本連載では、海外AIトレンドマーケターとして活動している“AI姉さん”ことチェルシーさんが、AI先進国・中国をはじめとする諸外国のAIビジネスや、技術者情報、エンジニアの仕事に役立つAI活用のヒントをお届けします!
もはや人間そのもの? コミュニケーションAIの発達と、今後エンジニアが考えなければならないこと
海外AIトレンドマーケター | AI姉さん
國本知里・チェルシー (@chelsea_ainee)
大手外資ソフトウェアSAPに新卒入社後、買収したクラウド事業の新規営業。外資マーケティングプラットフォームでアジア事業開発を経て、現在急成長AIスタートアップにて事業開発マネジャー。「AI姉さん」としてTwitterでの海外AI事情やトレンド発信、講演、執筆等を行っている
皆さん、こんにちは。AI姉さんこと、チェルシーです。
新型コロナウイルスの影響で、リモートワーク・在宅ワーク等が増え、働き方が変容した人も多いのではないでしょうか。働き方改革を推進したのは、昨今の人事施策ではなく、ウイルスであったとも言えるでしょう。
外出自粛や、対人接触をできるだけ避けることが推奨される中、コミュニケーションAIの活用が期待されています。今後、より一層テクノロジーやAIとの共存・協働も加速していく中で、今回は「コミュニケーションAI」の観点から未来がどのように変わっていくのか、世界の取組み事例の紹介も含めてお伝えしていきます。
あたかも人間かのように会話ができるコミュニケーションAIの事例は、ここ数年の間にメディアで取り上げられることが多くなりました。特に話題となっているコミュニケーションAIのグローバル事例を3点紹介します。
日本でも活用が進むAIアナウンサー
2020年2月、テレビ朝日のAIアナウンサー・花里ゆいながデビューし、話題になりました。
この裏で動いているのはNTTテクノクロス株式会社の音声合成ソフトウェア『FutureVoice Crayon』です。深層学習(DNN)を活用し、感情を込めた少量の音声から、より人に近い、肉声感のある感情表現を可能にした音声合成が使われています。
また、GAN技術の活用で、実在しない声も生成することが出来るようになっています。発話情報(読み・書き)を出力することもできるため、CGによる唇や身体の動きと発話タイミングを同期させている点もポイントです。
今まで不自然だった音声合成・唇の動きなどが合わさることで、かなり人間に近いレベルにまで達しています。
実はニュース配信に携わる企業は各社ともAIアナウンサー開発に意欲的に取り組んでおり、2018年にはNHKから「ニュースのヨミ子」が。他にもTBS「いらすとやキャスター」、日本テレビ「アオイエリカ」、共同通信デジタル「沢村碧」などが登場しています。
今年デビューした花里ゆいなの表現がより自然になったことからも、この1~2年で機械学習・深層学習の能力が向上してきていることを実感できますね。
NHK:ニュースのヨミ子
TBS:いらすとやキャスター
日本テレビ:アオイエリカ
共同通信デジタル:沢村碧
日本のほか、中国でも2018年に新華社通信からAIアナウンサーが生まれています。自然に話すことができるだけでなく、まばたきなどの工夫で、人間そっくりと思えるほどの技術を展開しています。
映像だけではない、よりリアルなアンドロイド「ソフィア」
香港を拠点とするロボットメーカー、ハンソン・ロボティクス社から出てきているアンドロイド「ソフィア」のコミュニケーション技術も話題になりました。
ソフィアはアメリカの人気テレビ場組『ザ・トゥナイト・ショー』のロボット特集に出演し、会話の中で「私、カラオケが好きなの」と発言。そしてなんと司会者とその場で『Say Something』という曲をデュエットしてみせたのです。
また、ウィル・スミスとのデート動画も非常に興味深く、ウィル・スミス主演の映画『アイ, ロボット』でAIロボットを破壊したことをソフィアが質問。ウィル・スミスが「ロボットは好きだよ」とフォローしつつ「きれいだよ」と褒め、そしてキスを迫ろうとした場面では「お友達でいましょう」と会話しました。
ウィル・スミスが「ロボットが好きな音楽は何? それはヘビーメタルだね」と聞くと、「私はほとんどシリコンとプラスチック、炭素繊維でできています」と返答。ジョークへの回答は難しい場面も見せています。
ソフィアはコミュニケーション技術だけでなく、ハードを含めた開発をしており、表情を見て感情が読み取れるように会話していく姿はまさに人間のようですね。
まるで人間、デジタルアバター『NEON』
最後に、ラスベガスで行われたCES2020では、サムスンのArtificial Human『NEON』というデジタルアバターが世界中に衝撃を与えました。
『NEON』の実体はリアルな外観と動作を併せ持つビデオチャットボットであり、動きはCGであると言われていますが、まさに人間と区別がつかないほどの仕上がりになっています。
『NEON』はスマートアシスタント・アンドロイドのさらに上をいき、本物の人間と同じように会話し、振る舞うような設計をされています。
実装においては「Core R3」と呼ばれる「Reality・Realtime・Responsive」と、知性・学習・感情・記憶を担当する「Spectra」という技術が用いられています。
『NEON』はあらゆる知識を蓄えているわけではなく、人間と同じように学習していく点がポイントで、完璧ではないものの、人間らしさを開発の肝にしています。
人間にどこまで似せるか?不気味の谷
このようなコミュニケーションAIを目にして「気持ち悪い」という感情を抱く人もゼロではないかと思います。なぜならコミュニケーションAIには「不気味の谷現
象」が存在するからです。
これはロボット工学者の森政弘氏が初めて唱えた現象で、人間は、ロボットが人間に似はじめると好意的な反応と示すものの、あるポイントに達すると肯定的な感情が減少していくという現象です。実際に、この仮説をカリフォルニア大学サンフランシスコ校の心理学者が研究・発表もしています。
実はこのポイントが今後エンジニアが開発を進めていくにあたっても重要で、「人間に似せすぎると気持ち悪くなる」という感情的反応を組み込まなければなりません。精度が良すぎても、似せすぎても受け入れられない。その開発の難しさがコミュニケーションAIにはあります。
また本日紹介したように、今後このような、人間に非常に似たコミュニケーションAIがさらに発達していきます。アナウンサー、店舗の接客、銀行窓口など、あらゆる業界に展開されることも間違いないでしょう。
そのとき、次なる論点が「ロボットへの代替」、「ロボットとの協働」そして「ロボットを活用し、人間を拡張すること」です。エンジニアのキャリアを考える上でも、コミュニケーションAIがどのように自分と関わってくるのか、未来を予測しながら向き合っていくことが必須になってくるでしょう。
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