Qrio株式会社【(株)WiLとソニー(株)の合弁企業】の中途採用情報
スマートロックアプリ(iOS, Android)の...
Qrio西條晋一氏が見たIoTの本質~「Webな人」がソニーと作るグローバルメガベンチャー構想
「ソニーがいよいよIoT(モノのインターネット)に本腰を入れる」
昨年12月の発表後すぐに話題を呼んだ、スマホで家の鍵を開け閉めできるスマートロック製品『Qrio Smart Lock』の開発情報。
人々の生活を変え得る新たなテクノロジートレンドとして注目を集めるIoT分野に、日本屈指のエレクトロニクスメーカーであるソニーが乗り出すというニュースは、期待と驚きを持って迎えられた。
「驚き」と書いたのは、この製品の開発・製造・販売を行うのはソニー本体ではなく、ベンチャーキャピタルのWiL(ウィル)とともに立ち上げた新会社Qrio(キュリオ)であると報じられたからだ。
新会社への出資比率はWiL Fund I,LPが60%、ソニーが40%となっており、販売後のサービス運営も含めた製品戦略はQrioが主導して実行する。一方のソニーは、無線セキュリティの暗号化技術など独自技術の提供と、開発サポートを行うという。
Qrioの代表取締役に就任したWiLの西條晋一氏は、「Qrioはこの座組みでやる必然性があった」と語る。長年サイバーエージェントの事業拡大を支えてきた人物として知られ、2012年の退職後もWeb系スタートアップを中心に投資を行ってきた同氏は、なぜ畑違いのIoT分野に挑戦することにしたのか?
その理由を聞くと、バズワードとして語られがちなIoTの本質と、日本発のグローバルベンチャー誕生のヒントが見えてきた。
Googleに勝つには、ソニーとのコラボが最良の選択肢だった
>> Makuakeに載っている『Qrio Smart Lock』のプロジェクト紹介ページ
とてもありがたい話です。期待に応えられるよう、しっかりと量産、販売まで歩を進めたいと思っています。
USのクラウドファンディングサイトだと、スマートロック関連のプロダクトは1億~2億円単位で資金調達に成功しています。ただ、その多くが量産フェーズでつまずき、支援者の手に届いた最終製品の評判もあまり芳しくないと聞きます。
今回、Qrioがソニーとの合弁会社としてスタートしたのは、まさにこの点を解消するのが狙いでした。
Qrioでは製品企画や販売、マーケティングを行い、プロダクトデザインと開発はソニーのエンジニアチームと共同で行っています。この座組みは、プロダクトの量産フェーズに入った時にものすごく強みになる。ソニーのみならず、日本メーカーの持っている量産のノウハウ、品質管理のノウハウは、世界トップレベルですから。
逆に、日本の大手メーカーはモノづくりは得意だけれど、インターネット企業に比べてサービス企画やその後の運営があまり上手じゃない。実際、クラウドファンディングを使ってユーザーの期待値を探りながら製品づくりを進めていくような取り組みは皆無です。
そこで、僕が長年携わってきたインターネットビジネスのエッセンスと、メーカーの持つ強みを融合させるために、合弁会社の形を採ったわけです。
きっかけはWiLからの提案でした。
ベンチャーキャピタルであるWiLは、ミドル~レイタースレージのベンチャーを支援して世界的なメガベンチャーを生み出すというミッションに加え、大企業とタッグを組んでオープンイノベーションを促進することも目的としています。
その一環でソニーとも交流を重ねていく中で、スマートホーム分野での合弁会社設立というアイデアが生まれました。
先ほど話した欧米のクラウドファンディング事例しかり、GoogleがNestを買収してこの分野に乗り出したことしかり、スマートホームのプレーヤーは2013年あたりから急激に増え始めています。それにアメリカのAmazon.comには、すでにスマートホーム関連製品のカテゴリがあるんですよ。
もし、ソニーがスマートホーム分野に興味を持っているなら、市場が形成され始めたこのタイミングで仕掛けるべきだと去年の夏前くらいに話を持ち掛けました。
スマートホーム製品は「ネットとつながる」ことが価値を生む源泉となるので、特にGoogleの動きが怖いんです。空調管理でもスマートロックでも、どこか一点でGoogleがデファクトを握るような製品を出してきたら、そこから派生して家中のスマートホーム関連サービスを総取りしかねない。
だから、「グローバルで勝負するなら今始めるべきだし、僕らとソニーがコラボレーションすればGoogleにも負けないサービスが生み出せるかもしれない」と。
それともう一つ、ソニーが現在行っているR&Dラインアップの中に、スマートホーム関連のものがなかったのもQrioを作った理由です。この分野なら、ソニーの既存事業とバッティングせず、しがらみのない状態でコラボレーションできますからね。
スマートロックは次なる破壊的イノベーションの入り口
参入する際の敷居が低そうかなと(笑)。まぁ、これは半分冗談で、個人的に興味を持っていたシェアリング・エコノミーと、スマートロック製品は相性が良いと考えました。
例えばAirbnbを使って家の部屋を貸し借りする際、鍵の受け渡しが必ず発生しますよね? でも、家に『Qrio Smart Lock』が設置してあれば、物理的な鍵を受け渡しする必要がなくなるので手間をなくすことができます。
また、不動産物件の内覧時などは、内覧希望者のスマホに“デジタルな鍵”を送りさえすればすぐに開錠できますし、その後は2度と使えなくする仕組みだってすぐに作れます。
こうして、スマートロックは個人利用以外のニーズも見込めるので、事業計画の見通しが立てやすいだろうと。スマートロック単体での市場規模はそれほど大きくならないかもしれませんが、スマートロックを入り口に、第二弾、第三弾のスマートホーム製品を企画・開発していければ、事業を大きくしていけると考えています。
そうですね。ただこの点でも、ソニーとタッグを組んでいることが解決策になると考えています。
第一弾製品の『Qrio Smart Lock』も、ソニーが持っていた独自認証技術などを駆使し、「秘密鍵」と「公開鍵」を分けて暗号をやり取りしながらセキュアに鍵の受け渡しができる仕組みを実現しています。
ソニーのエンジニアチームの課題解決力は本当にすごいですよ。Qrioの立ち上げ準備で一緒に仕事をするようになってから、彼らの技術力には驚かされっぱなしです。
機構設計一つを取っても、世界最小を実現するためにモータを含む各部品をどう開発するかや、ハードウエア開発では避けて通れない熱の逃がし方など、素晴らしい知見とアイデアを持っている。
そして、何よりモノづくりに賭ける熱意がある。
昨年12月の『Qrio Smart Lock』公開直前はみんなで連日深夜まで詰め作業をしていましたが、正直、僕がこれまで見てきたスタートアップのエンジニアたちと比べても負けないくらいの熱量で仕事に取り組んでくれました。
そもそも、Qrio発足の話が水面下で動き出したのが去年の夏前くらい。そこから半年強で『Qrio Smart Lock』を形にし、量産可能なクオリティーまで持っていくのは、ゼロから立ち上げたスタートアップの開発チームでは絶対に無理だったと思います。
彼らが持っている技術力に、Webサービスの考え方を組み合わせることで、スマートホーム分野で世界に勝てるサービスづくりが可能になるはずです。
IoTの成否を分けるのは、サービス業の考え方
「IoT」という言葉が、消費者向けじゃないですしね。一般の方々からしたら、何が変わり、何ができるのか分からないじゃないですか。
僕個人も、実はあまりIoTに興味がないんですよ。今回、Qrioを立ち上げることもあっていろんな関連書籍を読み漁りましたが、概念的な話が多くてどれも面白くなかった(笑)。
IoTもスマートホームも、普及のカギとなるのはユーザー視点でどう「サービス化」できるかだと思うんです。
ネットでリアルタイムにデータを取得しながら、いろんなハードウエアを制御することで、結局何が便利になるのか。この視点でIoTをとらえれば、ただモノを作り、システムを作るだけでなく、例えば月額定額のユーザーサポートを続けながら付加価値を高めていくような体制を整える必要も出てくるでしょう。
この「サービス化」という点においては、長年日本経済を支えてきたメーカーより、2000年以降に勃興したインターネット業界の方が長けています。
だから、僕のようにずっとインターネットビジネスに携わってきた人間が、日本メーカーの優れた技術力を借りながらIoTを手掛けたら、面白いオープンイノベーションが生まれるんじゃないかと考えました。
IoTに興味があったというよりも、次の一大産業を作ることに興味があったんです。
そうですね。Makersムーブメントとかを見ていても、アレはあれでとても良い流れだと思いつつ、ビジネスとしてスケールさせるにはサービスづくりのやり方を持ち込むことが必要だなぁと思っていました。
今後Qrioでは、個人ユーザーや法人顧客、量販店への販路拡大を担ってくれるセールス担当者やマーケティング担当者、モックの作れるエンジニアを採用していく予定ですが、採用候補者に求めるのは「インターネット的なやり方」にも柔軟に対応できるかどうかです。
製品パッケージをどうするかというテーマ一つを取っても、これまでのメーカー的なやり方なら、「エコで簡素な箱で梱包する」のが良しとされていました。でも、SNSを利用したバズマーケティングを前提に考えるなら、製品を入れる箱もワクワク感を醸成するようなデザインにしなければなりません。
また、製品の作り方も、例えばクラウドファンディングサイトに寄せられた支援者からの要望を拾い上げ、製品開発に有益なものはどんどん開発側にフィードバックしていくようなやり方が求められます。
これはWebサービスやアプリ開発では当たり前のことですが、材料の調達や生産ラインの調整に時間とコストが掛かる製造業では、ユーザーの声を聞きながらアウトプットを調整していくやり方は難しく、まだまだ浸透していません。
こういった違いを理解しながら、それでも可能な限りユーザーオリエンテッドなモノづくりをしていくのが、サービスとしてのIoTビジネスに求められることだと思っています。
『Qrio Smart Lock』でも、クラウドファンディングサイトで仕様を公開してから「こんなドアにも設置できるようにしてほしい」という声を多数いただいたので、サムターン(ドアの室内側に付いている、錠の開け閉めを行う部分の金具のこと)の大きさに合わせて設置点を拡張できるアタッチメントを追加開発しています。
こういうサービス志向のモノづくりが、IoTビジネスの成否を分けるはずです。
Qrioという社名に隠された、「メイドインジャパン」再定義への思い
ご想像の通り、今回、合弁会社の名前をQrioにしたのは、ロボットの『QRIO』があったからです。
『AIBO』なんかもそうですが、ソニーが今から10年以上も前にロボット事業を展開していたのは、少年時代にPCに触れて以来「大人になったらすごいテクノロジーにかかわる仕事がしたい」と思っていた僕にとって、とても未来的で、好奇心を掻き立てるものでした。
ソニーは2006年にQRIOとAIBOの新規開発を中止しているので、今回の会社発足にあたって「あのプロダクトが持っていた先鋭的なイメージを新会社のブランディングに使いたい」と話し、許諾をいただいたんです。
日本から再び世界を驚かせる最先端プロダクトを生み出していく会社の名前として、悪くないネーミングだと思いませんか?
取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/竹井俊晴
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