現場or管理、受託or自社開発、技術or事業貢献?「二者択一の考え方はエンジニアのキャリアを先細りさせるだけ」【Sansan 藤倉成太×エムスリー 山崎聡】
開発の最前線に立ち続けるか、それとも組織を率いるマネジャーになるか。
受託開発を続けるか、事業会社で自社サービス開発に転じるか――。
周囲からの期待値が大きく上がり始める20代後半の時期。30代を目前に、これからの働き方、生き方をどのように“自分らしく”決断していくべきか、迷っているエンジニアもいるだろう。
そこで、今回お話を伺ったのはこの二人。クラウド名刺管理サービスで知られるSansan CTOの藤倉成太さんと、医療情報プラットフォームを手掛けるエムスリーのVPoE山崎聡さん。二人はCTO、VPoEという立場で、エンジニアリング組織の運営や、エンジニアの採用・育成を手掛けているが、普段20代エンジニアを見ていて思うのは、「自分の可能性を自ら狭めてしまっていないか」ということだそう。一体それはどういうことなのか。
20代エンジニアが自分のキャリアの可能性を広げ、納得感のある30代を迎えるための秘訣を聞いた。
「現場」か「マネジャー」か。
どちらも、目標達成のための方法に過ぎない
藤倉:全員というわけではないですが、目線の低さというか、「足元の選択肢にとらわれ過ぎているのではないか」と感じることがありますね。“今後もエンジニアとしてやっていくのか、それともマネジャーとしてやっていくべきなのか”という悩みがその典型です。
山崎:確かによく耳にする悩みですね。
藤倉:ええ。こうした二者択一の悩みって、一見人生の大きな岐路のように見えますが、実は非常に些末な悩みだと思うんです。なぜなら、エンジニアもマネジャーも、事業やプロダクトの目標を達成するためのただの役割に過ぎないから。「どちらの役に徹した方が、目標達成に貢献できるか」というシンプルな基準で決めてしまっても一向に構わないと思うんですよ。
山崎:藤倉さんがおっしゃるように、エンジニアリングもマネジメントも、あくまで目標達成や課題解決の方法論に過ぎないというのは同感です。技術的なアウトプットを直接的に出すか、それとも技術者を束ねてマネジメントの力でアウトプットするかというだけの違いなんですよね。
藤倉:そもそも、こうした枝葉の問題で悩んでしまうのは、エンジニア自身が、自分の人生をどうしたいのか言語化せず、曖昧なままにしていることに原因があると思うんです。
エンジニア自身がそれを「やりたいこと」なのか「できること」なのかという判断ができていないから悩んでしまうんじゃないでしょうか。
山崎:同じように、新しいチャレンジに消極的なエンジニアも、「自分が何をしたいのか」をはっきりと言語化できていないことが問題なのかもしれませんね。特にSIer出身のエンジニアは、自分の能力や可能性を過小評価して、「やりたいこと」ではなく「できること」を選択してしまう人が多い気がします。
例えばSIerにお勤めの方で、SIerと事業会社から内定が出ると、SIerを選ぶ人って結構多いんです。なぜなら今まで集めてきた手持ちのカードで戦えるから。そっちの方が安心だからです。
藤倉:確かにそうかもしれません。すごく残念ですね。あともう一点、“自社サービスを手掛けている会社はハードルが高い”と勝手に思い込んでいる人が多いようにも感じます。
ユーザーとしてプロダクトに接していると、ある程度完成された状態しか見ることができないので、なんとなくすごい会社のように思えてしまうのかもしれません。でも、さかのぼって考えれば、あのInstagramだって最初はたった1人で開発していた瞬間があるわけです。以前に比べれば成長したとはいえ、常に発展途上なのは、どのプロダクトもきっと同じ。気後れする必要はないと思いますね。
山崎:今、うちで活躍しているチームリーダーの一人も、採用されるまでは自分を過小評価するタイプでした。趣味で開発・運用しているというプロダクトのコードを見せてもらったところ、非常にレベルが高かったので採用したのですが、「普段の業務は仕様書を書くのがメインで……」と、謙遜するんですよ。
その方の場合は、応募という形でチャレンジしてくれたので良かったですが、チャレンジする勇気すら持てない人は多いのかもしれません。
藤倉:僕なんか、新しいことにチャレンジして、やれることが増えたらうれしくてたまらないんですけど、僕が楽観的過ぎるんでしょうか(笑)
技術と事業貢献の2軸でキャリアを考え、できることを増やせ
藤倉:人との出会いで価値観が変わったり、やりたいことが変わったりしたことは何度もあります。でも、キャリアの選択で悩んだことはありません。
山崎:私も悩んだことはないですね。というより、私の場合、比較的小さな組織に身を置いてきたので、選り好みができなかったという方が正確かもしれません。
藤倉:お一人でたくさんの役割を担われていますからね。
山崎:そうですね。前職では、自分で直接アウトプットするエンジニアと、組織を引っ張るエンジニアリングマネジャー、事業を引っ張るプロダクトマネジャーを兼務していました。現在もエムスリー本体ではVPoE、子会社ではCTOやリードエンジニアとして振る舞うこともあります。
これまで状況に応じて自分の役割を変えることが当たり前でしたから、どちらに進むべきかという類いの悩みを感じる暇がなかったというのが正直なところです。
藤倉:仕事って、自分が会社に対して提供できる価値と、会社がやってほしい仕事が重なる部分にしか存在しないものですよね。その点、山崎さんが「三足のわらじ」を履かれたり、いまも組織のフェーズによって役割を変えておられるのも、この二つの面が重なる部分を大きくしたり、できることを増やしてこられたからだと思うんですが、いかがですか?
山崎:そうですね。以前からエンジニアのキャリアには、「技術」軸と「事業貢献」軸という二つの軸があると思っていて、私自身、技術的な面に加えて、「ビジネスやプロダクト、組織に対して自分ならどんな貢献ができるか」ということを常に考えてきました。技術と事業は表裏一体。バラバラに考えられるものではないと思ってきたからです。
藤倉:技術に深く突っ込んだり広げたりするのももちろん大事ですが、山崎さんがおっしゃるように、僕も、エンジニアとして組織マネジメントやプロダクトマネジメントに対してどう向き合うかは20代であっても真剣に考えるべきだと思います。
山崎:エンジニアはどうしても、職務の性質上、技術への関心や興味から入るので、事業貢献への意識が後回しになりがちです。でも技術と事業貢献の両軸で自分のキャリアを考え、できることを増やすことが、長いエンジニア人生を生き抜く上では重要なんじゃないでしょうか。
藤倉:エンジニアかマネジャーか、また、技術か事業貢献か。二者択一の問いに固執するより、経験の幅をいかに広げるかを考えた方がキャリアの選択肢は圧倒的に増やせます。「アレはやりません」「コレしかできません」だと可能性が先細っていく一方です。
山崎:私が常に念頭に置いているのは、“技術の力で多くの人に良い影響を与えたい”ということですね。今の立場で言えば「インターネットを使って、医療のあり方をより良く変えていく」という目標です。
藤倉:僕は「日本のエンジニアやソフトウェアプロダクトが、世界の舞台で張り合えるようにすること」ですね。
藤倉:僕の場合はすごくシンプルで、もともと「ドヤ顔したい」という気持ちが大きいんですよね(笑)。だから、「どうやったらドヤ顔できるか?」ということを考えて、その結果、自然と目標が見えた。もし自分が起点となって、日本のエンジニアやソフトウェアプロダクトが世界の舞台で脚光を浴びるようになったら、それこそ皆にドヤ顔できるじゃないですか(笑)
Sansanの成功は、そのための必須条件だと思っているので、「自分と会社の目標達成のために必要なことは何でもやる」というのが僕のスタンスです。つまり、自分の欲求に従えば自然と見えてくるものがあるんじゃないかな。
山崎:私の場合は、自分の内側にあるものを掘り下げながら答えを探っていくイメージです。私自身、過去の経験を振り返ってみたときに、人を楽にしたり喜んでもらえたりすることが、自分にとっての一番のモチベーションだと気付いたんです。
ですから、今はエムスリーで医療向けの事業を手掛けているので、“医療の世界をインターネットテクノロジーでより良くすることを通じて、幸せな人を増やすこと”を目標に据えています。
藤倉:おっしゃるように、過去を振り返ってどんなときにテンションが上がったか、どんなときにモチベーションが高まるか、改めて振り返ってみるのはいい方法かもしれません。
山崎:そうですね。藤倉さんは、どちらかというと思いっきりディテールを突き詰めて目標を明らかにされるタイプだとすると、私は思いっきり抽象化しまくって、共通項から目標をあぶり出すタイプ。目指すところは似ているのにアプローチは逆のようです。面白いですね。
藤倉:演繹的なアプローチと、帰納的なアプローチの違いみたいな感じなんでしょう。面白い違いですね(笑)
藤倉:僕の場合、毎日とはいいませんが、寝る前に頭の中でキャリアの棚卸し的なことはよくやります。現状の延長線上や、ちょっと飛躍した先にいる自分を想像すると、やりたいことの変化に気付きやすくなりますし、それによって明日からやるべきことが明確になるからです。
山崎:偶然の出会いが考え方を大きく変えることもありますから、誰でも少なくとも半期に一度くらいは、自分のキャリアを振り返る機会は設けるべきでしょうね。計画性と偶然性を大事にしながら、チャンスがきたら、すぐに行動が起こせるよう準備だけはしておくべきだと思います。
20代は“チャレンジ癖”を付けて
戦うための手札を増やし、強化する時期
藤倉:チャレンジの数を増やすことが一番の近道だと思います。若くて、まだ社会的責任がそこまで大きくない20代~30代前半の時期であれば無知も失敗も許されます。その期間にできるだけいろんなことに挑戦して、有効なカードを増やすことが大切です。
山崎:同感です。とにかく、若いうちに“チャレンジ癖”を付けた方が良いですね。例えば、覚えたての開発言語を使おうとすると、使い慣れた言語に比べて一時的に作業スピードが落ちますよね。それでも我慢して使い続ければ、いずれ古い言語よりも生産性が高まります。いわゆる成長痛のようなものです。
こういったチャレンジを少しずつ積み重ねていけば、大きなチャレンジへの抵抗感も減っていくのではないでしょうか。
藤倉:勇気が出せない人や腰が重い人でも、できることから始めることでチャレンジ癖を付けることができるかもしれませんね。
山崎:ええ。あとは、何でも構わないので、「チームの中で一番を目指す」という方法もおすすめです。誰よりも開発言語の知識を付けるとか、誰よりも開発手法やマネジメント手法に詳しい……というように。
専門書を3冊くらい精読すればその領域に達するはずですし、それをチームに還元していくと、徐々に周囲から頼られるようになります。人は頼られるとその期待に応えたくなるものですから、きっとその気持ちが次のチャレンジする気持ちを後押ししてくれるでしょう。
藤倉:吸収した知識を、ちゃんと自分の言葉で言語化できるのも大事なことですね。
山崎:そう思います。いずれにしても、なかなか新しい領域に踏み出せない人は、まずは小さなチャレンジから始め、抵抗感や不安感を少なくしていくことが大事なんだと思います。
藤倉:いろいろと言いましたけど、私からは「もしチャレンジが失敗したって大丈夫。死にませんから!」という言葉を贈りたいと思います!
山崎:確かに(笑)
藤倉:例えばSIerを辞めて、僕らのような事業会社の開発チームに移ってみて、もし自分には合わないと思ったら、次の道を探せばいいだけのこと。いまエンジニアの採用は完全に売り手市場ですし、辞めた人を再雇用する会社だって増えています。そもそも、この日本で食いぶちを稼ぐ手段なんていくらでもあります。恐れずチャレンジしてほしいですね。
山崎:転職先でついていけるか不安だという人もいるでしょうが、エンジニアである以上、実力を磨き続けなければならないのは、どこにいても一緒。もしやりたいことがあって、会社の事情や方針のせいでできないとしたら、自分に合った環境に移るべきです。
藤倉:受託開発と自社サービス開発の違いを一言でいうと、前者がシステムを完成させ納品することがゴールなら、後者は完成させてからがスタートだということ。
サービスを内製するということは、うまくいってもいかなくてもすべて自分たちの責任だし、ときに歯を食いしばって、課題と向き合わなければならない厳しい局面もあります。でもその分、自分たちのプロダクトだという強い自負が持てるわけです。これは外注主体では味わえない感覚なので、興味がある人には、ぜひ味わってほしいですね。
山崎:未開拓の領域に足を踏み入れるような大きなチャレンジには勇気がいるものです。特に悩んでいるときは、どうしても目先の事象や手段の選択に目を奪われがちなので、不安も募るでしょう。でも一歩引いて視野を広げれば、きっとご自身のキャリアの可能性に気付けるはず。勇気を出して一歩を踏み出してみてください。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴
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