ヤフー・メルカリ・DMM CTOが語る組織のカルチャー醸成「メルカリはボトムアップ、DMMはトップダウン」
“いいエンジニア組織”をつくるには、チームメンバーがベストなパフォーマンスを出せるカルチャーの醸成が不可欠。
国内でもトップクラスのエンジニアリングチームを抱える組織では、どのような取り組みを行っているのだろうか。
そこで今回は、2021年1月22日(金)Yahoo! JAPAN Tech Conference 2021で行われたセッション『クリエイターカルチャーの醸成』を取材。
ヤフー株式会社CTO・藤門千明さん、株式会社メルカリ CTO・名村 卓さん、合同会社DMM.com CTO松本勇気さんのセッションを紹介しよう。
メルカリ: カルチャーブックを作りメンバーとブラッシュアップ
藤門:まずは各社のクリエーターの規模や構成、どんなクリエーターカルチャーがあるか、お話しいただけますか?
名村:メルカリではエンジニアが数百名在籍しています。当社は海外からも多く人材採用をしてるため、エンジニア組織でも半分以上が外国籍です。
また、全社員向けに「Go Bold、All for One、Be a Pro」といったバリューを設けているのですが、このバリューだけでは個人がどう動けばいいのか、具体的な行動が分かりづらい。
そこでCTOとして、エンジニア組織の採用に関する考え方やお客さまに対する価値観など、「メルカリのエンジニアカルチャーとはこういうものです」とまとめたカルチャーブックというドキュメントを作成しました。
藤門:どういうきっかけで作ろうと思われたのですか?
名村:以前、ネットフリックスがカルチャーブックを作った際、シリコンバレーで大きな話題になり、当社も影響を受けました。その中でエンジニアについても、具体的な行動に落とし込んだ「エンジニアのプリンシプル(原理原則)」を定義していたのです。正直、メルカリの規模でプリンシプルを定義するのは大変でした。
藤門:どのようにしてメンバーと合意形成をしていったのでしょうか?
名村:まずは私がたたき台のGoogleドキュメントを作成し、エンジニアの全体会で発表しました。そして「意見のある人、興味のある人は、ドキュメントに書き込んでください」と呼び掛けたんです。
藤門:なるほど、書き込みは集まりましたか?
名村:はい。外国籍メンバーを中心にいろいろな意見が集まってきて。ドキュメントに意見をくれた人を集めてディスカッションの機会を設け、「この人はいい意見を言う」「面白い視点でものを見ているな」と感じた人たちにさらに声を掛け、コミュニティーをつくりました。
そこで一番思いが強そうなメンバーをリーダーに選出。コミュニティーの中でディスカッションを重ねて、プリンシプルを作成していきました。
藤門:よく「ボトムアップが大事」だと言われますけれど、実際に行うのは難しいですよね。それをやりきったと。
名村:はい。ただ成功の要因として、モチベーションの高いメンバーが集まったのが大きいと思います。さらにボトムアップといっても、たたき台が何もなければ出てきません。こちら側から良い球を投げて、さらに磨きをかけてもらえるように準備することが大事だと思います。
藤門:なるほど。
名村:メルカリは普段から「こういうのはどうかな?」と自分の意見を出す人が多いんです。その中で、メンバーの意見を尊重したり、心理的安全性を大事にしていたりする文化がもともと根付いていたのも影響していると思います。あと外国籍の方が多いので、そもそも自分の意見をしっかり持つという文化が強いのかもしれません。
DMM:バリューに基づく行動原則をトップダウンで展開
藤門:次にDMMの事例について、お話しいただけますか?
松本:DMMグループ全体では、エンジニアとデザイナー、さらにディレクタ—も合わせて約1,000名のクリエーターが在籍しています。
もともと弊社は、数年前までウォーターフォールで受注型の開発体制でした。しかしある時から「ワンチームで、開発して戦える会社にする」という方針に転換。私は新しい方針に変わってから1年ほど経過した時期にジョインしました。
藤門:2018年頃ですよね。そこで新しい体制のチームづくりを行ったと。
松本:はい。当時はまだまだ「ワンチーム」を強く推進するリーダーがいない状態。そこで私が150人ほどのメンバーにヒアリングを実施し課題を抽出、「DMM Tech Vision」という資料を作成し、社内に公開したんです。メルカリさんのボトムダウンとは対照的に、トップダウンで行いました。
藤門:「DMM Tech Vision」とはどういったものなのでしょうか?
松本:中身は主にバリューに基づいた行動原則です。例えば「エンジニア採用はこうあるべき」と提示し、「具体的にはこういう振る舞いがテックビジョンに紐づいている」と解説しています。これを2年半かけて社内に浸透させて、今はメンバーの口から自然に出るようになりました。
藤門:ビジョンを浸透させる上で、どんなことを大事にされたのでしょうか?
松本:透明性は最も大切にしていますね。ただ情報が公開されているだけでなく、しっかりとした情報流通の経路があって、それが“きちんとした浸透圧”で社内に浸透していくことが重要だと思っています。そしてその情報流通を小まめに、丁寧に行うことです。
藤門:「きちんとした浸透圧で」というのは、どういう意味なのでしょうか?
松本:「正しく情報を浸透させるための経路をつくる」ということです。人は自分が信頼している人からの情報を受け取ります。だからメンバーが信頼できる人から正確に情報が伝わっていくように、さまざまな経路で伝達方法を設計しなくてはいけないと思っていて。
例えば情報が伝わる方法って、組織図上のレポートラインもあれば、社内コミュニティーの経路もありますよね。その経路がちゃんと正しく機能されているかを丁寧に確認しています。
ヤフー:エンジニアが外に発信を行う組織へ、180度の方針転換
藤門:ヤフーの例もお伝えすると、弊社はエンジニアが約3,000名いるのですが、私がCTOになる前までは、外にあまり情報を出さない会社でした。
でも私は「自分の技術スキルがどのレベルにあるのか、自分の物差しでしか測れないエンジニアは伸びない」と感じていたので、「もっと外に出て、自分たちがやっていることを話そう」というカルチャー作りを行いました。この「人前で話す文化」をつくるのに、5年ぐらいかかったと思います。
松本:「外に発信できるようになろう」と決めたのはなぜですか?
藤門:もともと当社は米ヤフーの技術を使っていたため、あまり外に話せないという考え方だったんです。でもその後、日本ならではのビジネスの考え方や技術を使って、さまざまな企業の方と交流して、ヤフーのサービスを伸ばす方が重要だ、となりました。
藤門:初めの頃は「外に出るのが怖くて一歩を踏み出せない」状態でしたが、ファーストペンギンとなるメンバーの背中を押したら、どんどん他のメンバーも後に続いたという感じですね。
松本:社内のファーストペンギン的な人たちは、どうのようにして見つけたのでしょうか?
藤門:見つけたというよりも「元から結構いた」んですよ。もともと社内の開発大会などでも、エンジニアたちは楽しそうにプレゼンテーションを行っていました。そこで外のLTやミートアップなどに参加してもらったら、ものすごくよく話してくれたんです。
松本:外に向けて話すようになってから、具体的にどんなところが良くなったと感じましたか?
藤門:社内でエンジニアのLTを行っていたら、メンバーから「これは社内に閉じなくてもいいのでは?」という意見が出て、いつの間にか社外の人を呼び始め、イベントが行われるようになりました。
つまり自分たちが楽しいとか、「これは他の人にも共有したい」と思うものを発信して伝播させることで、チームに活気もでますし、いいサイクルがつくれているように思いますね。エンジニアたちは、自分が楽しいと思うことをやれる環境が大事なんだと分かりました。
名村:エンジニアやデザイナーなど、クリエーターが仕事を楽しんでると良いものが出てくるようになるんですよね。だから楽しい関係というか、仕事を楽しめるクリエーターカルチャーをつくりたいというのは、非常によく分かります。
藤門:その通りだと思います。では最後に、各社組織の課題と今後の展望について伺いたいです。
まずヤフーからお話しすると、当社は3月にLINE社と経営統合する予定です。全く違う文化の人たちと仕事をすることになるので、お互いの文化とどう向き合い、エンジニア同士で手を取り合ってものを作るのか。そこが今後大きな課題でもあり、楽しみなところでもありますね。
名村:メルカリは、エンジニア自身が意思決定したり、事業の根幹に関わっていったりするカルチャーに変えていきたい、と思っています。また当社の多様な考え方を持っている人たちをどう生かすのか。組織としてその仕組みを用意し、面白いアイデアがどんどん出てくる、という地盤を地道につくっていきたいです。
松本:50以上の事業を抱えるDMMが、一つ一つの事業で「クリエイターが輝き、事業も伸びていく」というかたちになるためには、「自分たちが考えて動き、それを会社が支援していく」ことが必要です。
DMMとしての課題は、それを可能にする土壌づくりだと思っています。だからこそ私が、今までのようにトップダウンで現場に意見を下ろしていくのではなく、まずはいろいろなマネージャーに分散していく体制にしたいと考えています。
取材・文/キャベトンコ
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