AIエンジニアになる方法は? 独学AIマスターに聞く“挫折しない”超効率学習術
自動運転やヒト型ロボットなど、話題の新技術には必ずAI(人工知能)が活用されている。それに伴い、国内では「AIエンジニア」の需要が高騰。高額年収を提示する企業も、年々増加傾向にある。さらに、世界的に見てもAIエンジニア不足は深刻だ。今後ますますAIエンジニアの市場価値は高くなっていくことが見込まれている。
では、今からAIエンジニアを目指す場合、何から始めるべきなのか。
一般的には専門のスクールに通うことがよしとされているが、仕事との両立が難しい場合、「まずは独学で」と考える人も多いはずだ。しかし、何から手を付ければいいか、学習をどう継続すればいいか、壁にぶつかってしまう人も少なくない。
そこでエンジニアtype編集部では、AI技術を活用した外観検査ソリューション『TESRAY』を開発した“ものづくりベンチャー”企業、ロビット(https://robit.co.jp/)を訪ねた。
同社代表取締役の新井雅海さんは、たった3カ月の独学でAI関連の知識と技術を習得し、事業を興した技術者だ。現在も、AIエンジニアとしてTESRAYの開発に関わっている。
新井さんはなぜ、短期間でAIエンジニアへの道を拓くことができたのか。彼が実践した効率的な勉強法と、学習の際の注意点を聞いた。
町工場の実情を知りほぼゼロからAI技術の取得を決意
3カ月の集中独学で実用化へ
学生時代に友人とロビットを立ち上げた新井さん。大学卒業後はインテル株式会社に就職するも、2016年に改めてロビットの事業を本格的にスタートした。
「当時は、『めざましカーテン mornin’』というスマホ連動型のカーテン自動開閉器の開発を行っていました。その組立工程で、東京や埼玉の町工場にご協力いただく機会があったのですが、製造業の現場で働く方々の過酷な状況を目にしました。どの工場も共通して、製品の“外観検査”に膨大な労力を割いていたのです」
日本では、「傷一つ無く、美しい製品が売られていて当然」だとされている。商品に傷や汚れがないことは付加価値にはならず、外観検査の作業に高額の対価は発生しない。
しかし、外観検査は職人たちの業務時間の1/3以上を占める過酷な作業。人材の採用がうまくいかず、外観検査が継続できないことを理由に、工場を畳む経営者も多いと言う。
「ロビットは“「作る」を進め、「創る」を増やす”というビジョンのもと、ハードウェアやソフトウェアの技術を組み合わせて、人がよりクリエーティブなことに集中できる未来をつくる会社です。だから、どうにか我々の技術で人材不足に苦しむ製造業の現場を変えられないかと、外観検査自動化ソリューションTESRAYの開発プロジェクトを発足することにしました」
そこで必要になったのが、AI技術の活用だ。新井さんはインテルに在籍していた際、AI関連の技術を使うこともあったそうだが、TESRAYの開発では一からの学び直しが必要になった。
「AI関連の技術は、3~4年前のものでも『古典』と言われてしまうくらい、進化のスピードが速いものです。そのため、インテルにいた時の自分の知識はまるで使い物にならなくて。最新技術を用いれば課題解決ができるという確信はあったので、プロジェクトの発足と同時に、AI技術の活用に必要な知識を一から習得することにしました」
結果、オンライン学習サービスを利用すると同時に、1,000件以上の論文を読み漁り、約3カ月間でAIエンジニアとして必要な技術を習得。
プロジェクトの発足から半年後の2018年2月にはTESRAYの開発にも成功し、『ET/IoT Technology Award 2018』でスタートアップ優秀賞も受賞している。
「とりあえず本を読んでみる」はNG!?
AIの学習に、今までの独学法は通用しない
完全独学でAIエンジニアとしてのキャリアをスタートし、TESRAYの事業化にも成功した新井さん。自身の経験から、これからAIエンジニアを目指す人に向けて、学習で挫折しないために“やるべきでない”と思うことを教えてくれた。
「何か新しいものを学ぼうとするとき、まずは『関連書籍を読んでみよう』と考えるエンジニアの方は多いと思います。しかし、僕の知る限りでは、AI技術を学ぶための『初心者向けの本』というものは存在しません。なぜなら、AIといっても、非常に範囲が広く、一冊の本に知識をまとめることは不可能に近いからです。
基本的には『●●のためのAI』といった具合に、対象となる分野が絞られた書籍が多いので、『画像処理』や『音声認識』など、最初にある程度分野を絞って学習に取り掛かることをおすすめします」
「通常、新しい言語や技術を習得する際は、『まず仕様から理解しよう』と考える人が多いはずですよね。でも、AI技術は日々進化していますから、全体構造を捉えること自体がまず不可能。いつまでたっても実践的な勉強に進めなくなってしまいます。
そもそもAIは、エンジニアが自ら仕様を定義するものなので、一般的な技術の習得とは全く違うプロセスで考える必要があるものだと理解すべきだと思います」
「AI技術の習得には“実践”が不可欠です。ただ知識を付けるだけではなく、実際にデータを用いて繰り返し試すことで、だんだんと理解が深まり、使いこなせるようになるのです。しかし通常、個人がデータやサーバーを用意するのは難しいので、この点は外部の企業や組織を頼ってみることをおすすめします。
例えば我々ロビットでは、AI技術を勉強したいという人を社会人インターンのような形で受け入れ、データやAI用サーバーリソースの貸し出しを行っています。当社のような取り組みを行っている企業を見つけて、アフター5や土日を活用しながら実践を重ねてみてください。
組織に属することはモチベーションの維持にも繋がります。難しいAI技術をたった一人で独学するのはなかなか大変なことですから、勉強会やイベントに参加して、同じような立場のエンジニアと交流しながら情報収集するのも有効です。
最初は分からないことも多いかもしれませんが、一緒に学べる仲間を見つけて、実践でチャレンジを積んでいくのがAIエンジニアへの道を拓く近道ですね」
オンラインアカデミー『Coursera』で基礎を学び、
発想できるまで実践を積むこと
また、3カ月でTESRAY開発に必要なAI活用のための技術や知識を習得した新井さんが勉強のために使ったのが『Coursera(コーセラ)』というオンラインアカデミーの「ディープラーニング専門講座」だったと言う。
『Coursera』で講師を務めるのは、Google社でAI 系のプロジェクトを指揮していたアンドリュー・エンさん。オンライン講義を通じ、AIの基礎から実践レベルまで学ぶことができる。
「これからAIについて学びたいというエンジニアには、非常に役立つオンラインアカデミーだと思います。授業では課題の提出などを通して簡単な実践を積むことも可能ですし、修了証明書を発行してもらうこともできます。このコースでAIについての基礎知識を学んだ上で、自分の興味のある分野を絞り、実践を深めることが最も効率的な学習法だと思います」
加えて、余力のある人に試してみてほしいのは、自分の興味分野に関わるAI技術に関する論文を読んでみることだと言う。
「僕も集中して勉強した期間だけで1000件以上の論文を読みました。そこで気付いたのは、AIの世界は『アイデア勝負』のようなところがあって、全く同じ技術を使っていたとしても、見方や使い方を変えるだけで、別の効果を生み出すケースが非常に多いということ。
そういう意味で、論文は世界中のアイデアの宝庫です。読めば読むほど、技術を応用するための発想の幅が広がっていくと感じました」
昨今のAIブームを受け、「AIについて学ばなければ」と焦りを感じているエンジニアも多いかもしれない。だが、「AIについて学ぶこと自体を目的にしてしまわないよう注意を」と新井さんは呼び掛ける。
「AI技術はあくまでも課題解決をするための手段。研究者を目指すなら話は別ですが、エンジニアとしてAIを活用するなら、『どんな課題に・AIをどのように使い・どう解決に結び付けるか』を考えることが大切です。
『Coursera』の講義の中で、アンドリュー・エンさんが『AI は、電気が発明された時と同じくらいのインパクトを現代の社会にもたらす』と話していたのですが、それは僕も感じていること。AIエンジニアを目指す皆さんと一緒に、これからの世界をもっと便利に変えていきたいですね」
取材・文/キャべトンコ 撮影/栗原千明(編集部)
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