コーディングテストを導入すると「母集団形成ができない」は大間違い? エンジニア採用のジレンマを解消する意外な真実
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即戦力として活躍してくれるエンジニアの中から、スキル、カルチャーともに自社にマッチする人材を採用するのは難しい。
実際、コーディング試験サービス『HireRoo』を提供するハイヤールーがエンジニア採用の担当者を対象に実施した調査によると、約84%の企業で採用のミスマッチが起きていることが明らかに。
ミスマッチを感じた点については、「パフォーマンスが期待より低い」と答えた企業が66%となっており、エンジニア採用の現場では、カルチャーフィット以上にスキルのミスマッチが課題になっていることが分かった。
最近では、候補者の技術力を確認するために、採用面接を現場のエンジニアが担当するケースも多い。しかし、そうした中でもミスマッチ採用が起きるとすれば、どのような解決方法があるのだろうか。
ハイヤールー代表の葛岡宏祐さんは、「技術力のミスマッチを防ぐためには、定量的・定性的なスキルの測定が不可欠。そこでコーディングテストを活用してほしい」と話す。
今、エンジニア採用の現場で起きているミスマッチ採用の実態とあわせて、コーディングテストの活用法について聞いた。
優秀人材の流出、チームのモチベ低下……組織崩壊を招くミスマッチ採用
——ハイヤールーの調査によると、多くの企業がエンジニア採用でミスマッチを経験していることが分かります。ミスマッチ採用によって、各社のエンジニア組織ではどんな問題が起きていますか?
これまで私たちがエンジニア採用の支援を行ってきた企業では、ミスマッチ採用が原因となり、もともと組織で活躍してくれていたスキルの高い既存社員が離職するケースが頻繁に起きています。
日本企業は一度雇った社員を容易には解雇できないため、パフォーマンスの低い人に合わせて仕事を割り振ったり、マネジメントをしたりしなければなりません。
その結果、まずその人をフォローしているマネジャーが疲弊してしまう。そして、この状況が長く続くと、会社にとって大事なスキルレベルの高いエンジニアへの声掛けやフォローアップが後回しになってしまい、彼らの意欲がしおれていく。
将来的には組織をリードする存在になってくれたであろうエンジニアたちから「ここでは成長できない」と見限られてしまうような事態に陥ります。これはまさに、組織崩壊ですよね。
——すごくリアルですね。実際にそういうシーンに直面したことがあるエンジニアも多そうです。
そう思います。さらに言えばこの状況は、パフォーマンスを発揮できないエンジニア自身のキャリアにも悪影響を及ぼします。
ミスマッチ採用によって組織崩壊が起こった場合、その人材は会社のさまざまな部署を転々と異動することになるケースが大半です。
それでフィットする部署と出会えれば良いのですが、同じ会社ですからうまくいかないことが多い。
最終的には難易度も優先度も低いタスクをひたすらこなすことになりがちですが、本人のモチベーションも上がらないでしょうし、エンジニアとしての成長もありませんよね。
——採用のミスマッチは転職者にとっても、その人を迎え入れる組織にとっても不幸を招いてしまうことがよく分かりました。最近では現場のエンジニアがカジュアル面談をしたり、選考フローの中で面接官を務めたりする機会も増えていますが、それでもスキルのミスマッチが起こってしまうのはなぜでしょう?
原因は大きく挙げると二つあります。
一つ目は、技術力を統一的・定量的に測る手段を取り入れず、口頭確認のみで済ませてしまうことです。
例えば「Pythonが分かります」という人が10人いたとして、10人全員が同じレベルなわけはありません。しかし、その差を口頭で見分けるのはなかなか難しい。その上、面接に慣れているかどうかで印象は大きく左右されますよね。
ここに、二つ目の原因である「経歴採用」の影響が加わります。
——経歴採用とは?
「〇〇大学の院卒なら優秀だろう」「元〇〇のエンジニアなら即戦力が期待できる」と、面接官が経歴をもとに候補者を判断してしまうことです。
このバイアスは当てにならないばかりか、「文系出身には期待できない」などと、候補者にとってマイナスに働くこともあります。ちなみに僕は中卒なので、多くの場合は書類の段階で真っ先に落とされることでしょうね(笑)
ーーそこで、コーディングテストを活用すべきだと。
はい。統一的・定量的な指標がないことは、採用側の企業にとってはもちろん、候補者にとっても不利益が大きいのです。私たちがコーディング試験サービスを通じて解決したい課題は、まさにここにあります。
技術力の定量評価とコーディング過程の「プレイバック」でエンジニアの真価を測る
——コーディング試験サービスがミスマッチ採用の課題解決に効果的な理由を詳しく教えてください。
まず、冒頭で挙げた「組織にとって技術力の足りないエンジニア」の採用を防ぐことが可能です。
私たちが提供しているコーディング試験サービス『HireRoo』のテストでは、コードの正答率・実行速度・コードの読みやすさなど、実務に即した指標で技術力が定量的に可視化されます。
これらのスコアは経歴や人格によるバイアスの影響を受けないため、客観的にエンジニアの技術力を測ることができるのです。
さらに、『HireRoo』にはコーディングの過程を再生できるプレイバック機能があります。これによって、候補者のスキルを定性的にも測ることができます。
——コーディングにおける「定性評価」とは、具体的にはどのような点が該当するのでしょうか?
まずはコードを書く手順ですね。
一般論ではありますが、構成のしっかりしたコードを書くには、頭からズラズラと書き始めるのではなく、ざっくりと骨子を作ってから細部を作り込んでいく方が効率が良いとされています。
大規模なシステムを設計する際には特に欠かせないスキルですので、ここのチェックは欠かせません。
それから、コーディングテストのどこで詰まったのかも可視化されます。
初歩的な部分で長く手が止まるようなら、技術力が足りていないかもしれません。結果的には試験時間内で正解にたどり着けたとしても、日ごろの業務で要求される作業スピードに達しないリスクがあると判断できます。
コーディングの過程で検証を行った回数も重要なチェックポイントです。検証を行っていなかった場合、今回のコードが正しく動いたからといって技術力が高いとは言い切れません。
書いたコードを精査せず、バグが含まれたまま提出することを日常としている可能性が高いですからね。
これらの定性的な結果は、ぜひ面接時にも活用してほしいと考えています。「ここはどうしてこうしたの?」「このときはどう考えていたの?」など、コーディングの過程の思考を知る効果があるはずですよ。
——完成したコードが同じであっても、過程に注目することでエンジニアの実力をより精査しやすくなるのですね。
その通りです。定量・定性の両方で技術力を可視化することで、「面接での受け答えがうまいだけのエンジニア」や「たまたまテストがうまくいったエンジニア」をスクリーニングできます。
とはいえ、採用を成功させるにはコーディングテストの結果だけに頼らないことも大切です。なぜなら、採用が成功するかどうかは、技術力はもちろん、カルチャーマッチも大きく影響するから。
技術力が高くても、コミュニケーション力が求めるレベルに達していなければチームメンバーとの協働は難しくなります。とはいえ、それを課題と捉えるかどうかは会社次第です。
「高い技術力で開発に集中してくれれば、コミュニケーションは重視しない」という状況ならば、別段問題になりませんからね。
反対に、「技術レベルはもう一息だが、成長意欲が高くてパーソナリティーもチームにマッチする」と感じられれば、技術面は社内で育成する手段もあるわけです。
ですから、コーディングテストの結果を判断材料の一つとしつつ、最終的には面接などで総合的に判断してほしいと思います。
コーディングテストは、母集団形成と採用効率アップを同時にかなえる
——テック系のメガベンチャーなどではすでにコーディングテストを選考に組み込んでいる企業が多い印象ですが、広く浸透していないのはなぜなのでしょうか?
企業としては、コーディングテストの存在がネックになって候補者が応募をためらうことを懸念しているようです。
ご存じの通りエンジニアは売り手市場なので、どの企業も例外なく候補者集めに苦労しています。
その状況で容易ではないコーディングテストの受験を課してしまっては、より母集団が形成しづらくなるのではないか……と警戒してしまうのでしょう。
気持ちは理解できるのですが、実はこれは大きな誤解なんです。
私たちの調査によると、95.5%のエンジニアが選考の過程でコーディングテストがあることに対して「あって当然・気にならない」と回答しているんですよ。
さらに言えば、コーディングテストはむしろ母集団を広げる助けにもなってくれます。
——それはなぜですか?
コーディングテストなしで採用を行う場合、面接で技術力を測っていく必要がありますよね。
すると、書類選考や面接に掛かる時間的なコストが膨大になるので、母集団形成の段階で候補者の技術力を一定は担保したいという思いが芽生えるんです。
その結果、企業はスキルマッチの見込みが高い集団にだけアプローチしようとします。出稿する求人サイトを厳選したり、エージェント経由での応募しか受け付けなくなったりと、候補者と接点を持つ場を狭めてしまうんです。
これでは、「母集団が形成できない」という課題を持ちながらも、機会損失をしてしまっていますよね。
ですが、面接の前にコーディングテストを導入していれば、どんなに候補者が多くても技術力でのスクリーニングが可能です。なので、母集団形成をしつつも、採用に掛ける時間も短縮できます。
『HireRoo』の導入企業の実績を見ると、コーディングテストの平均通過率はわずか18%でした。これはつまり、従来であれば10人と面接してスキルを確認しなければならなかったところを、確かな技術力を持つ2人とだけ面接できることを意味します。
——広いターゲットにアプローチできるだけでなく、チームにマッチする可能性の高いエンジニアとの面接に集中できるということですね。
そうなります。
冒頭の話とも重なるのですが、書類選考は必須ではないと思っているんです。プラスにせよマイナスにせよ、何らかのバイアスを生んでしまいますし、完璧にスクリーニングできるわけでもないですから。
であれば、スキル面の判断はコーディングテストで行って、面接ではカルチャーマッチをていねいに確かめていった方が満足度の高い採用につながるはずです。
いずれエンジニアの書類選考がなくなり、「まずはコーディングテストから」という流れになれば、僕のような学歴の人間でも、今持っているスキルをよりフラットに評価してもらいやすくなる。
さまざまなバックグラウンドを持つエンジニアたちが、よりいっそう働きやすく、生きやすい社会に近づいていくと信じています。
取材・文/夏野かおる 撮影/桑原美樹
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