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“池上彰力”を磨いて発信せよ。エンジニアの転職・採用活動にSNS×ダイレクトリクルーティングの時代が本格到来/高野秀敏【後編】

転職

    海外有名テック企業の大量解雇や採用停止、円安の影響による海外就労人口の増加など、ITエンジニアを取り巻くニュースが多かった2022年下半期。「日本のテック企業やエンジニアへの影響を考えた」という方も多いだろう。そこで『エンジニアtype』では各識者や最前線にいるエンジニアたちにインタビュー。2023年のIT転職市場は一体どうなるのか。少し先の未来を考えてみた。

    IT人材の不足を背景に、2023年も引き続き売り手市場が続くことが予想されるエンジニアの転職マーケット。

    ここ1~2年で、転職・中途採用にSNSを活用するエンジニアや、ダイレクトリクルーティングで一本釣りを行う企業が増えるなど、転職やリクルーティング方法も多様化している。

    では、2023年のエンジニアの転職活動のトレンドは、どのように変化するのだろうか。

    企業経営や、ベンチャー・スタートアップ等のエンジニア採用の動向に詳しい株式会社キープレイヤーズ代表取締役の高野秀敏さんに解説してもらった。

    >>>高野さんの解説【前編】はこちら

    プロフィール画像

    株式会社キープレイヤーズ
    代表取締役
    高野秀敏さん(@keyplayers

    1999年に株式会社インテリジェンス入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに1万1000人以上のキャリア面談と、4000人以上の経営者の採用相談にのる。投資した企業は55社以上にのぼり、うち5社が上場

    発信力のあるエンジニアが転職で優位に立つ時代に

    ――SNSを活用したリクルーティングが浸透するなど、転職活動のスタイルや企業の採用手法も近年大きく変化しています。エンジニアの転職活動で、2023年にトレンドになりそうなものはありますか。

    高野:一つ目のトレンドは、カジュアル面談から始めるのが一般的になりつつあること。いきなり選考のための面接から始める企業は減っていて、「まずはお互いをよく知るために会って話をする」というフランクな対話の場を設けます。

    エンジニア不足で採用に苦労している企業としては、できるだけ多くの求職者と接点をつくりたいので、より気軽に応じてもらえるカジュアル面談を増やしている背景があります。

    二つ目のトレンドは、SNSによるダイレクトリクルーティングの本格化です。日本ではダイレクトリクルーティングをうたいながら、実際は仲介の人材紹介会社や転職エージェントがスカウトメールを送っているケースも多いのですが、私が言っているのはSNS上で企業が求職者に直接アプローチすること。

    最近はこの採用手法を「ソーシャルリクルーティング」と呼ぶこともあります。

    ――エンジニア採用には、今後どのSNSがよく使われるようになると思いますか。

    高野:ここ数年のトレンドはTwitterとLinkedInで、23年も引き続きこの二つを活用する企業は多いと思います。

    かつてはFacebookがリクルーティングに使われた時期もありましたが、現在は日本のユーザー層の年齢が上がっているので、若手の採用に使うのは難しい。

    その点、TwitterとLinkedInはあらゆる年代が使っていて、日本語と英語の両方で発信している人も多いので、日本企業だけでなく外資系企業もアプローチしやすいのがメリットです。

    とはいえ、この二つに限定する必要はありません。発信の場が多いほど、自分の存在が企業の目にとまりやすくなるので、転職を検討しているのであれば、可能ならInstagramやYouTube、noteなども使うといいでしょう。

    どのSNSを使うにしても、プロフィール欄を充実させて、有益な投稿をする人は高く評価されるので、どんどん発信してほしいですね。発信力のあるエンジニアはまだまだ少ないので、皆さんが思っている以上に多くの企業からアプローチが来るはずです。

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    ビズサイドと開発サイドをつなぐ「翻訳力」を磨け

    ――“有益な投稿”とおっしゃいましたが、具体的には何を発信すればいいのでしょう?

    高野:私がお勧めするのは、「ビジネスサイドと開発サイドをつなぐ情報」を発信することです。

    例えば、技術に詳しくないビジネスサイドの経営者や管理職に向けて、「Web3とは何か」を分かりやすく解説する。

    つまり技術的な専門知識がない人でも理解できる言葉で翻訳する力があると、そのエンジニアの市場価値はものすごく上がります。これを私は“池上彰力”と呼んでいます(笑)

    なぜ翻訳力のあるエンジニアが評価されるかといえば、大半の日本企業では、社長をはじめとする意思決定者はビジネスサイドの人が占めているからです。

    一部のテック企業にはエンジニア出身のトップもいますが、多くの場合は技術をよく知らない人が経営をしている。でも今の時代に会社を成長させるには、ITやデジタルを活用しないわけにはいかないので、ビジネスサイドも技術を理解したいと思っています。

    そこへ最先端のテクノロジーやトレンドを分かりやすく翻訳してくれるエンジニアが現れたら、「これはすごい人材だ」と思い、高い報酬を払ってでも雇いたくなるわけです。

    ――技術ブログを書くエンジニアは増えていますが、それともまた違う視点が必要になりますね。

    高野:どちらかといえば技術ブログは、エンジニア同士で知見を共有するのが主な目的ですよね。でも転職を目的として発信するなら、雇用する側の人に役立つ情報を意識することが大事です。

    私自身も文系出身の経営者なので、「ゼロから分かる経営者向け開発講座」といった発信があったら読みたくなりますし、技術者をマネジメントする管理職なら「エンジニアがされるとうれしいこと」とか「エンジニアと仲良くなる方法」といった情報も役立つでしょう。

    エンジニアのバックグラウンドを持たない人が経営も採用もやっている会社が多い以上、「どんな情報を発信するとビジネスサイドに喜ばれるか」を意識することが、自分の存在を印象付けるポイントになります。

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    「技術に強い会社」だけでなく「ビジネスに強い会社」も転職先の選択肢に

    ――他にも、2023年に転職を考えているエンジニアが、自分の市場価値をさらに高めるためにできることはありますか?

    高野:前編」でもお話ししたように、技術力だけで勝負するキャリアもあっていいのですが、そこにプラスαがあればさらに自分の市場価値を高められます。

    例えば、決算書が読めたり、企画や財務の人と話ができるだけのコミュニケーション力を持ったエンジニアがいたら、経営者は「ぜひこの人と働きたい」と思うもの。

    ですから、少しだけ自分の興味関心の範囲を広げて、自分なりにビジネスの知識を学んでみると、転職市場での評価も格段に高まります。

    また、私からもう一つ提案したいのは、転職先の選択肢に「ビジネスに強い会社」も加えていただきたいということ。

    エンジニアの皆さんは、「技術に強い会社」や「技術が分かる人たちと一緒に働ける会社」を条件に転職先を探す人が多いと思います。

    それも一つの選択肢ですが、経営者が優秀で事業の将来性もあるのに、今はエンジニアが足りていないために成長しきれていない会社もたくさんある。

    こうした会社にジョインし、会社の技術力向上に貢献した結果、業績が急拡大したり上場を果たしたりすれば、経営者は「自分の会社を成功させてくれたエンジニア」として高く評価するので、ポジションも報酬も大きくアップします。

    ビジネス出身の経営者はエンジニアの技術力そのものを評価できない代わりに、売り上げや利益など数字で分かる成果を出せば、技術者出身の経営者以上に高い待遇や給与を与えてくれる可能性があるのです。

    ――ビジネスに強い会社をあえて選ぶことで、自分の評価が相対的に上がる可能性が高いわけですね。

    高野:はい。実際のところ、ビジネスは強いが技術力がまだ弱い会社は、エンジニアの求人を出しても、カジュアル面談にすら応じてもらえず苦戦しています。

    スカウト型面談サービス『PayCareer』は企業と面談するだけで報酬をもらえるサービスですが、それでもビジネス系の会社はなかなかエンジニアに会ってもらえないと聞いています。

    「お金を払ってでも会いたい」と言ってくれる企業がこれだけ多くあるのですから、声が掛かったらとりあえず話だけでも聞いてみれば、意外なところに自分を高く評価してくれる会社があるかもしれません。

    これだけの売り手市場にも関わらず、より良い報酬や環境を求めて転職活動を行うエンジニアは少ないというのが私の印象です。SNSの発信を続けつつ、ダイレクトでオファーが来たらチャンスを逃さず行動する。そんな人は、23年に“良い転職”ができるのではないでしょうか。

    下記の内容を解説いただいた【前編】もぜひご一読を!
    ・欧米テック株暴落に日本は続くのか?
    ・特に採用ニーズのある業界、職種は?
    ・日本のIT企業で求められるエンジニア像は?
    >>前編はこちら

    取材・文/塚田有香 編集/玉城智子(編集部)

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