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「仲間が足りない!」と嘆く前に…採用力強化に向けてエンジニアが人事・採用担当者とやるべき6つのこと

ITニュース

    近年、IT・Web界隈でビジネスを展開している企業にとって、「エンジニア不足」は共通の課題となっている。だが、そんな中でもエンジニア採用で奮闘している企業は少なからず存在している。

    今回紹介するメルカリエウレカは、2年前から現在までの間で社員総数が2倍以上に伸びており(両社とも2年前の60~70名規模から、メルカリがグローバル総計で約350名に、エウレカが約150名規模に成長)、エンジニアの人数も比例するように伸びているという。

    そんな2社が、11月15日に東京・青山で行われた人事向けイベント『HR Tech Kaigi #01』でパネルディスカッションに登壇。「戦略人事とHR Tech」をテーマに、自社事例を交えながら採用における取り組みを明かした。

    このイベントは、クラウド労務ソフト『SmartHR』を展開する株式会社KUFUと、採用管理システム『Talentio』運営の株式会社タレンティオのHR Techベンチャー2社が共同で主催しており、当日は人事・採用ツールの未来についても議論が行われたが、このレポートでは「戦略人事」の話題に的を絞って取り上げたい。

    最も重要なのは「カジュアルな情報共有」の仕組みづくり

    (写真左から)「戦略人事とHR Tech」をテーマにパネルを行った、トレタの吉田健吾氏、メルカリの石黒卓弥氏、エウレカの庄田一郎氏

    (写真左から)「戦略人事とHR Tech」をテーマにパネルを行った、トレタの吉田健吾氏、メルカリの石黒卓弥氏、エウレカの庄田一郎氏

    トレタ取締役COOの吉田健吾氏がモデレータを務めたパネルディスカッションで、メルカリHRグループの石黒卓弥氏とエウレカ経営管理本部・採用広報部リーダーの庄田一郎氏が語ったのは、リファラル採用(縁故採用)の活性化を含めた「会社全体で採用力を高める方法」についてだった。

    そのパネルの内容を基に、エンジニア採用に悩む会社の開発陣が「人事・採用担当者と一緒に取り組むべきポイント」をまとめるなら、以下のようになる。

    【1】人事や採用広報の担当者とランチに行こう
    【2】自社の採用技術について人事と勉強会を開こう
    【3】採用担当者との定例ミーティングで採用進ちょくを共有し続けよう
    【4】ブログ、リリースなどでの情報発信用に「ネタ共有」の仕組みを作ろう
    【5】人事が使うオファーレターを一緒に作ってみよう
    【6】新しい採用関連ツールを見つけたらどんどん情報共有しよう

    この6つを挙げた理由を、当日のパネルディスカッションの模様から詳しく解説していきたい。

    人事・採用担当者に「技術用語」を知ってもらうことが最初の一歩

    最初に

    【1】人事や採用広報の担当者とランチに行こう
    【2】自社の採用技術について人事と勉強会を開こう

    などの「情報共有」を挙げた理由は、自社が「戦略人事」を展開する上で最も重要な情報発信の素地を作るために必要不可欠だからだ。

    ここで言う「戦略人事」とは、従来型の求人媒体=他人が作成した求人広告を掲出して転職希望者を募り、そこでの応募者管理を中心に進めていく「オペレーション人事」と対比的に用いられており、採用にまつわる情報発信から転職希望者の母集団形成~クロージングまでを自らの手で行っていくことを指す。

    メルカリ、エウレカ共に、『Wantedly』のようなビジネスSNSを活用しながら自社の情報を発信しており、その発信の中には自社エンジニアとリアルな接点を持ってもらうためのミートアップ開催情報なども含まれる。

    さらにメルカリの場合は、2016年5月より自社情報を発信していくオウンドメディア『mercan(メルカン)』も立ち上げており、毎月40本程度の記事を更新し続けていると石黒氏は言う。

    今では「採用広報の鑑」として注目されているメルカリも、かつては何もない状態だったと話す石黒氏(写真右)

    今では「採用広報の鑑」として注目されているメルカリも、かつては何もない状態だったと話す石黒氏(写真右)

    こうした積極的な情報発信のベースとなるのが、自社の開発文化や扱う技術についての知識となるわけだが、よくあるのは「人事が開発について詳しく知らない」ということ。近年は採用力強化に向けて元エンジニアを採用担当者に据える企業も出始めているが、人事・採用担当者が非技術職である場合はなおさらだ。

    そこで、メルカリの石黒氏は2015年に同社に転職した後、エンジニアをランチに誘ったり、30分程度の1on1をお願いしに回りながら、「どんな情報がエンジニアに刺さるのか?」を調べたという。

    「最初はエンジニアのことがほとんど分からなかったので、『近くにおいしいご飯屋さんがあるので一緒に行きませんか?』などと誘いながら、とにかくエンジニアと会話するようにしていました。そうやって知ろうとする努力を伝えながら、10人くらいに話を聞いていくと、『例えばサーチエンジニアだとしたらElasticsearchというツールをよく使っているということ』や『Android開発だとしたらJavaだけじゃなくKotlinという選択肢もあるということ』などと、技術用語についてある程度理解できるようになっていきます」(石黒氏)

    エウレカの庄田氏も、同社に転職した後、社員から採用広報に使えそうなネタを引き出すことから始め、自社アプリ『pairs』が採用しているGo言語についての勉強会開催などにつなげたという。

    これを裏返せば、まずエンジニア側から人事・採用担当者と接点を持ちながら、自社の開発チームや採用技術について知ってもらう場作りが案外重要ということになる。人事側もそれを求めているからだ。

    社員紹介制度を作ることより大切な「ゴールの共有」

    さらに言えば、

    【3】採用担当者との定例ミーティングで採用進ちょくを共有し続けよう

    と書いたように、エンジニアチームも自社が掲げている採用のゴールに対して今何が足りていないのか?を知る場を設けて、定期的に解決の糸口を考えるフローを作るとなおよいだろう。

    エウレカの採用に携わるようになった当初は業務委託だった庄田氏だが、最初に手掛けた施策とは?

    エウレカの採用に携わるようになった当初は業務委託だった庄田氏が、最初に手掛けた施策とは?

    これは、エウレカ庄田氏が入社以来ずっと続けていることで、CTOおよびエンジニアマネジャーとの技術広報定例ミーティングや全社会でのプレゼンを通じて現状の採用戦略を伝え続けることで、徐々に社内の協力者を増やしていったという。

    「最初は開発陣から『こんなに勢いのある人とかかわるの怖い』という声も上がっていましたが(苦笑)、特にリファラル採用を強化する上では社員全員と(採用戦略上の)ゴールを共有するのが大事。その結果、当社ではかつて約8割がエージェント経由での中途入社だったのが、今ではリファラル採用の割合が高くなっています」(庄田氏)

    ここでもう一つ大切だったのが、「具体的にリファラル採用とベンダー利用での採用比率を決めて共有したこと」と庄田氏は言う。「社員紹介で採用が決まったらインセンティブを付与する、といったような制度を作る云々よりも、ゴールの周知徹底の方が大切だったりする」と経験談を明かす。

    採用目標の「各論」を決めるのは経営陣と人事部門になるが、エンジニアチームもこの各論を把握しておくことが、全社を挙げて具体的なアクションを取るための最初の一歩となるようだ。誰か1人ではなかなか進まない

    【4】ブログ、リリースなどでの情報発信用に「ネタ共有」の仕組みを作ろう

    についても、率先して協力してくれる仲間が増えていく。『mercan』の運営など、情報発信について先駆的な取り組みをしてきたメルカリも、最初はライトなブログ記事の執筆から始め、書いてくれた社員への感謝を伝えながら地道に“書き手”を増やしていったと石黒氏は言う。

    その結果が、リファラルでの採用率(社員紹介+自社ホームページ+α)が約9割という成果につながっている。

    最初から頻繁に情報発信していく仕組みはなかなか整わないからこそ、地道に継続し続けるためのサポートが必要不可欠。ブログで情報発信をする余裕がない、または自社の採用技術が一般的過ぎて発信する事柄がない(実はこのような悩みを抱える企業は非常に多い)という場合でも、

    【5】人事が使うオファーレターを一緒に作ってみよう

    くらいならば労力を割くことはできるはずだ。

    非技術職の人事・採用担当者は、オファーレターの書き方一つを取っても「どうすればエンジニアに興味を持ってもらえるか?」と悩むもの。できることから手伝うという姿勢が、情報発信の文化を醸成していくのだ。

    「ウチの人たちは分かってない」と嘆く前にやれることをやろう

    最後の

    【6】新しい採用関連ツールを見つけたらどんどん情報共有しよう

    を挙げた理由はたった一つ。ことさらWebのツールに関して、エンジニアの方が情報感度が高いからである。事実、メルカリの石黒氏も「HR Tech関連のツールについてはエンジニアから『●●がいいらしいよ』と勧められることが多々ある」と話す。

    エンジニアが勧めたツールを実際に採用するか否かは、コスト面も含めて人事判断・経営判断になることが多いと思われるが、組織の縦割り構造の結果、非効率なツールを使い続けるよりは「情報を提供する」姿勢があった方が改善のきっかけが生まれやすい。

    情報共有の話然り、現状を変えるにはまず「やり続ける」ことが肝心だったりする。それに、人事・採用担当者は労務管理などを含めると非常に面倒かつ膨大な作業を行っており、彼ら自身も便利なツールがあれば導入を検討したいと考えているものだ。

    「最近こんな便利なツールがある」、「採用でこんなツールがイケてるらしい」といったカジュアルなコミュニケーションを人事・採用部門と続けることも、長い目で見たら採用力強化につながるかもしれない。

    最後に、メルカリ石黒氏、エウレカ庄田氏は共に、「採用力強化で大事なことの一つは経営陣の理解と社内への情報発信」と語る。この経営陣の理解という点で「ウチは分かってないから」と嘆く前に、ボトムアップでできることから始めてみるという姿勢が、ひいては自分の身を助ける=開発を一緒にやってくれる仲間が増えることになると考えた方が生産的だろう。

    取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)

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