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「作ったシステムの不具合が指摘された、責任は誰がとる?」元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!今すぐ使える“開発契約”の知識【2】

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元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!

“自衛”のために知っておきたい法律知識

SESの「準委任契約」、受託開発の際のNDA、GitHubに公開されるコードの使用……。エンジニアとして開発を担う中で、また自身が安心安全に働く中で備えておくべき「法律」の知識とは? プロの弁護士から学ぼう!

前回に引き続き、『ITエンジニアのやさしい法律Q&A 著作権・開発契約・労働関係・契約書で揉めないための勘どころ』(技術評論社)より、「開発契約」にまつわる箇所を一部転載してお届け。

「作ったシステムの不具合が指摘された場合の法的責任」をテーマに解説します。

※本記事は書籍より以下項を抜粋して転載
・Q2-8 作ったシステムの不具合が指摘された! 責任は誰がとる?

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弁護士法人モノリス法律事務所
代表弁護士 河瀬 季さん(@tokikawase

元ITエンジニアの経歴を生かし、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つモノリス法律事務所を設立、代表弁護士に就任。東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約120社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。JAPAN MENSA会員

作ったシステムの不具合が指摘された! 責任は誰がとる?

完成したシステムを納入したのに、発注者から「操作方法が難しい、処理速度が遅い、発注した機能が備わっていない」と指摘され、契約を解除するとか、不具合を直すまで報酬を支払わないなどと言われている。いったいどうなってしまうのだろう。

システム開発を請負契約で締結する場合、受注者は原則として、契約不適合責任を負います。納品したものが契約内容に適合しないものであるならば、不具合の修補や損害賠償の請求、契約解除、代金減額請求がなされるおそれがあります。

契約不適合とは何か?

作ったシステムの不具合が問題になった場合、システムが契約の内容に適合したものであるかどうかが論点になります。受注者はこのような契約不適合に対する責任を負っているため、システムの納品後であっても法的な責任を追及される可能性があります(注1)

(注1)なお、この契約不適合責任とは、民法改正前は瑕疵担保責任として定められていたものです。基本的には、「瑕疵」という言葉が「契約不適合」という用語に置き換わっただけであり、この点について実質的な変更はないといえます。瑕疵という言葉は「期待する性能がないこと」と解釈されており、現行法における契約不適合も瑕疵と同じ意味だと考えられています。

民法第562 条1 項
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。 ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

システム開発における契約不適合は、基本的に、請負契約の場合に完成したシステムが仕様と一致していないことを指します。準委任契約の場合は、成果物を完成させることが義務ではなく、業務を処理することが契約内容であるため、納品後の不具合に関する責任はありません。

問題は仕様書との不一致だけではない?

ただしこの契約不適合は、必ずしも仕様書との不一致に限定されるわけではありません。

契約不適合責任の条文は、「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」ことを契約不適合と定めているのであり、論理的誤りを含む場合や一般常識に照らして著しく品質を欠くものについても、契約不適合と評価する場合があるのです。

ただし、システム開発における目的物の品質を具体的に定義することは難しく、この定義を巡って発注者と受注者が争うケースが想定されます。

裁判例では、開発したシステムに不具合が発生することは不可避であることを理解しつつ、瑕疵に当たる場合と当たらない場合を以下のように例示しています (注2) 。契約不適合責任においても、これは大きく変わらないと考えてよいでしょう。

(注2)東京地裁 平成14年4月22日判決

瑕疵(契約不適合)に当たる場合
・不具合がシステムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上、遅滞なく修補することができない場合
・不具合の数が著しく多く、順次発現してシステムの稼働に支障が生じるような場合

瑕疵(契約不適合)に当たらない場合
・遅滞なく修補した場合または代替措置を講じた場合
・特定個人が操作方法を容易に理解できなかった場合
・受注者の仕事以外が原因で不具合が発生した場合
・発注者の指示により不具合が発生した場合

今回のケースの場合は、「発注した機能が備わっていない」と言われている以上、納品したシステムが契約内容に適合したものでないことになります。

また、「操作方法が難しい」「処理速度が遅い」といった点についても、通常有すべき品質・性能を満たしていないといえる場合には、契約不適合に当たる可能性があるので注意が必要です。

このような不具合の発生を避けることは難しく、常に何かしらの不具合が生じる可能性を考慮しておくべきです。そして、何かしらの不具合が生じた際に、速やかに対応することが求められます。

なお契約不適合責任を負うべき範囲は、契約書によってある程度コントロールすることができます。契約不適合があった場合に備えて、納品後にカバーしうる責任の範囲を考え、適切に契約で制限しておくと有利になるでしょう。

契約不適合がある場合の法的責任

では、契約不適合がある場合、発注者から何を主張、追及されることになるでしょうか。契約不適合責任の規定は任意規定(注3)であり、当事者間の特約により、責任内容を修補のみにするなど限定したり、責任を負う期間を短くしたりすることができますが、こうした特約がない場合には、民法の契約不適合責任の規定が適用され、発注者から以下の主張を受ける可能性があります。

(注3)この反対が、当事者の意思に左右されずに強制的に適用される強行規定であり、強行規定に反するような契約をした場合には、その契約はその部分について無効とされます。

契約不適合の場合に主張を受ける可能性があるもの
・追完請求(修補請求)⇒民法第562 条
・損害賠償請求⇒民法第564条
・契約解除⇒民法第541条・542条
・報酬減額請求⇒民法第563条

また、発注者は同時履行の関係に立つため、受注者が追完や損害賠償を行うまで、報酬の支払いを拒絶できます。これは、発注者が報酬を支払う債務と、受注者が契約に適合したシステムを納品する債務が同時に履行されなくてはいけない、という関係です。

なお、追完請求、損害賠償請求、解除、報酬減額請求がなされ得るのは、発注者が「その不適合を知った時」から1 年以内にその旨を通知された場合となっています。

コラム:契約不適合責任と提携約款 改正民法2つのキーポイント

民120 年ぶりに改正された民法が2020 年4月1日に施行されました。これについてシステム開発との関係で最も重要なのは、本節で解説した契約不適合責任という部分なのですが、その次に大事なのは、提携約款という部分でしょう。webサービスやアプリケーションの利用規約に大きく関わる部分だからです。

従来から、利用規約、法的には「約款」の有効性には疑いが持たれていました。問題点としては、ユーザー登録の際などにページのどこかに利用規約へのリンクがあったとして、本当にユーザーはその規約に同意して登録を行っているといえるのかという点があります。

さらに多くの場合、利用規約はサービスの機能追加や変更等にともなってある日一律で一方的に変更されますが、変更後の規約は変更前に登録を行ったユーザーとの関係でも有効といえるのか、という点も問題でした。

こうした問題について、今回の民法改正はある程度クリアな基準を置きました。

例えば、利用規約の改定について、改正民法の定めによれば、その変更がユーザーの一般の利益に適う場合や、ユーザーが登録を行った目的に反せず、かつ、変更を行うに至った事情を考えた場合に合理的なものである場合は、変更後の規約の効力発生日を定め、変更が行われる旨と変更内容等を適切な方法(例えば、webサービスの場合であれば、ログイン後の画面に「●月●日から規約がこのように変更されます、詳細はこちら」というようなリンクを置いておく、といった方法が考えられます。)で周知しておけば、変更後の規約は、変更前に登録を行ったユーザーとの関係でも有効である、とされました。

webサービスのUI 設計などに携わる方は、押さえておくべき法律改正だといえます。

書籍情報

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