売上95%減からのV字回復。アソビューの危機を救った「日時指定チケットシステム」の開発舞台裏
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遊園地や水族館などのレジャー施設から、パラグライダーや陶芸といったアクティビティまで、さまざまな「遊び」の予約サイトや施設向けのSaaS事業を手掛けるアソビュー。
2011年のローンチ以来、順調に業績を伸ばしていたが、そこへ2020年の新型コロナウイルスの感染拡大の影響が直撃。売上は実に95%減という危機的状況に陥った。
だが、その年の7月には早くも昨年同月の売上高を超え、8月には前年比2倍超という、まさにV字回復を果たした。その立役者となったのが、わずか2カ月の短期間で開発された「日時指定チケットシステム」だ。
危機的状況の中で、このシステムはどのように開発されたのか。「全社一丸となって挑んだ」という開発の舞台裏を、同社取締役執行役員の米山 寛さん、エンジニアマネジャーの竹内大介さんに伺った。
創業以来の危機に「エンジニアチーム全員」で挑戦
――新型コロナウイルスの感染拡大によって、アソビューの売り上げも激減したと聞きますが、その頃の社内はどんな状況だったのでしょうか?
米山:2020年4月に出された最初の緊急事態宣言によって、皆さんがご存知の通り、レジャー施設はどこも休園、休館となりました。
当然、当社の売り上げも、ほぼゼロと言っていいくらいまで落ち込みました。当時は何とか雇用を確保するために、エンジニアの在籍出向や受託開発などさまざまな手段を検討、模索していました。
そうしているうちに2週間ほどが経って、中央省庁や各レジャー施設から、「コロナ禍における制限はあるものの、営業再開の道筋が見え始めた」と情報が入ってきたんです。どうやら入場者管理の規制があった上での営業をすることになりそうだ、と。
――回復の兆しが見えてきたわけですね。
米山:ええ。でも実はこの入場制限の課題は、当社よりもレジャー施設の方が切実で、入場を予約で管理しないと営業を再開することができないわけです。
特に制限が厳しくなることが予想された屋内型のテーマパークなどから、どうしたらいいのかという相談が当社の営業にも寄せられていました。ならば、それを解決するシステムを提供しようと考えたんです。
この時すでに、例えば「15時からこのキャンプ場のカヌー体験を予約する」などのアクティビティーごとの日時指定予約システムがあったので、当初はその技術を転用すればいけるかな、と思っていました。
しかし1日数十件の小規模なアクティビティ予約に比べて、大規模レジャー施設には数千人のお客さまが入場します。根本的に規模が違いますし、事業者側が運用できるようなシステムにする必要もある。ですから、一から新しいものを設計し直さなければいけないということが分かりました。
とはいえ、そのためには当時SaaS事業を担当していたエンジニアだけではとても間に合いません。社内のエンジニアをほぼ全員をこのプロジェクトにアサインしなければならない。
これは、かなり大きな意思決定でした。開発したのはいいですが、本当に顧客はシステムを使ってくれるのか。その時点ではまだ分からなかったからです。
しかし1日でも早く、施設の営業再開につながるようなシステムを提供することが、アソビューの会社としての価値であると考えました。
「夏休みが始まるまでに」わずか2カ月という開発期間
――プロジェクトが立ち上がってから、開発チームはどのように動かれたのですか?
竹内:このプロジェクトに関して、何よりも重要だったのはスケジュールです。プロジェクト決定が4月後半で、レジャー施設の繁忙期である夏休み前にはリリースしたい。となると、リリースまで2カ月程度しか時間はありません。
そこで当社のCTOを中心に、チケットシステムやアクティビティ予約に携わっていたメンバーを集め、ゴールデンウィーク前には方針を決めて、連休明けから本格的に開発を開始しました。
まずは私が基本的な設計方針を立案して、具体的な設計や実装はそれぞれの開発チームに任せていくスタイルで進めていったんです。
どういった機能が必要かという情報は、現場を見ている営業担当の方が詳しいので、営業部にヒアリングしながら細かい仕様を固めていきました。
ヒアリング、仕様決定、開発と同時進行だったので、いつも以上に全社横断で綿密なコミュニケーションが求められましたね。
――全社でアジャイルに開発されていたんですね! 中でも特に難しかったのは何の開発でしたか?
竹内:悩んだのは「在庫情報」のデータの持ち方です。それまでのアクティビティの日時指定では、「商品」と「在庫」はセットになっていました。ですが、屋内レジャー施設などでは、さまざまなタイプの入場券(商品)が発行されます。
例えば同じ「12時からの予約」でも、大人と子どもでチケットの種類は違いますし、クーポンなどを使った場合は値段の違うチケットになる。そのように予約の種類がたくさんある中で、「全て同じ12時からの予約である」という在庫情報にするために工夫を重ねましたね。
当初は遊びの予約サイト『アソビュー!』と各施設のホームページ販売のみに対応していましたが、こういった工夫を重ねることで、販売チャネルを増やしていくことにもつながっています。
また、商品の価格をチャネルや時期によって変動させるなど、施設側の施策にも対応できるようになっています。
――なぜ、これほどのシステムをたったの2カ月でリリースできたのでしょうか。
竹内:リリースまでに「何を作らないか」を判断したのは大きいですね。満足のいくシステムを作ろうとすると、1年単位で掛かってしまう。でも、そうは言っていられません。
1日も早く営業再開したいという施設の思いにどう応えるか。そのためには、まず必要かつ重要な機能だけを夏までに完成させて、残りは後から追加していく。その時点で足りないところは、泥臭いですがシステムではなく、裏側で「人力」で対応していく判断をすることもありました。
米山:例えば、日時指定予約にはキャンセルや変更という手続きが発生します。その機能をシステムとして実装するには、技術的にも運用的にも作り込みに時間がかかってしまう。そうした部分は、当初はビジネス側で何とかする、と開発チームには伝えていました。
開発陣にとっても、時間との戦いの中で何をして、何をしないかという判断を下していくことが大変だったのではないかと思います。
――全社一丸となって危機を乗り越えたんですね。
米山:もともと当社は、営業と開発部門が同じ方向を向いて仕事をしていくカルチャーがあって。それが、スケジュールが厳しい中でも一つのシステムを作り上げられた理由の一つでもあると感じています。
「For You」というバリューを掲げて、レジャー施設を利用するゲストに価値を提供することを目指していますが、今回の件でその意識も一層高まりましたね。
竹内:開発チームから見ても、そう思います。もともとのカルチャーが危機にも強く機能したのかなと。
今回の件で、営業とのコミュニケーションをこれまで以上に、高い頻度で取るようになりましたし、それによってエンジニアが自分たちのプロダクトがどう使われているかを肌感覚で感じられるようになりました。
組織としても、「どうしたらお客さまに喜んでもらえるか」という視点でのアイデアも出しやすくなったように思います。
V字回復から見えてきた「右肩上がり」への道筋
――そうして出来上がったシステムの評価はいかがですか。
米山:7月にはリリースすることができて、おかげさまで現在では100社以上の施設で使っていただいています。レジャー施設の方からは「このシステムがあったから、再オープンすることができた」という声ももらえていますね。
それは業績にもポジティブな影響をもたらしていて、その年の8月には前年比で232%の売り上げとなりました。このV字回復をもたらしたのは、明らかにこの日時指定チケットシステムの開発だったと考えています。
――全員で挑戦する判断が功を奏しましたね。
米山:もちろん、この状況下で日時指定のシステムが求められていたことは間違いありません。ただ、成果が出たのはそれだけが理由ではないと考えています。
実はコロナ禍以前は、レジャー施設におけるEC化率は10%程度に留まっていたんですよ。けれど、コロナ禍で環境が一変したことで、入場者管理のシステムが必要不可欠になった。つまりこれを機に、この業界でDXが一気に進んだわけです。
私たちの立場から見れば、危機的な状況であると同時に、業界にイノベーションの波が来てチャンスが広がったとも言える。日時指定チケットシステムを最優先するという経営判断は、それを見越してのことでもありました。
――今後、アソビューでレジャー業界のDXにエンジニアとして携わる醍醐味を竹内さんはどのように考えていますか?
竹内:アソビューの事業は成長期にあり、利用者も増えてきています。その分、求められることも難しくなってきているので、それらをどうやって技術で解決していくのかを考えて実行していくことはエンジニアにとって、やりがいになると思います。
私も今、当社で大型のプロダクトを新たに立ち上げているところです。成長中の企業だからこそ、自分に意思があれば大きなチャレンジもたくさんできますし、刺激を得られる環境ですね。
米山:今後は、アソビューの事業を水平と垂直の両方で広げていきたいと考えています。これまではレジャーや観光・旅行が中心でしたが、この日時指定チケットシステムを活かして、座席指定が必要なライブ・エンターテインメント領域にもビジネスドメインを水平に広げていく。文字通り「余暇」や「遊び」の市場全体にチャレンジしていきたいと思っています。
そしてもう一つは、レジャー業界のDX、すなわちデジタルデータの活用による課題解決を垂直に深掘りしていく方向です。
システムの利用によるコスト削減はもちろんのこと、デジタルデータの利活用によるゲストの満足度向上やリピーターの増加、ダイナミックプライシングによる顧客単価の上昇なども提供していきたい。
これまでにない挑戦を仕掛けていくフェーズなので、今後ジョインするエンジニアにとってもますますチャレンジングな環境になると思います。
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