「月曜の朝が楽しみな世界」があるなんて――元・大手SIerのSE、『しがないラジオ』池上さんが語るIT業界の真実
「『楽しく働く』なんて、一部の優秀なエンジニアにだけ許された特権だと思っていました」
そう本音を語るのは、書籍『完全SIer脱出マニュアル』(シーアンドアール研究所)の著者であり、スタートアップで働くWeb系エンジニアの池上純平さん。
自身の転職経験から、「普通のエンジニアでも楽しく働けることを知ってほしい」という熱い想いを持ち、エンジニア向けポッドキャスト『しがないラジオ』※のパーソナリティーとして、約3年間で80人以上のゲストのキャリアを深掘りしてきた。(※「SIerのSEからWeb系エンジニアに転職したんだが楽しくて仕方がないラジオ」の略)
技術力に特別自信があるわけでもない「普通のエンジニア」でも、楽しく働けるって本当? そもそも「楽しく働く」ってどういうこと? 池上さんが3年間の活動で出した答えを聞いた。
エンジニアの肉声を聞いて、「楽しく働ける」世界を信じてほしい
新卒で入った大手SIerでは、SEの仕事が全然面白くなくて。でも、2年目の時にスタートアップに転職して、Web系エンジニアとして働き始めたら、仕事がびっくりするぐらい楽しくなったんです。
SIer時代の同期で、今『しがないラジオ』を一緒にやっているずっきーに再会すると、彼も転職にして仕事が楽しくなったと言っていて。しかも、転職活動中に自分と同じポッドキャストを聞いていたんです。
『Rebuild.fm』という、エンジニアの宮川達彦さんがIT業界のゲストを呼んでトークする番組です。その話をずっきーとしているうちに、自分たちでもやってみたくなって、3年前に2人で始めたのが『しがないラジオ』です。
初めから大義があったわけではなかったのですが、ゲストのキャリアを深掘りしていくと、楽しく働くために取ったアクションや考え方の話が出てきたので、途中からその辺りを意識して引き出すようになりました。
そうなんです。技術力が突出している人も、スキルを掛け合わせて価値を出している人も、会社員も経営者も……いろんなキャリアの人が出てくださっています。
その人たちがどんな思いでキャリアチェンジをして、楽しく働けるようになったのかを、ポッドキャストを通じて肉声で聞くと、聞く側も「楽しく働ける現実があるんだ」って信じられると思うんです。
ポッドキャスト配信は、最初はアウトプットしているエンジニアに対する単なる憧れから始まりましたが、「ラジオを聞いて会社を変えようと思いました」とか、「本を読んでキャリアに光が差しました」といった感想をもらえるのがすごくうれしくて。誰かの人生を良くしている実感があるから、ここまで続けられているんだと思います。
「やりたくないこと」を減らすと、楽しさの純度が上がっていく
楽しく働けることを知らずに過ごしているのを、もったいないと思うからですね。
はい。さっき「SIerでの仕事はつまらなかった」と言いましたが、働いている時は、楽しく働けていないことに気付けなかったんです。「仕事をするってこんなものなんだろうな」と思い込んでいて。
ところが転職して初めて、「土日でも働きたいと思える仕事があるんだ」、「月曜日の朝会社に行くのがつらくないことなんてあるんだ」って気付いたんですよね。自分だけではなく、『しがないラジオ』のゲストにも、そういう転換点を経験した人はたくさんいました。
しかも、楽しく働けるようになったのは、その人自身がめちゃくちゃ努力したからというよりも、「自分のキャリアを見つめ直したから」という人が多かったんです。
そうです。もともとは、「楽しく働けるのは一部の優秀な人だけ。自分には関係ない」と思っていました。限られた貴族だけが優雅に暮らしていて、下々の者はつらい仕事をしなきゃいけない……みたいな(笑)。でも実際は、普通のエンジニアでも楽しく働ける。その上、年収が上がるケースもある。
これって、経験したことがないとなかなか信じられないと思うんです。でもそれがIT業界の真実なので、伝えていかないといけないと思っています。
その人の中にある「やりたいこと」を自由にできる状態が「楽しく働く」だと思っている人が多いと思うんですが、普通の人の中には、「やりたいこと」ってそんなにないじゃないですか(笑)
ただ、やりたくないことはいっぱいある。やる意味があるのか分からないと感じる仕事をちゃんと断ったり、その必要性を議論したりできる状態であることが大事なんです。
そう思います。上から押し付けられたり、みんながやってるからという理由でやらざるを得ない作業が多かったりすると、仕事はどんどんつまらなくなる。そういう「やる気を削ぐ要因」を減らしていけば、楽しさの純度は上がります。
ただ、やりたくない仕事を断ったり、その必要性を話し合える状態になるには、職場でそれなりに信頼されていなくてはならないので、自分なりの価値を発揮できる職場に身を置くことが大切です。これは、普通のエンジニアが楽しく働く上で一番大切なポイントだと思っています。
「技術力以外のスキル」に目を向けると、楽しく働ける環境が見つかる
そうですね。『しがないラジオ』のゲストの中にも、大企業からスタートアップに転職して飛躍した人や、異動先でマッチした人がいました。今の環境では目立っていなかったとしても、他の場所ではもともと持っていたスキルが貴重になるケースはたくさんあります。
エンジニア界隈には、「技術力が強い人が神で、そうでない人は凡人」という「技術力信仰」があると思いますが、全てのエンジニアが技術力だけで価値を出す必要はないんです。
例えば自分の場合は、「分かりやすく伝える」ことが得意なので、今の職場ではテクニカルサポート寄りの仕事をしています。社外の人に技術的なことを噛み砕いて説明したり、社内で非エンジニアとエンジニアをつなぐ場面で役立てていると感じます。
周りと比べてみたり、褒めてもらったことをきちんと受け止める姿勢が大事なのかなと思います。例えば、「プレゼンよかったよ」と上司に言われても、自分にとってはそれが当たり前だと、つい聞き流してしまいがちですよね。でも、そこに今まで気付けなかった価値が隠れているかもしれません。
こういう「分かりやすく伝える」のようなスキルよりも「Java3年」とかの方がどうしても目立ってしまうので、技術力以外のスキルってなかなか表現しにくいものだと思いますが、だからこそ見つける意義がある。
技術力にとらわれ過ぎずに、自分の価値を見直し、それがハマる職場を探す。そうすれば、どんなエンジニアでも「楽しく働く」を実現できると思います。
取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/河西ことみ(編集部)
RELATED関連記事
RANKING人気記事ランキング
NEW!
ITエンジニア転職2025予測!事業貢献しないならSESに行くべき?二者択一が迫られる一年に
NEW!
ドワンゴ川上量生は“人と競う”を避けてきた?「20代エンジニアは、自分が無双できる会社を選んだもん勝ち」
NEW!
ひろゆきが今20代なら「部下を悪者にする上司がいる会社は選ばない」
縦割り排除、役職者を半分に…激動の2年で「全く違う会社に生まれ変わった」日本初のエンジニア採用の裏にあった悲願
日本のエンジニアは甘すぎ? 「初学者への育成論」が米国からみると超不毛な理由
JOB BOARD編集部オススメ求人特集
タグ