次から次へと新たな企業が生まれるスタートアップ。業種・業態によっては大きな事業成長を実現するケースも増え、キャリアの選択肢として検討しているエンジニアも多いのではないだろうか。
そこで今回は、4月13日(火)~17日(土)にわたってエンジニアtypeが開催したオンラインカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク』(ECDW )より、「転職者必見『伸びるスタートアップ』の特徴」の一部を紹介する。
ゲストは、Yazawa VenturesのFounder and CEO 矢澤 麻里子さんとGO FUNDのGP・代表パートナー 小池 藍さん。日本において、ベンチャーキャピタルの代表を務める女性はわずか3人。そのうちの2人が矢澤さんと小池さんだ。
高い成長が予測されるスタートアップに対し、「資金の投資」を通じて支援するベンチャーキャピタルを経営する2人が考える、伸びるスタートアップの特徴とは? スタートアップで働くことは、エンジニアのキャリアにとってどのようなメリットがあるのだろうか。
Yazawa Ventures Founder and CEO 矢澤 麻里子さん
ニューヨーク州立大学を卒業後、BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・及び個人与信管理モデルの構築などに携わる。その後、サムライインキュベートにて、スタートアップ70社以上の出資、バリューアップ・イグジットを経験した後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げ及びCOOに就任し、150社以上のグローバルレベルのスタートアップを採択・支援。出産を経て、2020年Yazawa Venturesとして独立
GO FUND GP・代表パートナー 小池 藍さん
大学時代にスタートアップを経験後、2010年博報堂入社。その後、12年から15年までプライベートエクイティファンドのアドバンテッジパートナーズにてバイアウト(LBO)投資と投資先の経営及び新規事業運営に、16年よりあすかホールディングスにて東南アジア・インドのスタートアップ投資に従事し、独立。企業への経営や新規事業アドヴァイスなども行う。また、現代アートの知見を深めることとコレクション、普及に努める。20年より日本にてGO FUNDをスタート
創業期のスタートアップは「事業内容」で判断しない
――スタートアップへの投資経験が豊富なお二人ですが、どのように成長企業を見極めていらっしゃるんですか?
矢澤: 着目すべきポイントは、各企業のステージによって変わってきます 。特にプレシードやシードと呼ばれる設立初期のステージの場合、まだ事業ができあがっていなかったり、コアとなる強みを持っていないことが大半。つまり、投資するにあたっての判断材料がほとんどありません。
一方で、レイターというある程度企業としての形ができてくるステージになると、これまでの売り上げや利益などで判断できるようになってきますね。
Yazawa Venturesはシードに特化しているので、起業家本人のタイプやチームバランスに着目しています。人を巻き込む力があるか、素直さや柔軟性に優れながらも、起業家として曲げられない軸を持っているか。そして、自身に足りないものを理解し、それを補うような組織構成にしているかなどを見るようにしています。
なによりシードの段階ですと、事業内容についてはまだまだ方向転換の可能性が大いにありますから。
小池: GO FUNDもシードやアーリーステージのスタートアップへの投資が中心です。私の場合は、彼らのサービスの国内外における競合が、海外からどのような評価を受けているかをリサーチします。
ただ、独自のサービスであるがゆえに、世界のどこにも前例がないケースもあります。競合が多すぎるのも大変ですが、1社もないというのも判断に迷いますね。
起業家やチームを見るときには、彼らのビジネスセンスを見ています 。矢澤さんもおっしゃったように、スタートアップに方向転換はつきもの。アーリーステージへの投資の場合には「変わって当然」くらいの覚悟が必要です。
なのでいくら方向転換をしてもいいのですが、繰り出す打ち手にビジネスセンスがあるか、納得感が持てるかどうかは注目しています。
矢澤: センスとは、その起業家の人生や取り組んできた仕事によって磨かれていくもの 。なかなか言語化するのは難しいというか。
小池: でも、起業家と話してみると、意外と5分くらいで分かったりもしませんか?
矢澤: 直感で「この人、イケるな」って判断できること、ありますね。一方で、最初にお目にかかった時は「大丈夫かな……」と不安に感じた方でも、5年後にすさまじく成長していることもあって。事業立ち上げにおける困難な局面を乗り越えていく上で、磨かれていくのだろうと思います。
仕事はハード。でも、企業と自身の成長をダイレクトに実感できる
――エンジニア視点に立ってみると、成長中のスタートアップでエンジニアが働くメリットとはどういったところにあるのでしょうか。
矢澤: スタートアップにとってエンジニアは非常に貴重な存在 なんです。プロダクトがなければサービスは展開できませんし、近年ではハイクオリティーなUI/UXを求められるため、素早い改善も必要ですから。
スピード感がある環境に身を置くことで、自身の成長にもつながるのではないでしょうか。会社にとって欠かせないポジションだからこそ、エンジニアのことを大切にしているスタートアップは多い印象です。
小池: 組織が大きくなっていく、成長していくところを一緒に見届けられることもスタートアップで働く醍醐味だと思います。成長を共に体感できるという幸福感 は、何ものにも代えがたいもののはず。
もちろん成長中の会社ほど、働き方はハードですし、緊急対応やトラブルも多い。その分、やればやるだけ組織や自分の成長に直結するというメリットもあります。
人がキャリアを重ねていく上でつらいのは、仕事の成果が見えづらい、成長が実感できないことではないでしょうか。何倍もの成長が実現できるというのは、スタートアップだからこそ可能な経験だと思いますよ。
矢澤: スタートアップ企業の創業期って、本当にカオス ですからね。大企業なら当たり前にあるドキュメンテーションやテストの仕組みが全然ない中で、とにかくひたすらプロダクトをつくらなきゃいけない。
そういったカオスの状態をどこまで楽しめるか。そこが、難しくも面白いところだと思います。
小池: 1人目のエンジニアとして入るのか、3人目として入るのか、あるいは10人目なのかによってもやることは違ってきますよね。
矢澤: 1人目だと、全部自分で考えて決めていく……というケースもありますからね。
自分に合うスタートアップと出会うには、まず「理想のキャリア」と向き合って
――視聴者から「日本のエンジニア起業家に足りないものはなんですか?」との質問が届いていますが、いかがでしょう。
矢澤: コミュニケーション力ですね。海外は自分で自分を売れるエンジニア起業家がすごく多い。「ちょっとしゃべるのが苦手で……」では通用しないんです。
小池: 海外のエンジニア起業家については、Facebookをつくったマーク・ザッカーバーグの影響を受けている側面もありそうですよね。彼もエンジニア出身なので。
矢澤: あると思います。アメリカのYコンビネーターというアクセラレーター(VCの一種)は、エンジニアにしか投資しない、その上で起業家としての力量を見ると明言しています。
小池: 日本で上場までしたスタートアップで、エンジニア起業家の会社ってありますっけ?
矢澤: 伊藤(将雄)さんのユーザーローカルはそうですよね。まだまだ少ないですが、少しずつ出てきているような気がします。IPO直前のスタートアップについては、エンジニアリング力と代表のビジネスセンスとを分けて見る、というVCが多いかもしれないですね。
――先ほどお話にもありましたが、ビジネスセンスを磨くにはどうすればいいでしょうか。
小池: これはもう、とにかくたくさんの会社を見る しかないですよね。起業家との接点を増やしていくうちに「この人はセンスがいいな」「この人の事業はうまくいきそうだな」という感覚が培われるんです。自分の中に見極めの軸を持てるくらい、いろんな会社のいろんな方に、ビジネスの話を聞いてみるといいと思います。
矢澤: 場数ってすごく重要ですよね。場数を踏むことでパターン認識みたいなのができてきます。だからこそ、シリアルアントレプレナーみたいに2回目以降の起業家はうまくいきやすくなるのではないでしょうか。
――最後に、転職を検討しているエンジニアに向けて、エンジニア視点でこれから伸びそうな企業を見極める方法を教えてください。
矢澤: 技術トレンドのど真ん中をしっかり扱っている会社を見ることが重要だと思います。今ですとブロックチェーン、AI、ドローンといった技術ですよね。あるいはガートナーのハイプ・サイクル(※)に入っている会社を見ることも有効ですね。 (※特定の技術の成熟度、採用度、社会への適用を示した図のこと。アメリカの調査会社であるガートナーが考案し、毎年最新版をリリースしている)
ですが結局のところ、どんなスキルを身に付けたいかによると思います。0から1を生み出そうとしている会社と、上場直前の会社とでは、取り組んでいることが全く違うので。自分が何をやりたいかを見極めた方がいいでしょう。
小池: 外部評価で分かる指標としては、良い投資家がついているかどうかは一つの目安になると思います。VCや投資家はプロなので、その企業が伸びるかどうかについて深く見極めています。多くのプロが認めたスタートアップなら、間違いないのではないでしょうか。
文/石川香苗子 編集/秋元 祐香里
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