この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
【名村卓】ソウゾウCTOへの移籍で再認識した「高くて健全なプライド」をエンジニアが持つ意味
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2021年1月、かつてメルカリグループで新サービスを次々と手掛けていたソウゾウが復活した。
メルカリの「次の一手」として7月にプレオープンを果たしたEコマースプラットフォーム、『メルカリShops』を担う新ソウゾウ。CTOに就任したのは、メルカリのCTOを務めていた名村卓さんだ。
名村さんは2017年にメルカリのCTOに就任。2018年には本連載に登場し、メルカリで目指す開発組織づくりついてのビジョンを語ってくれた。
>>1000人体制でもエンジニアが成長する組織とは? 海外事例から学ぶテックキャリアの拡げ方【メルカリ CTO・名村卓】
それから約2年が経過し、企業規模も事業のフェーズも全く異なるソウゾウCTOのポジションへと移った今、名村さんは自らのミッションを何だと考えるのか。
移籍を決意した背景や、これからつくっていきたいというソウゾウらしいエンジニア組織のあり方、今後の活躍が期待されるソフトウェアエンジニアの条件を聞いた。
「名村卓のエンジニア組織」にはしたくなかった
「ソウゾウを復活させて、『メルカリShops』を本格的に立ち上げたい」
CEOの石川佑樹さんから新会社のCTOになってほしいという打診を受けたのは、2020年暮れのこと。名村さんは「ちょうどいいタイミング」だと思ったという。
「もともと、CTOのポジションには同じ人が長くいない方がいいと思っていたんです。“〇〇CTOの組織”というよりも、“メルカリのエンジニア組織”という雰囲気をつくりたかったし、いろんな人がCTOにチャレンジできた方が強い組織になっていくだろうと考えていたので」
メルカリの優秀なリーダー陣を見て「自分が抜けても問題ない」と思えたことも、名村さんの決断を後押しした。加えて名村さん個人にとっても、再び事業の“ゼロイチ”に関われるのは心踊る機会でもあったそうだ。
「前職のサイバーエージェントでは『アメーバピグ』や『AbemaTV』といった新サービスを立ち上げてきました。メルカリでは『メルカリ』という一つのサービスをいかに発展させるかにコミットしてきましたが、自分がずっと慣れ親しんできたゼロイチの仕事に再び取り組めるのは、面白そうだと感じましたね」
自分がソウゾウに移ることによって、メルカリグループが何かを切り開くきっかけになれば。そんな思いから転籍すると、役職は同じCTOとはいえ、業務内容は大きく変化した。
特に最初期のソウゾウでは『メルカリShops』をスピーディーにカタチにするべく、開発メンバーは役職関係なく全員がコードを書いていたという。無論名村さんも同様で、結果的に「リーダーとして」というよりも「一人のソフトウェアエンジニアとして」メンバーと関わる機会が増えた。
「『CTOである自分が決めた方針にみんなが従う』という雰囲気はありません。使用する技術の方針などは自分が決める場合もありますが、後でメンバーと話し合って変わることもある。フラットな関わり合いの中で開発が進められています」
「これぞスタートアップ」という現場の空気に触れ、名村さんは新たなサービスを立ち上げるやりがいを噛み締めている。ソウゾウ着任後の感想を聞くと、「やっぱりゼロイチは面白いですね」と頬を緩めた。
「新しいことをやろうとすると、大きな組織ではどうしても障壁が出てきます。メルカリは比較的そういう壁は少ない会社ですが、『次はこういう組織にしよう』『こんな技術を使ってみよう』といったトライを、ソウゾウではより簡単に実行できるんです。もちろん責任は伴いますが、その分やりたいことを自由にできる。そういう環境を面白いと思える人たちが、ソウゾウには集まっていますね」
「〇〇エンジニア」という肩書きが、エンジニアの可能性を狭めている
メルカリのCTOとして過ごした3年9カ月は、名村さんの価値観に大きな影響を及ぼした。
「望ましい組織のあり方や、従業員のモチベーションについて考えるようになりました。昔の自分は少し偏っていたというか。『優秀なエンジニアが集まって、良いものを作れればそれでいい』と考えていたんです。エンジニア個人がその仕事を楽しんでいるかどうかは、正直あまり関心がなかった。
でも、メルカリでパフォーマンスが出ているチームを詳しく見てみると、どのチームもエンジニアが高くモチベートされていました。エンジニアが前向きに働けるようにコミュニケーションを取るマネジャーの働き掛けや、モチベーションが自然と高まる制度設計の重要性を学びましたね」
メルカリで得た教訓は、ソウゾウでの組織づくりにも活かされている。その一つがメルカリのカルチャーでもある「全員ソフトウェアエンジニア」という思想だ。
ソウゾウの社内ではメルカリ同様、「フロントエンドエンジニア」「バックエンドエンジニア」といった肩書きをあえて使わないようにしているという。
「実際、エンジニアは肩書きに依らずいろんなことができる場合が多いんです。バックエンドがメインでもフロントエンドもできる人はいますし、機械学習の専門でもバックエンドやフロントエンドもバリバリできる人もいます。
ところが、もし『バックエンドエンジニア』と名乗ってしまうと、その人にはバックエンドの仕事しかこなくなるんです。開発チームの編成時も、肩書きを見てバランスよく配置されてしまう。もちろん、専門性を否定しているわけではありません。各エンジニアが持つ専門性を軸にしながらも、さらに他の経験やスキルの幅を広げられるよう、あえて『全員ソフトウェアエンジニア』と呼んでいます。」
ソフトウェアエンジニアは本来、あらゆる手段を駆使して機能を実現する役割を担っているはず。それなのに、肩書きによってエンジニアの対応領域が限定されてしまうのはおかしいのではないか?
開発チームに足りないスキルがあれば、誰かが学んで補えばいい。あえてそういう状況が生まれる組織にすることで成長するチャンスが増え、エンジニアのモチベーションも高まると名村さんは考えている。
さらに、名村さんがソウゾウの組織づくりで挑戦したいと考えているのが、「調整ごとを減らす」取り組みだ。
「調整ごとが増えると、想定以上に時間が掛かったり、やるべき業務がコロコロ変わったりして、エンジニアのモチベーションは低下してしまいます。そうした事態を避けるために、プロダクトを開発するエンジニアが自分たちの考えをそのまま実践できる体制を築きたいんです」
その方法として、ソウゾウのエンジニア組織には「イネ―ブリング(Enabling)チーム」が独自に設けられている。イネ―ブリングチームとは組織の成長・自立を後押しする専門のチームで、プロダクト開発を担うチームに不足したノウハウがあった際、必要なタイミングで手助けをするとともに知識を伝授する。
プロダクト開発チームはノウハウを享受することで自分たちの力だけでできることが増えていき、開発がスムーズに進められるようになるというわけだ。
「それによってプロダクト開発チームに余力が生まれれば、ビジネスサイドの要求以外で自分たちが直したかった点も改善できるようになります。そういう時間を持てるかどうかで、エンジニアのモチベーションは大きく変わるんです。調整ごとは一見避けて通れないものにも見えますが、弊害は大きいので、改善できると信じて試行錯誤していきたいと思います」
「高くて健全なプライド」がエンジニアの成長を加速させる
ソウゾウは、メルカリの三つのバリュー「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」に「Move Fast」を加えた四つのバリューを掲げている。新規事業の立ち上げをミッションに生まれた会社であることから、スピードの重要性は極めて高い。
「スピードに付いていけることに加えて、チームでのものづくりが好きな人は、ソウゾウに向いていると思います。あとは、人の役に立ちたい気持ちが強い人。サービスをダイレクトに提供している分、お客さまの声もダイレクトに返ってくるので、それを見て『何とかしたい』と思える人はやりがいを感じるでしょう。そして何より大切なのは“自尊心”、つまりプライドです。
これはソウゾウのエンジニアに限らず一般的に言えることですが、エンジニアはそれなりにプライドが高くないといけないと思うんです。使いにくいサービスを作ってしまったら、『恥ずかしい……今すぐ直したい!』と思えるかどうか。
そこに無頓着で、『要件満たしてるからいいじゃん』と思ってしまうようでは、向上心は生まれません。『一秒ぐらいでページ出れば十分でしょ』と思う人と『そこは10ミリsecで表示されないと』と思う人の差は非常に大きいです」
良し悪しの判断基準を外側ではなく、自分の内側に持つこと。そして「周囲からの評価に喜ぶ素直さ」もまた、成長するためには大切な要素だという。
「どの会社も何かしら人の役に立つものを作っているはずなので、人に喜ばれたいという素直な気持ちが強い人の方が良いですね。エンジニアに対して浮世離れしているイメージを持つ人も多いかもしれませんが、実際は『人の評価なんてどうでもいい』という人よりも、自分の欲望に忠実な人の方が伸びる印象があります」
一見クールな名村さんの考える「伸びるエンジニア」とは、実はかなり人間らしいエンジニアなのかもしれない。
「一般的にプライドが高い人は使いづらいと思われがちですが、プライドは多かれ少なかれみんなが持っているもの。エンジニアとしての自尊心の高さは、もっとポジティブに捉えていいはずです。
『自分が作るのは世の中で一番素晴らしいものであるべき』という高過ぎるくらいのプライドを掲げ、それに向かって追いつこうと努力できる人が、最も成長するエンジニアなのだと思います」
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ
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