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「発明はお金じゃない、愛だ」ドクター・中松 92歳、“アイデアが出過ぎて眠れない”衰えない発想力の源

働き方

エンジニアにとって、イノベーションマインドは大切なもの。どうすれば常に探求心を持って、新しいものを世に出す仕事ができるのか。

そのヒントをこの人に求めてみた。

ドクター中松

92歳の現役発明家、ドクター・中松。2020年はいち早くコロナ対策に取り組み、今でも年間3600以上もの新たな発明を着想。「アイデアが浮かび過ぎて夜も眠れない」と語る。

90歳を超えてもなお発明の手を止めずにいる中松氏の、イノベーティブであり続ける発明の源泉に迫った。

2020年の発明『SUPER M.E.N.』と『安タッチ』

2020年はご存知の通りコロナで大変でしたが、コロナ対策を世界で誰よりも先にやったのは私です。

コロナが流行り始めた2020年1月には『SUPER M.E.N.(スーパーメン)』という新しいマスクを発明しました。

ドクター中松

『SUPER M.E.N.』は、改良に改良を重ね、現在はバージョン99まである

M.E.N.のMはMouth(口)、EはEye(目)、NがNose(鼻)であり、メンという読み方には「お面」の意味もあります。「目も鼻も口も全部を守る優れたマスク」ということです。

SUPER M.E.N.の周りには隙間が空いていますけど、内部には圧力を上げる装置がついていて、空気の流れに沿ってコロナ侵入を防止する仕組みになっています。内部の温度を上げているので、これを付けていると温かいと大変評判でした。

SUPER M.E.N.の発売から3〜4カ月遅れて、日本を含め世界中の人が私の真似をしてフェイスガードを作りました。でも外側しかコピーできていませんから、ウイルスがどんどん中に入る構造になってしまって全く意味がありません。

他にコロナ関連だと、『安タッチ UNTOUCH』を発明しました。

コロナには、飛沫と接触の二つの問題があり、前者を解決するのがSUPER M.E.N.で、後者の接触を防ぐのが安タッチです。英語の「触らない」という意味に、安全と安心の「安」を掛け合わせました。

ドクター中松

厚さ0・207ミリのテープ状の製品。指先に貼れば接触感染の防止に効果があるという

SUPER M.E.N.も安タッチも造語ですけれど、これは言葉の発明でもあります。作品だけでなく、意匠や言葉も知的財産に入りますからね。

発明に必要なのは、気力、強い肉体、勉強

こうした発明のアイデアは、1日に10件は浮かびます。1年で3650件、出過ぎて困るっていうかね、ほとんど夜眠れないんですよ。

どんどん発想が出てくるから、枕元にメモを置いて書くでしょう? 寝るとまたアイデアが出てくるので、一晩中寝られない。勝手に出てくるんですから、制御ができないんです。

ドクター中松

年齢を重ねてもずっと発明が浮かび続ける理由は三つ。一つは先祖からの遺伝子です。親や祖父母から受け継いだものですから、大変感謝しています。

もう一つは、帝国海軍で将校の教育を受けたことです。肉体的にも精神的にも、高度な教育を受けたわけです。

発明をする上で、気力、強い肉体、勉強は欠かせません。どれか一つだけじゃダメで、この三つが必要なんです。

例えば気力について。海軍では島まで遠泳をするんですけど、朝6時から夕方6時までの12時間、泳ぎっぱなしです。溺れそうになっても頑張る。これこそが気力ですよ。

私は今年で93歳になりますけど、42歳から50年間、毎日欠かさず筋トレをしています。50年間継続するというのは、容易ではありません。継続するには、絶対にギブアップしないという気力が必要なわけです。

そうやっていけば苦手なこともなくなります。水泳だって最初は大して泳げなかったけど、30キロは泳げるようになったもんね。やれば克服できるんですよ。

そして気力を支えるのが強い肉体ということです。

ドクター中松

「男の厄年42歳の時に10トンから始めて、今は23トン。ベンツが1台2トンですから、10台分の重さを持ち上げています」(中松氏)

勉強は何をしているか? 勉強なんかしていませんよ。

私は最高レベルの東京大学で、最高の教授から最高の講義を受けたからです。これが三つ目の理由となります。

過去の理論はもう頭に詰まっているんだから、もう所謂勉強は終っちゃってるのよ。

だから私の場合は、自分で研究して、人がやらないことをやるっていうことが勉強。

そのためには原理を自分でつくり出して、組み立てることも必要です。道具自体を新しくしないと新しいものはできませんから。古い道具だけ使っていてもダメですよ。

発明の心は金じゃない、愛なんだ

私は5歳で初めての発明をして、今ではエジソンの3倍の発明品を持っています。長きにわたって発明をしてきたわけですが、その原点は母です

私が14歳の時に発明したのが灯油ポンプなんだけど、戦時中の家っていうのは燃料がなくて寒かったんです。かじかんだ手で母は台所仕事をしていてね。お醤油の一升瓶から卓上醤油差しに移す時に、手がブルブル震えてうまく注げなかった。

その背中を見て、私はどうやったら母がつらい思いをしないで醤油差しにお醤油を移せるだろうかって考えました。それが灯油ポンプ発明のきっかけです。最初の名前は『醤油ちゅるちゅる』だったんですよ。

ドクター中松

中松氏の開発に迫った動画『Great Big Story』より

要するに発明の心というのは、孝行です。つまりはLoveですよ。

私はいろんな大学でもレクチャーをしているんだけど、学生には“Invention’s spirit is love.(発明の心は愛)”と教えています。金儲けのために発明をする人もいますけど、発明の心は金じゃない、愛なんだってね。

金儲けに発明を使っても、喜ぶのは自分だけ。それじゃあ意味がないよ。自分のためじゃなくて、みんなが喜ぶことを自分の喜びとする発明をしなくちゃ。それが私の考えです。

だから苦しいとか大変だなんて思うはずがない。それが私の喜びなんだから。誰もやっていないことを、大変だと思っちゃダメですよ。面白いと思わないと。面白くなかったらできないでしょ?

ドクター中松

私がやりたいのは、今までもこれからも、常に人々を救うことです。2021年も何が起きるか分かりませんが、人のために発明をしていくことは変わりません。

今は地球温暖化の問題に対して、政府が取り組んでいるカーボンゼロへの研究を進めていますし、引き続きコロナの研究もやっています。

他にも単なる困りごとを解決するだけじゃなくて、これからの人類が必要とすることもどんどん考えていますよ。

例えば月に行きたいって話があるでしょう? 最近もスペースXがロケットを飛ばしましたけど、まだまだ費用が高い。安く月に行ける方法はすでに発明していますし、すでに特許も取っています。

こうやって誰もやってないことを先駆けて考えて、みんなができないことを、私が解決する。皆さんが喜ぶことこそが私の喜びであり、私の存在価値なんだから。

エンジニアは“知本主義”の“文ジニア”にならないと

私が東京大学にいた頃、フロッピーディスクを発明しました。そこから世界中に IT産業が広まったわけです。

そういう意味では、私はIT産業の創始者の一人です。そんな私がITエンジニアの皆さんに伝えたいことは、今のITはまだまだ発展途上だということ。

ソフトウエアはハードウエアがあって動くものです。ハードとソフトは両輪で、ハードウエアの進歩なくしてソフトウエアの進歩はありません。

例えば私がフロッピーディスクを発明した時は、流体力学を使いました。ソフトウエアエンジニアとは関係のないテクノロジーが必要だったんです。

つまりソフトウエアエンジニアがイノベーションを起こすには、幅広く勉強をする必要があります。極端にいえば、理科系だけじゃなく、法律などの文化系まで勉強する。

これを私は“文ジニア”と言っています。「文化系のことにも通じたエンジニア」という意味です。皆さんにはぜひ“文ジニア”になっていただきたい。

ドクター中松

そして資本主義ではなく、“知本主義”でいかないとね。

元来エンジニアはお金儲けが下手くそだったり興味がなかったりしたはずなのに、最近はお金儲けをしようとする不埒な奴がいるよね。でも、重要なのはお金よりも知識です。

知識を得るために本を読むのは結構ですけど、特に文化系の知識、つまりは人の心を知るのに、カチカチの理論だけでは不十分。ロジックや合理性を突き詰めるのは構わないけど、温かさや人に喜びを与えたいといった気持ちを忘れてはいけない。

やっぱりね、冷たいエンジニアじゃダメですよ。

エンジニアは人との付き合いが下手くそな人が多いですけど、人間の社会に入っていかないと。パソコンやスマホばかり相手にしていても意味ないですから。体にも悪いしね。

「世のため人のため」に生きるためには、肉体が元気で、頭もシャープじゃなきゃいけない。私も毎日の生き方には注意をしています。

ドクター中松

「24歳まで童貞で、タバコやお酒、食べ過ぎなどの体に悪いことをやらなければ、人間は理論上144歳まで生きられる」と中松氏。自身が何歳まで生きられるかも実験の一つだという。

先ほど発明の心は愛だと言いましたけど、それはエンジニアももちろん同じこと。どうやったら世の中の皆さんが幸せになるのか、喜んでもらえるのか、考えるのは基本です。

大切なのは、作りたいものを作った結果。自分の欲のためではなく、「社会の人たちがそのシステムで喜んでくれるのかを考えなさい」ということですよ。

ドクター中松

中松氏のデスク周りは研究資料で溢れかえっていた。取材中、嫌いなものはあるのか尋ねると「なまけ者」とピシャリ

取材・文/天野夏海 撮影/桑原美樹

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