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ストレスを「解消」するのではなく、「味方」にするにはどうすればいい?
そんな疑問を解消してくれるのが、今回紹介する書籍「HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる」(SBクリエイティブ)だ。応用神経科学者である著書が、ストレスをプラスの作用に転換するための脳の働きなど、科学的な根拠をもとに解説。実践的なテクニックや事例を用いながら、VUCA時代を生き抜くための方法を紹介する。
・何も意識しないと、脳は「外側の情報」、そして「ネガティブな情報」に向きやすい。意識して「内側の情報」、「ポジティブな情報」を取り込む姿勢が大切である。
・ストレスとうまく付き合うために、ストレスにはポジティブな面とネガティブな面があることを認識する必要がある。また、ストレス反応はDNAの違いや経験によって個人差があるので、自分のストレス反応に寄り添うことが大切である。
・脳の使い方を少し変えるだけで、ストレスのネガティブな面をポジティブに転換することができる。
Book Review
「同じようなストレスを受ける状況において、それに耐えられる人もいるし、耐えられない人もいる」。要約者はそれをストレス耐性の違いと考えていた。しかし本書では、ストレスの原因が同じであっても、人によってストレス反応の出方が違うため、自身のストレス反応と向き合うことこそ大切であると説明されていた。
これはストレスに対応する上で、非常に重要なポイントとなると感じた。ストレス反応を導く刺激や情報といった「ストレッサー」のうち、「心理的ストレッサー」は時間が経っても慣れることはなく、ストレス反応が増幅するという事実は、かなり実感と合っていた。嫌なことを思い出すと、記憶が心理的ストレッサーとして働くと知り、記憶の仕方の重要性に気付かされた。
また本書では、ストレスのネガティブな側面だけでなく、ポジティブな側面に着目し、ストレスを味方につけるために、神経科学的に根拠のある方法が書かれている。特に驚かされたのは「ストレス=学び」というストレスのポジティブな側面に対するマインドセットでいると、ストレスレベルが低下するという研究結果である。
マインドセットに関する多くの本と同様、ストレス反応をコントロールするための、エクササイズも掲載されている。本書のエクササイズは、適度な量と内容なので、ぜひ本を手に取って取り組むことをオススメしたい。きっとストレスを味方にする術を身につけられるはずだ。
私たちの脳にはたくさんの情報が届くが、一度に処理することができない。ある研究によると、1秒に届くおよそ200万ビットの情報のうち、処理して認識できる情報は、多くても1秒に2000ビットだという。つまり入力された情報の約1000分の1しか処理できていない。脳が処理を行う対象について、ある程度自分の意思で、取捨選択しなければならない。
何も意識しないと、脳は「外側の情報」、そして「ネガティブな情報」に向きやすい。「外側の情報」とは対人関係や仕事、TVやPCなど、自分の外にあるものから得られる情報である。
一方で内側の情報とは、お腹が空いた、将来何をしたいか、など自分の中に注意を向けたときに得られることである。「学び」を蓄えるためには、自分の内側に注意を向ける時間を意識的にもつ必要がある。
「ネガティブな情報」に意識が向きやすいのは、人類の進化の歴史において、ネガティブなことに敏感になることで危険を避けて暮らしてきたためと考えられている。そのため、ネガティブな情報は半自動的に入ってくるが、ポジティブな情報は意識的に取り込もうとする必要がある。
このような脳の傾向を「ネガティビティバイアス」と呼ぶ。この特性は、人類に備わっているものだ。正面から抵抗するのではなく、自然な反応として受け入れつつ、ポジティブなことに目を向ける姿勢が大切である。
ストレスとうまく付き合うために押さえるべき三つのポイントがある。
一つ目は、「ストレスには、ポジティブな面とネガティブな面がある」ということだ。本書では、私たちを悩ませ、苦しませ、うつ病の原因となるようなストレスを「ダークストレス」と呼んでいる。一方、締め切り前に生産性が上がって仕事を達成するなど、成長や幸せに貢献するストレスを「ブライトストレス」と呼ぶ。
二つ目は、「自他のストレス反応を同一視しない」ことである。ストレス反応の違いは生まれもったDNAの違いや今までの経験による。自分のストレス反応を相手にも当てはめないことが大切である。
三つ目が「自分のストレス反応に寄り添う」ことである。前述した通り、ストレス反応は人により異なるため、ストレスを味方につけて成長するためには、自分自身のストレス反応と向き合い、対応していくことが必要だ。
神経科学では、一般的な脳や全身反応の仕組みについては解明できるが、それぞれが何にどういったストレス反応を示すかということまでは分からない。本書では、自分自身のストレス反応を確認するためのエクササイズが用意されている。
ストレスの発生する仕組みを確認する。ストレスとは「私たちがそれを認識して初めてストレス」になる。ストレスを感じるというのは、身体の中の異変に気がついているという状態である。そして、この身体の中の異変をもたらすのが、「ストレス反応」である。
このストレス反応を導くような刺激や情報を「ストレッサー」と呼ぶ。ストレスの間接的な原因であると言える。
ストレッサーには、外因性の「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」、内因性の「生物的ストレッサー」「心理的ストレッサー」がある。そのうち、物理的、化学的、生物的ストレッサーの三つは、その刺激が過剰でなければ、「慣れる」という特徴がある。
しかし「心理的ストレッサー」は慣れるよりも、ストレス反応を引き起こすことが確認されている。そして、思い返すだけでもその記憶が強くなる。そのため「心理的なストレッサー」によるストレス反応が起きたら、その状態に気がつき、それを増幅させないように対処することが大切である。
スタンフォード大学のアリア・クラム博士の研究によると、「ストレス=悪」と考えることによって、実際にストレスレベルが高まり、「ストレス=学び」というマインドセットをもつことによってストレスレベルが低下するとの報告がある。ストレスをポジティブに捉えることが非常に重要であることが分かる。
しかし、これを日常生活で活かすためには、「ストレス=学び」という知識が単にあるだけではなく、自分の脳の中に強い記憶として残すことが大切である。
私たちの身体には、ダークストレスを緩和させる仕組みが備わっている。
一つ目は「ベータエンドルフィン」という神経伝達物質である。ベータエンドルフィンがつくられると、痛みの緩和や安らぎを感じやすくなる。ベータエンドルフィンは腹の底から笑えるようなときにつくられやすい。
二つ目が「セロトニン」という化学物質である。セロトニンは単調なリズムを刻む運動をしたときにつくられやすい。自分の落ち着く単調なリズムの運動をするとよい。また、少し疲れる程度の運動をすると「ベータエンドルフィン」「セロトニン」両方が体内で合成される。
自律神経も意識的に利用したい。自律神経は、交感神経と副交感神経があり、双方のバランスが取れていることが大切だ。ストレスを多大に受けると交感神経が優位に働くので、意識して副交感神経を働かせるようにするとよい。副交感神経を働かせるためには、いくつかの方法があるが、簡単なものとしては、「長く息を吐く」「食事に集中する」「泣く」などの方法が挙げられる。
また、ストレス反応が起きた際、それを和らげるために半自動的に生成されるのが「オキシトシン」という化学物質である。オキシトシンは「愛情ホルモン」などとも呼ばれ、誰かを抱きしめたり、抱きしめられたりする際に分泌される。また、オキシトシンは心からつながりたい、大切にしたいと感じた際に分泌されるため、実際に目の前にいなくても写真や動画でも効果がある。つまり、心から信じられるものを思い浮かべることで、ダークストレスを緩和できるのだ。
本書では、パフォーマンスを高めたり、成長を促したりといったストレスのポジティブな側面を「ブライトストレス」と呼んでいる。
しかし、ブライトストレスを味方につけ、活かすことができている人は少ないと考えられる。ブライトストレスの生じるところには、ダークストレスも生じやすく、人類に元来備わっているネガティビティバイアスにより、注意のほとんどをダークストレスに注いでしまっている人が多いからだ。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と言われる現代社会に対応するために、ブライトストレスを味方につけ、利用することは非常に有効である。
ダークストレスもブライトストレスも、基本的には同じようなストレス反応をしているが、脳の少しのあり方、使われ方の違いで、ダークストレスにもブライトストレスにもなりうることが分かっている。その違いについて確認したい。
まず、モチベーションに直接的に影響を与える化学物質である「ノルアドレナリン」と「ドーパミン」である。ドーパミンはやりたくて、求めてやっているようなときに出やすい化学物質であり、ノルアドレナリンは、やらされている感覚が強いとき、プレッシャーがかかっているときに出やすい化学物質と言える。ノルアドレナリンは、交感神経が活性化しているときに放出されやすい神経伝達物質で、興奮状態にすることで、生産性、活動性を高めてくれる。
一方で、ストレスホルモンであるコルチゾールを誘導しやすく、あまり心地よい感覚にはならない。また、周囲のあらゆるものに過敏になり、関係がないことにも注意が向いてしまう。ノルアドレナリンが放出されているような状況では、やるべきこと以外の情報を排除するのが好ましい。
しかし、いつでも、状況を整えることができるとは限らないし、またノルアドレナリンは、コルチゾールを合成しやすく、長期的にみると慢性的なダークストレスとなる可能性がある。そこで注目したいのがドーパミンである。「ノルアドレナリンが適度に分泌された状態でドーパミンも適度に分泌されると、望むべき方向への注意が高まるだけでなく、ノイズである望まない方向への注意が減ることでパフォーマンスを高める」ことがわかっている。
ドーパミンは、「自分で何かを求めるようなときに脳で合成される神経伝達物質」であり、「感情の神経科学では、WANTやSEEKの情動」といわれている。ノルアドレナリン過多で仕事や勉強に向き合っているときには、自分自身の興味や好奇心をもって、それに向き合うようにすることで、パフォーマンスを高めることができる。
「ベータエンドルフィン」や「カンナビノイド」といった化学物質も、ダークストレスをブライトストレスの方向に引き上げてくれる。
脳内には、ドーパミンを受け取るNACCという部位があり、興味がないことに取り組む際などに、ドーパミンの放出を抑制する機能をもっている。NACCの働きは大切であるが、少しの失敗や違和感でも、ドーパミンの放出を抑制してしまい、物事の達成の邪魔になる時もある。
ベータエンドルフィンやカンナビノイドは、NACCを抑制することで知られており、ドーパミンが合成されやすい脳の状態にすることができる。これらの化学物質は、好きなものを食べたり、音楽を聞いたり、お気に入りの空間にいたり、自分自身が快適な状態で合成されやすい化学物質である。
ノルアドレナリンが必要となる場面では、コルチゾールが合成されやすく、不快感を覚えることが多い。しかし、「DHEA」というホルモンの分泌割合が多いと不快感からの回復が早まる。
DHEAの分泌は「ストレスにはポジティブな側面がある」ということを知るだけで促される。実際にストレス反応が起きた際に効果を発揮するには、「ストレスにはポジティブな側面がある」というマインドセットが強く脳に記憶されていることが大切である。
ストレッサーに対して、ダークストレス反応として処理するのか、それともブライトストレス反応として自己の成長の一部として脳に残すのか、意識して選択することでストレスを味方につけた人生を歩むことができるはずだ。
青砥瑞人(あおと みずと)
応用神経科学者。株式会社DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。しかし、脳の不思議さに誘引され米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。神経科学を心理学や教育学などとコネクトし、人の理解を深め、その理論を応用、また実際の教育現場や企業とコネクトし、人の成長やWell-beingのヒントを与えられたらと、2014年にDAncing Einsteinを創設。対象は、未就学児童から大手役員まで多様。空間デザイン、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech®/NeuroHRTech®という新分野も開拓。同分野にて、いくつもの特許を保有する「ニューロベース発明家」の顔ももつ。近年では、海外や国連関連のイベントでの講演活動に加え、大手企業やNPO、教育機関と連携、提携し、新しい学び方、生き方、文化づくりに携わる。著書に『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)がある。
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