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エンジニアが陥りがちな睡眠トラブルの改善法とは? 今話題のSleepTech企業ニューロスペースCTOに“眠活テクニック”を聞いてみた

働き方

    リモートワークの推奨や外出自粛などにより、生活様式がガラリと変わったことで、睡眠に悩みを抱えている人が増えている。

    自宅で一日中パソコンに向かっていることが多いエンジニアの中にも、「なかなか寝つけない」「しっかり寝たつもりなのに朝がつらい」といった人は多いのではないだろうか。

    新たな働き方やライフスタイルの中で、エンジニアがより良い睡眠をとるためにはどうすればいいのか。

    SleepTech企業・ニューロスペースのCTOであり、睡眠科学の研究員でもあった佐藤牧人さんに、より良い睡眠をとるための“眠活ノウハウ”を教えてもらった。

    プロフィール画像

    株式会社ニューロスペース 取締役CTO
    佐藤牧人さん

    2008年、米国テキサス大学アーリントン校/同大学サウスウエスタン医学センター共同プログラム修士課程修了(生物学学士号、生物医療工学修士号取得)。14年に同医学センター大学院 統合生物学博士課程修了(Ph.D.取得)。その後帰国し、同年より筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)研究員を経て、17年にニューロスペースに参画した

    「アラームで起きられない」「15分以上寝つけない」それって体からのSOSかも?

    朝起きてすぐパソコンを開き、そのまま仕事を開始。長時間座りっぱなしで作業に集中し、気付けばもう夜。結局寝る直前まで仕事を続け、パソコンを閉じたら倒れこむようにベッドに入る。

    コロナ禍を機にリモートワークが広まった今、こんな一日を送っているエンジニアも多いのではないだろうか。だが、この生活習慣こそが睡眠トラブルを引き起こす要因となっている。

    Sleep Tech 眠活ノウハウ

    ニューロスペースが企業を対象に行ったアンケート調査でも、「働き方の変化をきっかけに、従業員の睡眠の質が低下している」という回答が多く寄せられたという。

    「昼間に強い眠気が襲ってきたり、目覚まし時計のアラームが鳴っても朝起きられないなら、それは睡眠が足りていないサインです」と佐藤さん。

    また、ベッドに入ってから1分以内に寝てしまう人、通勤電車で居眠りをしてしまう人も、慢性的な睡眠不足に陥っている可能性があるという。

    「コロナ禍で人々の働き方やライフスタイルが変わって以降、睡眠トラブルが増加傾向にあるとしたら、その最大の要因は『日々の生活にメリハリがないこと』だと考えられます。

    特にエンジニアは、一日中パソコンに向かったまま仕事をして単調な生活を送ることになりがちですが、実はそれが睡眠トラブルを起こしやすい典型的なパターンなのです」

    まず大前提として、睡眠の質は日中の活動量やエネルギーの代謝量と密接な関係がある。

    よって昼間に仕事や運動で活発に動き回ればよく眠れるし、在宅ワークや外出自粛によって体を動かす機会が減れば、基本的に睡眠の質は悪くなりやすい。

    加えて睡眠の質を低下させる大きな要因となるのが、朝の光を浴びなくなることだ。

    人間は朝起きて太陽の光を浴びると、目の網膜にある細胞から脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)に信号が届き、その刺激で『概日リズム(サーカディアンリズム)』と呼ばれる約24時間の体内時計がリセットされる。

    そしてそのリズムに同調して、夜の眠気が導かれるサイクルになっている。

    「昼間はしっかり覚醒し、夜はぐっすり眠るというメリハリをつけるには、このサーカディアンリズムを整えることが大事です。

    このリズムが乱れると、朝起きても頭がぼんやりしたり、夜なかなか寝つけないといったトラブルにつながりやすくなる。だから朝の日光を浴びて、体内時計をリセットするスイッチを入れることが重要です」

    これまでは朝の通勤途中に太陽の光を浴びていたので、一日のリズムが自然とつくられていた人も多かった。

    ところが今、朝起きてからずっと部屋の中で過ごしたり、人によっては一日中薄暗い部屋で仕事をするケースもあったりする。

    これでは覚醒と睡眠のリズムが乱れてしまうのも致し方ない。

    Sleep Tech 眠活ノウハウ

    「反対に、夜に浴びる光は睡眠を阻害する要因になります。エンジニアの場合、パソコンの画面を見ている間はずっとブルーライトを浴びている状態です。

    太陽光ほど強くなくても、これも光ですから、同じように脳に刺激を与えます。よって夜中までずっとパソコンの画面を見続けていると、脳がまだ昼間なのだと誤認して、体内時計のリズムが崩れてしまう。これも睡眠トラブルの原因になります」

    光だけでなく「情報」も脳に刺激を与えるため、ベッドに入ってからスマホでSNSやニュースサイトをチェックしたりすれば、眠るべき時間に脳を覚醒させてしまうという。

    普段何気なくやっていることが、睡眠の乱れを生む原因になるのだ。

    リモートワーク時代により良い睡眠をとるためのノウハウ7選

    睡眠トラブルを回避するには、毎日の生活にメリハリを取り戻すことが必要となる。

    「朝起きたら光を浴びて脳をオンにし、寝る前は光や情報を遮断して脳をオフにするという基本を心掛けてほしい」と佐藤さんは話す。

    その上で、さらにより良い睡眠をとるための具体的なノウハウを教えてもらった。

    1.寝る直前まで仕事をしない
    佐藤牧人さん

    自宅で仕事をしていると、上司や同僚に声を掛けられることもなく仕事に没頭できるので、つい遅い時間まで作業を続けてしまいがち。すると体内の神経活動は興奮したまま寝入ることになり、睡眠に影響が出てしまいます。

    佐藤牧人さん

    少なくとも寝る数時間前からオフモードに切り替え、パソコンやスマホの画面を見ない習慣を身に付け、より良い睡眠を取ることで、翌日スッキリした気持ちで過ごせるようにしたいですね。

    2.カーテンを開けて寝る
    佐藤牧人さん

    人間の網膜にある細胞はまぶたを閉じていても外部の光を感受できます。

    そのため寝室のカーテンを完全には閉めずに光が入りやすい状態で就寝すれば、朝になると自然に光を感知して起床しやすくなり、体内時計が整いやすくなる。

    佐藤牧人さん

    起床後も、なるべくベランダや窓際などで過ごし、太陽の光を浴びることを心掛けてみてください。

    3.仕事をする場所を決める
    佐藤牧人さん

    人間の脳は場所と行為をセットで記憶するので、ベッドの中にまでスマホや資料を持ち込むと、脳は「ベッド=情報をインプットする場所」と認識してしまい、なかなか寝つけなくなります。

    佐藤牧人さん

    良い睡眠をとるには、「ベッド=睡眠」と正しく認識させることが大事なので、ベッドには情報ツールや仕事に関するものを持ち込まないことが大原則です。

    一方で、自宅で仕事をする場合も、場所をきちんと決めることが大事。「デスク=仕事」と脳が覚えれば、その場所にいる間は仕事に集中できる。

    こうして仕事と睡眠の場所をしっかり区別することで、一日のメリハリがつきやすくなるのだ。

    4.眠気が来ても横にならない
    佐藤牧人さん

    人目がない在宅ワークでは、仕事中でも眠くなったら気兼ねなく仮眠できてしまいます。ただし仮眠の取り方を間違えると、夜の睡眠に悪影響を及ぼすので要注意。

    佐藤牧人さん

    特にベッドや布団などに横たわってしまうと、深い睡眠に入ってしまい、なかなか起きられず1時間や2時間寝てしまうこともあるでしょう。すると夜に寝つけなくなったり、眠りが浅くなったりする原因になってしまいます。

    もし昼間に強い眠気が襲ってきて仮眠をとるなら、熟睡しないように首が固定できるソファなどに腰掛けた姿勢で眠るのがお勧めだそう。

    そして仮眠時間は15分から30分以内に留めるのが理想的だ。

    5.自分のクロノタイプを知る
    佐藤牧人さん

    人間の体内時計の周期は遺伝子レベルでコントロールされていて、「朝型」「夜型」「中間型」など異なった傾向を持ちます。

    これは「クロノタイプ」と呼ばれ、自分の意思では変えられません。

    起床時刻が同じと仮定すると、朝型の人は午前中にパフォーマンスを発揮しやすく、夕方以降は眠気が増す。夜型の人は午前中には活発になりにくく、夜になるとアイデアが湧いてきたりする。

    中間型は極端に朝に強いわけでも夜に強いわけでもなく、文字通り朝型・夜型の中間の傾向を持っている。

    佐藤牧人さん

    このように、人によって眠りやすい時間帯も仕事に集中できる時間帯もそれぞれ違うということです。

    つまり自分のクロノタイプを知れば、自分の体内時計に合わせて仕事や睡眠のスケジュールを組むことができます。

    自分のクロノタイプを知りたい人は、こちらのサイトで診断できる。質問に答えるだけで簡単にタイプを判定できるので、一度チェックしてみよう。

    6.アプリを使って自分の睡眠時間を記録する

    睡眠は目に見えないため、自分の睡眠リズムが乱れていてもなかなか自覚しづらい。

    自分に適した睡眠の時間やタイミングを知るためにも、まずは専用のアプリを使って睡眠の時間や状態を記録するのがいいと言う。

    佐藤牧人さん

    最近は睡眠を記録できるアプリやデバイスがいろいろと登場しています。例えば『fitbit』では、手首にデバイスを装着して眠ると自動的にデータが記録され、アプリで睡眠の時間や睡眠の中身まで確認できます。

    佐藤牧人さん

    現状を知ることが、より良い睡眠を取るための第一歩だと思いましょう。ただし、アプリの結果やスコアに一喜一憂しすぎるのも注意です。あくまでも、参考程度と捉えてください。

    7.入眠のルーティンをつくる

    前述の通り、寝る前は脳をオフモードに切り替え、心身をリラックスさせることが重要。

    これまでベッドの中でスマホを見るのが習慣だった人は、脳に刺激を与えない別のルーティンをつくることが大事だ。

    佐藤牧人さん

    私の場合は、毎日寝る前に既に知っている落語を聞くのがルーティーン。落語の魅力は、ストーリーもオチも分かっていることです。先が読めるから安心できるし、それがリラックスにつながります。

    佐藤牧人さん

    特に今は新型コロナウイルス感染症に関する新しいニュースが次々と入って来て、先が見えない不安が増大しやすいので、寝る前は新しい情報が入ってこない状態をつくってリラックスすることを心がけています。

    Sleep Tech 眠活ノウハウ

    「睡眠ファースト」な生活で仕事の効率もアップする

    さまざまな睡眠のテクニックを紹介してきたが、何より重要なのは「自分の生活を“睡眠ファースト”で考えること」と佐藤さんは話す。

    「先ほど説明したように、体内時計は人それぞれ異なります。これまで全員が同じ時間に出社し、同じ時間に仕事をしていましたが、それが自分のリズムに合わなかった人もたくさんいるはず。

    今はリモートワークや時差通勤により一日のスケジュールを組み立てられる環境になった人も多いでしょうから、ぜひこの機会に睡眠を第一に考えて自分の生活を見直してほしいですね。

    ほとんどの人はまず仕事や遊び、家庭の時間を確保し、余った時間を睡眠に充てていますが、そうではなく真っ先に『自分が一番よく眠れる時間帯は何時から何時まで』と睡眠時間を確保する。

    そして次に、自分が一番集中できる時間帯を選んで仕事をする。これだけで生活にメリハリがついて、仕事の効率やパフォーマンスが上がると同時に、眠りの質を高め、より健康的に暮らせるようになると考えています」

    取材・文/塚田 有香 編集/大室倫子

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