コロナ禍、ワークスタイルの刷新に伴い、開発チームのマネジメントや新人エンジニアの育成に頭を悩ませているマネジャーは多いのではないだろうか。対面でのコミュニケーションを重視して働いてきた人ほど、リモートワークの長期化によって起きる変化に不安を感じているはずだ。
現在はオフィスへの出勤を解禁する企業も増えてきたが、感染拡大の第二波、第三波は次にいつ来るとも分からない。また、オンラインで働く文化を今後も適宜継続していく企業も多いはずだ。
そこで今回は、前回の記事に引き続き、藤倉成太さん(Sansan)、小出幸典さん(Gunosy)、芹澤雅人さん(SmartHR)の3人のCTOに集まっていただき、コロナショック後に直面したリモート下でのエンジニア育成やチームマネジメントの課題について、トライアルアンドエラーの中から学んだことを、互いにシェアしてもらった。
新人エンジニアのオンボーディングどうしてる?
芹澤
お二方は、この1~2カ月で入社してきたエンジニアのオンボーディングをどのように進めてきましたか? 入社後いきなりフルリモートだと、研修などで戸惑うことも多いのかな、と思ったのですが。
藤倉
新卒エンジニアに関しては、すぐに現場にアサインして、OJTに入ってもらいました。当社の場合、最初に全職種での集合研修がありますが、エンジニアについては座学で技術を学ぶような研修は、以前からほとんどやっていなくて。
それよりも、1日でも早く配属先でプルリクを作ってほしいと思っています(笑)
小出
そうですよね。Gunosyには、今年4月に8人の新卒エンジニアが入社しましたが、当社もSansanさん同様、技術的な内容を集合研修で教えることはしませんでした。ビジネスマナー研修と各事業部の紹介をした後、すぐにOJTに入ってもらいました。
小出
あとは、「確実にやり切れる課題」を設定してトライしてもらい、小さな成功体験を重ねて自信を付けてもらうようにしています。
芹澤
両社とも、OJTを中心に現場で学んでもらうスタンスということですね。確かに、仕事を覚えるには一番それが早いですよね。
芹澤
当社の場合、エンジニアは中途採用で経験者の方だけ受け入れてきたので、今まではオンボーディングに関して特に心配することはありませんでした。
でも、この4〜5月で入社された方については、いきなりリモートワークでスタートしているので、少し心境が違うのではないかと心配していて。
小出
確かにそうですね。OJTで業務は覚えられますけど、社員同士の信頼関係とか、会社への帰属意識とか、そういうものをどうやって醸成していくのかは、今後も模索していかないといけないと感じています。
コミュニケーションの頻度を増やすには?
小出
藤倉さん、芹澤さんは、リモート下での開発チームの運営で、どんなところに難しさを感じましたか?
芹澤
チームや会社全体で、一体感をどう生み出していくか、というところですかね。リモートワークだとコミュニケーションが「要件」だけになりがちで、やりとりが限定的になってしまうような気がしました。
小出
そうですよね。僕も、リモートワークだとチームを超えたコミュニケーションがなかなか難しく、課題だと感じています。
小出
例えば、自分が所属しているチーム内でのやりとりはすごく活発なんだけど、隣のチームで解決したことや、違う部署の人の成功事例みたいなものが、耳に入ってきづらくなりました。ノウハウの横展開が今までより難しくなった印象です。
芹澤
SmartHRでは社員同士の飲み会やシャッフルランチをする文化がもともとあったのですが、その頻度を増やすようにしてみました。
芹澤
業務内、業務外の両面でオンライン上の接点をつくって、雑談的なコミュニケーションが生まれるように仕組み化できればと思ったんです。
Sansanさんでは、社内コミュニケーションが減らないようにどんなことをしていましたか?
藤倉
コロナ以前からですが、リモートワーク中に、常に自分の姿をカメラで映しておいてもらうという試みをしています。
藤倉
これは、「監視」というわけではなくて、お互いの状況を見えるようにして、いつでも話し掛けやすいように、という意図です。それでコミュニケーションがうまくいく部分もあったと思います。
芹澤
ずっと撮られ続けるのはしんどいっていう人もいそうですが、大丈夫でした……?
藤倉
そうですね。USB接続したWebカメラを少し離れたところに置いてもらって、後ろ姿とか、肩とかがちょっと写るようにしてくれたらOKだよ、という感じにしていました。顔をずっと映しておかなくていいよ、と。
小出
なるほど。それならあまり気にならないかも。自宅で仕事をしているとはいえ、業務時間中ですしね、ある意味、オフィスにいる状態と変わらない。
藤倉
そうです。あとは皆さんと同じように、シャッフルランチや飲み会をオンラインでやってみました。普段あんまりこういう集まりに参加していなかったエンジニアが続々と参加してくれたりして、オンラインの方が高い出席率だったのは意外な発見でした(笑)
芹澤
当社も同じです! 飲み会をオンラインにしたら、新規の参加者が増えました。好きな時に入って、好きな時に離脱できるので、参加の敷居が低くなったんでしょうね。
小出
こういう雑談の中から、新しいアイデアが生まれたり、他部門の状況を知ることができたりするのでいいですよね。
会社への帰属意識の低下をどう防ぐ?
小出
リモートワーク中、エンジニアの生産性には何か変化ってありましたか?
芹澤
当社では、「生産性が上がった」という声が目立ちましたね。ただ、一時的なリモートワークなので、これが長期化するとどうなるかは分からないなと思います。
藤倉
まさにそうですね。短期的な変化だけ見て、事業への影響を判断するのは難しいところがあります。
藤倉
また、生産性の面では短期的に影響はなかったけれど、社員の会社に対する帰属意識には注意が必要な気がしています。
藤倉
先日オンラインであるメンバーと1on1をした時に、会社のロゴが入っているTシャツを着ていたんですよ。
藤倉
「君が会社のTシャツを着ているなんて、珍しいね」と声を掛けたら、「自宅でずっと働いていると、『自分がSansanのメンバーだ』って感じる瞬間がどんどん少なくなっている気がして」と言っていたんです。
藤倉
それで、会社のTシャツを毎日着て、「自分はSansanの社員だ」と認識するようにしていると言われて、なるほどな、と思ったんです。
藤倉
だからといって、全員に「会社のTシャツを着ろ」とは言いませんが(笑)、組織の一員であることをメンバーの一人一人が意識できるように、マネジャーが今まで以上に工夫しないといけないですね。
小出
確かにそうですね。当社でも、やり方を模索していかないといけないと感じています。
藤倉
あとは、チームの目標が明確なことも、帰属意識の低下を防ぐ上では大事な気がしますね。
藤倉
当社の場合、この時期だからこそ、「オンライン名刺交換」という新たなビジネススタイルを世の中にしっかり浸透させていきたいと考えています。ですから、エンジニアたちが今「何に向かって走るべきか」「何に取り組むべきか」がすごく明確。
藤倉
同じゴールを目指して向かって走っていく仲間がいると思えると、帰属意識は自然と高まるのかな、と。
小出
なるほど。目標が分からなくなると、誰と何をしていいかも分からない、自分がなぜここにいるのかも分からない……という状態になるということですね。
芹澤
またいつ“全社フルリモート”をしなければいけない時が来るとも限らないので、普段から「どこにいても、皆が前向きに働き続けられる環境」をつくっていくことが大事ですね。そういう意味で今回の経験から学ぶことはたくさんありました。
藤倉
そうですね。オンライン、オフライン関係なく、パフォーマンスを上げていけるチームづくりを今後も考えていかないといけませんね。
Sansan株式会社 CTO
藤倉成太さん(@sigemoto)
株式会社オージス総研に入社し、ミドルウエア製品の導入コンサルティング業務に従事。赴任先の米国・シリコンバレーで現地ベンチャー企業との共同開発事業に携わる。帰国後は開発ツールやプロセスの技術開発に従事する傍ら、金沢工業大学大学院(現・KIT虎ノ門大学院)で経営やビジネスを学び、同大学院工学研究科知的創造システム専攻を修了。2009年にSansan株式会社へ入社し、クラウド名刺管理サービス「Sansan」の開発に携わった後、開発部長に就任。16年からはプロダクトマネジャーを兼務。18年、CTOに就任し、全社の技術戦略を指揮する
株式会社Gunosy 執行役員 最高技術責任者(CTO)、Gunosy Tech Lab 所長
小出幸典さん
慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。アクセンチュア株式会社を経て、2014年にGunosyに入社。メディアプロダクトの配信アルゴリズム開発や、全社データ基盤構築等を担当し、2019年7月より執行役員、最高技術責任者(CTO)に就任。また、同社の中長期ビジョンを実現するための研究開発部門「Gunosy Tech Lab」の所長も兼任している
株式会社 SmartHR 執行役員 CTO
芹澤雅人さん (@masato_serizawa)
早稲田大学社会科学部卒。ナビゲーションサービスの運営会社にエンジニアとして入社。経路検索や交通費精算、動態管理などのサービスを支える大規模なWebAPIの設計・開発を担当。2015年、SmartHRに参画。開発業務の他、VPoEとしてエンジニアチームのビルディングとマネジメントを担当。19年1月より現職
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太
※今回の取材はオンラインで実施。写真は2020年3月以前に撮影したものを使用しています