【野田クリスタル】「バグも拙さも逆手に取っちゃえば?」芸人プログラマーにアウトプットのハードルを下げるコツを聞いてみた
技術ブログを書いてみたり、自作のアプリを作ってみたり、アウトプットに挑戦することの重要性を理解しているエンジニアは多いだろう。
しかし、いざ何かやろうとしても尻込みしてしまうもの。普段の仕事でアウトプットの質を重視している人ならなおさら、「完璧ではないもの」を世の中に出すことに抵抗を持ってしまうこともある。
そんな悩みをこの人にぶつけてみた。お笑い芸人のマヂカルラブリー・野田クリスタルさんだ。
優勝を果たした『R-1ぐらんぷり2020』で披露したのは、自作のスマホゲームを用いたネタ。野田さんが制作したゲーム、通称「野田ゲー」はお世辞にも完成度の高いゲームではない。バグがあったりアプリが落ちたりすることを本人も公言している。
最近youtubeの愛方さがしのコメントに「やってみたい」というのを良く見るけど実際にアプリ化してるのでやってみてね
iPhoneの機種によっては余裕で落ちるよhttps://t.co/Wt2wQdj2wx pic.twitter.com/NP67THg4Y4— マヂカルラブリー 野田クリスタル (@nodacry) March 21, 2020
「あえて直さない箇所を残すから味が出る」という野田さん。そんな考えに至った背景を聞いた。
「ゲーム作り、絶望的に難しいじゃねーか」
野田さんはいつからゲーム制作を始めたんですか?
はっきり覚えてないですが、5年前くらいですかね。
きっかけはなんだったんでしょう?
むっちゃ面白いゲームを作りたくて。元々ゲームが好きで、子どもの頃からずっとやってたんですよ。マジでFF(ファイナルファンタジー)ぐらいの最強のオンラインゲームを作ってやろうと思ってました。
ということは、最初から芸人としての仕事に生かそうと思っていたわけではないんですか?
そうですね。ライブでネタをやるのにゲームがあったらいいなと思うようになったのは、ゲームを作るようになってからです。
ゲーム制作は独学で?
独学です。夢を求めて本を2~3冊買って、HSPに関してはネットで検索しながらWindowsでPCゲームを作り始めました。
いざ作り始めてみて、どうでした?
絶望的に難しいじゃねーか、と。こんなの選ばれし者しか作れないんじゃないか?と思いましたし、FFは無理そうだと早々に気付きましたね。
現実に打ちのめされたわけですね。
僕は高卒なんですけど、高校の時に吉本に入ったからあんまり勉強してなかったんですよ。だから数学が中3で止まってて。
でもプログラミングってずっと数学の問題解いてる感じじゃないですか。英語も分かんないし、頭破裂しそうになりました。
そこからどうやって「野田ゲー」が作れるようになったんですか?
当時はネットにゲームのソースコードが転がっていたので、それをいじってました。
意地でもイメージ通りのゲームを作ってやるって思いながらやっていくうちに、技術力が上がっていろんなゲームが作れるようになっていった感じです。
「野田ゲー」に見る、野田クリスタルの成長
最初の頃に作ったもので、印象に残っているゲームを教えてください。
ゲームとして遊べるレベルのものだと、『ブロックくずして』です。デッカチャンを操作してブロック崩しのボールを避けるっていう。
ネットに落ちてたブロック崩しのソースコードをコピーして作ったんですけど、そのコード自体は一切いじれなかったんですよ。なぜなら分かんなくなっちゃうから(笑)
何かを付け足すことしかできなかったので、芸人のデッカチャンさんを足しました。
基のソースコードをいじれない中で、オリジナリティーを出すためにデッカチャンさんを採用したんですね(笑)
何か意味があったわけじゃなくて、「もうデッカチャンさんでいいかな」って感じで決めました。
プレイ中にどんどんデッカチャンがでっかくなっていくんですけど、「デッカチャンだからでっかくなるとも取れるな」みたいに、理由は後付けでしたね。
ゲーム制作を始めた初期にできたのは「既存のコードに付け足す」だったと。では中期の作品で印象に残っているゲームについてはいかがでしょう?
『ディスリファイト』です。暴力を振るうと死刑になる世界で途方にくれたヤンキーが「俺らには言葉の暴力がある」つって、ディスって相手を倒す横スクロールのアクションゲーム。
当たり判定が作れるようになったことでできたゲームです。
このゲームはお笑いに寄ってなくて、マジでゲーム性を考えました。
使うワードを4つの中から選べるんですけど、韻を踏めたらコンボになるとか、初めてちゃんと遊べるように作ったゲームでもあります。
発想の原点は何だったんですか?
最初は『ディスリファイター』っていう格闘ゲームを作ろうとしたんですけど、めっっっちゃ難しくて。格ゲーって当たり判定がめちゃくちゃ細かいんですよ。
だから吹き出しに当たったら攻撃できるっていうことにしたんです。それなら手とか足とか、他の箇所に当たり判定を作らなくていいじゃないですか。
ソースコードをそのままコピーしていた『ブロックくずして』と比べると一気にレベルが上がりましたね。では、最近作ったゲームではいかがでしょう?
やっぱり『すごい事になりそうだ‼組体操合戦』ですね。
落ちてくる人が組体操の形になると消えるんですけど、こういう落ちゲーを作りたいっていうのはプログラミングを始めた頃から思ってて。ただ、ずーっと作れなかったんですよ。意味分かんなすぎて、作りながらパニクっちゃって(笑)
でも最近になって改めて、ブロックが落ちてくる、ブロックが止まる、ブロックがまた落ちてくる、ブロックが重なる……っていうふうに、順を追って部品を作っていったら完成したんですよね。うわ、できた!っていう。
これまでにいろんなゲームを作って経験値を積んだ結果、ゲームを作り始めた頃に挫折した落ちゲーが作れるようになったんですね。
経験値は明らかにデカいですね。「どうせ後で困るんだから最初にこうしとこう」みたいなことを考えるようにもなりましたし、そういう勘所も作っていく中で磨かれたと思います。コツコツと数を作るのは本当に大事だと実感しましたね。
ミクシィ社長が「コラボしたい」とツイート
野田さんはコツコツとゲームを作るだけじゃなくて、世の中にリリースしていますよね。アウトプットして良かったと感じることはありますか?
デッカチャンさんのゲーム以外にも芸人が出てくるゲームを作ることが多いんですけど、それが何かしらプラスにつながっていくのが楽しいですね。
ゲームをやった人から「ゲームに出てる芸人さんをより好きになりました」みたいに言ってもらえたり、ワイドナショーでデッカチャンさんのゲームが紹介されて「デッカチャン」がTwitterでトレンド入りしたり。
『R-1ぐらんぷり2020』で優勝した後はミクシィの社長さんが「コラボしたい」ってツイートしてましたよね。
野田クリスタルさんコラボしたいw
— 木村弘毅 Koki Kimura (@kokikimura) March 8, 2020
ワクワクしますよね。この前も「一緒にゲーム作りませんか?」ってツイートしたらDMがたくさんきて、チームができたんですよ。
みんなで案を出し合って、前に作った『もも鉄』の続きを作るんですけど、ワクワクして仕方ないです。
こんな展開になるなんて思ってもみなかったんじゃないですか?
想定してなかったですね。初期の頃こそ「俺はとんでもないゲームを作るぞ」って勘違いもできましたけど、プログラミングの難しさに気付いて絶望しましたから。
実際にゲーム制作から1年くらい離れたこともありますしね。
そこから再びゲームを作るようになったきっかけは何だったんですか?
僕自身は自分のゲームを世に出すってそんなに重視してなかったけど、「最近ゲーム作ってる?」って芸人仲間からすごい言われたんですよね。
それで「作ってねーな」と思って、「じゃあまた作るか」ってなったんだと思います。
深く考えずに「しょうもないゲーム」として披露しては?
いつの間にか「ゲームを作る人」ってイメージが周囲にできていたんですね。
そういう意味でもアウトプットは重要だと思いますが、それでも「こんなクオリティーのものを出していいんだろうか」と躊躇してしまうこともあります。
そういう人は、披露しようとしている場が重すぎるんじゃないですか?
僕もお笑いライブだからゲームを下ろせたけど、「面白いゲームの発表会」だったら無理ですよ。かといってパソコンの中に置いとくままじゃ心折れますから、絶対に何かしらの形で披露した方がいいとは思いますね。
野田さんが絶望的に難しいと思いながらもこれまでゲームを作り続けてこられたのは、やはりゲームを世に出していることが大きいんでしょうか?
そう思います。特に僕の場合はお笑いライブで直に反応が見れますから、それはデカいかもしれないです。
エンジニアの皆さんも、今の状態の制作物を発表していい場を探すか、もしくは作ればいいんじゃないですかね?
作る?
例えば「クソみたいなゲームのゲームセンター」とか。そこにあるゲームは軒並みクソで、バグだらけっていう(笑)
完成度が低いことを逆手に取って、「しょうもないゲームの発表会」みたいな場を作って披露するといいと思います。
逆に完璧なゲームを出す方が恥ずかしくなりそう(笑)。そういう前提だと、人に見せるハードルはだいぶ下がりますね。
人に見せないことで、良いところを削っちゃうこともあると思うんですよ。
ついゲーム性を上げたり見栄えを良くしたり、ゲームを綺麗に整えたくなることもあるんですけど、それは自己満足というか。我慢して「あえて直さない」ところを残すから味が出る気がするんですよね。
そういう味みたいなものは人に見せることで分かってくるし、人に披露するために作ってるっていうのは忘れないようにしてますね。
最近はタイトルの位置とか適当ですもん。「どう考えても真ん中じゃないけど、まぁいっか~」つって(笑)
確かに野田ゲーにはツッコミどころが残されていますよね。「バグが発生します」とか「落ちます」みたいなツイートもよく見ますが、それもそれでっていう感じなんでしょうか?
そうですね。バグも含めて遊んでくれっていう。放置してるというか、それも仕様というか(笑)
つい完璧なものを作りたくなっちゃいますけど、ときには完璧じゃない箇所が味になることもある。そう考えるとだいぶ気が楽になります。
自分のゲームは「数撃ちゃ当たる」うちの当たらなかったゴミであり、いつか当たるために今終わってるんだと。
「自分は数撃ちゃ当たるで当たったゲームのための犠牲者である」という気持ちで、あまり深いことを考えずに作ってほしいですね。
犠牲になったゲームを「クソみたいなゲームのゲームセンター」に格納したら、もしかしたらそこで輝けるかもしれないですもんね。
そうそう、いいゴミになるかもしれません(笑)
読者のエンジニアがクソゲーを作ったら野田さんに送ってもいいですか?
もちろん。めっちゃ楽しみにしてます。
取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
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