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ビジネス書「10分」リーディングビジネスや世の中のことももっと勉強したい、でもコードを書く時間は減らしたくない!そんなエンジニアに、10分で読める要約版でオススメ書籍を紹介します
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Webサービス開発を筆頭にUI/UXデザインの重要性が叫ばれる昨今、「心理学の原則に基づいたデザイン」への注目が高まっている。そこで今回は、心理学の知見を適用したUXデザインの実践的なガイドとして「UXデザインの法則 最高のプロダクトとサービスを支える心理学」(オライリー・ジャパン)の要約を紹介したい。
心理学や行動科学の背景知識を持ち合わせていないデザイナー・エンジニア必読の一冊だ。
・脳が構築するメンタルモデルに影響を受ける「ヤコブの法則」、認知負荷と深く関係する「ヒックの法則」、直感・印象といった迅速で自動的な思考モードによってもたらされる「美的ユーザビリティ効果」。これらは心理学的な概念によってその起源を説明することができる。
・行動心理学や認知心理学の知見を活用したデザインは大きな力を持つが、同時にその責任もデザイナーは負わなければならない。
・心理学をデザインプロセスの中に応用するためには、心理学的な原則をデザイナー全員の意思決定に組み込むことが重要だ。
Book Review
「いいね!」や肯定的なコメントによって承認欲求を満たしてくれるソーシャルメディア。このトピックだけ見ようと思ったのについついずっとスクロールしてしまうニュースフィード。これらのインターフェースは、心理学の原則に基づいてデザインされている。そうしたデザインの真髄を知りたくはないだろうか。
本書は、心理学や行動科学の背景知識を持ち合わせていないデザイナーに向けた、デザインと心理学が交差する実践的なガイドである。主なフォーカスはデジタルのデザインだが、著者が長年にわたり読み込んできた膨大な学術論文や研究結果のうち、デザイナーにとってひときわ有用な10個の心理学的原則に絞りこまれている。カラーの写真で豊富な事例が紹介されているため、法則の理解が深まりやすい。
デザインの役割が組織に対して強い影響力を持つ今日において、心理学の知見を適用したUXデザインの重要性はますます高まる一方だ。デザイナーはコードが書けて、文章が書けて、ビジネスにも精通すべきだろうか。もちろん全部できるに越したことはないが必須ではない。しかし、心理学の基礎はすべてのデザイナーの必修科目というのが著者の主張だ。規模や収益性だけでなく倫理的観点からも優れた「最高のプロダクトやサービス」を生み出すためにも、「人間中心のデザインの基礎」を学んでいただきたい。
最初に紹介する法則は、ユーザビリティの専門家ヤコブ・ニールセンによって2000年に提唱された「ヤコブの法則」である。その内容は、ユーザーは他のウェブサイトでの経験の積み重ねを通じて「デザインはこうあるべき」という期待を築き上げるというものだ。ありふれた慣例に従ったデザインにすることで、ユーザーは目の前の商品に集中できる。逆に、慣例となっていないデザインはユーザーを混乱させ、離脱につながってしまう。
このような行動の背景には「メンタルモデル」という心理学の概念がある。メンタルモデルとは、「システム、特にそのふるまいについて私たち自身がどう理解しているか」という概念を意味する。ウェブサイトのようなデジタルの世界であれ、スーパーマーケットのようなリアルの世界であれ、システムに何をしたらどうなるのかというモデルを私たちは頭の中に構築している。そして、他の類似した状況でメンタルモデルを適用し、理解の助けとしている。
プロダクトにはユーザーのメンタルモデルを考慮したデザインが求められる。そのため、デザインがユーザーのメンタルモデルと合っていない場合は問題が起こる。これは「メンタルモデル不協和」と呼ばれ、使い慣れたプロダクトが突如変更されたときに生じる。2018年のSnapchatのリデザインはその最たる例だ。緩やかな反復的開発や広範囲のテストを経ずに、いきなり大規模なオーバーホールをリリースした。これにより、ユーザーが競合のInstagramへと鞍替えしてしまった。
一方、メンタルモデル不協和を上手く回避した好例が、2017年に刷新されたYouTubeの新バージョンである。ユーザーは新しいデザインを試し、徐々に慣れたりフィードバックを送ったりすることができ、旧バージョンに戻すこともできた。
ヤコブの法則から学べることは何か。それは、まずはありふれたパターンや慣例から始め、その後うまくいきそうなときだけ慣例から離れるのがよいということだ。慣例から外れる場合はデザインをユーザーテストにかけ、ユーザー理解を確かめよう。
心理学者のウィリアム・エドモンド・ヒックとレイ・ハイマンは、1952年に「ヒックの法則」を定式化した。この法則はどのようなものか。それは、とりうる選択肢の数を増やすと、対数関数的に意思決定までの時間が増加するというものだ。
ごちゃついたインターフェースは、ユーザーの意思決定にかかる時間を長引かせてしまう。インターフェースが混雑しすぎていたり、アクションが識別しづらかったりすると、脳の大部分が探しものに使われてしまう。これがヒックの法則の鍵となる「認知負荷」という概念と関わっている。
プロダクトやサービスに接したユーザーは、その動き方を理解し、求める情報をどう探すかを決めなければならない。このインターフェースの理解とインタラクションにかかるメンタルリソースの総量を認知負荷と呼ぶ。認知負荷は、スマホのワーキングメモリにたとえるとわかりやすい。一度に扱える情報処理能力は有限であり、処理数が増えると動作の遅延や停止につながる。これと似たような現象が私たちの脳内でも起こっているのだ。
ヒックの法則をうまく利用した例がスマートテレビのリモコンである。物理的なボタンは絶対に必要となる操作だけに単純化されている。そして複雑な情報は、テレビのインターフェース内部にメニューとして段階的に表示されるようになっている。脳のワーキングメモリを必要としない、認知負荷の小さいリモコンといえよう。
ユーザーの目標達成の役に立たない要素を減らし取り除くプロセスが、デザインプロセスにおいて何よりも重要だ。目標達成について考えなくてすむほうが、ユーザーが目標達成する可能性は高くなる。そのために、脳のワーキングメモリを浪費させないUXデザインが求められている。
次に紹介するのが、1995年に日立デザインセンターの研究員だった黒須正明と鹿志村香が実施した研究に起源をもつ「美的ユーザビリティ効果」である。2人は、使いやすさと視覚的な魅力との相関関係を調査した。その結果、ユーザビリティに対する認識はインターフェースの魅力の度合いに強く影響されることがわかった。つまり、見た目が美しいデザインはポジティブな感情的反応を生み出すとともに、認知能力を拡張し、ユーザビリティがよいと受け取られやすいということだ。
これと関連する概念に、アメリカの心理学者ダニエル・カーネマンの著書「Thinking, Fast and Slow」で取り上げられた「自動認知処理」がある。脳の思考モードにはシステム1とシステム2の2つのモードが存在する。
システム1は自動的に働くため、ほとんど心理的な努力を必要としない。迅速で意図的には制御できない、直感・意図・印象といった類の反応である。一方、システム2はゆっくりと動作し、注意力や精神的な努力を必要とする。集中・探求・演算処理といった複雑な問題解決のための思考モードだ。美的ユーザビリティ効果において、第一印象を形成するこのシステム1の思考は、非常に重要な概念といえる。
美的ユーザビリティ効果によって、人は美しいものはより良く機能すると考える。そのため、ユーザビリティの問題にはより寛容になりやすい。これがこの法則の留意すべきポイントだ。機能が全く同じだが、見た目の異なる携帯電話を用いた実験結果がそのことを物語る。被験者はより魅力的なモデルのユーザビリティを高く評価しただけでなく、タスク完了時間も短縮された。
この研究が示唆するのは、美しさがユーザビリティの問題をある程度まで隠蔽しうるということだ。体験のユーザビリティを評価する際には、ユーザビリティの感じ方が見た目に左右されるのを意識しながら、ユーザーの声に耳を傾け、影響を和らげることが重要となる。
つづいて紹介するのが、1982年に2人のIBM社員が書いた論文に起源を持つ、「ドハティのしきい値」である。この法則は、「応答時間が0.4秒未満になると、応答時間の減少により生産性が劇的に向上する」というものだ。さらに彼らはこうも主張した。「コンピューターもユーザーもお互いを待たせることのないペースでやり取りする時に最も生産性が高まり、ユーザーの仕事の質も改善される傾向にある」。
人は0.1秒程度の応答時間ならほとんど気づかない。しかし0.1~0.3秒の遅延になると目につくようになり、タスクをコントロールできていないと感じ始める。遅延が1秒を超えると、ユーザーはタスク以外のことを考え始め、注意は散漫になる。タスク上の重要情報が忘れられ、生産性の低下が決定的となるのだ。
とはいえ、現実にはドハティのしきい値で規定された時間よりも処理時間が長くかかってしまうケースもあるだろう。そのような場合にユーザーの離脱を防ぐ有効なテクニックを2つ紹介したい。
1つはFacebookのようなプラットフォーマーが使う、スケルトンスクリーンの表示である。ページを読み込み始めるとすぐにプレースホルダーブロック(スケルトンブロック)をコンテンツの表示域に表示することで、サイトの読み込みを速く見せる手法だ。実際の文章や画像が読み込まれるとすぐにそれらのブロックと入れ替える。これにより、ユーザーの待たされているという印象を和らげることができる。
もう1つは、パーセンテージ表示で進捗を表すプログレスバーである。シンプルなこのUIパターンは、次の3つの理由から効果的だといえる。処理が進んでいることが伝わると、人は安心感を覚えること。待たせている間も興味を失わずに見続けてもらえること。そして、プログレスバーの動きを意識すると、待っていることを忘れ、体感の待ち時間が減るということだ。
本書では行動心理学や認知心理学の知見を活用した10の重要な原則が提示されている。この知識を得たデザイナーは大きな力を手にすることができるが、同時にその責任も負わなければならない。
Facebookは2009年に「いいね!」ボタンを導入した。その際、アプリを開くたびに社会的肯定感によるドーパミンが放出され、こんなにも中毒性を発揮するとは予想していなかっただろう。また、無限スクロールの導入によって、ユーザーがニュースフィードを無心にスクロールし、何時間も過ごすようになることも意図していなかっただろう。有害なプロダクトを作ろうとする企業はほとんどいない。しかし、善良な意図を持った企業が、最終的に意図しない結果をもたらす可能性を忘れてはならない。
人の心は変わらないのに、行動に影響を及ぼす手法はますます高度化し、正確になっていく。そんな現代だからこそ、行動への影響を倫理的に考える必要がある。
デザインプロセスには倫理が組み込まれていなければならない。「ハッピーパス(例外やエラーを考慮しない理想的なシナリオ)」からはずれたシナリオを考慮せずに拡大するテクノロジーは、理想的なシナリオの外にいる人々を脆弱なまま置き去りにする。それを防ぐために、デザイナーにはユーザーの目標達成とウェルビーイングに寄り添って、それを支援するプロダクトや体験を生み出す責任がある。
最後に、チームの目標や優先順位を明確にする方法を取り上げる。心理学をデザインプロセスの中で応用する最も効果的な方法は、それを全員の意思決定に組み込むことだ。そのためには、デザイン原則を策定し、それを心理学的な法則と結びつけることが有効である。
デザイン原則は、チームの優先順位やゴールを表すガイドラインとして、意思決定の理由づけの根拠となる。チームが成長し、意思決定の量が増えるにつれて、チームにとって何が良いデザインかを示す価値観が重要となる。デザイン原則を策定すれば、それがチームとしての羅針盤となってくれる。
チームメンバーでデザイン原則を策定したら、心理学的な原則に照らし合わせたルールづくりをしよう。例えば「慣れは目新しさに勝る」というデザイン原則の場合、最初に取り上げたヤコブの法則がぴったりだ。この法則に則って、より実用的な指針としてチーム内のルールを設定しよう。「インターフェースを慣れ親しんだものにするため、ありふれたデザインパターンを利用しよう」といった具合だ。
このプロセスを終えると、見通しのよいロードマップができあがる。このロードマップ上でチームは、価値観を共有するための明確なデザインガイドライン、ガイドラインを支持する心理学的裏付け、そしてよりどころとなるルールを得られるはずだ。
Jon Yablonski(ジョン・ヤブロンスキ)
デトロイトを拠点に、デザイン、講演、執筆、デジタルクリエイティブ制作などで活躍。UXデザインとウェブのフロントエンド開発の交差点が主要な関心事であり、これら2つの分野をハイブリッドなアプローチで融合させることで、デジタルにおける問題解決を行う。実務においてジャーニーマップやプロトタイプを作成する傍ら、「Laws of UX」、「Humane by Design」、「Web Field Manual」など有用な情報発信にも携わっている。ゼネラルモーターズで次世代の車載インタラクティブ体験の開発に取り組んだ後、現在はBoom Supersonicのシニアプロダクトデザイナーを務める。
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