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「フランスでもIoTに人が集まり出しているよ」話題の忘れ物防止デバイス『Wistiki』開発者が大企業を捨てたワケ

ITニュース

    あらゆるデバイスとネットワークがつながることで、ユーザーに新しい体験をもたらすと注目を集めているIoT(モノのインターネット)。その潮流は、アメリカや日本のみならず世界中に伝播している。

    ヨーロッパの大国フランスもその一つだ。日本では同国発のテクノロジーニュースを見聞きする機会があまりないが、日本と同様、フランスのスタートアップもIoTムーブメントに乗って活況を呈しているという。

    中でも日米仏の3カ国でクラウドファンディングを実施し、にわかに話題となっている企業がある。鍵や財布、デジタルデバイス、はてはペットまで、何かしらの忘れ物を手持ちのスマホと連動して防いでくれるIoT製品『Wistiki by Starck』を開発するWistiki(ウィスティキ)だ。

    『Wistiki by Starck』の製品写真

    『Wistiki by Starck』の製品写真

    2012年、Bruno Lussato(ブリュノ・リュサト氏)、Théo Lussato(テオ・リュサト氏)、Hugo Lussato(ユーゴ・リュサト氏)の3兄弟が立ち上げたWistikiは、とかく技術的な側面が強調されがちなIoTの世界にデザイン性を持ち込んだ企業でもある。

    製品名に付けられた「by Starck」とは、世界的な工業デザイナーとして知られるフィリップ・スタルク氏のこと。上の製品写真を見ても分かるように、彼の監修によって生まれた洗練されたフォルムは、そのままオシャレ小物としても通用しそうだ。

    もちろん、技術面でも他の忘れ物防止デバイスとは異なる挑戦をしている。ペット用の『ahā!(アッハ!)』とキーホルダー型の『voilà!(ヴォワラ!)』、薄さ3ミリのカード型『hopla!(ホップラ!)』という3種類のデバイスはそれぞれ、100mくらいの距離があってもBLE通信によって検知でき、バッテリーも最長で3年持つという省電力化を実現している。

    こうした技術的な特徴と機能美、さらには「コミュニティ機能(Wistikiユーザーが他ユーザーの落とし物を検知したらアプリを通じて匿名で持ち主に連絡できる)」などのアイデアが支持され、フランス国内のクラウドファンディングでは同国最高レベルとなる4000名超ものサポーターが集まっているという。

    日本でのクラウドファンディングも、すでに2000万円超の資金を得ており、今は4000万円という上方修正目標に挑戦中だ(2016年4月15日現在 / ファンディングページはこちら)。

    「国防関係」から「忘れ物防止」のIoT製品を作る仕事へ転職した開発者

    Wistiki開発チームの1人であるPhilippe Bonnaz(ボナズ・フィリップ)氏

    Wistiki開発チームの1人であるPhilippe Bonnaz(ボナズ・フィリップ)氏

    この『Wistiki by Starck』の開発チームの中で、主に電子回路を制御するソフトウエア開発を担っているのは、現在30歳のPhilippe Bonnaz(ボナズ・フィリップ)氏。

    同社に転職する前は、フランス軍に無線通信システムを提供する半国営企業で、数百人規模の開発チームを率いる仕事に就いていたという一風変わった経歴を持つ。

    なぜ、フィリップ氏はスタートアップでの開発に従事することになったのか。彼へのインタビューを紹介しよう。

    ―― Wistikiに転職したのはいつですか?

    去年の6月だ。約半年間の試用期間を経て正社員になったんだ。今はとても満足しているよ。

    ―― 前職はとても大きな企業だったようですが、スタートアップへの転職に不安はありませんでしたか?

    不安より、ワクワク感の方が強かったね。前の会社では一つ一つのプロジェクト期間が長かったから、Wistikiのようなスタートアップでスピード感を持って開発をしたかったんだ。

    それに、僕は大学で組織マネジメントを学び、若い時から大きなチームのマネジメントを任されてきたこともあって、今は自分自身で開発できることが何より楽しい。12~15名くらいの小さな組織で、製品全体を見ながらモノづくりをするのはとても刺激的だよ。

    Wistiki社内の開発風景

    Wistiki社内の開発風景

    ―― 日本でもここ数年でスタートアップが増えているのですが、大企業からスタートアップに転職するエンジニアはまだまだ多いとは言えません。フランスではどうですか?

    人によるかな。これは個人的な考えだけど、僕は「自分がこの製品を作ったんだ!」と言える仕事をすることが、エンジニアとして最も誇らしいことだと思っている。それは大企業より小さな会社の方が実現しやすいと思うんだ。

    これまでのキャリアでWistikiが3社目になるんだけど、規模では一番小さな会社だから、新しい経験ができてよかったと思っている。

    親や身近な人たちも、僕の選択を応援してくれているよ。

    「プロダクトを磨く」ことは、世界を狙うスタートアップに共通するテーマ

    ―― 『Wistiki by Starck』の特徴の一つに無線通信技術がありますが、フィリップさんはこれまでの仕事でも通信関連の仕事をやってきたそうですね。

    うん。最初の会社ではPLC(Power Line Carrier)モデムの開発を、前職では無線通信関係の仕事をしてきたんだ。

    でも、今Wistikiの中で担当している電子回路まわりは初めて担当する領域。苦労はあるけれど、今はプログラミンからハンダ付けまで、いろんなことを覚えるのを楽しんでいる。エンジニアとして、製品開発のいろんな側面を見ることは、スキル習得の意味でもとても大切だからね。

    まだ詳細は明かせないけれど、すでに『Wistiki by Starck』に続く新製品の開発も始めていて、再び新しいことを学んでいる最中なんだ。

    ―― IoTに関連する技術の中で、フィリップさんが注目しているものは?

    現在のIoT製品の多くはBLE通信の性能に依存している部分が多いから、そこからブレークスルーできるような技術動向を追っている。個人的には、(米の半導体メーカー、セムテックが開発した)長距離通信規格のLoRaや、フランス生まれのIoT通信企業SigFoxの動向に注目しているよ。

    Wistikiの仲間たちとも、「今後はトラッカーの性能をもっと上げるための研究開発をしなければならない」と話しているんだ。

    忙しい開発の合間で、仲間たちと休憩しているワンシーン

    忙しい開発の合間で、仲間たちと休憩しているワンシーン

    ―― 近年、日本のスタートアップ界隈では「Go Global」が一つの合い言葉のようになっていますが、実際に世界市場で成功を収めた企業はまだありません。Wistikiをはじめ、フランスのスタートアップは世界市場をどう見ているのでしょう?

    フランスも日本と同じく、まだグローバル規模で成功しているスタートアップがそれほどないので、「分からない」というのが正しい答えになる。

    でも、フランス語が通じる国は多いし、フランス人は歴史的にも海外に出ていく国民性だからね。(今年1月に米ラスベガスで行われた)CESにも、フランスのIoTスタートアップがたくさん出展していたよ。

    Wistikiに関して言えば、経営陣が野心的だという点は間違いなく強みになると思っている。それに、本当に良い製品を作れば、自然と世界に広まっていくものだし。

    「プロダクトを磨く」ことは、世界で成功するために必要な、万国のスタートアップに共通するテーマだと思うよ。

    ―― お話ありがとうございました。

    取材・文/伊藤健吾 写真/Wistiki提供

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