もう「環境」に惑わされない!
新時代のエンジニア・パフォーマンスアップ術新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半が経過。コロナショックをきっかけに働き方の多様化が進む中で、エンジニアには「どんなワークスタイルでも安定してパフォーマンスを発揮する力」が欠かせない。では、そんな力を磨くためには何が必要?専門家らへの取材で解き明かす
もう「環境」に惑わされない!
新時代のエンジニア・パフォーマンスアップ術新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半が経過。コロナショックをきっかけに働き方の多様化が進む中で、エンジニアには「どんなワークスタイルでも安定してパフォーマンスを発揮する力」が欠かせない。では、そんな力を磨くためには何が必要?専門家らへの取材で解き明かす
コロナ禍でリモートワークを経験したことで、「仕事自体はリモートでできることが分かったけれど、出社した方がパフォーマンスが高いかも?」、「リモートと出社、どちらが自分に合っているのだろう?」と、今後の働き方に迷うエンジニアは増えただろう。
そんな迷いを解消するヒントをもらうべく、この人に話を聞いてみた。コロナ禍で変化した今後の働き方について示した「ワークスタイル・アフターコロナ」(イースト・プレス)の著者、社会学者の松下慶太先生だ。
今後「アフターコロナ」に向けて、エンジニアは自分の「ベストバランス」をどう考えればいいのか。松下先生が示す「働き方チェックリスト」を参考にしてみよう。
関西大学社会学部教授 博士(文学) 松下慶太さん
京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員、ベルリン工科大学訪問研究員、実践女子大学人間社会学部准教授などを経て現職。専門はメディア論、若者論、コミュニケーション・デザイン
まず全体感として、コロナ禍以前では13.2%だった全国の正社員テレワーク実施率が、2020年1回目の緊急事態宣言により27.9%になりました。その後は25%前後の実施率と横ばいです。(出典:パーソル総合研究所)
意外と少ないと思われるかもしれませんが、これは企業の規模や、都道府県、職種などで分けて見ると数字がかなり変わってきます。エンジニアに限っていうと、全体よりもかなり高い割合でリモートワークを実施できていたのではないでしょうか。
実際にIT企業の多くがリモートを実施していましたし、GAFAをはじめとした先進的なIT企業では、「リモートか出社か」の議論はもうされていません。既に「どうハイブリッド体制をつくっていくか」という議論を始めています。
世界的に見ても、IT業界では「週5回出社」を前提とした働き方はなくなると見られています。業界全体がそうなっていくのであれば、日本のエンジニアだけが「週5回出社してます」みたいなことにはならないでしょうね。
そうですね。以前世界で「コロナ収束後のテレワーク希望頻度」という調査をしたところ、「1週間に1回以上はテレワークを実施したい」と答えた人が全体の78.8%という結果が出ました。その中で、「フルリモートがいい」と答えた人は19.6%に留まっていることから、「リモートと出社を組み合わせたハイブリッド型」を希望している人が多いと分かります。(出典:PwC(2021)「PwC US Pulse Survey: Next in work」)
シリコンバレーで似たような調査をした際も、週2回以上のリモートワークを希望する声が56%以上、フルリモートを求める声は約20%という結果になりました。(出典:The View From Initialized(2021)「Post-Pandemic Silicon Valley Isn’t A Place」)
マイクロソフトが出した調査でも「オフィス機能がなくなることはなく、ハイブリッド型が一般的になっていくだろう」という結果が出ています。
自分に合った「働く場所比率」は、何をどれだけ重視しているかによるかと思います。具体的には、以下の8つの中で自分が必要だと思うものの大小で考えてみるのがいいのではないでしょうか。
出社/リモート比重チェックリスト
1.ワークライフバランスを最重視したい
2.一つのことに集中して作業に取り組みたい
3.通勤時間を削減したい
4.自宅のネットワーク接続が良好である
5.同僚とのコラボレーションを重視していない
6.仕事中の飲食を重視したい
7.雑談や社会的な交流を好まない
8.自宅にオフィス什器(デスクやチェアなど)が整っている
※マイクロソフトのデータより作成(出典:Microsoft(2021)「Microsoft and LinkedIn share latest data and innovation for hybrid work」)
チェックが付いた数は?
・0~2つ当てはまる人はフル出社
・3~4つ当てはまる人は週1~2のリモートワーク
・5~6つ当てはまる人は週3~4のリモートワーク
・7~8つ当てはまる人はフルリモートワーク
これはあくまで傾向で、また日本の企業風土とは異なる点もありますが、ある程度自分のものさしとして考えやすくなると思います。
そうですね。また「出社/リモート」を検討すると同時に、自分がどういう街に住んで、どういう働き方をしたいか。家族との関係性、地元との交流、社内・社外との交流をどういうバランスで取りたいのか、その具体的な風景を思い浮かべてみる「Work Scape(働く風景)」の要素も、働く場所のバランスを決める上では参考にしてほしいです。
例えば、徒歩15分圏内にコミュニティやサテライトオフィス、コワーキングスペースがあったり、好きなお店もあったりする「15min City(15分以内で用事が済む街)」を好む人もいれば、オンオフを切り替えるのために少し移動してオフィス街で働きたい「1hour Office(1時間以内で用事が済む街)」を好む人もいます。
中には「Xhours Place(X時間以内で用事が済む街)」と呼ばれるように、リゾート地など自宅から何時間も離れている非日常を感じる場所で仕事することを好む方もいるでしょう。
このとき気を付けたいのは「一般的に見てバランスがいいかどうか」で決めてはいけないということ。あくまでも「自分にとって」どういうバランスが心地良いか、どういう状況がストレスになるのかを見極めて選択することが大切だと思います。
今後は「フルリモートか、ハイブリッドか、出社か」だけではなく、副業や週休3日制なども増えていくはずです。そうなると、個人は1週間の仕事の割合を、どの会社でどのようなパーセンテージで配分していくのか「時間・場所のポートフォリオ」を自分で組む必要が出てくるのではないかと予想できます。
今後は産業医と上司の間ぐらいの存在、ワークスタイリストというような職業が出てくる可能性もあると思っています。
そうなると、単純な時給換算で仕事をすることが減るので、より裁量労働的な側面が増えると思います。例えば、「9時17時でオフィスにいるけど、1行もコードを叩けないエンジニア」の評価はこれまでとは変わってくるでしょうね。
業績に応じた評価をされてきた人であれば、わりと移行しやすい働き方だと思うのですが、そうでない場合は早急に成果の出し方を見直さなければならない状況です。また会社側もどのように評価するのか、働きやすい環境とは何かなどを見直すことが必要になりそうです。
エンジニアは、特にリモートを含むハイブリッド型の働き方に対応しやすい職種なので、その普及・適応スピードは他職種よりも速いと思います。
「リモートを取り入れた働き方ができるか否か」は転職市場にも、もろに影響が出てくるでしょうね。会社側の制度もそうですし、働く側もハイブリッドで自律して働けるかが見られるようになる。個人の「市場価値」という側面で見ても、対応していかねばならなくなります。
これは決して今の「コロナ禍だから」といった限定的な話ではなく、今後は働く人全員に関わってくることです。今のうちからパフォーマンスを高めるための「自分が心地よいバランス」を考えてみるといいと思います。
取材・文/於ありさ
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