AI分野で頭角表す設立2年目のベンチャー企業の“強さの秘訣”は何か? 「モノづくり特化の技術者集団を目指す」
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新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、採用延期や縮小を発表する企業が増加傾向にある。その一方で、現在もエンジニア採用に意欲的な企業も存在している。今回紹介するソフトウェア開発のペブルコーポレーションもその一つだ。
求人広告を掲載すると3カ月間で500名以上のエンジニアから応募が集まる同社(※)。設立2年目の新興企業はなぜ、この厳しい経済状況の中でもエンジニア採用を加速させられるのだろうか。(※)キャリア転職サイト『type』での実績
同社の創業者であり、代表取締役を務める藤方裕伸さんにその秘密を聞いた。
目指すのは、先端技術を社会に実装するモノづくり集団
ペブルコーポレーションの代表取締役、藤方裕伸さんの原点はエンジニアだ。
藤方さんは、大手動画配信サービスの基盤開発に携わるなどエンジニアとして活躍した後、自らソフトウェア開発会社を起業。経営者として300名のエンジニアを擁する企業に育て上げ、2019年11月に東証一部上場企業に事業譲渡を行い、同年12月、新たにペブルコーポレーションを立ち上げた。
「いまだ社会に浸透しきれていない高度な技術を広く普及させる目的で、この会社をつくりました。目指したのは先端技術を社会に実装するモノづくり集団です」
実際、同社が手掛ける開発領域は幅広い。金融、小売、放送、通信、ゲームなどの業界に対し、AI、IoTを活用した各種アプリケーションや業務システムなどを提供している。
取材時の5月の段階では、コロナ禍の影響で一部プロジェクトに遅れが出ているとはいうが、その影響は軽微だと藤方さんは話す。同社はなぜ、これほどまでに盤石な経営基盤を短期間で築けたのだろうか。
「強いて言うなら、成長意欲の高い人材を採用し、エンジニアの能力を最大限に引き出す環境を整えてきたからでしょうか。
エンジニアが成果を出せば、自ずと顧客との間に確かな信頼関係が結ばれます。それがエンジニアの能力をストレッチする難易度の高い案件の受注へとつながり、さらに大きな成果を生み出すという、好循環が生まれています」
エンジニアの能力を最大限に引き出す環境とはどんなものか。具体的な取り組みは三つあるという。
「一番大事なのは、エンジニアのスキルアップに貢献する案件の獲得に力を注ぐことです。いくら成長意欲が高い人でも、いつまでも同じ仕事をさせていては、やがてモチベーションは衰えてしまい、せっかくの能力が“腐って”しまいます。
こうした状況を防ぐために、当社ではセールスが中心となってエンジニアをサポート。彼らが抱えている課題、将来の展望についての考え方を把握し、一人一人が力を発揮できる案件を獲得できるよう、顧客企業に積極的に働き掛けています」
さらにエンジニアの成長を加速させるには、学習機会の提供をすること、そして変化に富んだ就労環境を用意することも重要だと藤方さんは続ける。
「エンジニアのスキルアップは、自身の成長はもとより顧客の利益にもつながるため、研修や資格取得など、新しい技術習得にかかる費用は会社が全額負担します。
とはいえ真の技術力は座学より、現場でこそ磨かれるものです。そのため当社ではエンジニアに多様な開発環境を経験させることで、モチベーションの維持と技術力の向上を図っています」
SES、受託、自社開発の3軸で事業を展開する理由
ペブルコーポレーションが提供するサービス形態は大きく分けて三つある。一つはSES契約に基づく客先常駐型開発、もう一つが案件持ち帰り型の受託開発、そしてもう一つが自社サービス開発の提供だ。
同社に所属するエンジニアは、これら三つの異なる開発環境に身を置くことによって、技術や開発への視座、意識を高めている。
「当社に所属するエンジニアの多くが、1年間、客先常駐案件や受託案件を経験したら、次の3カ月間は会社に戻り、自社サービスに携わるというサイクルで働いています。
こうしたサイクルを採用しているのは、エンジニアに顧客視点を意識したエンジニアになってもらうため。また、顧客からの厳しい要求を乗り越えることによって、高い技術水準を保てるというメリットも享受できます」
こうした点がペブルコーポレーションと同規模の同業他社との違いを際立たせているのではないかと、藤方さんは見ている。
「世の中に必要なシステムを提供する上で、必要なら自社開発することもありますし、クライアントワークについても自社サービスと同じ熱量で取り組みます。つまり契約形態やサービス形態にこだわりがないということ。
当社は、三つのサービス形態をバランスよく取り組むことで、エンジニアにとって働きやすい環境と経営の安定化を両立しているのです」
創業からおよそ1年半。事実、同社のエンジニアはこの短い期間にいくつもの自社サービスを生み出している。例えば、AIと顔認証技術を組み合わせた入場管理システムや、議事録などに活用可能な音声自動文書化システム、さまざまなAIアプリケーションを気軽に試用できる『AI-Times』などだ。
さらに今夏には新サービスのリリースも控えているという。
「6月頃を目処に、今回のコロナ禍で需要が高まりつつある熱検知センサー型の体温計とゲート機能を連動させた認証システムを施設事業者向けに販売する計画です。
当社は客先常駐を中心に、受託開発も手掛けるSES企業と見られることが多いのですが、それはあくまでも当社の一側面に過ぎません。われわれは、あくまでもモノづくりに特化した技術者集団なのです」
次の2~3年で、エンジニア60名体制から300名体制へ
こうしたペブルコーポレーションの経営方針、事業内容に惹かれ、同社には小規模なソフトハウスから大手SIerなどを経て入社した幅広い年代のエンジニアが集まっている。
中には大手ITベンダーで幹部クラスだったエンジニアや、またアメリカで戦闘ヘリの兵器管制システムの開発に携わっていたエンジニアも在籍しているというから、その多様性には驚かされる。
「当社は、新しいチャレンジとモノづくりにこだわりを持っている企業であり、キャリアパスに関してもエンジニアの意思を最大限尊重します。
特定の開発分野を深く掘り下げてもいいですし、幅広い開発分野を経験しても構いません。社員の多くは、こうした自由度の高い環境でモノづくりに励めることに魅力を感じてくれているようです」
社会情勢がどうあれ、組織を構成する人材の多様性、能力の高さが、企業の浮沈を左右する重要なポイントであることはいうまでもない。ペブルコーポレーションは今、どのような人材を必要としているのだろうか。
「採用にあたっては過去の経験や現状の技術力も考慮しますが、それよりも重視している点があります。それは経験のない領域への好奇心やチャレンジする気持ちがあるかどうか。
特に、20代の若手エンジニアの伸び代はそういうところに現れると思うからです」
今後ペブルコーポレーションは、現在60名弱いるエンジニアを2~3年のうちに300名程度にまで引き上げる採用計画に取り組んでいる。それが、藤方さんが理想とする「社会に必要とされるモノづくり」を実現するための「適正規模」だと捉えているからだ。
「この程度のエンジニア組織が築ければ、常時自社開発に50名程度の人員を割けるでしょう。こうした状況を数年のうちにつくれれば、今まで以上に社会実装を念頭においたモノづくりに取り組むことができるはずです。
そのためにわれわれは、停滞しつつある市況を睨みつつ、多様なバックグラウンドを持ったエンジニア採用を進めています」
今後数年にわたる経済の低迷が予測される中、必ずしも理想のキャリアパスを描けるかどうかは誰にも分からない。そんな中で不確実性を減らし、生存確率を高めるためには、状況に応じてキャリアパスを選択できる個の力を磨いていく必要がある。
そのために、今どんな環境に身を置くべきか――。きっと、同社のようにエンジニアに柔軟な発想と挑戦を求め、スキルアップのための育成への投資を惜しまない企業が、選択肢として挙がってくるだろう。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/赤松洋太
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