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Gunosyの新CTOが提唱する“何でも屋”としてエンジニアが生きる道

働き方

    この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!

    情報キュレーションサービス『グノシー』をはじめ、ニュースやトレンド情報の配信アプリ『ニュースパス』『LUCRA(ルクラ)』などのサービスを提供するGunosy。独自のアルゴリズムやデータ解析技術を強みとして事業を展開する同社で、2019年7月、新たなCTOに小出幸典さんが就任した。

    小出さんは同社で3月に設立されたデータ活用の促進と情報推薦を研究する専門機関「Gunosy Tech Lab」の所長も兼務しており、技術活用のさらなる推進役としての役割を期待されている。

    そのキャリアを辿ると、一つの領域にこだわることなく、さまざまな分野で経験を積んできたゼネラリストであることが分かる。そんな小出さんが語る「これからの時代に求められるエンジニア」とは、一体どんな人物像なのだろうか。

    株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)、Gunosy Tech Lab 所長 小出幸典さん

    株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)、Gunosy Tech Lab 所長 小出幸典さん

    慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修了。アクセンチュアに入社し、分析基盤や機械学習の実業務への導入支援を担当。2014年、Gunosy入社。19年7月より現職

    気になることがあれば、担当外でも首を突っ込んできた

    小出さんのキャリアは、コンサルティングファームからスタートした。新卒で入社したアクセンチュアでは、主にアナリティクスサービスや分析基盤システムの導入提案を担当。もともとデータ周辺の領域に強い関心があり、大学時代にも機械学習や自然言語処理を専攻していたため、その分野に携わる仕事に就けたことは幸運だったと振り返る。

    「ただ、コンサルタントはクライアントに対して“提案”しかできない立場だということを、もどかしく感じることも多かったんです。自分は事業を動かす当事者ではないので、『その提案に対してどうするのかを判断し、決定に基づいて事業を前へ進める』という領域には関われない。だから自分も事業会社に入り、“事業を動かす側”になりたいと思い、転職を考え始めました」

    こうして転職先を検討する中で出会ったのがGunosyだった。同社のビジネスは、「データ解析や機械学習が自社の事業にとってコアな価値を生み出し、事業を推進する“原動力”となるような会社で働きたい」という条件にぴったり合致した。そして2014年、小出さんはGunosyに入社。これがキャリアの幅を広げる大きな転機となる。

    「入社後は社内でいろいろな業務を担当してきました。最初はデータ分析のチームに配属になり、次はインフラ基盤領域を扱うチームを立ち上げ、『グノシー』『ニュースパス』の開発責任者に。その後、またデータ分析のチームに戻って責任者を務め、現在に至っています。

    もともと私はいろんなことが気になるタイプで、他の人が担当している領域でも、『これはどうにかせんといかん!』と思ったらつい首を突っ込んでしまうんですよ(笑)。誰かに『これをやれ』と押し付けられたわけではなく、いつも自分から仕事を拾いに行くスタイルでやってきた結果、幅広い領域を任されるようになったんだと思います」

    株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)、Gunosy Tech Lab 所長 小出幸典さん

    とはいえ、データ分析とインフラ基盤とメディア開発では、求められるスキルや能力はまったく異なるはず。それでもすべての領域で結果を出せた理由を、「自分のバックグラウンドが特殊だから」と語る。

    「学生時代の専攻は機械学習や自然言語処理でしたが、それとは別に大学のITセンターでアルバイトをした際に、インフラ領域の経験を積みました。さらに別のアルバイトでは、Web系企業でプログラミングをしていました。当時から『これもやりたい』『あれもやりたい』と、多方面に首を突っ込んでいたおかげで、その経験が仕事でも役に立ったんです。

    私の場合、『幅広い領域を満遍なく経験してきたこと』を長所とするなら、『特化した領域がないこと』が短所であるとも言えます。でも自分としては、一つの領域で戦うより、会社やビジネス全体を見て動ける人間になりたいという志向が強かった。だからゼネラリストとしてのキャリアを選択したのです」

    「局所最適」ではなく「全体最適」を。広い視点がカギになる

    「組織の全体を見る」という視点は、経営に関わる立場の人間には必須の素養だ。小出さんがCTOになった今、さまざまな領域を渡り歩いてきた経験が、まさに強みとして発揮されようとしている。

    「私のCTOとしてのミッションは、全社を技術的にリードしていくこと、そしてデータとアルゴリズムという、弊社のコアバリューを担う技術のレベルを上げていくことです。アルゴリズムがより賢くなるためには、たくさんのデータが必要となる。よって、収集したデータをすぐに活用できる体制や仕組みを整え、データとアルゴリズムの連携をうまく回して行くことが事業の成長につながります」

    具体的には、これまでメディアと広告で分かれていたアルゴリズム開発チームを一つに統合し、全社横断でデータ基盤整備やアルゴリズム開発に取り組める組織作りを進めているという。

    「事業単位で独立したチームがそれぞれの世界の中でベストを尽くしても、それは局所最適化にしかならない。今後弊社のビジネスを成長させるには、どのように“全体を”最適化するかがカギです。その点、自分は今までGunosyという会社の中であらゆる部署を経験していますから、社内の状況を広く理解できているという自負がある。どうすれば全体を最適化できるか考えられるし、チーム同士の橋渡し役になることもできると思っています」

    株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)、Gunosy Tech Lab 所長 小出幸典さん

    小出さんはもう一つ、Gunosy Tech Labの所長という重要な役割も担っている。データ活用の促進と、情報推薦を研究する専門組織として設置されたこの研究機関。社内のデータ分析や研究開発のチームから、博士号保持者5名を含むエンジニアが集まって構成され、論文発表や学術機関との共同研究、自社サービスへの技術の実装などのアウトプットを行うことを目的としている。

    『情報を世界中の人に最適に届ける』というのがGunosyの企業理念。そして、この“情報”と“人”の定義をいかに広げるかがTech Labのミッションです。例えば、情報については、現在はニュースや広告を扱っていますが、将来的には動画や音楽、映画や本などへと、“情報のカテゴリー”を増やしていきたいです。人については、今のところ我々がリーチしているのはスマートフォンを持つユーザーだけなので、それ以外の人たちまで範囲を広げてアプローチすることも模索しなくてはいけないと考えています」

    小出さんがGunosyに入社を決めた理由も、この企業理念への共感が大きかったという。そして今は、CTOとしてこの理念を実現することが小出さん自身の目標となったのだ。

    「今は情報があふれているので、検索の仕方を知っている人は自分が見つけたい情報に辿り着くことができますが、一方で検索のテクニックを持たない人は自分が探している情報になかなか辿り着けないでいる。だから情報を探す側がスキルを持たなくても、自分が求めている情報に巡り会える世界にすること。そこを目指したいと思っています」

    「自分が何をやりたいか」ではなく、「何をすればユーザーに価値を届けられるか」

    Gunosy Tech Labでは、「日本のITレベルを引き上げる」というミッションも掲げている。では、そのために一人一人のエンジニアは何をすればいいのだろうか。

    「常に『何が課題なのか』を見つめてほしいですね。まず解決したい課題があり、そのための“手段”として技術を使う。そのときに最良の手段を選択できるように、日頃から自分の引き出しを増やしていく必要があると思います」

    引き出しの数を増やすこと。それはまさに小出さん自身が今まで実践してきたことでもある。特定の領域だけにこだわらず、自分にできることを増やしていく。それが結果的に自分の価値を高め、評価されることにつながると、小出さんは実感している。

    株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)、Gunosy Tech Lab 所長 小出幸典さん

    「これから重宝されるのは、複数のレイヤーを任せられるエンジニアです。機械学習とサーバーサイドができるとか、クライアントサイドとサーバーサイドの両方ができるとか、比較的近い領域で複数のスキルを持っているといい。

    弊社では、一つのプロダクトチームが10人以下の少人数で構成されていて、本来の専門領域ではない部分でも協力し合うのが普通です。『自分はサーバーエンジニアなのでサーバーしかやりません』とか『自分はクライアントエンジニアなのでクライアントしかやりません』ではなく、『今回はサーバーサイドの人手が足りないから皆でやろうよ』といったことが当たり前のように起きている。

    それはGunosyで働く人たちが、『自分が何をやるか』よりも、『どうすれば最速でユーザーに価値を届けられるか』を大事にしているからでしょうね。だから、そのために自分にできることなら何でもやるし、必要な技術やスキルを学んでいきたいという人が多いのです」

    もちろん特定の専門領域を極めるのも選択肢の一つだ。だが、もしそこに「これしかやりたくない」というこだわりがあるとするなら、自分のキャリアの幅を狭めてしまっている可能性もある。自分の担当範囲の外へ目を向けてみると、実はそこにも自分のスキルや能力を生かせる場所があるかもしれない。

    「何でもやってみる」という姿勢が自分の世界を大きく広げてくれるのだ。小出さんのキャリアが、そう物語っている。

    取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太

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