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グロースハッカー、コミュニティマネジャー、ソリューションアーキテクト…エンジニアが「新職種」で身を立てる方法【キャリアごはんvol.4レポ後編】
サービス開発の複雑化や、プロダクトの成長~普及にまつわる打ち手の細分化などを背景に、近年続々生まれている「エンジニア新職種」。それら新職種で実際に身を立てるためには何が必要なのか。
6月16日に開催された第4回『キャリアごはん』のレポート後編となる今回は、当日行ったパネルディスカッションの模様をお届けする。
>> レポート前編:伊藤直也氏に聞く、「ロードマップ」なきWeb業界の歩き方
パネルに登壇してくれたのは、実際にグロースハッカー、コミュニティマネジャー、クラウドソリューションアーキテクトという新職種に就いている3人だ。彼らのキャリアを振り返ると、新職種で身を立てるためのいくつかの条件が見えてきた。
■グロースハッカー:GMOペパボ久田一輝氏のケース
最初の登壇者は、GMOペパボ・minne事業部の久田一輝氏。現在は同事業部のプロダクトチームでAndroidアプリの開発に携わっているが、2014年の入社直後は未経験の「グロースハッカー」としての採用だった。
久田氏はなぜ、グロースハックを自らの業務にしようと考えたのか。
「新卒で入ったカヤックでは、約2年間、ゲームの開発に携わっていました。で、2年目が終わりに近づいてきたころに、そろそろ別のこと、それも普通の開発ではなく何か別の視点で開発に関われないかと思い始めたんです」
そんなタイミングでたまたま、GMOペパボCTOの栗林健太郎氏のブログでグロースハッカー募集のエントリを見たのが、この職に就くことになったきっかけという。
>> グロースハッカーを募集してます(Kentaro Kuribayashi’s blog)
このブログを何の気なしにはてなブックマークに入れたところ、以前参加したコミュニティで面識のあった栗林氏から直接「興味ありますか?」、「一度お話ししませんか?」というDMが届く。誘われるがままに食事に行ったところ、とんとん拍子に話は進み、“はてブ転職”が実現したそうだ。
では、入社後の実際の仕事はどのようなものだったのか。それまでと勝手が違う仕事に戸惑ったりはしなかったのだろうか。
「グロースハッカーという名前で紹介されていますが、僕がやっていたのは分析業務ではないんです。データの収集と加工をやり、分析の部分はディレクターに任せた上で、グロース施策を実行するアクションの段階でコードを書いていました。Google Analyticsを使ってデータを集めたり、分析結果に基づいて会員登録のフローを直したりと、いろいろなことを経験させてもらいました」
ただ、久田氏が実際にグロースハッカーとして働いていたのは、入社後の半年だけ。その後は現在いる『minne』の開発チームへと移ることになる。当時、グロースチームは運営チームとは別のチームという形を取っていたため、関わり方が中途半端になることに難しさを感じたからだ。
「もう少しがっつりコミットしてプロダクトを成長させる仕事がしたかった」という自らの欲求を再確認したという意味では、久田氏にとって意義深い半年だったようだ。
■コミュニティマネジャー:さくらインターネット法林浩之氏のケース
2人目の登壇者は、TechLIONなどのイベント運営でもおなじみの法林浩之氏。長くフリーランスとして開発や運用の仕事を請け負っていたが、昨年からはさくらインターネットで技術広報、コミュニティ支援の仕事に就くことになった(立場上はフリーランスのまま)。その経緯は次のようなものだという。
「新卒で入ったソニーや、その後転職したインターネット総合研究所を辞めた後は、フリーランスとして仕事をしていました。その一方で、学生時代に日本UNIXユーザ会を手伝っていた流れで、卒業後も幹事としてイベント運営などに関わり続けてきたんです。こうして仕事とコミュニティ活動のパラレルなキャリアを歩んでいたことが、今回、さくらインターネットの田中社長(邦裕氏)の目に止まったようです」
>> 法林氏の過去のキャリアインタビューはこちら(エンジニアtype 2011年8月)
さくらインターネットにおけるコミュニティマネジャーの役割は、同社の各種ソリューションをより多くの人に知ってもらうべく、コミュニティを作り活性化させること。既存ユーザーに対しても、同じくコミュニティ活動を通じて新技術の紹介や各種サポートを行っている。
現在は『さくらの夕べ』と称する自社イベントを全国各地で企画・運営している他、協賛する外部のイベントに出展する製品やセミナーで話す内容を決めるのも業務に含まれるという。
近年、コミュニティマネジャーの仕事はUberやAirbnbといったメガベンチャーが重用し出したこともあって注目の新職種とされている。とはいえ日本ではまだまだ耳にする機会が少ない上、法林氏のような「技術職」出身の人間が務めているのも非常に珍しい。
本業とは別にパラレルにキャリア形成をしてきた人物だからこそ務まる職種のように思えるが、「どんなエンジニアにもなれる可能性はあるし、なる意義もある」と同氏は主張する。
「エンジニアはご存知のように独特の感覚を持つ人たちの集まりですから、そのコミュニティをマネジメントするのは、エンジニアの心を理解している人であるのがベストだからです。ただ、この仕事をやると、コードを書くような時間はあまり確保できなくなります。その点の割り切りは必要でしょう」
■ クラウドソリューションアーキテクト:日本マイクロソフト吉田雄哉氏のケース
最後の登壇者は、2015年1月より日本マイクロソフトで「クラウドソリューションアーキテクト」と呼ばれる職に就いている吉田雄哉氏だ。
なかなか聞き慣れない職種だが、その主な職務は、同社のクラウド製品である『Microsoft Azure』を導入した企業に向けて技術的な支援を行うこと。「クライアント企業の事業成功に向けて支援することで、継続的に使ってくれるよう促す」のが狙いという。
ただし、ひと口に「技術的支援」と言っても、実際の業務は非常に多岐にわたる。
「お客さまの困っている内容によって、やるべきことはケースバイケースです。例えば、あるクライアントがAzureの導入に際してパートナー企業や経営層を説得できないという事案が出てきたら、技術的な説明そのものよりも、説得の仕事を代行することでご支援するという場合もあります」
SIerからキャリアをスタートし、製造業やパッケージベンダーの情報システム部門、さらにはスタートアップの起業も経験するなど、多彩なキャリアを歩んできた吉田氏。現職に就く直前までは「パブリッククラウドエバンジェリスト」を自称し、全国で年間約100日のセミナー行脚をこなしていた時期もあった。
現職で”泥臭い”役割を担うに当たっては、「ITリテラシーの高くない工場勤めの社員から経営層まで、全方位に向けて手を替え品を替え説明してきた」経験が存分に活かされているようだ。
「ソリューションアーキテクトには、常に最新の技術をキャッチアップすることや、クラウドの専門家としてシステムインフラ全体を設計できるような知識が欠かせません。でも、それらはあくまでも仕事をこなす上での前提条件でしかなくって。結局は、『人さまの困りごとを解決していく』のが付加価値なんです。その点では、昔も今も、やっていることにあまり変わりがありません(笑)」
「人とは違う仕事をする」という視点がキャリアを開く
こうして、エンジニアから新職種へのキャリアチェンジを経験した3人だが、久田氏の“はてブ転職”しかり、それぞれがある種の偶然によって現在のポジションを手にしている。キャリア論の研究で有名な米スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授も、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な事柄によって決定される」とし、【計画された偶発性理論】なるものを提唱している。
ただ、この理論のポイントは、キャリアを左右する偶発的な事柄を自ら引き寄せるように積極的に行動したり、アンテナ高く情報を取りに行くなどしながら、良い機会を手にしていくべきという点だ。
彼ら3人は、どうやってチャンスを呼び寄せたのだろうか。
法林氏は「これだ!とまでは思っていなかったが、コミュニティマネジャーの仕事はずいぶん前からキャリアの選択肢の一つになると考えていた」と言い切る。
「2011年にオライリーが出版した『アート・オブ・コミュニティ』という本には、 『コミュニティマネジャーを雇用する』という章がすでにありました(※編集部注:当該章はWeb上でも公開されている)。それを読んで『欧米にはこういう職種があるんだ』と知ったのですが、同時に、日本でそのポジションができるとすれば、自分のようなキャリアを歩んだ人間にこそチャンスがあるだろうと思っていました」(法林氏)
端から見れば「新たに誕生した職種」のように見えても、実はそれまでに歩んできたキャリアと地続きであったというのは、3人に共通したポイントだろう。
そしてもう一つ、他の人とは違う役割を意識的に選んできたという点も、重要な共通点のように映る。
「シンプルな話で、人と被ると、選択肢は減るんです。だから人が嫌うこと、人がやらないことをやるというのを若い時から意識してきました。他のエンジニアと同じ椅子を取り合っている感覚は、今も昔もないんです」(吉田氏)
>> 吉田氏のキャリアにまつわる参照記事:1割のトッププログラマーになれなかった僕が、生き残るためにやってきた「空間設計力」の鍛え方
「私も、会社員だったころから人と違う仕事がしたいと思っていて、それを突き詰めていたらいつの間にかこうなった。今後もこのスタンスで働き続けていけば、役割が変わったとしても、残りの仕事人生何とかなると思っていますよ」(法林氏)
2人とは少し異なり、久田氏は自ら飛び込んだ「新職種」からむしろ一般的な開発職に戻る形となったが、「今はシニアエンジニアとしてチームをリードし、みんなを成長させていくことに取り組んでいきたい」と語る口調に迷いはない。
「マネジメントの仕事にシフトするとコーディングから離れることになるので嫌だというエンジニアもいますが、僕の場合は、(自分を含めた)チームメンバーのほとんどがAndroidアプリ開発の経験が少ない人たちだったので、スピードを落とさず開発するにはどうしたらいいかと考えた結果、自然と興味がそっちに向かった感じです」(久田氏)
他の人との差別化を視野に入れて戦略的に道を選ぶという手がある一方で、自分が突き当たった課題を解消すべく導き出した答えの強さも、また真ということだろう。
取材・文/鈴木陸夫 撮影/金原侑香
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