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人気ゲーム『ダビマス』を手掛けたドリコム×IDCフロンティアに学ぶ、「クラウドサービス成熟期」におけるベンダーとの上手な協業方法

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    現在のWebサービス・スマホアプリ開発におけるインフラ構築で、クラウドサービスを利用するという選択肢はほとんど「当たり前」のこととなった。さらに、昨今では大規模な業務システムやミッションクリティカルな公共システムでもクラウド利用が進んでいるように、セキュリティ面などでも発展を遂げている。

    それに伴い、クラウドサービスを利用するユーザー側の要求は多岐にわたるように。性能への要求はもちろんのこと、コストや運用面などでも「より便利なもの」を求める傾向が強まっている。

    クラウドベンダー各社がそういったニーズを汲むべく改善と新機能の開発に精を出しているが、そのやり方の一つに、今回紹介する「ユーザーとの共同開発」がある。

    数多くのWeb・アプリサービスを運営するドリコムと、データセンターとクラウドサービスの提供で知られるIDCフロンティアは、2016年11月に公開されたスマホゲーム『ダービースタリオン マスターズ』(以下、『ダビマス』)の開発において、マルチクラウド環境でのインフラ運用を前提に協業。

    かつ、IDCフロンティア側は、(『ダビマス』リリース当時)まだ公式にサービス化していなかったオートスケール機能のあるロードバランサの開発情報を事前に共有したり、サービスリリース後も開発支援を行うなど、既存のサービス提供の枠を越えた形で「共同開発」を行っていたという。

    今回はこの『ダビマス』の事例を通して、開発チームとクラウドベンダーとの理想的な連携について考察していこう。

    プレゼン終了後に行われたアプリ体験会で、奨学生たちが開発したゲームを遊ぶ子供たち

    (写真左から)ドリコムのエンジニア木本達也氏、IDCフロンティアのソリューションアーキテクト藤城拓哉氏、ドリコムのエンジニア平石陽介氏

    ドリコムが『ダビマス』開発において重視した5つの項目

    ドリコムはこれまで、有名IPタイトルや『フルボッコヒーローズX』といったヒットゲームを生み出してきた実績がある。そのドリコムが、競走馬育成シミュレーションゲームとして1990年代から各種ゲームプラットフォームで根強いファンを獲得してきた『ダービースタリオン』初のiOS/Android版アプリとなる『ダビマス』を手掛けることもあって、ユーザーの注目はリリース前から高まっていた。

    そんな中、ドリコム社内で複数のサービスインフラ基盤を担当しているエンジニアの平石陽介氏は、以下のような技術的課題を解消すべく動いていた。

    「人気ゲームのスマホアプリ化ということで、サーバ側の負荷は非常に高いものになると想定していました。そこで、どこまでオートスケールが実現可能かを検証しつつ、他のゲーム運用のことも考えるとサーバ構築をクラウドベンダーごとに行うのが手間となるため、統一されたサーバ構築を行いたいと考えていました」(平石氏)

    稼働中のゲームタイトルではIDCフロンティア以外のベンダーを利用していたため、新規のベンダーを追加することによる開発現場の作業量増加を危惧したわけだ。

    そこで、マルチクラウドでのインフラ構築を決断し、ドリコム社内での体制構築と、要求に応えてくれるクラウドベンダーの選定に入る。

    その際、平石氏が挙げていた選定条件は以下の通り。

    1. コスト増を最低限にしながら品質を担保
    2. ioMemory搭載専有サーバの対応
    3. 提供されるAPIのカバー範囲と使いやすさ
    4. 幅広いスペック(Web用、DB用、KVS用)で選定、対応しやすい
    5. 日本人による手厚いカスタマーサポート

    これらの点で最も理想的なベンダーとして挙がったのが、IDCフロンティアだったという。今回のプロジェクトで窓口を務めた同社のソリューションアーキテクト藤城拓哉氏はこう話す。

    「IDCフロンティアでは2014年10月から『IDCFクラウド』を提供していますが、ロードバランサ(負荷分散)機能の強化やゲームアプリ向けの負荷テストを無償で行うなど、アプリ開発会社が望む機能強化を積極的に進めてきました。今回のように共同で課題を見いだして解決のための手法を共に探っていく取り組みは、社内でも理想的な事例になると思っていました」(藤城氏)

    藤城氏はこれまでも、オンラインゲームをはじめクラウドを活用したWebサービスで顧客とともに開発に取り組んできた経験が数多くある。

    「藤城さんは開発フェーズごとに『次はどんなプロセスが必要なのか』をよく分かってくれていたので、非常に頼もしかったです」(平石氏)

    ユーザー側とベンダー側双方で「足りないものを補い合う」開発

    さて、先述したベンダー側への要求の中で、ドリコム側が最も意識していたのが【3】APIのカバー範囲と使いやすさであった。合わせて、すでに社内で利用していた他社のクラウドサービスと合わせて、APIを一元的に管理するという課題が挙がっていた。

    この点で、IDCFクラウドはIaaSクラウド基盤OSSのCloudStack準拠のため、APIでカバーできる範囲が広く、設計・構築にあたって使いやすいというメリットがあった。ただし、

    ・ドリコム側でも複数のクラウドAPIの違いを解消するため、既存環境の見直しや新たなミドルウエアの導入と利用方法を工夫する開発が必要

    ・IDCフロンティア側でも新たなロードバランサ機能のサービス化(ILB)とAPIの提供を急ぐ

    という状況であったという。

    そこで、この2点については藤城氏およびドリコムでアプリのプロビジョニングとデプロイを担っていたエンジニア木本達也氏が、文字通り「協業」しながら解決にあたった。

    「ドリコムの開発現場には、細かな技術的課題ならば現場レベルで解消していける自由があるので、アプリのフロント構成は変えずにインフラ運営ができるように随時藤城さんと話し合いながら、ミドルウエアの導入を進めていました」(木本氏)

    また、負荷対策として短期間の間に大幅な仮想サーバの追加導入が必要なところを、IDCフロンティアの「ILB(Infinite Load Balancer)」を活用することで手間やコストの削減も実現できたという。

    「短期間のうちに膨大な仮想サーバを追加すれば、コスト面はもちろんCPU、メモリ容量など多岐にわたって上限を意識しながらの運用が必要になります。『ダビマス』を含めて、今後はSSLターミネーションが主流になっていくと思うので、ILBの活用によって想定以下のサーバ追加で済んだのは大きなメリットでした」(木本氏)

    藤城氏も次のように補足する。

    「ILBは2016年7月に追加リリースした機能で、ドリコムさんと共同で開発に取り組む中でその性能の高さ、運用時のメリットを実証することができました。さらにさまざまな課題を解決していくため、現場のエンジニアと相談しながら当時はまだ正式リリースしていなかったオートスケール機能の開発情報を共有していくような取り組みをしていましたね」(藤城氏)

    こうして、新しいことをどんどん取り入れる文化のあるドリコムと、IDCフロンティアの柔軟な対応がうまくハマったのだ。

    現場レベルでの緊密な連携が、クラウド活用の未来像に

    ドリコムのエンジニア木本達也氏、IDCフロンティアのソリューションアーキテクト藤城拓哉氏、ドリコムのエンジニア平石陽介氏

    オートスケール対応を見据えた情報共有が協業をうまく行かせる秘訣だった

    ちなみに今回のマルチクラウドでのサービス運用は、ドリコム社内で約1年前から進めてきたプロジェクトだという。

    複数のクラウドサービスとの比較・検討を繰り返してきた上で、最終的にIDCフロンティアを選んだ理由は、コスト面を含めて構築から運用後の保守も含めてこまめにサポートしてくれる体制にあったと平石氏は説明する。

    「IDCFクラウドがCloudStackベースだったこともあり、対応したオープンソースのライブラリが活用できるケースも多く、結果的に技術障壁はほとんどありませんでした。別のクラウド事業者の仮想マシンより1コアあたりのスループット性能が高いので、比較するとコスト圧縮にもつながっています。そして、こういった利点に加えて、やはり藤城さんがスマホゲームのインフラ運用で必要となるポイントに精通していたことがありがたかったです」(平石氏)

    最近は冒頭で記したように、クラウドサービスを活用する企業側では、より柔軟性な対応力や開発チームのニーズに即応する動きを求める声が高まっている。今回の『ダビマス』プロジェクトは、まさにこのような状況でサービス利用側・ベンダー側の双方が担うべき役割を完遂した形だ。

    「他社のクラウドサービスが圧倒的なシェアを握っている中で、IDCフロンティアは、クラウドサービスを活用する側のニーズにしっかり寄りそうことで差別化を図っていこうと思っています」(藤城氏)

    実はリリース直後、想定以上の負荷がありスケールアップが必要だったが、IDCFクラウドではすぐに対応することができたという。こうして、『ダビマス』は大きなトラブルなくリリースからわずか2カ月後の1月5日に累計100万ダウンロードを達成している。この好調の裏側には、開発チームとベンダーとの密接な課題解決への取り組みがあったというわけだ。

    取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)

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