株式会社LayerX 代表取締役CTO 松本勇気さん(@y_matsuwitter)
東京大学在学時に株式会社Gunosy入社、CTOとして技術組織全体を統括。またLayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。2018年より合同会社DMM.comCTOに就任し技術組織改革を推進。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、ブロックチェーン、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援等広く歴任。19年日本CTO協会理事に就任
東大在学中に起業し、ニュースアプリの先駆けとなった『Gunosy』のCTOに就任。その後DMM.comを経て、現在はSaaS×Fintechを手掛けるLayerXの代表取締役CTOとして活躍する松本勇気さん。
輝かしいキャリア選択の背景にあった「投資家思考」とは?後半の本記事では「人生のポートフォリオ」の考え方を中心に紹介する。
前半記事:LayerX松本勇気が解説、エンジニアのキャリア形成理論「リスク/リターンの考え方は投資と同じ」
株式会社LayerX 代表取締役CTO 松本勇気さん(@y_matsuwitter)
東京大学在学時に株式会社Gunosy入社、CTOとして技術組織全体を統括。またLayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。2018年より合同会社DMM.comCTOに就任し技術組織改革を推進。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、ブロックチェーン、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援等広く歴任。19年日本CTO協会理事に就任
「人生のポートフォリオ」を考える上では「短期」「中期」「長期」の3つのサイクルを意識します。
「長期」は、自分があり続けたい姿のイメージ。「億万長者になりたい」「スーパーエンジニアになりたい」といった漠然としたもので構いません。自分の方向性を決めるものです。
この方向に進むために、数年以内に何を達成しなければいけないか。具体的かつ大きなマイルストーンが「中期」です。起業家であれば「5年以内に上場する」といったものですね。
例えば、僕がDMMに移籍したのは、「組織改革の経験を積む」という中期的な目標を達成するためでした。
Gunosy時代にブロックチェーンに関わって感じたのは、金融で社会の仕組みを変えるためには、まだまだ技術的に課題が多過ぎる。その手前で、まずは会社の組織を変えることが必要だということです。
DMMは当時3000人を超える社員がいましたから、大きな組織をデジタルで改革する経験を積むことができる。今でいうDXそのものだったわけです。
さらに、その中期目標を達成するために必要な、短期目標が出てきます。僕の場合は、3~6カ月のスパンで設定していました。
この「短中長期」は、一直線になって一貫性を持っていなければなりません。それによって知識の深化が早くなり、成長速度も上がりますから。
またこの時に、環境変化も意識しておくと良いでしょう。
中長期的には、当然市場も変化しますし、自分の健康やライフステージも変わります。僕自身も子どもが生まれたことで、時間の使い方が大きく変わりました。
市場や技術の変化でいえば、例えばクラウド化やAutoMLなどの進化は人の働き方を大きく変えており、今後も変化につながる可能性があります。近い将来、アルゴリズムなんて普通のエンジニアがちょっと機械学習をかじっただけで使えるようになるかもしれません。そうすれば、現在もてはやされている機械学習の技術者にとっては脅威的です。
長いサイクルでポートフォリオを見直す上では、こうした変化もリスクとして考慮していく必要があります。
「短・中・長期における目標」は自分で決めなければなりませんが、ここで「目標が間違っていたらどうしよう」と悩む人がとても多いです。
でも、そんな悩みは無駄な心配です。なぜなら、目標は必ず間違うものだから。
長期目標を固定し、そこから導き出される短期目標を決めたら、あとはそこに向かって突っ走るだけです。そして、ある一定期間が経ったら、自分のアクションの結果を検証して、全体のポートフォリオを見直す。
その際、実行している最中に目標を変更してしまう、「ぶれてしまう」ことがないように注意してください。これをしていると迷いが多くなり、無駄な行動が増えてしまって、結局目標を達成できなくなってしまいます。
僕の長期的な目標は、「面白い事業を面白い仲間とやっていたい」ということです。面白い事業は良い市場環境において生まれるものですから、それが実現しそうなところは何かを常に考えています。
僕の大学時代は、スマートフォンの発売直後でした。これからスマホが急速に普及し、みんながそれでニュースを見る時代がくると予想した。だから、まだ誰も作っていなかったニュースアプリを開発しようとしていたGunosyに入ったわけです。
そして今、コロナ禍によってDXの波が来ている。僕はデジタルで社会を変えたいと本気で思っていて、そのためにはお金の流れや行政の仕組みを変えていかなければならない。だから、それに取り組んでいるLayerXに再び参加しました。
投資にはリスクとリターンがあるとお話しましたが、自分が何かを選択したということは、逸失利益、つまり、そちらを選んでいれば得られたはずのものが得られないというデメリットも発生します。すべてメリットしかない選択肢は存在しないので、デメリットはしょうがないことです。
そして、そのデメリットを選んだのは自分であり、環境や他人のせいではないという認識が非常に大切です。
ではどうすれば、自責で選択ができるようになるのか。そのためには、自分の本心とちゃんと向き合うことと、自分と会社のズレを認識しておくことが必要になってきます。
前者に関しては、例えばエンジニアが「面白い」と感じる技術は世の中にたくさんあります。
僕の場合は元々ブロックチェーンをやっていたこともあって、Web3やNFTといったものには当然興味があります。でも、いま僕がLayerXでやりたい方向とは違う。だから、Twitterでこうしたキーワードをミュートして、見ないようにしているんですよ。
無視をすることで「今はLayerXをグロースさせる」というリターンにフルコミットできるようにしているわけです。
後者の「自分と会社のズレを認識しておく」というのは、自分が取ったポジションと所属している組織の方向性が合わないケースが当然出てくるということを認識しようということです。
例えば、自分はある技術に将来性があると思って勉強したのに、それを会社が認めてくれない、と言う人がいます。その時に「会社が悪い」と考えるのは、まったく意味がない。
それは、この人の意思決定が悪い、間違っているということではありません。会社の目的とあなたの目的がズレることがあるのは当たり前だ、ということです。
もう少し耐えていれば、いずれ認められるようになるかもしれないし、そうはならないかもしれない。だとすれば、自分が変わるか、自分で違う会社に行くしかないわけです。
そういったことを含めて、「自分の選択の結果を自分で引き受けることができるか」は、投資思考において最も大切なのです。
決めるのは自分次第ではありますが、皆さんも、自分がありたい姿がどういうものなのかを定めた上で、いま何に取り組まなければいけないのかを投資思考で考えてみるといいと思います。
そうすれば、投資における複利のように、自らのストックを増やしながら、目標に近づいていくことができるはず。そのために、今日のお話が参考になれば幸いです。
文/高田秀樹
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