キャリア Vol.1090

話題のSleepTech企業、ニューロスペースの劇的成長を支えるプロジェクトマネジメントの極意とは?【CEO×CTOインタビュー】

コロナ禍によってリモートワークや時差通勤などを導入する企業が増え、働き方が大きく変わった。

それにより、以前にも増して「他部門との連携」がうまくいかず、プロダクトマネジメントやプロジェクトマネジメントの面で課題を感じているエンジニアも多いのでは?

そんな中、コロナ禍以前から「テクノロジー×サイエンス×ビジネス」という三つの部門を連携しながらビジネスを急速に拡大させてきたのが、SleepTech業界で存在感を示すニューロスペースだ。

異なる専門領域を持つ者同士がうまく協業し、成果を最大化させるために必要なことは何なのか。同社CEO・小林孝徳さんとCTO・佐藤牧人さんに、同社のプロジェクトマネジメントの極意を聞いた。

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株式会社ニューロスペース 代表取締役CEO 小林孝徳さん1987年生まれ。新潟大学理学部素粒子物理学科卒。自身の睡眠障害の経験をきっかけに、2013年に株式会社ニューロスペースを設立。睡眠の悩みを根本的に解決すべく法人向けの睡眠改善プログラムを開発し、企業で働く多くの従業員の睡眠改善を実現している。書籍に『ハイパフォーマーの睡眠技術』(実業之日本社)がある

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株式会社ニューロスペース 取締役CTO 佐藤牧人さん2008年、米国テキサス大学アーリントン校/同大学サウスウエスタン医学センター共同プログラム修士課程修了(生物学学士号、生物医療工学修士号取得)。14年に同医学センター大学院 統合生物学博士課程修了(Ph.D.取得)。その後帰国し、同年より筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)研究員を経て、17年にニューロスペースに参画した


「睡眠障害に苦しむ日本人は推定約3千万人」社会問題なのに、解明が進んでいない分野

――SleepTechは、これから伸びる領域として注目度が高まっていますよね。その中で、ニューロスペースはどのような立ち位置になるのでしょうか。

小林:「SleepTech(スリープテック)」は最近できたばかりの新しい言葉だと思われるかもしれませんが、テクノロジーを活用した睡眠中の脳波の研究などはかなり以前から行われていて、実は概念としては昔からある領域です。

ただ睡眠については、学術的にもまだまだ分からないことが多く、「なぜ私たちは眠るのか」という根本的なメカニズムさえ実は解明されていません。

しかし現実として、今も睡眠障害で苦しんでいる人が日本だけで推定で3千万人近くいて、非常に大きな社会問題になっています。

睡眠障害に起因した事故が起きたり、精神疾患や生活習慣病のリスクも増大します。ですから、全てが解明されてから人々の睡眠の改善に取り組むのでは遅過ぎます。

SleepTech/睡眠障害の悩みは絶えない

そこで私たちは、企業ごとの勤務形態に応じた睡眠改善プログラムの提供や、睡眠計測デバイスと自社開発したスマートフォンアプリと連携した睡眠の可視化をはじめ、ユーザーから取得した睡眠データを蓄積し、睡眠のメカニズムを解明していくという学術的なアプローチも行なっています。

その他、さまざまな企業と協業し、私たちが持つ技術やデータを応用した新規事業の共同開発も手掛けているところです。

よって私たちニューロスペースは、「テクノロジー×サイエンス×ビジネス」を掛け合わせた「SleepTechベンチャー」であると自らを定義しています。

――家電・技術のイベントなどでもSleepTech関連のブースが盛況だと聞きました。SleepTechというジャンルが定着してきている感じがありますよね。

佐藤:最近はメディアなどでも睡眠について取り上げられる機会が増え、SleepTechというジャンルが盛り上がっていることは、睡眠を研究してきた者として素直にうれしいと感じています。

睡眠は人間の三大欲求の一つでありながら、社会的に軽視されてきた時期が長かったので、その重要性が認識されつつある現状については前向きに捉えています。

一方で、先ほど小林も話した通り、睡眠についてはまだ解明されていないことがたくさんあります。

分からないことが多いだけに、睡眠のある一側面だけを見て、いろいろな人がそれぞれに「睡眠とはこういうもの」と決めつけてしまう危険性もあるのです。

ですから私たちは、研究やデータから得られた情報から何が万人に共通して言えることなのかをきちんと精査しながら、この業界が常に良い方向へ発展していけるようにリードできる存在になりたいと考えています。

コミュニケーションは全てオープンに。人材アサインも柔軟にできるよう仕組み化

――ニューロスペースの社内では、テクノロジー/サイエンス/ビジネスの三分野を連携しながらのプロジェクトマネジメントは、どのように行われているのでしょうか?

小林:まず弊社の組織体制について説明すると、ビジネスサイドには、一般で言う営業職に当たるアカウントマネジャー、事業開発、カスタマーエクスペリエンス(CX/CS)のチームがあります。

サイエンスサイドは、米国テキサス大学や筑波大学で睡眠の基礎研究を行なってきた佐藤と、睡眠データの解析を担うデータサイエンティスト、睡眠ポリグラフィ(PSG)検査を専門に扱っていた臨床検査技師で構成されています。

また、大学と共同で技術開発を行うなど、社内だけでなく外部の知見を取り入れる体制もつくっています。

佐藤:私はCTOとして、テックサイドについても責任を持っていて、現在は4名のエンジニアがアプリ開発などのものづくりを担っています。

また、私たち経営陣は、この三部門の間に「壁があってはいけない」ということを強く意識しながらプロジェクトマネジメントを遂行するようにしています。

睡眠という未解明のテーマを扱っている以上、会社全体で最新情報を共有し、密にコミュニケーションを取りながら進めていくことが必須です。

もちろんエンジニアたちも、自分たちの領域に閉じこもって、ただコードを書いていればOKというわけにはいきません。

SleepTech/情報共有を密に行い、壁をなくす

――具体的にはどのように他部門間でのコミュニケーションを促進しているのですか。

佐藤:私たちのコミュニケーションはSlackを使うのが基本で、原則チャンネルは全員に対してオープンにしています。

ですから、ビジネス側かテック側かといった肩書きに関係なく、何かあれば意見を言ったりアイデアを出すことが可能です。

また、必要なときに必要な人材がプロジェクトやチームに参加できるように、柔軟な人材配置を実現する仕組みづくりも行っています。

さらに、ニューロスペースのメンバーは子育て世代がボリュームゾーンなので、家庭と両立しやすい勤務体系として昨年からフレックスタイム制とリモートワークを取り入れました。

コロナ禍以降は全員がフルリモートで仕事をしていますが、テキストコミュニケーション以外にも「ちょっといいですか?」と音声通話をしたりして、離れていても特にコミュニケーションで困ることはないですね。

――常にSlackでオープンな会話をしているということで、お互いの状況も把握しやすそうですね。

佐藤:はい。全社員の情報格差を無くすと、コミュニケーションがしやすく、他部門同士の連携も非常に取り組みやすいと思います。

また、社員がお互いの状況をよく知ることができるように、Slack上で日報ならぬ「分報」をアップする取り組みも実施しています。

日報は一日に一度ですが、その頻度をさらに高めて、メンバーそれぞれが自発的に「今自分が何をしているか」を小まめに通知。業務の報告だけでなく、疑問に思ったことや困っていることなどもすぐにみんながわかるような仕組みになっています。

だから、何かにつまづいているメンバーがいればすぐに他の人たちがフォローやサポートに入れるし、組織全体の仕事も円滑に回っていきます。

――他にも何か、工夫していることはありますか?

小林:週に一度の定例会議を設けて全員が集まり、情報共有を行なっています。

例えば、クライアントと接している人がお客さまとどのような会話をしたのか、進行中のプロジェクトにおいてどんな課題や良かった点があるのかなどを伝えることで、エンジニアも実際にサービスを使うユーザーとの関係やプロジェクトの進捗について理解を深められます。

――そこまで細かく情報共有を行っているんですね。

小林:また、エンジニアやビジネスサイドの人間がサイエンスの知見を学ぶための勉強会も定期的に開いています。

睡眠の基礎研究やデータ解析などの専門領域は、そこに触れた経験がない人には理解が難しい部分もあるので、分からないことがあれば勉強会で何でも遠慮なく質問してもらい、佐藤たちサイエンスチームが持つ知見をみんなで共有しています。

SleepTech/勉強会を定期的に実施し、情報を共有する

ユーザー体験のために、エンジニアが「15時間のフライト」で時差ボケを体験することも

――では、外部との連携についてはいかがですか? 例えば、他社と共同で新規事業の開発を進めた事例もあると思いますが、プロジェクトマネジメントをする上で気を付けていたことがあれば教えてください。

小林:これまで私たちは、ANA(全日空)と時差ボケ調整アプリの共同開発や、日野自動車とドライバー向けの睡眠改善アプリの共同開発など、他社との協業でプロダクトを開発しています。

これらの経験から重要な教訓として学んだのは、協業を成功させるには「ビジョンの共有」が大前提だということです。

この新しい事業やプロダクトを通じて、社会やユーザーにどんな価値や喜びを提供したいのか。

何を目指していて、この点について相手と私たちの間で最初に共通認識を揃えておくことが重要です。

ビジョンが曖昧なまま、「この一年で売上をこれだけつくりたい」といった目の前の数字ありきでスタートしても、結局はどこかの時点でプロジェクトが進まなくなることが多い。

特にお互いの専門領域が違うからこそ、向かっていくゴールを明確に描いていないとブレが生じてしまうと思います。

――「ビジョンの共有」というと、具体的にはどのようなイメージでしょうか。

小林:例えばANAは、「乗ると元気になるヒコーキ」というビジョンを掲げています。

飛行機に乗ると時差ボケや睡眠不足で疲れるのが当たり前だと思われていますが、お客さまには搭乗後も疲れを感じず最大のパフォーマンスを発揮してもらいたいし、さらには飛行機に乗る前よりも元気になっていただきたい。

この明確なビジョンがもともとあり、それがニューロスペースの「一人一人が自分にあった睡眠を実践し、眠っている潜在能力が解放される社会をつくる」というビジョンと重なった。だから私たちが提案した「時差ボケ調整アプリ」が形になったのです。

こうして協業の相手と共有したビジョンは、社内でプロジェクトに関わるエンジニアたちにもしっかり伝えています。

――ビジョンを共有することは、エンジニアにとってどんなメリットがあるのでしょうか。また、ビジョンの共有はどのように行うべきなのでしょう?

佐藤:ビジョンの共有は、「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」という目的を共有することでもあります。エンジニアに伝えられるのが作業の指示だけだったら、ただの業務委託みたいな関係になってしまう。

私たちはメンバーの一人一人に役割があると考え、その役割を遂行してもらうことに重きを置いているので、目的の共有を非常に大事にしています。

先ほどのANAのプロジェクトでは、エンジニアも実際に飛行機に乗ってサンフランシスコへ行ったんですよ。もちろん時差ボケを体験するためです(笑)

こうしてユーザーと同じ体験をして、自分たちのプロダクトを使う人たちが何を求めているかを知り、ユーザーの視点で物事を考える。ユーザー体験を実感することで、より一層ビジョンへの理解が深まるイメージです。

これはものづくりにおいて重要なことだし、エンジニアに限らず、弊社のメンバーは全員がそれを実践しています。

日野自動車の案件では、小林も長距離トラックの助手席に乗って、ドライバーの働き方を体験しました。

睡眠で困っている人たちの生の声を聞き、実態や課題を体感することについては、相当な時間とコストをかけていると思います。

――なるほど。全員がユーザー体験を通して「何のためにやっているか」を理解し、そこで感じたものや自分が持っている知見をシェアしあうことで、他部門との連携を強化しているということですね。

佐藤:はい、そういうことです。これは相手が他社の担当者だろうと、他部門の社員だろうと関係ないと思っています。

SleepTech/他部門との連携を強化する

――これは他の企業でも、エンジニアサイドと他部門との協業の際に参考にできそうですね。最後に、お二人はこれから世の中にどのような価値を提供していきたいですか。

小林:世の中の多くの人は自分にとって最適な睡眠に出会えていません。だからこそ、この社会には眠っている潜在能力がまだまだある。

人々が最適な眠りをデザインできたとき、これまでにない能力を発揮できたり、ポジティブに物事を考える力がついて幸福感が高まったりといった変化が訪れるでしょう。

人々のまだ見ぬ力が解放される社会を、私たちのソリューションやプロダクトによってつくって行きたいと思っています。

佐藤:眠らない人はいないので、ゆくゆくは全世界の人たちが我々のユーザーになり得ると考えています。

私たちは小さな組織ですが、だからこそ大企業のようにルールやしがらみに縛られることなく、社会を変えるためにできることがあるはず。

「テクノロジー×サイエンス×ビジネス」の連携で、SleepTechの世界に革命を起こしたいですね。

取材・文/塚田 有香 編集/大室倫子


書籍紹介

ハイパフォーマーの睡眠技術

小林さんの著書『ハイパフォーマーの睡眠技術』(実業之日本社)も好評発売中!

本書では、睡眠がもたらすあらゆるベネフィットを丁寧に記しながら、データに裏付けられたすぐに使える「睡眠のテクニック」を紹介している。

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