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SESでは「成長企業」への入社にこだわらなくていい。転職が厳しい“駆け出しエンジニア”のキャリアアップ術

働き方

    ネット上には、数々の「SES脱出」ノウハウが出回っている。しかし、SESは本当に“脱出”しなければいけない場所なのか? 本特集では、SESで働く技術者・経営者や人材業界の識者への取材をもとに、SESにまつわるネガティブな噂の真相を検証。SESエンジニアが仕事を楽しみ、“いいキャリア”を築くための方法を紹介する。

    コロナショックから半年。経験浅めの“駆け出しエンジニア”を対象としたSES企業の求人が大幅に減少して以来、今も大きな改善は見られない。SESという業態自体の衰退を叫ぶ声もある中で、成長を望む“駆け出しエンジニア”は、今後どんなSES企業を選べばいいのだろうか。

    企業経営や人材採用の動向に詳しいキープレイヤーズ代表の高野秀敏さんにそう尋ねると、返ってきたのは「エンジニアはどのSESに入ろうと、自身の成長にはほぼ関係ない」という意外な答えだった。

    なぜSESエンジニアは、会社と自身の成長が相関しないのか? それならば、キャリアアップするために何を意識すればいいのだろうか。高野さんに聞いた。

    プロフィール画像

    株式会社キープレイヤーズ 代表取締役
    高野 秀敏 さん

    1999年に株式会社インテリジェンスへ入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ(https://keyplayers.jp/)を設立。3000名以上の経営者の相談と、10000名以上の個人のキャリアカウンセリングを行う。また、55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上 ◆Twitter:@keyplayers
    ◆YouTube:高野秀敏のベンチャー転職ch

    SESは「終わっていない」

    コロナショックで大幅に減少したSES企業の求人。今もその状況が大きく改善しているわけではないと、高野さんは言う。

    「コロナ禍による企業のIT投資の見直しに伴い、経験の浅いエンジニアを対象としたSESの求人は減少しました。自粛期間が明けて数カ月経った今も、顕著な回復傾向は見られません。SES企業の中には、あまりにも仕事がないために、自社のエンジニアをコールセンターで働かせているケースもあると聞きます」

    案件減少に伴い増員をストップする企業も増えているが、このような状況でも、経験浅めのエンジニア採用を継続しているSES企業が一部存在する。それはどのような企業なのだろうか?

    営業力の高いSES企業ですね。社長が有名な営業会社出身の企業などは、ややスキルの低いエンジニアでもプロジェクトにプッシュできる力があるので、不況下でも一定の募集をしています。駆け出しエンジニアが採用されやすいのは、そうした一部の企業です」

    一方で「技術力の高いエンジニアを対象とした求人は、今も豊富にあります」と高野さん。

    「僕が投資しているSES企業はコロナショック後に上場しましたし、『SES=終わり』という解釈は極端と言わざるを得ません。そもそも、多くのIT企業にとってSESエンジニアの力は欠かせないものですから、業界が廃れることはないでしょう。

    また、SES企業で働くエンジニアにとっても、手取りの給料が高くなるとか、常駐先の飲み会や社内行事に参加しなくてもいいなど、所属することのメリットがあります。もし本当にSESにデメリットしかないのであれば、この産業がこんなに広がっているはずがありません」

    “いいSESの仕事”は「給与」で選べ

    いいSES

    では今、駆け出しのエンジニアにとって選べるSES企業は「営業力の高い企業」だけなのか。その他に、キャリアアップしたいSESエンジニアが、どんな会社を選べば“いい経験”ができるのだろうか?

    高野さんにそう問うと、「キャリアアップの観点からは、どのSES企業に行っても大して変わらない」という意外な答えが返ってきた。

    「よく、『成長企業に入れば、会社の成長に合わせて自分も成長できる』と言いますが、これが当てはまるのは主に自社開発の企業ですね。SESはお客さまのプロジェクトに参加するので、所属する会社の伸び具合は自身の成長にあまり関係がありません」

    では、SESのエンジニアがキャリアアップをするためには、何を意識して仕事に取り組めばいいのだろうか。そんな質問をすると「まずはシンプルに給料を上げることを考えていい」と続けた。

    「どこの会社に行っても大して変わらないわけですから、単純に給料が高い企業や案件を選ぶといいと思います。それは、自分のスキルや能力を伸ばす原動力にもなりますし、プロフェッショナルとして高い報酬を得ることは当然ですから」

    では、どうすれば「高い給与」を得られるのか。

    「当たり前ではありますが、今入っているプロジェクトで成果を出すことです。そうすれば、他の案件にも参加してほしいと言われるようになりますし、PM的な立場でプロジェクト全体を見てほしいみたいと頼まれるケースもある。実際、SESに事業責任者クラスの業務を任せている会社は多いです。まずは目の前の仕事をきちんとやり遂げることが、キャリアアップの近道です」

    シンプルなことにも聞こえるが、その際、SESならではの注意点があるという。

    「SESのエンジニアには、『プロジェクト(客先)の上司』と『自社の上司』の両方が存在します。プロジェクトで成果を出しているのに、なぜか自分の評価が上がらない場合、『自社の上司』の評価が得られていない可能性があります。

    評価に関して会社と認識が一致していない場合は、上司とのコミュニケーションを通して解決するか、それが難しければ評価制度がきちんとしている会社に移りましょう。『プロジェクトの評価が高ければ自分の評価も高まる』という考えは、思い込みに過ぎないので、注意が必要なんです」

    一刻も早く「新人ポジション」から抜け出そう

    いいSES

    とはいえ今の職場で昇給が見込めない場合、SESエンジニアはどうするべきなのか。このコロナ禍の中で、転職を検討した方が良いのか、それとも状況が改善するのを待った方がいいのか……?

    「経験の浅いエンジニアの求人が溢れ返るような時代は、そう簡単には戻ってこないと思います。不確実な未来を待つぐらいなら、クラウドソーシングや知り合いから無料で仕事を請け負うなどして経験を積み、開発スキルを高めることに時間を使う方がいいですね。まずはとにかく“経験浅め”のエンジニアから脱するよう努力することが大前提です」

    ただ前述したように、SESのエンジニアには高いスキルが求められるもの。もし「スキルを身に付けられそうにない」のであれば、他の道を考えるのも一つの手だと補足してくれた。

    「もし、SESで働くことにこだわらないのであれば、マーケティングを学び、ダブルスキルを身に付けて自社開発企業への入社を選択肢に入れてもいいかもしれません。理由は二つあります。一つは、ダブルスキルをアピールすれば、開発スキルがそこまで高くなくてもエンジニアとして入社できる可能性が高まること。どんなにいいサービスを作れる会社でも、ユーザーを流入させられなければ意味がないので、マーケのノウハウを持つ人のニーズは今非常に高まっています。

    もう一つは、マーケティングはシステム開発と隣接した、比較的取り掛かりやすい領域であること。特にSEO分野では、システム開発と近しい知識やスキルが必要になるので、意外にハードルは高くないと感じるはずです」

    決して「終わって」いるわけではないSES。しかし、コロナ禍で求人が絞られたことにより、SES内の「できる人・できない人格差」は広がりつつある

    まだ経験の浅いエンジニアは、市況を楽観視するのではなく、かと言って悲観的になり過ぎずに。まずは目の前の仕事に真剣に取り組んでみることから、キャリアアップ戦略を考えてみてはいかがだろうか。

    取材・文/一本麻衣

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