海外有名テック企業の大量解雇や採用停止、円安の影響による海外就労人口の増加など、ITエンジニアを取り巻くニュースが多かった2022年下半期。「日本のテック企業やエンジニアへの影響を考えた」という方も多いだろう。そこで『エンジニアtype』では各識者や最前線にいるエンジニアたちにインタビュー。2023年のIT転職市場は一体どうなるのか。少し先の未来を考えてみた。
【解説】GAFAの株価さえ急落……欧米で進むレイオフの波は日本にもやってくる? 2023年エンジニア採用トレンド/高野秀敏
2022年は米国の利上げをきっかけに海外テック企業の株価が軒並み下落し、GAFAをはじめとする巨大IT企業でも大量解雇や採用凍結に踏み切るケースが相次いだ。海の向こうから届くネガティブなニュースを聞いて、不安を感じているエンジニアもいるだろう。
果たしてこの流れは日本に波及するのか。そして来年のIT業界はどのように変化するのか。企業経営や人材採用の動向に詳しい株式会社キープレイヤーズ代表取締役の高野秀敏さんに、2023年のエンジニア採用のトレンドを解説してもらった。
株式会社キープレイヤーズ
代表取締役
高野秀敏さん(@keyplayers)
1999年に株式会社インテリジェンス入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに1万1000人以上のキャリア面談と、4000人以上の経営者の採用相談にのる。投資した企業は55社以上にのぼり、うち5社が上場
日本企業が大幅な人員削減を行う可能性は極めて低い
――2022年はこれまで右肩上がりを続けてきた欧米テック企業の株価が暴落し、大規模な人員削減を押し進めるケースが続出しています。この流れを受けて、日本でもエンジニアの採用抑制やリストラが起こる可能性はあるのでしょうか。
高野:日系の企業については、しばらくないと思います。なぜなら日米では雇用環境や働き方の文化がまったく異なるからです。
米国には世界中から優秀な人材が集まっているので、いったん社員を大量に解雇しても、「経営が上向いたら、またいくらでも採用すればいい」という考え方があります。
そもそも終身雇用文化が根強く残る日本とは違い、米国企業の従業員はプロジェクト単位で契約し、長期雇用が保障されない代わりに年収が高く設定されている。よって米国では、企業の戦略や方針が変わったタイミングで雇用契約が打ち止めになるのは、特に珍しいことではありません。
それに対し、日本は規制が厳しく社員を解雇しづらいこともあり、欧米ほどドライな働き方が浸透していません。しかも日本は少子高齢化で労働人口が減少している上に、エンジニアなど特定の技能を持つ人材はさらに限られます。いつでも欲しい時に人材を採用できる米国に対し、日本は絶対的に人が足りていないのです。
ですから日本の企業は、そう簡単に大幅な人員削減や採用抑制に走るわけにはいかない。米国で今起こっていることが日本でも起こる可能性は低いと考えるのが妥当でしょう。
――日本のエンジニア不足については、経済産業省の調査(*)で「2030年にはIT人材が最大で79万人不足する」との試算が出ているほどですから、日本における採用ニーズは多少の景気変動には影響されないということでしょうか。(*)経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」
高野:今後米国がリセッション(景気後退)に入った場合は、米国に本社を置くグローバル企業の日本拠点でも、一時的に求人を減らすなどの対応をとる可能性はあります。また外資系投資会社が日本のスタートアップへの投資に慎重になり、その影響で国内のスタートアップ企業が採用に消極的になることは考えられます。
ただ、それでもエンジニア職種については軽微な影響にとどまると思います。現時点でも国内のエンジニア不足は深刻で、多くの企業は人を増やしたくてもなかなか採用できず、IT人材の確保に苦労しています。
加えて日本の場合、転職市場におけるエンジニアの求人数で大きな割合を占めるのは、受託開発を手掛けるSIerやITコンサルです。このビジネスモデルは人が多いほど受託できる案件も増え、会社の売り上げが伸びる構造なので、不景気でも業績を維持したいなら、なおさら人員は減らせないでしょう。
IT企業の金融業進出、非IT企業のIT進出など、新たな動きに注目
――来年以降も日本では売り手市場が続くとしたら、エンジニアtype読者にとって朗報です。中でも採用ニーズが高まることが予想される業界や業種はありますか。
高野:私が代表を務める株式会社キープレイヤーズのグループが手掛ける『PayCareer』の求人動向を見ると、SIerやITコンサルではAIやブロックチェーンの技術に強いDXエンジニアのニーズが高く、この傾向は来年も続くと考えられます。
また従来は基幹系・業務系開発が主流だったSIerも、現在はWeb開発が中心になるため、SI業界におけるWebエンジニアの需要は上昇傾向です。
メルカリ子会社のメルペイがクレジットカード事業に参入するなど、IT企業が金融業に進出するケースが増えているのも注目すべきトレンドです。この流れを受けて、今後はフィンテック領域での採用も伸びると思われます。
一方で、非IT企業によるITビジネスへの進出も加速しています。放送や出版社などのメディア系やアパレルブランドなどの事業会社がIT子会社を立ち上げ、独自のビジネスを推進し始めているので、当然エンジニアの採用には力を入れるでしょう。
また東京・日本橋周辺にオフィスを構える「日本橋ベンチャー」と呼ばれる新興企業群の中から、大型の資金調達に成功して事業を急拡大させる企業が増えているのも要注目です。
日本橋ベンチャーの特徴は、すでに何度か起業を経験した30代から40代の経営者が多いこと。ノウハウが蓄積されているため、ユニコーンを狙うほどではありませんが、堅実に売り上げや利益を伸ばしています。
ベンチャーやスタートアップでチャレンジしたいと考えるエンジニアは、こうした業績好調な企業の採用情報にも注目するといいでしょう。
――技術領域で注目すべきものはありますか?
高野: Meta(旧Facebook)の失速やFTXの経営破綻などネガティブな要素もありますが、中長期的に見るとメタバースやNFTなどのWeb3は伸びるでしょう。この領域で必要とされるRustやSolidity、Vyperなどのプログラミング言語を習得した人は、市場ニーズも高くなります。
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などのXR技術も引き続き需要があるので、ゲームエンジンのUnityやUnreal Engineを扱える人や、XRサービスを支えるサーバーサイドエンジニアが求められる場面は増えていくと思います。
もう一つ、注目が高まっているのが品質保証管理の領域です。例えばソフトウエアの品質保証やテストサービスを提供する株式会社SHIFTは近年急速な成長を遂げ、2022年11月末時点の時価総額は5000億円、従業員数9000人超の規模に達しています。
今はあらゆるサービスやプロダクトにおいて高いレベルでの品質保証が求められますが、SIerやITコンサルは開発にリソースを取られて手が回らないため、この領域に特化したSHIFTのような会社にアウトソースするケースが増加中です。
この領域で求められるのがQAエンジニア(品質保証エンジニア)で、これまでは必ずしも人気の高い職種とは言えなかったかもしれませんが、現在は非常にニーズが高い。さらにチームをまとめるマネジメントスキルがあれば、市場価値も年収も極めて高くなります。
――他にもニーズが高まりそうな職種はありますか。
高野:現在でも求人が多いのはPMやPdM(プロダクトマネジャー)で、今後も高い需要が続くでしょう。それと比較すると数は少ないですが、CTOやVPoEを探している企業も増えています。
注目したいのは、いずれの職種においても企業は開発のバックグラウンドを持つエンジニア出身者を求めている点です。DX関連のプロジェクトが急増しているので、技術を理解した上で案件や組織をリードできる人材にはニーズがあります。
開発経験を軸としつつ、サービス企画やデザイナーへのディレクションもできると、市場価値の高い人材として評価され、報酬も上がりやすくなります。
また、サーバーサイドエンジニアのニーズも引き続き伸びると考えられます。今は端末にダウンロードするネーティブアプリより、ブラウザで動くWebアプリが主流になったため、クライアントアプリのエンジニア需要は縮小傾向で、採用ニーズもサーバーサイドへ移行しています。
今後サーバー側の負荷が過大になるといった環境変化があれば、再びネーティブアプリが主流になって、クライアント側のエンジニアが求められる時代が来るかもしれませんが、2023年の潮流としてはサーバーサイドのニーズが高い傾向が続くでしょう。
マネジメントスキルなど技術以外の「プラスα」を持つエンジニアが特に求められる
――とはいえ、ニーズが高い職種や領域のエンジニアでも、「企業が欲しがる人材」とそうでない人材はいるかと思います。2023年以降、特に日本のIT企業で求められるエンジニア像とはどのようなものですか。
高野:「総合力」が一つのキーワードになります。もちろん特定の技術を極めた人材が必要とされる場面もありますが、現実には多くの企業で従来の職務に加えて「プラスα」が求められるようになっています。
例えば、サーバーサイドエンジニアでもフロントサイドの技術に理解があるとか、小規模案件であればAWSでインフラ構築できる人は、現場で重宝される。
最近は、Webアプリ開発をRailsからGOに切り替える企業も増えているので、こうした新しい言語をいち早く習得し、どんな言語でも書ける人は今後さらにニーズが高くなります。
あるいは先ほど挙げたように、マネジメントスキルなど技術以外のプラスαがある人も必要とされています。
サッカーでもドリブルが圧倒的にうまいとか、シュートは絶対に外さないとか、一つの技を極めることで日本代表に選ばれる人もいると思いますが、派手な見せ場はなくてもずっと試合に出続ける選手もいますよね。
それは、サッカーの技術に加えて、体力や精神的なタフさなどを備えた総合力のある人材だからです。
エンジニアも同じで、「この技術なら負けない」というものを追究する生き方もありますが、幅広いスキルや知識を身に付けて活躍する道もある。2023年以降のキャリアを検討するなら、自分はどちらを目指すのかを考えてみるのも大事なことではないでしょうか。
【後編】はこちら! 下記を解説いただいています!
・2023年に流行りそうなエンジニアの転職活動の形
・特に注目の新・転職活動法
・次のトレンドをうまく活用するために、エンジニアにとって大事な行動
取材・文/塚田有香 編集/玉城智子(編集部)
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