もう「環境」に惑わされない!
新時代のエンジニア・パフォーマンスアップ術新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半が経過。コロナショックをきっかけに働き方の多様化が進む中で、エンジニアには「どんなワークスタイルでも安定してパフォーマンスを発揮する力」が欠かせない。では、そんな力を磨くためには何が必要?専門家らへの取材で解き明かす
もう「環境」に惑わされない!
新時代のエンジニア・パフォーマンスアップ術新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半が経過。コロナショックをきっかけに働き方の多様化が進む中で、エンジニアには「どんなワークスタイルでも安定してパフォーマンスを発揮する力」が欠かせない。では、そんな力を磨くためには何が必要?専門家らへの取材で解き明かす
在宅勤務が続く中、「出社していた頃と比べて会社や事業に貢献できなくなった」と感じているエンジニアもいるのでは?
そんな人は、開発業務の生産性向上に目を向けてみてはいかがだろうか。
必要だけど後回しになりがちな「もっとこうしたら効率的なのに」という箇所の改善の舵を取れば、チームへの貢献のみならず、「チームの開発効率をアップできる人」として先々のキャリアにもプラスになるはずだ。
そこで、サイボウズの生産性向上チームにインタビュー。開発組織の生産性をさまたげる課題にメスを入れ、プロダクト開発の効率化に貢献している彼らに、いちエンジニアでもマネできる、開発チームの生産性を向上させるポイントを教えてもらった。
サイボウズ株式会社 生産性向上チーム
宮田 淳平さん(@miyajan)
2009年新卒入社し、製品開発チームで開発業務に従事。改善のノウハウをまとめ、各開発チームに展開する重要性を感じ、2015年生産性向上チームを立ち上げる
川畑 裕也さん(@n1wat0n)
2017年新卒入社し、製品開発チームで開発業務に従事。19年10月より兼務で生産性向上チームに参加
宮田:生産性向上チームは、社内の開発チームの生産性を上げるための活動をするチームです。
具体的には開発効率を高める基盤の整備や、業務の自動化・効率化を、テクノロジーを活用してチーム横断で支援するほか、生産性向上に関する最新技術のキャッチアップを行っています。
宮田:製品開発チーム内での生産性向上に限界を感じたのがきっかけです。2009年に新卒入社してから『Garoon』や『kintone』などのプロダクト開発を担っていて、その中で自主的に改善活動に取り組むようになりました。
ただ、製品開発業務の傍らでメインミッションではない業務効率化の時間を確保するのはなかなか難しくて。
それに、あるチームでは改善が進んでいるけど、他の同じ課題を持ったチームではなかなか進まないなど、ノウハウが共有されにくいことによって差が生まれてしまうことも気になっていました。
それなら改善のノウハウをまとめて各現場に展開するような、組織の垣根を超えたチームがあるといいのではと思い、2015年に生産性向上チームを立ち上げました。現在は兼務のメンバーも含め、5名が所属しています。
川畑:僕は製品開発チームとの兼務で、2019年から生産性向上チームに参加しています。
宮田:具体的な課題はバラバラですけど、やはり「生産性の改善のために使える時間があまりない」という点は、どの開発チームにも共通しています。
あとは改善をする際に、「ベストプラクティスが分からない」というのもよくある悩みです。
宮田:われわれが改善の場を確保し、生産性向上に関するノウハウを共有しながら開発チームが一緒に手を動かして、具体的な課題に向き合います。
それによって開発チームは改善に時間を割けるようになりますし、一緒に取り組むことで生産性向上チームにノウハウが属人化してしまう懸念もなくなります。
川畑:開発チームにとって、他の開発チームの状況を知っている生産性向上チームから、客観的に現状に意見をもらえるのはメリットだと思います。僕は開発チームの専業だった頃、自分のチームのことしか分からないから、「現状がどのくらいヤバいのか」がなかなか実感できなかったんですよ。
宮田:日頃からノウハウを集めることが重要なので、生産性向上チームでは業務時間中に技術探求の時間を確保しています。
そうして得た情報を伝える活動として、週1回『Productivity Weekly』という最新情報を共有する勉強会を行ったり、月1回ポッドキャスト形式で『Productivity.fm』という名で生産性向上チームの活動を発信したりもしています。
宮田:ポイントは大きく三つあると思います。
宮田:目的に対して現状のボトルネックはどこにあるのか、コミュニケーションを取ることが第一だと思います。目指す姿と課題が共有できていないと、「改善してどうなるのか」と言われてしまったり「現状維持でいいだろう」という結論になってしまったりしがちです。
宮田:最近は相談してもらえるようになってきましたが、立ち上げ当初は生産性向上チームの社内認知度が低く、何を相談していいかイメージしてもらいにくい状況だったので、自分から各チームにヒアリングをしていました。
あとは社内の情報やコミュニケーションが基本的にオープンになっているので、コミュニケーション履歴から困っていそうな書き込みを見つけて、それに答えることも多いですね。
宮田:ざっと流し読んだり、「生産性向上」で検索したりしています。特に今はほとんどの社員がリモートワークになり、日常の雑談などから課題を拾える機会が少なくなったため、意識的にやっていますね。
川畑:「生産性向上チームに相談してみるか」というやりとりを見つけて、「いいね」を付けることもありますね。各チームのやりとりや振り返りを読むと、結構タネがあるんです。生産性を意識していなくても、「ここって非効率だよね」くらいのことは誰もが何かしら思っている。
そこを掘っていくと改善につながりやすいですし、それぞれがストックした改善のタネを発信すると他の人から「こうしたらいいんじゃない?」と意見や解決策が出てくることもあるはず。そうやって経験値をためていけるのではないでしょうか。
宮田:当社では勉強会が日常的に開催されているのですが、そこで新しい知識を身に付け、みんなの集合知を生かして解決することも多いですよ。
最近では勉強会やイベントがオンラインになって、アーカイブがいつでも見られるようになったので、そういうものを社内のみんなで共有する場をつくるのもいいと思います。
宮田:先述の通り、生産性向上チームでは技術探求の時間を業務時間中に設けていて、ネットで最新の情報をキャッチアップしたり、技術書から学んだりしています。
川畑:最新の生産性向上に関する情報を伝える勉強会『Productivity Weekly』では、生産性向上チームのメンバーがGitHubやAWSなどの更新情報を随時Slackに投げて、その中で気になったものをピックアップして紹介しています。
「こういう機能がもうすぐくるのか」「これを使って新しいことをしてみよう」といった議論にもなり、開発チームのみんなが情報をキャッチアップする良い機会になっているのを感じますね。
川畑:エンジニアは新しいもの好きな人が多いので、単純に楽しいと思います。
宮田:『Productivity Weekly』の内容は毎週まとめて、社外に公開しています。どういう情報を集めているのか、よかったら参考にしてみてください。
宮田:そして、こういった動きを定期的に、継続してやっていくことが大事なポイントです。
単発だとその場は盛り上がっても、その先につながりにくいので、一度限りで終了してしまって生産性向上はあまり進みません。継続的にミーティングをしながら、「次までにこれをやりましょう」を繰り返していくことで、だんだん良くなっていくものだと思います。
宮田:おっしゃる通りで、自動化したものを動かしているうちに「こっちも手を入れないと駄目だ」みたいなことはどんどん出てきますし、自動化に不具合が起きることもあります。
例えば、生産性を上げるためにテストを自動化しようとしたのに、やっているうちに自動化自体が目的になってしまうのはよくある話。実際、自動化したシステムが落ちた時に、誰も気が付かなかったことが過去に社内でもありました。
せっかく改善しても、改善したものが放置されてしまっては意味がありません。「何を改善して、何を得たいのか」を明確にして、問題が発生したときの対応を含めた全体のフローを意識し、長期的に取り組むことが重要です。
川畑:開発をやっている人であれば、問題点や改善箇所を見つけること自体はできると思います。自分自身を振り返っても、製品開発チームの専任だったころと今で、そこはあまり変わりません。
変わったのは、解決手法や問題に対してどうアプローチすればいいのか、知見がたまったこと。それは経験でブラッシュアップされていくものだと思うので、改善に意識を向けて、実際に取り組むことが大切だと思います。
宮田:その際、改善活動に一緒に取り組む仲間がいると習慣化しやすいですし、継続できる仕組みもつくりやすいと思います。今はリモートでつながる文化が根付いたことで、部署を超えたメンバーとも協力しやすくなった側面もありますしね。
チームの中に、生産性向上の意識を持ったメンバーがいると周りも非常に助かるはず。「何か自分にできることがないか」と考えているエンジニアの方には、気長に地道に、できるところから取り組んでみてほしいです。
取材・文/天野夏海 編集/河西ことみ(編集部)
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