キャリア Vol.1017

将来への楽観と、足元への悲観ーー“ポジティブな社会貢献”を実現するマインドセットとは?【POL加茂倫明】

POL加茂倫明

TECH INNOVATORS 2020

本特集では、テクノロジーの力で社会課題の解決に取り組む「未来の創り手」たちの仕事にフォーカス。彼らが描くビジョン、挑戦の原動力、エンジニアがイノベーターへの一歩を踏み出すためのヒントを聞いた

「社会のため」と「自分のため」。一見相反するこの二つの要素を、ビジネスの中で両立することが可能と話す起業家がいる。

「めちゃめちゃ仕事を楽しんでます。日本人でトップ3に入るんじゃないかな?」

そう語るのは、 LabTech(研究×Technology)領域における課題解決に挑む、株式会社POL代表の加茂倫明さん。東大在学中の25歳だ。

同じ学科の大学院生の先輩が、就職先を知っている企業の中から適当に決めようとしている事実を知ったことをきっかけに、理系学生に特化したスカウト型就活サービスLabBase(ラボベース)』をリリース。

産学連携を加速する研究者プラットフォーム 『LabBase X(ラボベース クロス)』なども立ち上げた。

POL 加茂倫明
株式会社POL
代表取締役CEO 加茂倫明
灘中学校・灘高等学校卒業後に、東京大学工学部へ進学(現在休学中)。国内外3社での長期インターンを経て、2016年9月にPOLを創業し、代表取締役CEOを務める。 LabTech(研究×Technology)領域における課題解決に注力しており、研究内容をもとに優秀な理系学生をスカウトできる新卒採用サービスの『LabBase』、産学連携を加速する研究者プラットフォーム『LabBase X』などを運営している

研究者のポテンシャルが発揮されれば、今よりもっとイノベーションが生まれて、未来は加速するはず。

夢を語る加茂さんの瞳は、落ち着きの中にも情熱を宿し、キラキラと輝いている。

ともすれば、自己犠牲を伴うと捉えられがちな社会課題解決。

正面から取り組む上で、持つべきマインドセットとはどのようなものだろうか?

「自分を犠牲にしているつもりは全くありません」と言い切る加茂さんに、その答えを聞いた。

「この事業をやるために生まれてきた」

「研究者の頭の中に、一番の未来があるんだ」

小さい頃の僕は、両親が大学で働いたこともあり、いろんな研究者と接して育ってきました。

「この人たちはすごい、社会を変える力を持っている」

そんな研究者に対する尊敬の念は、幼い頃からずっと抱いてきたものでした。

『LabBase』のアイデアを思い付いたのは、本当に偶然です。ある時、大学の先輩たちが適当に進路を決めていることを知ったんです。

彼らは研究が忙しく、ESを書いたり、合同説明会に行ったりする時間をなかなかつくれません。

そのため、大学の推薦やOBの紹介など、数少ない選択肢の中から無思考にキャリアを選択してしまっていました。

POL 加茂倫明

「企業から学生にアプローチするサービスがあれば、学生は効率よく自分に合う企業を見つけられるのでは……?」

自分が尊敬する研究者のためのビジネスなら、情熱が持てる。その上、僕自身が理系の学生であるという強みも生かせる。やるべき理由は明確でした。

こうして、図らずも自分のバックグラウンドとビジネスのアイデアがつながり、今では「この事業をやるために生まれてきた」ぐらいの運命を感じています。

今の日本では、研究者のポテンシャルが生かされていない

インターネットやロケット燃料、太陽光発電など、世の中を変えてきたイノベーションは、全て研究から生まれたものです。

つまり、国からどれだけイノベーションが生まれるかは、国の研究力の高さによります。

ところが、国別の論文数ランキングでは、日本はここ20年で4位から11位に低下。このままでは、日本の研究力はさらに落ち続け、ノーベル賞も取れなくなると言われています。

なぜこのような状況になってしまったのか。最大の要因は、研究者のポテンシャルが生かされていないことにあります。

多くの研究者が自身の能力を最大限発揮できるキャリアを選択できておらず、優秀な人材が流れるべきところに流れない。

その上、企業はアカデミアの情報を得にくく、共同研究が進まない。そもそも、やりたい研究をするための研究費が不足している……。

こうした課題を全て解決すれば、日本の「研究力」は上がり、イノベーションが生まれやすくなる。

そんな未来を実現するのが、POLのミッションです。

POL 加茂倫明

最初に始めた『LabBase』は、「研究者版のLinkedin」というと分かりやすいと思います。

企業側は、研究内容やスキル、研究室といった条件で検索した理系学生をスカウトすることができます。

理系学生は、『LabBase』上のプロフィールを充実させておくことで、自分の能力を必要としている企業からスカウトを受け取ることができます。

自分の研究を生かせる企業とマッチングできるので、従来に比べると圧倒的に理系学生のキャリア選択の幅が広がります。

また、アカデミアの技術に企業がアクセスしやすくなるためのサービスも展開しています。

『LabBase X』は、産学連携を加速する研究者プラットフォームです。

各大学と提携して技術シーズが登録されたデータベースを開発し、企業がアカデミアの技術を網羅的に検索できる環境を整えています。

最近では『Acaview(アカビュー)』という、企業が研究者にクラウドソーシングして研究・技術に関するコンサルティングを依頼できるサービスも始めました。

現在展開しているのは、この三つの事業です。しかし、これだけでは日本の研究者が直面している課題を全て解決することはできません。

さらに新しいことに挑戦していく必要があります。

まずは現在の強みを生かして、解決しやすい分野から取り組み、然るべき順番で他の課題にもアプローチしていくというロードマップを描いています。

研究室を渡り歩き、足で集めた300人の初期ユーザー

POL 加茂倫明

『LabBase』はサービス開始4年目にして、20,000人以上のユーザーと約200社の企業に利用していただけるようになりました。

今でこそ一定の規模に達しましたが、サービスの立ち上げにあたって最初にぶつかったのは、“ニワトリタマゴ問題”でした。

ユーザーがいないサービスなんて、普通はどの企業からも相手にされません。

一方で、利用する企業がいないサービスには、誰も登録してくれません。

この壁を打破するために僕が取った行動は、オフラインでひたすらユーザーを集めることでした。

片っ端から研究室に行って、理系学生にサービスの説明をし、一緒にプロフィールを書いたんです。

「まだ登録企業はありませんが、これから増えます!」「その研究をしている学生を欲しがる企業は、たくさんあるはずです!」と熱く語り続け、1カ月で約300名のユーザーを集めました。

その後は他大学の友人やインターン生の力を借りてユーザー数を拡大し、今では口コミや招待で加入してくれるユーザーが約半数にのぼります。

もう一つ、初期のエピソードがあります。『LabBase』の最初のプレスリリースは、実はサービスの構想を思い付いてから2週間後に打ったんです。

もちろん、サービスはまだ影も形もありません。そんな段階なのに、あたかも「もうできます」みたいな感じで(笑)

その結果、なんと100社を超える企業から事前登録の申し込みがありました。

中には誰もが知る外資系のIT企業もあり……思わず「うおー!!」と声を上げそうになったのを覚えています(笑)

こうやって、見切り発車でもニーズがあることを確信し、自信を持って開発に進むことができました。

ここまでを振り返ってみると、新しいことを始める上で大事だったのは、シンプルですが「とりあえず、やってみる」姿勢だったと思います。

サービスもない、ユーザーもいない。そんな状態からでも、とりあえず動き始めてみると、あるタイミングで「行けそう」な感じが出てくる。

そしてバタバタとドミノが倒れ始めていく。そんな感覚を味わいました。

覚悟が20%でも、まず動いてみる

「新しいことを始めるには、厳然たる覚悟が必要なのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、必ずしもそうではないと思います。

僕の場合、今は200%ぐらいの覚悟で事業に取り組んでいますが、それと比べると、最初の頃の覚悟は20%ぐらいだったと思います。

「理系の先輩が困っているから、何かあったら便利かもな」ぐらいに思っていただけで、正直な話、初めから強い志があったわけではないんです。

POL 加茂倫明

それが、「こんなことをやってみたい」と周囲に語り続けるうちに、いつしか100%の覚悟になり、ユーザーからの感謝の声をいただいたり、仲間が増えたりする中で200%の覚悟になりました。

最初から大きな覚悟を持てるものを見つけるのは、なかなか難しいと思います。

運命を感じる仕事に出会うために大切なのは、覚悟20%でもとりあえず動き出してみること。

そうやって走り出した先に、100%、200%の覚悟があるのかもしれません。

将来への楽観と、足元への悲観

日本の人口が減少する中、生産性をドラスティックに変える役割がイノベーションに期待されています。

ただ僕には、「だからイノベーションが必要」というよりも、根本的に人類全体を良くしていきたいという思いがあります。

自分たちの子どもや孫の世代が生きる未来を、少しでも明るいものにしたいんです。

社会的に意義のあることをやろうとする場合、「成し遂げなくては」という義務感が先走ることがあるかもしれません。

でも僕は、それよりも、楽しむ気持ちを大切にした方がいいと思います。

「夢中は努力に勝る」という言葉のように、夢中になることで結果的に人より突き抜けることができるのであって、義務感で頑張ったとしても、それほどパフォーマンスは出すことはできません。

POLのエンジニアを見ていると、「こんなプロダクトできたらいいよね!」とワクワクしながらサービスをつくっているのが伝わってきます。

POL 加茂倫明

僕自身はというと、POLの経営のために自分を犠牲にしているつもりは全くありません。

もちろん、目の前にはたくさんの課題がありますが、つくりたい未来を目指してめちゃくちゃ楽しんで働いています。

このポジティブなマインドセットを分解すると、「将来への楽観と、足元への悲観」の両立があります。

「ストックデールの逆説」という実話をご存知でしょうか。

ベトナムで戦争捕虜を経験したアメリカ海軍のストックデールの言葉です。

7年間過ごした捕虜収容所からは、楽観的な人も、悲観的な人も生還できなかった。

しかしストックデール本人は、「最後には必ず帰れると確信しながらも、厳しい現実を直視して生活したから、生き残ることができた」という話です。

この話から、「将来への楽観と、足元への悲観」を持つことの大切さを学びました。

初めからそう構えておけば、目の前の困難ですら、将来の成功のための肥やしと捉えることができます。

これは経営者にも、エンジニアの方にも当てはまるのではないでしょうか。

ただ、ビジネスをする上で、足元には悲観することばかりがあるわけではありません。うれしいこともたくさんあります。

ユーザーの方から「LabBaseで人生変わりました!」なんて言われると、その言葉だけで白飯三杯はいけますね(笑)

だから僕は、社会貢献は決して自己犠牲のもとに成り立つものではないと思います。

利他と利己は、両立可能です。「社会を良くしている」という感覚は、自分を幸せにすることにもつながりますから。

取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)

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