転職Vol.504

900万DL突破の『AbemaTV』はなぜTVデバイス対応を急いだのか?開発陣に聞く今後の構想

あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team

エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。

2016年4月に本開局した、サイバーエージェントとテレビ朝日の共同事業『AbemaTV』。「無料で楽しめるインターネットテレビ局」として始まった同サービスは、今年10月時点で約30チャンネルを展開しており、スマホアプリのダウンロード数も900万を超えるなど好調を維持している。

インターネットテレビ局として立ち上がった『AbemaTV』
インターネットテレビ局として立ち上がった『AbemaTV

その『AbemaTV』が10月24日、『Amazon Fire TVシリーズ』に対応したことを発表した(リリース記事)。この発表に先駆けて、8月9日にはGoogleの展開する『Chromecast』への対応を完了しており、今後『AndroidTV』や『Apple TV』、『AirPlay』といったTV連動デバイスへの対応も予定しているという。

TVをはじめとする映像業界では、長年Webシフト・スマホシフトが急務だと叫ばれ、いくつかのサービスも生まれている。が、どれも大きな成功を収めたとは言えない状況だ。

にもかかわらず、なぜ『AbemaTV』はこの流れに逆行するようなTVデバイス対応を急いだのか。その真意や今後の開発構想を、『AbemaTV』の開発局で局長を務める長瀬慶重氏ほかプロダクト開発に携わるチームメンバーに聞いた。

リリース前からあった2つの開発方針

(写真左から)クリエイティブディレクターの鬼石広海氏、開発局局長の長瀬慶重氏、iOSエンジニアの伊藤恭平氏

(写真左から)クリエイティブディレクターの鬼石広海氏、開発局局長の長瀬慶重氏、iOSエンジニアの伊藤恭平氏

『AbemaTV』が進めているTVデバイス対応は、インターネットテレビ局として生活の中に深く浸透したサービスになることを目指す上では必要不可欠であるため、リリース当初から対応を決めていたと長瀬氏は言う。

そして、どのデバイスでも下記2つの開発方針を必ず実現させようとしていたそうだ。

「一つはとにかくシンプルで使いやすいUIを実現すること、もう一つは画質が綺麗でさまざまなチャンネルをサクサク視聴できることです」

【シンプルで使いやすいUI】と【多チャンネルをサクサク視聴できること】に関しては、同サービスの開発秘話としてこんなエピソードが知られている。

アプリの構想時、開発チームではスマホならではの縦型動画を前提にモックアップを作成していたが、スマホでのザッピング(リモコンでチャンネルを頻繁に切り替えながら視聴する行為のこと)をどうスムーズに行うか?を熟慮した結果、「横画面+スワイプでチャンネル変更」のUIに変更したという話だ。

>> 参照記事:『AbemaTV』のUIづくりも担ったCAのテクニカルクリエイターが重視する「3つのQ」向上策とは

また、サイバーエージェント社内から集めた約30名規模のエンジニアリングチームは、フロントエンドの改善を担う「Web Initiative Center」という専門部署とも連携を取りながら、Webの品質改善についても推進している。

TVデバイスへの対応で苦労した点については、『AbemaTV』の開発にクリエイティブディレクターとして関わる鬼石広海氏がこう説明する。

「最近はいろんなプロトタイピングツールが出ていて、当社もアプリ開発では『Pixate』などを利用していましたが、TVデバイス用となるとモックアップを作る良いツールがありませんでした。なので、デザイナーが自らコードを書いてアプリを実装し、実機でUXを検証していました」(鬼石氏)

精鋭を集めた開発チームで重視されるのは「肩書きにしばられないこと」

長瀬慶重氏
開発局の立ち上げから行った長瀬氏が「優秀な人」を集める際に重視したのは?

デザイナーがコードを書く、エンジニアもUI/UX領域を意識して開発を進める。この流れは多くのWeb・アプリ開発現場に押し寄せており、サイバーエージェントでも「テクニカルクリエイター」と呼ばれる新職種を設けて開発領域を横断する作り手を育成している。

長瀬氏はこの取り組みを「技術者が肩書きにしばられずに、プロダクトの成長に向き合える良い機会」と表現し、チーム全体でプロダクトを磨き上げ、継続的に良いモノを作るサイクルの中で最も重要な点だと話す。

「TVデバイスへの対応は当初から持っていた構想の一つでしかなく、他のグロース施策もたくさん進めています。現在も『AbemaTV』の総合プロデューサーである藤田(晋氏)とは週イチペースで議論をしており、そこで出た意見やユーザーからのご要望を汲み取ってスピーディに改善していくには、エンジニアもデザイナーも専門外の領域に手を広げていく集団でなければなりません」(長瀬氏)

『AbemaTV』のiOSアプリ開発を担うエンジニアの伊藤恭平氏は、まさにこの「肩書きにしばられない」ことを象徴するようなキャリアを歩んできた。2011年サイバーエージェントに中途入社し、同社のママ向けSNSサービスやホームページ制作サービス『Ameba Ownd』の開発に取り組んできた同氏。iOSエンジニアとして入社したものの、Web系の開発も経験しておきたいと考え、フロントエンジニアとしてサービスを開発していた時期もあるという。

「自分が専門としている技術だけでなく、守備範囲を広げていくことで発想も広がり、プロダクト全体のことを考えられるようになるのではないでしょうか。自分自身、もう少しiOS開発を経験したらサーバサイドについても学んでいきたいと思っています」(伊藤氏)

長瀬氏は、この果敢に新たな技術領域へ挑戦していく姿勢こそがチームの強みだと言い切る。

現在の開発チームは、「サイバーエージェントのメディア事業全体で500名近くいるエンジニアの中から、評価が高かった精鋭を集めた」と語るが、その評価にはスキル以外にも柔軟性や学習スピードの速さも含まれていたということだろう。

「立ち上げ期」は終わり、開発も組織構築も次のフェーズに

鬼石氏と伊藤氏

鬼石氏、伊藤氏共に、それぞれが開発領域を横断的に手掛けることで改善スピードを速めている

では、改善を続ける『AbemaTV』がこれから目指すのはどんな未来なのか。

開発面での今後については、冒頭で説明したTVデバイスへの対応の他、スマホアプリの場合は「通信」という制約条件のある中で視聴しやすさを向上し続けることに尽きると長瀬氏は言う。

「H.265/HEVC(動画圧縮規格の一つ)や5Gへの対応など、将来的に流れが来たらすぐに対応しなければならない部分がたくさんある。今後の通信インフラの進化は『AbemaTV』にとっても強力な追い風になるはずです」(長瀬氏)

また、クリエイティブディレクターの鬼石氏は「UI改善だけではなく、番組上に表示するテロップや番宣動画制作など、『AbemaTV』のクオリティ向上のためにやれることは全部試したい」と意気込む。

そのためにも、バックエンド、フロント開発共に常にブラッシュアップできる体制づくりが欠かせないと長瀬氏は言う。現在は人員拡大を視野に中途採用に注力している。

「過去の経験上、新規立ち上げのフェーズから急激に人員を増やすと、一定の意思統一の下で開発が行えなくなると感じていました。ただ、『AbemaTV』の立ち上げ時期はすでに終わっているので、今後さらにサービスを成長させるためにも積極的に中途採用を行い、『AbemaTV』をインターネット発のマスメディアとして押し上げていきたいと考えています」(長瀬氏)

新たな局面を迎えた『AbemaTV』の次なる展開に、引き続き注目したい。

取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/竹井俊晴

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