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エンジニア池澤あやかが30歳で脱フリーランス→人生初の会社就職を選んだ理由「自分の可能性、もっと広げたい」

働き方

フリーランスのエンジニア、タレントやWebライターとして活動してきた池澤あやかさん。

フリーランス生活8年目、30代になった彼女は、2022年6月から人生初の会社員生活を始めることを決めた。どのような心境の変化があったのだろうか。

ライフステージが変わっても自分らしい働き方を「選べる自分」でいるために、池澤さんが大切にしていることを聞いた。

池澤あやか

タレント、ソフトウエアエンジニア
池澤あやかさん

慶應義塾大学SFC環境情報学部卒業。 2006年、第6回東宝シンデレラで審査員特別賞を受賞し、芸能活動を開始。現在は、情報番組やバラエティー番組への出演やさまざまなメディア媒体への寄稿を行うほか、フリーランスのソフトウエアエンジニアとしてアプリケーションの開発に携わっている。著書に『小学生から楽しむRubyプログラミング』(日経BP社)、『アイデアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)がある
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エンジニアとして、女性としての節目に考えた「このままフリーでやってくの?」

――池澤さんがこのタイミングで会社員になろうと思った理由は?

私は大学を卒業してから約8年間、ずっとフリーランスのエンジニアとして仕事をしてきました。そして、昨年30歳になった時にふとよぎったのが「このままずっと、フリーランスとしてやっていくのかな」という不安。

フリーランスは「自由」な代わりに、自ら営業して仕事を受注しなければ稼ぎが得られません。仕事を失う不安から、ついつい働きすぎてしまう人も少なくないですよね。

私自身も、気付けば週7で働く日々を過ごしていました。土日にしっかり休めるようになったのは、つい最近のことです。30代を迎え、この生活をずっと続けられるのか考えてみたら……「ちょっとしんどいかも」と感じたのが本音。

ちょうど先日、5年間ほどお取引のあったベンチャー企業から、「事業を縮小するのでチームを解散する」という申し入れがあり、働き方を見直すタイミングなのかな、とも思いました。

それで今回、会社員として働くことを決めました。

――30代になってからフリーランスで働き続ける不安が増したとのことですが、収入面以外にも不安な点はあったのでしょうか?

そうですね。30歳という年齢は、二つの側面で節目だなと感じています。

一つは、エンジニアとしての「キャリアの節目」。もう一つが、出産・育児をはじめとした「ライフステージの節目」です。

まずキャリアについてですが、エンジニアは経験を重ねると、技術一本でやっていくか、マネジャーになって組織を束ねていくか、という二つの道に分かれていく傾向がありますよね。

このうち前者は技術力さえ磨けば引く手あまたなので、フリーランスでいた方が稼げる場合も多いでしょう。一方で後者は、フリーランスでは経験が積みづらいキャリアパスです。

もちろん、長期的にお付き合いできるクライアントを見つけ、チャンスをもらえばマネジメント経験を積むこともできるかもしれません。ですが、自分の立場が「外部の人」だと、関われることにも限界があります。

そう考えると、少しでもマネジメントの道に進む可能性を残したいのであれば、会社の中でその経験を積むのがベストなはず。

「技術の道に進むしかない」のではなく、技術の道も、マネジメントの道も、「両方選べる」ような自分になれたらいいな、と考えました。

――もう一つは、「ライフステージの節目」ということですが、具体的には?

これはエンジニアに限らない問題だとは思いますが、フリーランスって、自分が働かなければ、基本的に1円も入ってこないんですよね。

そして、個人事業主は会社員と違って育児休業給付金の対象ではないので、出産前後に仕事を休む場合はしばらく無収入です。

実際、フリーランスの友人は、「出産から2カ月後には仕事に復帰した」と話していました。

心から仕事が好きで、体調も問題なく、本人が「一刻も早く復帰したい!」と思っているならいいのですが、無理をしてでも「復帰するしかない」のは大きな不安要素です。

――30代になって初めて会社員になることに不安や抵抗感はありませんでしたか?

フリーランスとはいえ、これまでもチームで仕事をしてきたので、組織に属して働くことへの抵抗感はないですね。

以前までは社外活動や働き方などの面で制約が増える点は気になりましたが、最近はリモートワークや副業ができる会社も増えたので、「不自由さ」も緩和されつつあるのかなと。なので、特に不安はありません。

好奇心のままに「面白そう」に飛び付けるのは、フリーランスのメリット

池澤あやか

――これまでの8年間、フリーランスを続けてきてよかったと感じることは?

一つは、スキル一本で稼ぐ経験ができたことですね。エンジニアとして、自分の腕に自信が持てたと思います。

次に、キャリアデザインが自由なこと。やりたい仕事は自分次第でできるし、磨きたい技術があればいつでもチャレンジできます。

私の友人に、「2カ月間働いたら次の2カ月間はインプット期間」と決めて仕事と学びのサイクルをつくっている人がいるのですが、そういうことができるのもフリーランスならでは。

いくら副業推進のムードが広がっているとはいえ、会社員である限りは「2カ月仕事を休んで勉強してきますね」とはいかないはずなので。

「面白そう!」と思ったことはすぐに試せる。そういう身軽さは、フリーランスの良さだと思っています。

――池澤さんから見て、フリーランスのエンジニアに必要なものとは何だと思いますか?

いちばん大事なのは「自分で責任を持って決断すること」だと思います。それは仕事内容についてだけではなく、キャリア構築についてもそうです。

例えば、私はエンジニアになりたての頃、Webサイト制作を生業にしていました。

Webサイト制作は個人で行うことが多いので、開発の全体像をつかむことができ、未経験から実力を伸ばすにはピッタリの仕事だったんです。

ただ、個人で仕事をしていると自分の実力以上の仕事を受注できないので、あるときから実力の伸び悩みを感じるようになり、長期的なお付き合いができそうなクライアントを見つけ、チームでの開発にジョインしました。

こんな感じで、自分が今どういうフェーズにいて、どういう方向にスキルを伸ばしたいのかを主体的に考え、それがかなう環境を自分で見つけたりつくったりしていくのは、フリーランスにとって大切なスキルだと思います。

「いい人柄」は立派なビジネススキル

――これから会社員生活が始まりますが、今後はどんなキャリアパスをイメージしていますか?

まだ確実なことは言えないのですが、まずは、プロジェクトマネジメントや、チームマネジメントの現場を覗いてみたいですね。そして、自分が心地よく働ける限りは、今は会社員を続けていこうかなと思っています。

ただ、これからまたライフステージが変わって、フリーランスで働きたいと思うときがまたくるかもしれません。その時はその時で、自分らしい働き方を選択できるといいなと思います。

――ライフステージによって、自分らしい働き方を選択する。そのために大事なことって何だと思いますか?

先ほど、フリーランスのエンジニアは「技術力が大事」という話をしましたが、でも、最も大切なのは人柄とか、相手のことを思いやるコミュニケーションとか、そういうものだと思っていて。

個人的にも特に大事にしている部分ですね。

――相手を思いやれるとか、感じがいいとか、「いい人柄」というのも、立派なビジネススキルですよね。

その通りですね。結局のところ、仕事って、人と人との関係で回っていくものですから。

たとえ、一人のエンジニアに高い技術力があっても、その人がいることでチームの士気が下がって他の人たちが仕事しづらくなる状況なら、結果的にはマイナスになってしまいますし。

逆に、その人の技術力が普通でも、人柄が良くてその人がいるだけでみんなのやる気がでて生産性が上がるなら、チームとしては「超プラス」になっているはずなんですよね。

――池澤さんがチームとのコミュニケーションで意識していることは?

コードレビューやチャット、メールなど、テキストコミュニケーションをするときは特に、受け手の立場に立った伝え方ができるよう工夫しています。

ポイントは、ちょっとしたことでもいいから、相手の褒めポイントを見つけて伝えること。コードレビューのときは特に、褒め言葉を添えて指摘をいれるようこころがけています。

相手が余計な不安を抱えずに、気持ちよく働けるような声掛けをしていくことが大事ですね。

――会社員にとってもフリーランスにとっても大事な心掛けですね。

そう思います。あとは、主体的に仕事に取り組むスタンスを保つことは、いつどんな働き方を選択するにしても大切ですよね。

会社組織で働いていると、会社側がエンジニアごとに適性を見てプロジェクトにアサインしてくれたり、忙しくなれば業務量を調整してくれたりすることもあると思います。

それはすごくありがたいことですが、「会社任せ」が当たり前になりすぎてしまうのは、リスクでもある。自ら方針を決定したり、責任を取ったりすることがないままだと、仕事に対する当事者意識が薄れていきやすいと思うので。

また、主体性を持たずに働いていると、いざフリーランスになろうとしてもうまくいかないでしょうし、会社員であっても仕事がつまらなくなっていきそうです。

だからこそ、私の中で「主体的に働くこと」はとても大事なテーマ。新しい環境でも、今日お話したことを大切にしながら頑張っていきたいと思います。

取材・文/夏野かおる 編集/栗原千明(編集部)

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