この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
「コードを書き続けたい」は悪いことじゃない――“生涯技術を極めていきたい”エンジニアにLINE CTO 朴イビンが送るメッセージ
「現場から離れたくない」「技術だけを極めていきたい」という理由から、マネジャーになることに拒否感を覚えるエンジニアは少なくない。自らの技術力に自信があるエンジニアならなおさらだろう。
これまで、LINE・CTO朴イビン(パク・イビン)さんは、さまざまな機会を捉えて「年齢にかかわらず本人が希望し、能力があれば技術を極める道を歩むべき」と、現場志向のエンジニアにエールを送ってきた。
一方で、エンジニアのキャリアは単純に「管理」「現場」の2つに分けられるものではないと朴さんは言う。若手エンジニアが自分のキャリアパスを考える際、どのようなことを意識するべきか、朴さんに聞いた。
マネジャーへの昇進・昇格は「戦力外通告」か?
開発の最前線に立ち続け、コードを書き続けることにこだわりを持つエンジニアにとって、マネジャーへの昇進・昇格は栄転というより「戦力外通告」に等しいイメージがあるのではないだろうか。プレーイングマネジャーならまだしも、マネジャー専任ともなれば、メンバーマネジメントや予算・進捗の管理、対外折衝などの業務に忙殺されるイメージがどうしてもつきまとうからだ。
そんな現場志向のエンジニアたちが抱える「マネジャーになりたくない」「コードを書き続けたい」という思いに対して、LINEでCTOを務める朴さんは、エンジニアが技術だけで生きていきたいという希望を持つことは「決して悪いことではない」と言う。むしろ、企業が多くの優秀なエンジニアを集め、優れたサービスを開発するには、エンジニアの志向や能力に合わせたキャリアパスが必要だと確信している。
「まず大前提として、エンジニアの能力に年齢は関係ありません。同じエンジニアでもプロジェクトをリードすることが得意な人もいれば、ある技術領域の専門家として周囲のエンジニアから尊敬を集める人もいます。マネジャーになることだけが経験を積んだエンジニアのキャリアパスではないのです」
朴さんが率いるLINEの開発部門に所属するエンジニアには、プロジェクトやチームを牽引する役職者に適用される『M(マネジメント)レベル』と、技術力の高さや周囲への影響力をもとに全社員に適用される『I(インディビジュアル)レベル』の2種類の職責が存在する。役職につかず『Iレベル』のキャリアを積んで技術のエキスパートになるか、役職について『Iレベル』と『Mレベル』両方の職責を果たすかは、エンジニア個人の希望で選べるという。
「この二つの職責は以前から存在しましたが、2019年1月から、その意義をより明確にするため、『Iレベル』の最高職位となる『フェロー』を新設し、運用を始めました。フェローとは、メンバーの模範になるような優れた技術力によって、サービス価値の向上に貢献しているエンジニアに与えられるタイトルで、組織上、執行役員と同等の立場として扱われます」
フェロー新設を機に、AIや機械学習、ブロックチェーンなど、主要な技術分野で飛び抜けた能力を発揮しているエンジニアを各分野の技術リードとして位置づけることで、対外的にもLINEの技術力をアピールし、優秀なエンジニアが集まる良い循環をつくりたいと朴さんは話す。
「エンジニアに対して、希望するキャリアパスを歩めることを明確に示すことは、優秀な人材を獲得し、長く働いてもらうためにとても重要なことだと考えています。LINEでは現在、数百のプロジェクトが動いており、その人の希望や力量によって任せる仕事の幅や深さはさまざまです。エンジニアが働きやすい環境を順次整えているので、LINEの技術力の高さや、技術者を大切にする開発文化を多くの方に知ってもらい、LINEで働くことに興味をもってもらえたら嬉しいですね」
マネジャーは「管理しかしない人」ではない
冒頭にも触れたように、自らの技術的成長にこだわるあまり、マネジャーになることに抵抗感を覚えるエンジニアは少なくない。しかし、「技術力」にしても「マネジメント」にしても、言葉から連想される安易なイメージにとらわれすぎると「キャリアの可能性を狭めてしまうのでは」と、朴さんは危惧している。
「エンジニアの中には、マネジャーになることに対して悪い印象を持っている人がいるのは確かです。しかしそれは、マネジャーをメンバーの勤怠やプロジェクトの進捗管理だけしない『管理者』だと思っているからかもしれません。そうではなく、エンジニアのカルチャーをつくり仕組み化することや、外部から優秀なエンジニアを見つけて採用するのもマネジャーの大事な役割ではないでしょうか。本当の意味でエンジニアの気持ちが分かるのは、エンジニア経験者だけです。マネジャーが基盤となるカルチャーを作ることで、エンジニアが技術的に挑戦できる環境が生まれるのだと思います」
むろん、マネジメントに責任を負わない『Iレベル』のエンジニアについても同じことが言える。高度な技術力があったとしても、サービスを実現するためにはさまざまなメンバーとの連携やコミュニケーションが欠かせないからだ。
朴さんは、高い専門性を持ちコードを書く技術が長けていることだけが「技術力の高さ」を示す指標ではないという。
「もちろん、大規模なアーキテクチャーを構想し、プラットフォームとして機能させたり、新規サービスを立ち上げたりするには、当然、優れた技術力が必要です。しかし、こうした狭義の技術力だけで、人々に求められるサービスを世の中に送り出すことができるほど甘い世界ではありません。私は、コードを書くだけでなく、立場の異なる専門家たちと議論を重ね、協力し合い、チームのパフォーマンス向上に貢献するのも『技術力』の一部だと考えます。技術力は、周囲に伝播させ、生かすことによって、初めて意味のあるものになります」
いくら卓越した能力を持っていたとしても、エンジニア一人でできることは限られている。「技術で生きていきたい」と考えるエンジニアにとって、周囲とコミュニケーションをとり、獲得した技術力を伝播させることも、重要な役割の一つである。
若手エンジニアに何より必要なのは「オープンマインド」
朴さんの話から、エンジニアにとってのキャリアは「現場」か「管理」かという単純な二者択一ではないことが見えてきた。では、若手エンジニアが成長するためには、どのような環境を選び、行動すべきなのだろうか。
「技術のエキスパートとして生きていくためには、まず継続して技術に挑戦できる環境があるかどうかを見極めることがポイントになります。その上でエンジニアが自らの成長を促すためには、技術力の他に、担当するプロジェクトへのオーナーシップを持つこと、オープンマインドで仲間に接すること、信頼と尊重をもって互いを刺激し合うことが大切だと思います。LINEでは、それらを『Take Ownership(当事者意識)』、『Be Open(オープンマインド)』、『Trust and Respect(信頼と尊重)』という3つのワードで表し、エンジニアが持つべき価値観として共有しています」
中でも、若手エンジニアが重視すべきは、『Be Open(オープンマインド)』だと朴さんは話す。
「若手エンジニアの場合、経験よりも基礎的な力が身に付いていることが重要です。若いうちに出来ないことがあるのは当然です。積極的に挑戦をして、失敗を受け入れながら成長してほしいと思います。例えばコードレビューにおいても、自分のコードをレビューされることを恥ずかしいと感じてしまう人もいます。厳しい指摘が重なると、どうしてもそういう気持ちになるのも分かりますが、落ち込むことはありません。たくさんのレビューが付くということは、それだけ成長の伸び代があるということ。最初から完璧なエンジニアなんていないのですから、指摘された内容はオープンに受け止めて、成長の糧とすべきです」
エンジニアを大切にする文化と透明性が高くフラットな環境があるということは、心理的安全性が担保されていることの証でもある。マネジャー、エキスパートどちらのキャリアを選ぶにしても、こうした環境があるかどうかをよく見極めることが、その後の成長を左右する重要なポイントになるはずだ。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/吉永和久
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