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「VR元年」の火付け役はWebVRになる!?カヤック&Mozillaに聞く現状と課題
VR(=Vartial Reality、仮想現実)という言葉を聞くこと自体は珍しくなくなっているものの、いまだ日常的にVRに触れる機会はそう多くはなく、生活に浸透しているとは言い難い。
しかし、今年の6月から「VR」のキーワードがネット上のトレンドとして急上昇していたり、10月にSONY『PlayStationVR』の発売を控えるなど、2016年に入ってVR業界への注目は高まりつつある。
そのVR普及の鍵を握るかもしれないのが、Web上で仮想現実を実現する「WebVR」である。
2016年7月13日、東京渋谷にあるイベント&コミュニティスペース『dots.』にて開催された、『html5j Webプラットフォーム部勉強会 第13回勉強会~Web にVRを求めるのは間違っているだろうか?~』では、VR業界の近況と今後について、WebVR開発の先駆け的存在であるMozilla Japanの清水智公氏と、自身もプライベートでVR開発を行っているという面白法人カヤックの比留間和也氏が語ってくれた。
彼らの話によると、「VR元年」と呼ばれる2016年、Webブラウザでの仮想体験ができる「WebVR」の出現をきっかけに本格的な需要が生まれつつあるようだ。
2016年は「VR元年」。流行はWebから波及するだろう
イベントは、面白法人カヤックの比留間和也氏(@edo_m18)の『VRことはじめ』と題した講演からスタートした。カヤックでiOSエンジニアとして活躍する傍ら、プライベートでVR系コードを学ぶ同氏が、VRの歴史から近年の動向までを語った。
―― 今年は「VR元年」と呼ばれていますが、実はVRの登場は1960年代。この時に、第一次ブームが来たと言われています。当時はデパートに設置されたプロモーション用のVR機器が話題になっていました。
そして実はその後も、VRに関わるさまざまなデバイスが登場しています。1990年代に発売された、手袋型の装置を使ったSONYの『DSC』だったり、任天堂のゲーム機器『Virtual Boy』などですね。
ではなぜ今年が「VR元年」と呼ばれているかというと、今年の6月に入ってから、“VR”というキーワードでGoogleトレンドが急上昇していることからも分かるように、世の中にVRブームが再び現れたんです。
この流れの立役者といえば、『Oculus Rift』。ヘッドマウントディスプレイ、つまり頭にかぶるようにして利用するディスプレイですね。さらに、今年の10月に販売する『PlaystationVR(PSVR)』にアイマス(アイドルマスター)のソフトが出るということなので、今までVRに興味がなかった層の人も「買うしかないでしょ!」という流れが来ています。
個人的に、このPSVRの登場にはかなり注目していますね。
ただ、こういった周辺機器やヘッドマウンドディスプレイなどの登場によりWebにもVRが波及していて、それがWebVRである……と思いがちなんですが、厳密にいうとそういうわけではないんです。というのも、「WebでVRをやる」というはデバイスの話ではなくて、厳密にはAPIの仕様のこと。単語のイメージ的には、WebGLとかに近いですね。
実際にMDN(Mozzila Deperopment Network、Mozzilaが提供する、オープンWebに関するコミュニティ)を見てみると、その定義が「Web VR API」という項目で書いてあります。
誤解を恐れずにいうと、WebVRの制作って、ジャイロセンサで何か作るのと、制作フローには大差がないと思っています。スマホゲームだったり、モバイルのコンテンツを作る時って「ジャイロセンサを使ってこんなことしてみよう」となったりしますよね。基本的な作り方はほぼ同義と思っているので、ジャイロセンサを使ったことがあるWeb制作者であれば取り組みやすい。
もちろん、複雑なシステムもありますけどね。私は、ベースをThree.jsで作っているのですが、もしThree.jsで開発を行ったことがある人であれば、ちょっとしたコードの追加と、VRのコントロール部分の追加をするだけで、今ある既存のコンテンツをすぐにでもVR化することができます。Webサイト上に気軽にVRを実装できるようになるんですよ。
JavaScriptで作ることができるということは、モバイル、スマートフォンでアクセスしても同じような映像が実現できます。モバイルでも実現可能ということは、VRの活性化は、Webから来るのではないかなと思っていますね。
現状の課題としては、今対応しているブラウザが極端に少ないという点があります。Firefox、Google Chromeでは限定的な対応、APIの実装に留まっています。また、VRの立役者と紹介した『Oculus Rift』が今はWindowsにしか対応していないので、Macでは開発できないのもキツい。
環境的には万全とは言えないので、これから皆でWebVRを盛り上げていければいいですね。
VRの世界にもYouTubeのようなプラットフォームを。Mozillaが考えるVRブラウザの未来
比留間氏の次に講演を行ったのは、WebVR対応ブラウザの開発を行っている『Mozilla』の清水智公氏(@chikoski)。同社は、ブラウザでVRコンテンツを楽しもうというプロジェクト『MozVR』をスタートさせており、VRヘッドセットだけではなくPCやスマートフォンのブラウザでもVRコンテンツを楽しめるWeb VRを推進している。
―― 私は田舎出身だったので、Webが普及していなかった子ども時代、東京でしか放送していないアニメが見たくてたまらなかったんですよ。その時は、東京に住んでいる親戚に録画を頼んで、物理的にカセットテープを輸送してもらっていました。
それが、Webが発展した今なら端末の種類を選ばずに観ることもできるようになっています。
そんな体験を思い出しながら、現状は「行ったことがない・見たことがないものを体験できるメディア」であるVRには、特定のプラットフォームでしか見られないというもったいないなさを感じていました。
そこで、動画で言うYouTubeみたいなプラットフォームが必要と考えて始まったのが、『WebVR』(MozVR)の開発なんです。
MozVRは、今後WebVRが盛んになってほしいからこそ、作りやすい開発手法が数多く用意されています。Vizor、A-FRAME、theree.js、WebGLなどが挙げられますね。『A-FRAME』なんかだと、マークアップ言語でもコンテンツをVR化して制作することができますよ。
細かいゲームなどを作る時、JavaScriptでイチから書くのは大変という場合はUnityを使うのも便利です。
やっぱりVRって、Webで楽しめるコンテンツなんですよ。Web VRが発展すれば、リンクもされて世界中に拡散されていくでしょう。皆が楽しめるプラットフォームを、皆で作っていきたいですね。
Web VRの需要が高まれば、当然創り手のニーズも増えてくる
「VRの活性は、Webから生まれてくる」、と予想する比留間氏と清水氏。同氏たちが語るように、“実は特別で難しい開発技術は必要としない”というWebVR開発ならば、世界のVR需要と共にそれを開発するエンジニアへの需要も増加するだろう。
弊誌の姉妹サイトである転職サイト『@type』上にも、ゲームアプリエンジニアを中心に、VR技術を習得できる求人が少しずつ増加しているようだ。
VR関連産業にも新たな動きが生まれている今、3D技術やジャイロセンサを使った開発が求められる業種であれば、今後はVR技術も必須となってくるのではないだろうか。今からチェックしておいて損はないだろう。
取材・文・撮影/大室倫子(編集部)
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