重宝するのは「専門分野よりプロダクトにコミットする人」~DMM.make AKIBA×Orphe×INUPATHYの事例に見る、IoTベンチャーがほしいエンジニア
世界中で注目されるようになったIoT(モノのインターネット)領域に代表されるように、いまやプロダクト開発においてハードウエアとソフトウエアの技術者が一緒に働く場面は少なくなくなった。そんな時代に、エンジニアにはどのような働き方が求められるのだろうか。
モノづくりに携わるあらゆる立場の人が訪れる、モノづくり支援プラットフォーム『DMM.make AKIBA』。スタートアップのメンバーから大企業の技術者までが利用する同施設に集う面々の経験談から、そのヒントが見えてきた。
10月29日、東京ドームシティプリズムホール内で開催された『@typeエンジニア転職フェア』内講演の『DMM.make AKIBA コラボセミナー~「新しいモノづくり」企業の採用と働き方』から、DMM.make AKIBAに所属するスタートアップベンチャーの事例を紹介しよう。
Web界隈のような「モノづくりコミュニティ」が盛んになってきた
岡島 DMM.make AKIBAでは、モノづくりのためのコワーキングスペースを提供しています。ハードウエア開発に必要な最新の機材をそろえ、新しいモノを作りたい人・企業をお手伝いしています。利用者は主に、チームで活動しているハードウエアベンチャーが多いですね。今日お呼びした金井さん、山口さんも、DMM.make AKIBAにご入居いただいているメンバーなんです。
金井 私がCTOを勤めるno new folk studioでは、スニーカーの動きを光と音に変換するスマートフットウエア『Orphe』を作っています。例えばダンサーの動きに合わせて靴底に搭載したLEDの色を変えたり、動きに応じて音が鳴るなど、ネットワークとつなげていろんなことができるIoT製品だと思ってください。
山口 INUPATHYでは、犬の心拍数のデータを解析して、ワンちゃんがどんな気分なのかをリアルタイムに表示し、記録するハーネス型デバイスを作っています。気分や感情の情報を読み取って可視化する「気持ちの見える化」というのは、今後のIoTの在り方を変えるキーワードだと思っています。
岡島 DMM.make AKIBAは、「本気で作って、本気で売る」場所なんですね。また、これからの時代はハードウエアとITの融合が今まで以上に必要になってくるので、さまざまな人たちとコミュニケーションがとれるビジネスの拠点として使われています。例えば40~50代でハードウエアメーカー一筋だったといったエンジニアもいるので、DMM.make AKIBAにいる若手に機構設計を教えてあげるというようなケースも。技術継承も行われている印象ですね。
岡島 そうですね。数年前のネット・Web界隈のコミュニティと同じような流れになっていると思います。ハードウエア開発でも議論を生む場所ができたという感じですね。良い技術交流の場になればいいと思っています。
IoTプロダクトの開発現場でWebエンジニアが求められている理由とは?
金井 弊社は現在、4名のチームで動いています。CEO、CTO、アプリ開発のエンジニア、プロモーション全般も見てくれるデザイナーですね。もともと芸術工学を専攻していた大学の仲間なんです。プログラミングも芸術も広く浅くやっていたメンバーが、それぞれ専門分野を身に付けて集結した感じです。
金井 そうですね。ITベンチャーでは経営面とソフトウエア開発に長けた人が集まっている印象ですが、ハードウエアベンチャーだと、そこに1人、ハード開発を担当できる人が入るという違いだけだと思います。
山口 メインは私1人ですが、デザインと広報ができる人、それから50代のベテランハードウエア技術者、また50代のベテラン営業マン、製品の輸出輸入の経験がある方、お金周りを見てくれるCFOのような存在の方などに外から協力してもらっていて、主にこの6名で取り組んでいます。
山口 私はもともとシステム開発を行う受託会社で働いていて、職種はSEでした。なので、出身はIT寄りです。INUPATHYを立ち上げてから、IoTプロダクト開発のために、電子回路設計などを学びました。
金井 私は前職が電機メーカーだったものの、機構設計などを専門としていたわけではありませんでした。なので、必要な知識はno new folk studioを立ち上げた後に学んでいきましたよ。
岡島 技術面に詳しい人と、デザイン系が得意な人の組み合わせが多いですね。あとは資金面をハンドリングしていくCFO的なポジションも重要だと感じます。経歴でいうと、メーカー出身者はもちろん、全く異なる畑から来ている人、学生もいますし。
金井 no new folk studioは『Orphe』を使って今後はどんなことができるか試していくというフェーズ。そのため、アプリ開発やサーバサイドの開発を主導してくれるようなWebエンジニアがほしいです。ハード系だとクラウドを扱える人がなかなかいないので、クラウドに詳しい人だとなお良いですね。
山口 実はINUPATHYも、バックエンド担当のWebエンジニアを求めています。蓄積していった犬の感情データを何とマッチングさせると面白いのかを考えてもらいたい。私とディスカッションしながらプログラミングをしていくような人がほしいですね。
山口 IoTは「モノづくり」のイメージが強いせいか、メーカー出身の人が多いんですよ。でも、実際にモノとネットがつながる仕組みや、つなげた後の価値を作るのはWebエンジニアなので、そこにギャップが生まれていると思います。
金井 『Orphe』そのものを作るところまではデバイス開発のスキルが問われますが、ネットワークにつなげた後に蓄積されたデータをどう活用していくか、どのようにサービスとしての価値を高めていくかはWebエンジニアの得意分野だと思っています。なので、Webの分野でPDCAを回してきた経験則のようなものがほしいんですね。
文化の異なるエンジニアがプロジェクトを進めるために必要なのはコミュニケーション
金井 そうですね。デバイスはリリース後に変えられないので、デザイン(ソフトウエア)側で調整していくしかないと思います。ソフト側に尻拭いしてもらいながらやってもらうことはあります。
山口 これは私の個人的なポリシーなのですが、どんなチーム構成だとしても、コミュニケーションに注意しながらチームを成り立たせていくのが重要だと思っています。例えば、まずは問題を全部テーブルの上において感情抜きのディスカッションをしましょう、というように工夫したり。IoT製品はソフトウエア開発に比べて開発期間が長いので、よりチームのコミュニケーションが大事になってくるのだと考えています。
金井 確かに、異なる文化だからこそ、お互いの仕事や考えを理解するのが大切ですね。
山口 加えて、これはベンチャーで働く上で必要なマインドセットですが、「グレーゾーンにいかに身を置いていけるか」ということも大切だと思います。誰も明確な答えを持っていないので、白黒つける必要もないというか。これから新しいことをやっていくためには何でもやる、というマインドですね。
金井 スタートアップで何かを作るには、リスク上等!というところがありますもんね。
山口 そうなんです。そういった観点で見ると、モノづくりもソフトウエア開発も同じだと思うんですよね。手法にはこだわらず、とにかくやってみるという。確実性・堅実性と、スピードのバランスを取るのが難しいですけどね。
金井 堅実に、スピーディに……と求められることは多いですが、そこはもうメンバー全員でがんばるしかないですよね。後は、予想できるリスクを徹底してヘッジしていく。ハードウエアの開発は、欠陥があった時の回収などを考えるとどうしても慎重になってしまうので、リスクヘッジを徹底しながらWebサービスづくりのように開発スピードを落とさないように気を付けています。
岡島 2人の話からも分かるように、技術面での専門分野にこだわる人は向いていないと思います。サーバサイドを担当しつつ、アプリのプログラミングもしなきゃいけない、といった動きが必要になるので。会社によっては、エンジニアリングとは全く関係ない「商品発表のプレスリリースを書く」なんてことまで自分でしなくてはいけませんから。
岡島 そうですね。自分のスキルではなくプロダクトそのものにコミットしたい、という人でないと合わないことが多いです。「データベース領域に詳しいので、このプロダクトのデータベースまわりを担当したいです」という人だと、チームに適応するのが難しいかもしれません。
山口 専門はデータベース領域だとしても、プロダクト自体がどうすれば良くなるのかという視点で話ができる人が良いですよね。
金井 自分のスキルがフィットする場所を仕事にする、というより、「今ある穴ぼこを皆で埋めていく仕事」に参加してほしいですね。
山口 いろんな業務を経験してみると、「CADを書くのはこんなに大変」、「この作業って実はこんなに簡単」というように、他の人の仕事の感覚値を知ることもできます。そうすると、小さいチームでも仕事が進みやすくなるんです。そういう意味でも、担当にこだわらずにいろんな仕事をするというのは大事だと思いますね。
文・撮影/大室倫子(編集部)
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