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IT業界の中でも多くのエンジニアが所属するSIer。IT業界に身を置く人であれば、一度はSIerでのエンジニアのキャリアを考えたことがあるのではないでしょうか? 一方でSI業界に対して「ブラック企業が多いのでは……」というイメージを持っている人もいるかもしれませんね。
そこで今回はSI業界の特性やSIerエンジニアのメリット・デメリット、さらにSIerへの転職を目指す人向けのコツなどを幅広く紹介します。SIerに興味がある人はぜひ参考にしてみてください。
目次
SIerとはシステムインテグレーター(System Integrator)の略で、システムの定義から設計、開発~運用・保守まですべての工程を手掛ける会社のことを指します。
新しいシステム開発をする際や既に運用しているシステムの改修などをする際、自社のエンジニアだけでは対応するのは難しいのが現状です。そもそも、自社にエンジニアを有していない企業もあるでしょう。そこで登場するのがシステム開発のすべてを担うことができるSIerの存在。SIerのおかげで、自社でシステム開発ができない企業もプロの力を借りながら自社に合ったシステムを導入することができるのです。
SIerの仕事内容を大きく分けると、以下の五つに分けられます。
・ユーザー企業(クライアント)へのヒアリング
・システムの要件定義
・設計
・開発
・運用サポート
この五つのうちどの工程を担当するかは、SIerの立ち位置やエンジニアのスキルによってさまざまです。
そのため、SIerエンジニアの働き方は上記のうちどの工程を担当するかによって大きく異なります。例えば開発工程を担当するエンジニアであれば、セキュリティーの面から基本的にユーザー企業に常駐して働くことが多いのが特徴です。一方でユーザー企業のヒアリングや要件定義などを担当するエンジニアの場合、ユーザー企業に常駐することはあまりありません。
同様に年収も企業やエンジニアのスキルによって大きく変わります。大手SIerであれば平均年収が1000万円以上の企業も。上流工程を担当するエンジニアは年収も高くなるのが一般的です。
IT業界に就職する際に、SIerと比較されることが多いのがSES(System Engineering Service)です。SESは委託契約の一種で、システムの開発・運用・保守などの特定の工程に対して技術者を派遣するサービスのことを指します。SIerはシステムそのものを提供するのに対し、SESは技術者(=労働力)を提供するのが特徴です。
SESエンジニアはSIerエンジニア以上に企業規模やプロジェクトによって労働環境が変わりやすく、部分的な仕事が多いためやりがいを感じづらいというデメリットがありますが、未経験者でも採用されやすかったり、専門性や幅広いスキルが身に付きやすいというメリットもあります。
自社開発企業はその名の通り自社のサービスを自社で開発している企業を指します。自社開発企業は即戦力のエンジニアを求めていることが多く、未経験者にとってはハードルが高いことも。また関わるプロダクトが固定されるため、幅広いスキルを身に付けたい人には向いていません。逆にそのプロダクトが好きな人やユーザーの反応を感じながら仕事がしたい人には良い環境といえるでしょう。
一口にSIerといっても、成り立ちによっていくつかに分類されます。ここでは、代表的な「メーカー系」「ユーザー系」「独立系」の三つに分けて説明します。
メーカー系SIerとは、もともとハードウエアを製造していたメーカーのシステム部門が分離・独立したSIerです。ハードウエアはもちろんくソフトウエア開発も手掛け、経営基盤がしっかりしているため、大手企業が多いのが特徴です。
主な企業:NEC、富士通、日立製作所 など
ユーザー系SIerとは、商社や金融、製造系大企業のシステム部門が分離、独立したSIerです。主に親会社で使用するシステムの開発や運用を手掛けることが多いため、ユーザーに近い立場で課題解決ができるのが特徴です。また業界のノウハウを活かして親会社以外のシステム開発を手掛けることもあります。
主な企業:野村総合研究所、NTTデータ、みずほ情報総研 など
独立系SIerとは、親会社やグループを持たず、SI事業を目的として設立されたSIerです。母体となる企業がないため認知度は高くありませんが、特定の製品に縛られない自由度の高い提案が可能で、クライアントの業種も幅広いのが特徴です。
主な企業:大塚商会、富士ソフト、オービック など
SI業界がブラックといわれてしまう理由は、「多重下請け構造」にあります。多重下請け構造とは、クライアントから直接依頼を受ける元請SIerの下に、2次請け、3次請け……と複数の下請け企業が存在している状態のこと。
下請けSIerになるほど会社が得られる利益が小さいため、エンジニアに還元される給料や待遇なども悪くなるのが一般的です。さらに、下請けSIerになるほどスケジュールのコントロールが難しいため、残業が多くなるなど労働環境も悪くなりがちです。
目指すSIerが元請けなのか、下請けなのかを見極めることがブラック企業を回避するコツといえます。
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先ほども述べた通り、SI業界は企業規模や種類によって働き方や待遇などが大きく変わります。ここでは元請けSIerのエンジニアにとっての代表的なメリット・デメリットを解説していきます。SIerへの転職を考えている人はぜひ参考にしてみてくださいね。
元請けSIerの場合、主に中~大規模なシステム開発を手掛けるのが特徴です。特に官公庁や金融、医療機関などのシステム開発は大規模プロジェクトであることが多く、その分大規模プロジェクトの開発プロセスを学ぶチャンスも多くあります。社会インフラを支えるような貢献性の高いプロジェクトにアサインされる機会も多く、やりがいも感じられるでしょう。
SIerエンジニアは基本的にプロジェクト単位で配属されるため、システムを無事納品すれば別のプロジェクトに配属されます。業務を通じてさまざまな技術に触れる機会があるのは、自社開発会社のエンジニアにはないメリットといえるでしょう。またユーザー系SIerのように特定の業界に強みを持つSIerの場合、専門的な業務知識を習得できるメリットもあります。
前述した通り、メーカー系SIerやユーザー系SIerは親会社が大手企業であることが多いため経営が安定しているのが特徴です。さらにメーカー・ユーザー系SIerでは、親会社やグループ会社がクライアントとなるため、安定的にプロジェクトを受注できるのもメリットの一つ。逆に独立系SIerは親会社などの後ろ盾がないため、安定的にプロジェクトを受注するには営業努力が必要といえます。
上流工程を担当するSIerは給料や福利厚生などの待遇が良いのが特徴です。特にメーカー系SIerやユーザー系SIerは大手企業が母体についていることが多く、その分給料や福利厚生などの待遇も良い傾向があります。独立系SIerであっても、大手企業であれば平均年収1000万円以上になることも珍しくありません。
前述した通り、SIerはシステム開発を一括して担うため、ユーザー企業へのヒアリングや要件定義などの折衝業務も多く発生します。こうした業務を通じてコミュニケーションスキルや資料作成などのビジネススキルなどが身に付くことは間違いありません。そのほかトラブル時の対応やプロジェクト管理といったマネジメントスキルを磨くチャンスも多くあります。
SIerの中には要件定義や設計などの上流工程のみを自社で対応し、開発などの下流工程は協力会社に外注する企業も多くあります。そのため、プログラミングなどの実装スキルを身に付けることが難しいのはSIerエンジニアのデメリットの一つ。「技術者として高いスキルを身に付けたい」という人は物足りないと感じるかもしれません。
先ほど「SIerは規模の大きいプロジェクトに携わることができる」 と述べましたが、実は規模の大きいシステムほど古い技術を使ってシステム開発をする傾向にあります。その理由は、新しい技術よりも既に研究されつくした古い技術を使ったほうがシステム障害などのリスクを最小限に抑えられるから。そのため、SIerでは最新技術を学ぶチャンスが圧倒的に少ないのです。
先ほど「上流工程を担当するSIerは給料や福利厚生などの待遇が良いのが特徴」と述べましたが、逆に下流工程を担う下請けSIerのエンジニアは給料が低かったりなかなか給料が上がらなかったりすることも珍しくありません。下請けSIerはそもそも会社が得られる利益が小さいからです。SIeエンジニアを目指す際は、スキルや経験に応じて昇給がある会社かどうかをしっかり確認しましょう。
結論からいうと、SIerエンジニアに向いているのは「技術志向ではない人」です。特に下流工程は協力会社に外注し、自社では上流工程しか手掛けていないようなSIerの場合、業務を通じてITスキルを磨くのは至難の技。SIerは「とにかくコードを書きたい」「最新の技術に触れたい」といった技術志向の人には物足りない環境です。
SIerはさまざまなプロジェクトを通して多くの人と関わったり、プロジェクトを管理する機会が多くあるため、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルなど「ビジネススキルを身に付けたい人」には向いているといえます。
また、SIerは年功序列の傾向が強いため、「実力主義で働きたい人」にも向いていない可能性があります。
「SIerに興味があるけど、ITスキルがない」という人も安心してください。もちろんITスキルがあるに越したことはありませんが、IT未経験の人であってもSIerに就職するチャンスは充分にあります。
SIerは大手企業であればあるほどユーザー企業との折衝やプロジェクトの管理がメイン業務となります。そのため、実は営業スキルやマネジメントスキルが重宝される場面が多くあるのです。IT未経験であっても、営業経験やマネジメント経験を持っている場合はどんどんアピールしましょう。
また、SIerはさまざまな業界のシステム開発に携わります。SIerによっては一つの業界に特化してシステム開発を手掛けている企業もあります。そのため、現職で得た業界知識も貴重な財産となります。現職に関連する資格などを取得している場合、積極的にアピールするといいですよ。
SIerエンジニアとして就職した場合、まずは新人エンジニアとして経験を積み、プロジェクトリーダー(PL)となるのが一般的なキャリアパスです。プロジェクトリーダーとしてユーザー企業との折衝などの経験を積んだ後は、プロジェクトマネジャー(PM)にキャリアアップします。
先ほども述べた通り、SIerエンジニアはどちらかというとマネジメント志向の人が向いているため、「エンジニアとしての市場価値を高めたい」「マネジメント以外の仕事もしたい」という人はキャリアチェンジする人がほとんどです。SIerエンジニアのキャリアパスとして代表的なものを紹介します。
SIerでプロジェクトマネージャーになるとその後のキャリアは頭打ちとなることがほとんどです。給料や福利厚生が良くなることはあまりないため、今よりも良い待遇で働きたい場合は現職より規模の大きいSIerに転職するのがいいでしょう。SIerの規模が大きくなるほどプロジェクトの規模も大きくなる傾向があるため、「より大きな仕事がしたい」という人にもおすすめのキャリアですよ。
先ほども述べた通り、SIerエンジニアがシニアエンジニアとして技術を磨くキャリアパスはほとんどありません。もし今後もエンジニアとしてスキルアップしたいなら、Web系企業のSEにキャリアチェンジするのがおすすめです。Web業界は技術の進歩が速いため新しい技術に触れられるチャンスが多く、開発手法もSIerと異なることも多いのが特徴です。自社のサービスを手掛けられるため、自分の仕事の成果を実感しやすい点もポイントですよ。
SIerエンジニアとしてユーザー企業と関わる中でクライアントの課題を解決することに面白みを感じたなら、ITコンサルタントへのキャリアもあります。ITコンサルタントは難易度が高いと思われがちですが、実はSIerエンジニアの仕事内容と似ている部分が多く、SIerエンジニアからコンサルティングファームに転職した人も珍しくありません。
SIerのプロジェクトは短ければ数カ月、長くても数年で終了するのが一般的です。プロジェクトによってチームメンバーや労働時間、勤務場所などが変わることが多いため、「もう少し落ち着いた環境で仕事がしたい」と感じる人もいるかもしれませんね。自社内勤務が基本となる社内SEは、IT業界の中でも比較的ワークライフバランスがとりやすい職種といわれており、腰を据えて長く働きたいという人におすすめの職種です。
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SIerに転職する際、失敗しないコツはズバリ「企業を理解すること」です。「SI業界はなぜブラックといわれるの?」でも述べた通り、SI業界は多重下請け構造となっているため、企業選びに失敗すると本来目指していたキャリアをつかめなかったり、待遇がいつまでも良くならず疲弊したりすることもあります。
企業を理解するために必要なことを三つ紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
「SIerの種類とは?」で述べた通り、一口にSIerといっても企業によって特色が大きく異なります。待遇重視なのか、業界に特化した知識・スキルを身に付けたいのか、逆に幅広い業界・業種の仕事がしたいのか……など、企業ごとの違いを理解し、自分の志向性にマッチしたSIerを選ぶのが大切です。
前述した通り、その企業が元請けSIerか下請けSIerかによって待遇や仕事内容は大きく変わります。SIer転職を考えている場合は、企業が元請けメインのSIerなのか下請けメインのSIerなのかをしっかり確認しましょう。
元請けSIerか下請けSIerかを判断するポイントの一つは主要取引先です。主要取引先に並んでいるのがIT会社ばかりであれば、下請けの案件が多く、非IT企業が多ければ元請け案件がメインのSIerといっていいでしょう。そのほか、「社員数は多いのに本社オフィスが小さい」というのも下請けSIerの特徴ですのでぜひ確認してみてくださいね。
また「下流工程=悪」というイメージがあるかもしれませんが、上流工程のみを手掛けているSIerではエンジニアとしてのキャリアを考えるとあまりおすすすめできません。上流~下流まですべての工程を手掛けているSIerの方が幅広くスキルを身に付けることができますよ。
SIer転職を有利に進めたいなら、そのSIerが得意としている業界・業種を理解しておくことはとても大切です。もしその業界・業種と現職が同じ場合、現職で得た業務知識が大きなアドバンテージになるからです。
例えば、金融や保険会社に勤めていた人やファイナンシャルプランナーの資格を持っている人は、金融・保険業界の案件が多いSIerへの転職がかなり有利になります。履歴書や面接などでしっかりアピールしましょう。
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今回は、SI業界の特性やSIerエンジニアの仕事内容などについてさまざまな角度からお伝えしました。
一口にSIerといっても、SIerの種類や業界内での立ち位置によって特性が大きく異なることがお分かりいただけたと思います。どの業界にも言えることですが、企業選びは企業と自分のマッチングがいかにうまくできるかが大きなポイントです。
ぜひ自分の志向性やスキルなどとマッチしたSIerを見つけ、理想のキャリアを手に入れてくださいね。
文・赤池沙希
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