令和初の仮面ライダー『ゼロワン』はなぜ“AI社会”を描くのか--テレ朝・東映プロデューサーに話を聞いたら「未来の仕事」の本質が見えた
最先端のロボットや、ギークな心をくすぐるメカの数々。特撮ヒーロー番組を幼い頃からずっと見てきたというエンジニアは多いのでは? 最近、そんなエンジニアの中でも特に話題になっているのが、令和初の仮面ライダー『ゼロワン』だ。
なんと、本作の舞台となっているのは「AIが普及した未来の日本」。
主人公の飛電或人(ひでん・あると)はお笑い芸人を目指すも、AIに仕事を奪われてしまう。その後、祖父が創業したAIベンチャー「飛電インテリジェンス」を継いで社長となり奮闘するという設定だ。
AIは、敵か、味方か、それともそれ以外の何かかーー。AI技術の発展で変化する仕事や社会、そこで人間たちがぶつかる倫理的な問いまでもが、コミカルに描かれる。
はたしてなぜ、「AI社会」を令和初の仮面ライダーのテーマとしたのか。そんな疑問を、本作プロデューサーの大森敬二さん(東映)と、井上千尋さん(テレビ朝日)にぶつけてみると、“未来の仕事”の本質が見えてきた。
選択肢が増えるAI時代。「やりたいこと」を信じよう
大森 今回、人工知能を作品のテーマにした背景には、僕ら自身の置かれた状況が関係しています。僕も井上さんも同じ中学3年の息子がいるんですが、子どもが中学生にもなると、親としても将来を考え始めるじゃないですか。彼らが働き始めるころにはどんな世の中になっているのか。そこから逆算すると、塾はどうするのがいいのか、とか。
そうすると、今はどうしたってAIというキーワードが付いて回るんです。特に、AIが仕事の現場に入ってくることにより、人間の仕事が奪われたり、僕らが「これが仕事だ」と思ってきたものとはガラリと変わってしまったりするということが強調して伝えられている。
本当にそうなるかはまだ分からないですけど、もしそうだとするなら、僕らが子どもたちに伝えられるのはどんなことだろうか。そう考えていろいろと調べる中で、親世代であるわれわれが感じるリアルな感覚を、そのまま番組に投影してみたら面白いんじゃないかと思った。これが最初のきっかけでした。
井上 『仮面ライダー』は平成から数えてこれが21作目になるんですが、毎回試行錯誤で、新しい作品をつくる度に、人間にとっての新しい恐怖の対象は何かを模索してきました。「AIが人間を凌駕する」というのは古典的なSFで繰り返し描かれてきたテーマですが、僕としても今、AIがすごくリアリティーを持ってある種の恐怖の対象になってきた感覚があり、即決で「いいね」という話になりました。
さて、AI時代に「働く」はどうなるのか、ですよね。作中の第1話はまさに、主人公である飛電或人(ひでんあると)がお笑い芸人としての仕事を人工知能搭載型ロボット・ヒューマギアに奪われ、職を失うところから始まるわけですけど。現実だけで言ってしまえば、そんなに人間の仕事がなくなることはないと思っています。仮に今ある仕事が代替されたとしても、また新たな仕事が生まれてくるだけなのかな、と。
ただ、一方で危機感はあります。というのも、僕自身の生活スタイルもここ数年、主にスマホが登場したことにより大きく変わりました。電車に乗っていてもずっとスマホをいじっているし、検索すればあらゆる情報がすぐに手に入るから、頑張って記憶する必要もない。でも、そうやって自分の内側にあった能力を道具へと切り出した結果、人間力みたいなものが衰退している感覚もあって……。
だから、AIが発展して便利になることもたくさんあると思うんですけど、そうなったときにこそ、自分がどうしてもやりたいこととか、内側から発信していくものがしっかりとしていることが、とても大切になる気がするんです。
大森 インターネットの登場以降、選択肢がすごく多くなってきていて、何を選べばいいのかがとても分かりづらくなっているじゃないですか。現実に僕の息子も「自分の道はまだ見つからない」という言い方をする。では、そうやって選択肢が増えた中から、どうやって自分の仕事を選べばいいのか。
僕としては結局、自分のやりたいことを信じるしかないと思うんです。人間的な感情や情熱をメッセージとして作品に込めたのには、そのように考えたところがあります。
自分なりのビジョンを持ち夢を自分の言葉で伝えられるか
井上 だから、「人間らしく働くとは何か」と考えたときに大切になってくるのは、一つは、内側から湧き出てくる情熱。そしてもう一つあるとすれば、それはその情熱を「誰かに届ける」ことではないか、と。或人が持つ情熱は「人を笑わせたい」というもので、ちゃんと「笑わせる対象」がいるんですよね。
大森 或人には確かにお笑いの才能はなくて、ヒューマギアに仕事を奪われるんですけど、第1話の最後では、仮面ライダーとして戦うことにより、違うかたちで人を笑わせる、違うかたちで人のためになることを見出した。この先AIが発展して、仮に僕らが今携わっている仕事がそのままのかたちではなくなったとしても、違うかたちで夢はかなえることができる。そういうことを表現したものと解釈しています。
井上 ちょっと『仮面ライダー』からは話が逸れてしまうんですが、「内側から湧き出る情熱を誰かに届ける」って、これまでも大切なことだったと思うんです。僕自身、入社試験の面接官を務めることがあるんですけど、その際に「マル」を付けてきたのは、単純にやりたいことを持っている人。例えば「こんな番組を作りたい」といった、自分なりのビジョンを持っていることを重視してきました。
そういう人って、接するとすぐに分かるんですよ。なぜって自分の言葉で喋るから。いや、見ていて「拙いなあ」と思うこともありますよ?まとまらないし、緊張もしてる。それでも自分の言葉で喋ってくれる人と仕事がしたいと僕は思いますね。
大森 「働く」って必ず誰かと関わる行為じゃないですか。『仮面ライダー』にしても、たくさんの会社の人が集まって作られている。そうすると、正直「面倒くさいことを言うなあ」と思わされることもあります。でも、そんなときに頭から否定するのではなく、対話し、お互いの意見をぶつけ合うところから、より良いものは生まれます。
その際に、そもそも自分の中に芯がなければ、他の人と意見を比較することなんてできませんよね。何でも鵜呑みにしてしまったり、逆に頭から否定することで自分を守ってしまったりする。そういう意味でも、自分の内側から湧き出る夢や情熱を大切にするというのは、AIうんぬんに関係なく、働く上で本質的に必要なことなのかもしれません。
取材・文/鈴木陸夫 撮影/吉山泰義
作品情報
仮面ライダーゼロワン/テレビ朝日
毎週日曜 午前9時放送
HP:https://www.tv-asahi.co.jp/zero-one/
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