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「SESなのに常駐先から指示を受けた!」元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!今すぐ使える“労働関係”の知識【1】

スキル

元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!

“自衛”のために知っておきたい法律知識

SESの「準委任契約」、受託開発の際のNDA、GitHubに公開されるコードの使用……。エンジニアとして開発を担う中で、また自身が安心安全に働く中で備えておくべき「法律」の知識とは? プロの弁護士から学ぼう!

今回は『ITエンジニアのやさしい法律Q&A 著作権・開発契約・労働関係・契約書で揉めないための勘どころ』(技術評論社)より、「労働関係」にまつわる箇所を一部転載してお届け。

「SESなのに派遣先で業務命令を受けた時の対処法」をテーマに解説します。

※本記事は書籍より以下項を抜粋して転載
・Q3-2 SESなのに常駐先から指示を受けた……これって偽装請負?

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弁護士法人モノリス法律事務所
代表弁護士 河瀬 季さん(@tokikawase

元ITエンジニアの経歴を生かし、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つモノリス法律事務所を設立、代表弁護士に就任。東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約120社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。JAPAN MENSA会員

SESなのに常駐先から指示を受けた……これって偽装請負?

所属する会社から業務命令を受け、大手のIT会社に常駐してシステム開発を行っている。この派遣先で業務命令として指示を受けたのだけど、私はSES契約を結んでいるはず。この場合にも、派遣先の業務命令に従わなければいけないの?

SESと派遣では、一見すると「エンジニアの技術および労働力を提供する」という点で同じように見えますが、業務指揮命令権がお客様側にあるかないかという点が異なります。

SESの場合はあくまでも自分が所属する自社(フリーランスの場合は自分)の業務命令に沿って任務を遂行します。派遣先による業務命令がなされた場合、それは偽装請負という違法な状態であるため、従う必要はありません。

SES契約の実態とは?

SES契約(システムエンジニアリングサービス)とはソフトウェアやシステムの開発・保守・運用における準委任契約の一種であり、特定の業務に対して技術者の労働を提供する契約です。開発エンジニア、ネットワークエンジニアだけでなく、運用・保守の技術者もSESの対象になります。

SES契約では、企業に出向して業務を行うことになります。そのためエンジニア個人としては、様々な企業の様々な案件に関わることで、幅広い知識やノウハウ等を学ぶことができ、エンジニアとしてのスキルアップが見込めるという利点があります。

またその他にも、残業が少ない、正社員登用されるケースがある、といったメリットもあります。その反面、環境の変化が激しく、ストレスになってしまう場合があったり、残業が少ない分収入も低くなってしまったりするというデメリットはあります。

偽装請負というワナに注意

このSES契約で働くにあたって注意が必要なのが、偽装請負です。偽装請負とは、形式的には業務請負や業務委託、委任契約であるにもかかわらず、実態は労働者派遣であるものをいいます。

労働者派遣をするにあたっては、労働者派遣法において、許可・届出の手続きや派遣可能期間等の厳しい制約が定められています。

こういった労働者派遣法等の規制を企業側が潜脱する目的で、表向きはSES契約や業務請負の形をとるというケースも少なくありません(※)。

また客先の契約に対する理解が不十分なため、そのつもりがなくても偽装請負と認められかねないような状態に陥っている場合もあります。

したがってまずは、自分の働き方が偽装請負になっていないかどうかを見極めることが重要です。これはSES契約と派遣契約の法的な違いをしっかりと理解することで可能になります。

(※)業務命令や作業時間を拘束する行為は、本来は「人材派遣」として扱う必要があるのであり、請負契約であるにもかかわらず、無許可でこれを行えば職業安定法違反となります。また、仮に人材派遣が許可されている業者であっても、労働の実態と届出の内容が合致していないのであれば、労働者派遣法に問われることになります。

SES契約と派遣契約の違い

SES契約は、「作業時間あたり●●円」といった風に、エンジニアの能力や工数によって、契約が決まるのが通常であり、準委任契約に該当します。クライアント企業に出向いて作業するという点では派遣契約と似ていますが、SES契約では、あくまで発注者の作業を代行するだけです。

つまり、常駐先の顧客から「何時にどこに来て、こういう仕事をしなさい」といった具体的な指示を出すことはできず、実際に作業をする受注者側が作業のやり方を決め、臨機応変に業務を進めるということです。

ただし、受注者が一人で作業を進めることはできません。作業員の上司として、指揮管理を担当する責任者が必ずついてくる形になりますので、その責任者の指示に従って作業を行います。

つまり、SES契約においては、自社の責任者の指示に従っていれば、自分の裁量で仕事をすることができるわけです。

これに対し、派遣契約は、派遣先の指示に従う必要があります。派遣契約は、あくまで労働力として雇われる契約形態であり、そうである以上は、派遣先企業の指示に従って仕事をしなくてはいけません。この「誰の指示に従うか」という点が、SES契約と派遣契約では大きく異なっているのです。

そのため、SES契約であるにもかかわらず、常駐先の顧客からの指示で稼働しているような場合は、その実態が派遣契約であるとして、偽装請負とみなされることになります。

契約形式による指示系統などの違い

契約形式による指示系統などの違い

偽装請負のリスクはエンジニアにも

偽装請負が発覚した場合、労働局から厳しい指導が入ったり、ペナルティが科せられたりすることがあります。もちろんこれは企業に対してです。では、エンジニア個人には何もデメリットがないのでしょうか?

偽装請負は、エンジニアをはじめとする労働者に様々な不利益があるものだといえるでしょう。業務請負の場合、派遣労働者とは異なって、クライアントには労働者を守る義務がありません。

それにも関わらず、偽装請負ではクライアント側から指示が出されるわけですから、長時間労働や休日出勤を指示されるなど、劣悪な労働環境に陥る可能性があります。また、業務請負には残業や深夜労働に対する規定がなく、時間外労働の報酬が発生しないことから、時間換算をすると低賃金になってしまうかもしれません。

そして、企業が受けるペナルティによる影響も見逃せません。まず、偽装請負によって派遣元が労働者派遣法や職業安定法に違反した場合、事業停止命令を受けることがあります。その場合には、エンジニアとしても、仕事ができなくなってしまう可能性があるわけですから、無関係な話ではないはずです。

また、派遣先のクライアント企業の方も、「勧告」と「公表」の対象となるため、社名公表による信用力の低下がその後の仕事に影響を及ぼす可能性があります。

よって、自分が罰則を受けるわけではないからと、偽装請負の状態を放置しておくメリットはエンジニアにはないといえます。

偽装請負を回避するためのメソッド

偽装請負を回避するためには、何よりもまず、契約締結の段階で、慎重な判断をすることが重要です。実態に合わせた適切な契約を締結することで、偽装請負を予防すべきです。

それでも常駐先から仕事の指示を受けた場合、SES契約を締結しているのであれば、法律上それに従う必要はありません。現場に常駐する際には自分が誰からの指示で業務を進めるべきなのかをきちんと把握し、直接契約をしていない発注者側からの指揮・命令・監督には従わないようにしましょう。

ただそうは言っても実際問題、客先常駐している立場としては、「そういう契約だから」と突っぱねるのは少し勇気がいります。また、労働局への通報や告発など、大ごとにするのはちょっと……と思うかもしれません(※)。

そこでまずは派遣元企業に対して、自分の勤務を適切に判断してもらえないか相談するとよいでしょう。つまり、派遣元企業から派遣先企業に対し、例えば「SES契約なので、契約にない定時前出勤を義務付けるのは不当である」といった要請を出すようにお願いするのです。

偽装請負になるのではないかと疑問に思ったら、まずは契約についてクライアントと確認してみるということが重要です。

(※)厚生労働省本省のほか、都道府県労働局・労働基準監督署・公共職業安定所・地方厚生局・施設等機関・都道府県などの地方公共団体が、公益通報窓口を設置しています。連絡先などは各ホームページに記載されていますのでそちらで確認してみましょう。

書籍情報

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