ローコード開発ツールはエンジニアのキャリアパスをどう変える? 不要になるのは「下積みとしてのプログラミング」だった
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「プログラミング知識なし」で業務アプリや基幹システムが構築できるローコード、ノーコードに注目が集まっている。
こうした新技術の登場により、プログラマーを取り巻く環境は大きく変化した。世界70カ国以上で利用されているローコード開発基盤『Outsystems』を提供する株式会社BlueMemeの松岡真功社長は「エンジニアのキャリアパスは今後、劇的に変わると思っています」と語る。
ローコード開発ツールは、エンジニアのキャリアをどう変えるのか。自身もプログラマーとして経験を積み、ローコードに着目したという松岡さんに、プログラマーの未来についてお話を伺った。
技術やIT知識より分析力・企画力が重視される時代へ
ローコード開発ツールについて語る際に、よくある議論に「プログラミング技術不要論」がある。
この点について、松岡さんの考えは「ある意味で正しいが、別の側面では間違っている」というもの。「今後、エンジニアに求められる能力は二つの方向に大きく分かれていくだろう」と主張する。一つは、プログラミング技術が不要になる方向性。もう一つはその逆に、これまで以上にプログラミング技術が重視される方向性だ。
「1980年代に冷蔵庫サイズだったコンピューターは、現在では持ち運べるサイズまで小さくなりました。同じようにソフトウエアも変化しています。地図を入れたい場合は『Googleマップ』、予約システムなら『Expedia』、ゲームなら『Unity』、決済なら『Adyen』というように、さまざまな機能がAPIとして利用可能になっています。以前のように一から機能を開発する必要はなく、こうしたものの組み合わせで一つのサービスを作り上げることができる。そういう意味では確かに、プログラミング技術はどんどん必要なくなってきています」
ITエンジニアやユーザー企業は、こうした時代の流れを敏感に感じ取っている。国内外のIT人材を取り巻く環境をまとめた「IT人材白書」(情報処理推進機構発表)によれば、2016年度版ですでに、IT人材に求められる能力として「顧客の要望を分析し、企画する力」が重視され、「ソフトウエア工学」などの項目が相対的に低い傾向が現れていた。
しかし一方で、『Googleマップ』や『Adyen』など、開発者が自由に利用できるAPIそれ自体を開発する現場においては、これまで以上に高度なプログラミング技術が必要になる。エンジニアが自身のキャリアを考える上ではまず、こうした「二つの方向性」を正しく認識する必要がある。
「まずはプログラミング」の常識から離れよ
これまでのエンジニアのキャリアパスは、一般的には、まずは現場でプログラマーとしてプログラミング技術を磨き、徐々に上流へと上がって、最終的にITコンサルタント(あるいはディレクター、SEなど名称はさまざま)になる、という一本道であることが多かった。
しかし、エンジニアが二つのタイプへと完全に分かれていく環境下では、こうした従来のキャリアパスも変わっていくだろうと松岡さんは言う。
「当社の面接を受ける方の中には『プログラミング技術を身に付けたい、伸ばしたい』という方が当然いらっしゃいます。しかし、『プログラミングを勉強して、ゆくゆくはコンサルをやりたい』とおっしゃる方には『(最初から)コンサルをやりませんか?』とお話しするようにしています。以前であれば、ITコンサルになるためにプログラマーとして下積みをするのは当たり前でしたが、二つの仕事が全く異なるものになった今では、最初からコンサルとして入って、サービスづくり、ビジネスづくりから始めてもいいと考えています」
若い世代を中心に、こうした二つのタイプを意識したキャリアパスを考えている人は、すでに現れているという。そもそも松岡さんがこうした「プログラマーの未来」を考えるようになったのも、ふとした出来事の中で、若者の意識の変化を実感したことがきっかけだった。
「ある新卒社員は車の免許を持っていませんでした。世間話のつもりで『なぜ持っていないの?』と聞いたら『必要ないからです』と。これからは自動運転に移行していくので自分で運転する必要はなくなると真面目に話すのです」
「18歳になったら自動車免許を取るのが普通」と考える世代の松岡さんからすれば、あまりに斬新な発想だった。しかし、社会環境が変われば「当たり前」も変わる。「これはキャリアに関しても同じことが言えるのでは?」というのが松岡さんの考えだ。
プログラミングの勉強は「海外に住んでから英語を覚える」感覚で
松岡さんいわく「ローコードが必要となる現場は、デザインコンペみたいなもの」。そこで求められる人材は、従来のいわゆるプログラマーとは大きく異なる。
「お客さまの課題をヒアリングし、それを抽象化し、また具体化して解決策を提案する。そこでは純粋なプログラミング技術よりも、お客さまや関係各所とのコミュニケーション、人と会って話して考える力が重視されます。『右の文章を読んで感想を述べなさい』というような、確たる正解のない国語の問題を解くのが得意だった人がすごく活躍している印象です。理系より文系に向いている仕事と言ってもいいかもしれません」
だが、松岡さんは決して「プログラミング技術は役に立たない」と言っているわけではない。ローコード開発ツールを使ったサービス開発はしばしば「プログラミング知識がなくても簡単にできる」「誰でもできる」という言われ方をすることがあるが、これは悪い誤解だ、と松岡さんは言う。
「映画監督の仕事をイメージしてもらえれば分かりやすいかと思います。映画監督はカメラや照明設備を直接扱うことはありませんが、そうしたもののことを知らなくては、いい映画を作ることはできないですよね」
つまり、プログラミングの知識は依然として必要である。しかし、サービス開発を担当するのに、プログラミング知識を十分に、体系的に身に付けてからである必要はない。むしろ、上流工程の仕事を実際にこなす中で必要なプログラミング知識を身に付ければいい、というのが松岡さんの考えだ。
その意味で、「プログラミングができなくても、上流工程はできる」は良い誤解なのだそう。むしろ積極的に勘違いをして、上流工程に飛び込んできてほしいと期待を寄せる。例えるなら、海外(=上流工程)に行きたいから日本で英語(=プログラム)を学ぶのではなく、海外に行って生活しながら学んでいけばいい、ということだ。
改めて、ローコードツールを開発する側である松岡さんは、プログラマーにとっての敵なのだろうか。そうではないだろう。他ならぬ松岡さん自身がプログラマーとしてキャリアを積んできた人であり、「プログラミングの面白さは分かっているつもり」とも話す。そんな松岡さんらがローコード開発ツールの開発を通じて実現する世界が、プログラマーにとって「望ましくない未来」であるはずがない。
「ローコードをプログラマーにとっての脅威と感じる必要は一切ないと思います。プログラミングが好きな人は、引き続き技術を磨いてバリバリAPI開発に没頭すればいい。逆にサービスが作りたい人や課題解決がしたい人は、プログラマーとしての下積みは必ずしも必要なくなっていく。業界が求める人材、スキルが多様になり、働き手は自分がやりたい道を選べるようになる。ローコードがもたらすのはそういう世界だと思っています」
取材・文/山川 譲 撮影/赤松洋太
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