「災害発生3時間以内の検索データ」から考える、新しい防災アイデア~ヤフー主催アイデアソンレポート
9月1日は防災の日。2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、人々の防災意識は高まりつつある。しかし、被災地外に住む人たちが知り得るのは、実際に災害を経験した方々の一部の声に過ぎない。
より多くの、よりリアルな被災者の声を探り、今後の災害に備えるために、ヤフーは2016年4月14日に発生した熊本地震の際に『Yahoo!検索』で検索されたキーワードデータを分析し、「検索データから見る熊本地震」として発表した。
熊本地震の発生から3時間後までに『Yahoo!検索』で検索されたキーワードのデータを分析すると、「英語」や「デマ」など、さまざまな特徴のあるキーワードが検索されていることが分かる。
これらの検索キーワードを、災害時の情報発信における新たな解決すべき課題として認識し、16年8月27日、大学生や社会人を招いて「検索データから見えた教訓をもとに次の地震の備えとなるもの・こと・取り組みなどを考える」アイデアソンが開催された。
熊本地震の最中にいた人々は、検索エンジンに何を求めていたのか。そしてそのデータを活用して、今後私たちは何を考えて実行していくことができるのだろう。当アイデアソンを通して、その答えとなるアイデアのヒントが見えてきた。
ツイートからでは把握できない被災者ニーズを浮き彫りにする
アイデアソン前に行われたのは、Yahoo!ニュース担当の高橋洸佑氏、池宮伸次氏と、当プロジェクトに協力した朝日新聞社 奥山晶二郎氏による「検索データの分析や取材を通じて見えた熊本地震」をテーマにしたセッション。現地で検索されたキーワードのデータから、被災者のどんなニーズが読み取れたのだろうか。
池宮 リアルタイムで現地の人の情報が把握できる手法として、近年ではTwitterが活躍しています。ですが、主体的に外部に発信するTwitterと、検索で何かを求めて入力されたキーワードでは大きな違いがあります。
例えば、「ライオンが動物園から逃げた」という噂があった際に、Twitterには「ライオン こわい」など感情を表現した言葉がトレンド入りしました。しかし検索エンジンには「ライオンが逃げたのは本当か」、「どこに逃げたのか」など、今知りたい情報を入力する傾向があります。
奥山 被災地から当事者が発信する時代になっているので、Twitterなどで現地情報は手に入れられます。しかし池宮さんが言ったように、ツイートはその人個人の感情に寄ってしまう傾向がある。検索だと、被災者がその時に知りたいことがそのままキーワードとして出るわけで。
地震発生直後に、人が何をやりたかったのか、何をしようとしていたか、というリアルな行動分析ができますね。
また、その時に、行政や自治体が何をしようとしていたかを見て比較してみると、人々のニーズとのギャップがはっきりと分かるようになります。それが今後、行政やボランティアが被災者にどんな支援をすべきなのか、という活動改善にも役立ってくるのではないのでしょうか。
熊本地震発生後、3時間以内の検索データの特徴
池宮 東日本大震災の際は、停電の影響で災害発生直後5時間以内のデータが取れませんでした。その経験を活かして、熊本地震では地震発生時3時間以内のデータを取得しています。そして、地震に関するキーワードをデータ量が多いものから取得し、クラスタ分析と言われる手法を使って、共起ネットワーク図を作成しました。
共起ネットワーク図とは、似ているキーワードをぎゅっと集めて、代表的なものをピックアップして可視化したもの(「共起ネットワーク図」の実物はコチラ)。図表を見てみると、安全に関する検索キーワードが最も多く、被災者が不安なこと、知りたいことがそのままキーワードとして表れていると感じますね。
その中でも、特徴的だったものが3つありましたので、紹介します。
【1】被災者は最初に「避難所」を検索する
東日本大震災の際は、発生直後のデータが取れていなかったこともあり、被災者が最初に検索するのは、水やガスなどのライフライン関係なのだと思われていました。
しかし実は、熊本地震発生直後3時間のデータを見ると、最初の時点では「避難所」を検索しているユーザーが多かった。ライフラインよりも、自分の安全確保の方が欲求としては強いことが分かりました。今回は夜21時に地震が発生していたこともあり、時間帯も関係しているのかもしれません。
【2】SNS発信用のワードを検索する
「英語 怖い」というキーワードが調べられていたのも特徴的です。おそらく、SNSなどで、世界に向けて自分の状況を発信するという機会が増えていることから、このワードを検索しているのではと考えています。英語で、怖いという言葉を表現したいというニーズがあったのでしょう。SNSの活用で自ら発信していくことは、現代だからこそ必要になっている新しい防災の知識になりますね。
【3】「デマ」など情報の真偽を検索する
東日本大震災時、ウソの危険情報などの「デマ」は、基本的にメールで出回っていました。そしてそのデマは、チェーンメールなどで、長期的・広域にわたって伝染し続けていました。
今回の場合は、ライオンが逃げた、イオンが火事になった、などという嘘の情報がTwitterで拡散されています。そして、ツイートの真偽を確認するために、検索エンジンで改めて調べたという流れが考えられます。震災時の情報量が多すぎて、自ら精査していかなければならないという状況が発生していますね。
一般参加者が発想する地震の備え、キーワードは「スマホ」にあり
以上の発表を受けて、会場に集まった参加者によるアイデアソンが行われた。ここでは、特に評価の高かった一部のアイデアを紹介する。
実際に被災者が3時間以内に必要としていた「避難所」が、開設されたどうかを即座に情報提供するシステム。情報はスマホだけではなく、近くの避難所が開設されたことをラジオや無線で提供できるようにすることで、東日本大震災のように停電したり、スマホに頼ることのできない人たちへの情報不足という懸念も払拭することができる。
また、震災から時間が経っても、空き具合や物資が足りているかどうかなどの情報を発信できるようにする。
被災者がそれぞれに同じようなキーワードを検索しているが、知りたい情報がまとまっていないことに着眼。Web上の地図を見ることで周辺の情報が一目で分かるようにするサービスを提案した。
地図上に、「私は今生きています」という安否チェックイン情報を加えたり、「今、このドラッグストアには紙おむつが3袋残っています」などのリアルタイム情報を誰でも記入・編集できるサービスを組み込む。
平常時はヤフー天気として活用。災害発生直後に、自動的に防災情報メッセージをプッシュし、かつ省エネモードに切り替えるアプリ。プッシュメッセージには、「周りの人に声をかけましょう」、「避難所にいってください」など、シンプルかつ、このアプリを持っていない人にも情報が伝わるような呼び掛けを記載する。
災害3時間後に必要な情報、1日目・2日目に必要な情報など、過去のデータをもとに適切なタイミングで情報を提供する。
以上のように、アイデアソンでは多くのグループが、「スマホをどう使うか」ということに着眼点を置いていた。以前までは、震災時の情報発信というと行政が行うことも多かったが、今後は確実に情報の受発信の方法・タイミングなどに変化が生まれてくるのだろう。
また、スマホを主軸に置いていた一方で、各チームとも「スマホを使わない人たち」のことも考えられていたことも興味深い。若いスマホ世代や、電波が届きやすい地域の人たちだけではなく、誰もが平等に、適切な情報を手に入れられることが、本当の意味で防災と言えるのだろう。
そんな理想的な防災ツールが、今回のヤフーキーワード分析から生まれてくる日も、そう遠くはないのではないだろうか。
取材・文・撮影/大室倫子
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