしては色々あるのですが、マネジメントとコーディングだけで分けるなら、8:2くらいでマネジメントが多いです。

    2のコーディングは「技術検証」が目的の実装です。社内で発生している問題の解決に繋がりそうな技術を導入できるかどうか、手を動かすことで検討してます。

    たとえば、セキュリティやプライバシーなどの観点では「ユーザーの個人情報が正しく管理されているかどうか」を誰から見ても明らかな形で証明するにはどうすればいいのか。

    「証明にはブロックチェーンを使う必要があるだろうか」など仮説を立てながら、こういった問題を技術と仕組みによって解決できないかと考えるのが僕の仕事です。

    ――エンジニアとは「35歳定年説」が長く叫ばれてきた仕事でもあります。近年では35歳を大きく超えても活躍するエンジニアも増えました。ですが、一方で技術の変化についていけなくなるエンジニアも確実に存在します。エンジニアとして長く活躍し続けるために、大事なことはなんだと思いますか?

    新たな技術を習得し続けられる「好奇心」です。たとえば自分の仕事が「このまま行くと、将来的に自動化されてなくなっているかも」と思ったら自動化する側に回ればいいだけです。そのための技術や知識を、積極的に身につけましょう。

    ――村瀬さんがイー・マーキュリーに入社してから、今日に至るまでにも大きな技術的な変化があったはずです。そうした変化に不安を感じたことはないですか?

    技術のドラスティックな変化も、僕は全て楽しんできました。

    ――たとえばオンプレミスからクラウドへの移行は、IT企業にとってとても大きな変化でした。一部には「この変化によって自分の仕事がなくなるのでは」と不安を抱いた方もいたかと思います。

    確かにそういう方もいると思います。ですが、僕はそうした変化を「新たな技術を学べる機会」と捉えて、むしろ面白がってきた立場ですね。もっとも好奇心を保ち続けるのは、確かに疲れます。だからこそ「休むスキル」や「疲れない方法」を探すことも必要ですね。

    ものづくりは会社に入らなくてもできる。やってみてダメでもスキルは手元に残る

    株式会社ミクシィ 執行役員CTO 村瀬 龍馬
    ――長く活躍するために「プログラミング以外」に大事なスキルがあるとすれば、それは何でしょうか。

    趣味です。個人的な幸せを確立している人って、職がなくなってもある意味では「安全」です。好奇心が尽きないのでどんどん新たな知識を吸収できるはずですし、それに伴ってスキルも伸びていきます。

    趣味で調べていたことや、取り組んでいたことが仕事になったり、今の仕事にも活きるというパターンは案外多いです。

    私は色んな知識を収集するのが趣味なので、ものづくりやプログラミングも好きですが、マーケティングのテクニックなど違った分野の知識を情報収集して楽しんでいます。色んな知識を自分の仕事に適用させてみたりすると、意外に活用できたりします。「個人的にどうすれば日々が楽しくなるか」を見つけてみることは実績を作ることと同じくらいとても大事だと思います。

    ――最後に、エンジニアの読者にアドバイスをお願いします。

    ものづくりって、実は会社に入らなくてもできます。作りたいものがあるなら、今すぐ作り始めましょう!

    完成したプロダクトが良いものであれば、起業しちゃえばいいですし、イマイチだったとしてもスキルは手元に残ります。そのスキルがあれば、拾ってくれる会社はあるはずです。

    ミクシィでも様々な事業が生み出されて、多様な技術が使われています。もしミクシィの働き方や考え方に共感していただけたなら、そのスキルを活かして一緒にものづくりできたら嬉しいです!

    ※こちらの記事は、『TECH::NOTE』コンテンツから転載をしております。
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