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「すべてプレスリリースから考えよ」アマゾンジャパンのPMに学ぶ仕事の流儀とキャリア展望【及川卓也のプロダクトマネジャー探訪】

働き方

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    アマゾンジャパン合同会社  Audible事業部 事業部長
    古屋 美佐子さん

    アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)やノーテルネットワークスで主に先端通信技術の導入支援を手掛けた後、2003年にアマゾンジャパンへ転職。以後、Amazonブックスの日本立ち上げやモバイルショッピング事業のプロダクトマネジャーなどを担当し、14年より日本におけるオーディオブックサービス『Audible』の事業全体を司る事業部長に就任

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    Increments株式会社 プロダクトマネージャ
    及川卓也氏

    早稲田大学理工学部を卒業後、日本DECに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、1997年からはMicrosoftでWindows製品の開発に携わる。2006年以降は、GoogleにてWeb検索のプロダクトマネジメントやChromeのエンジニアリングマネジメントなどを行う。15年11月、技術情報共有サービス『Qiita』などを運営するIncrementsに転職して現職に

    【PMになるまでのキャリア 】コンサル時代に行っていた「ビジネスと技術をつなぐ役割」が役に立った

    アマゾンジャパンの柳田晃嗣氏、古屋美佐子さん、Incrementsの及川卓也氏

    今回の鼎談はアマゾンジャパンのオフィスで行われた

    及川 先に読者向けに説明すると、柳田さんと僕はGoogleで一緒に働いていた時期があって、顔見知りなんです。

    柳田 ええ、お元気そうで何よりです。

    及川 今回の鼎談は旧知の仲だった柳田さんにお願いをして実現したのですが、ご紹介いただいた古屋さんは、アマゾンジャパンでPMを経験した後に『Audible』の事業部長になられた方だそうで。

    古屋 はい、そうなんです。

    及川 この連載はいろんな会社のPMに話を聞いていくものなので、「元PM」の方にご登場いただくのは初めてなんです。そこで今回は、PMを経験した後どのようなキャリアを築くことができるのかも聞いてみたいと思っています。

    古屋 私の経験談でよろしければ!

    及川 ありがとうございます。ではその前に、古屋さんがアマゾンジャパンに入社するまでのご経歴を教えてください。

    古屋 大学を卒業して最初はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入り、その後、通信ネットワーク機器の販売を行うNorthern Telecomの日本法人(現ノーテルネットワークス)に転職しました。

    アマゾンジャパンに入ったのは2003年12月。日本法人が立ち上がったのが2000年なので、私が入った当時はまだ、社員全員の顔と名前が一致するくらいの規模でした。

    及川 ご入社した当時からPMを?

    古屋 はい、書籍販売のPMとして入社しています。

    及川 コンサルティングや通信ベンダーで積んできた経験の中で、どの辺りがPMとして評価されたとお感じですか?

    古屋 アンダーセン時代はBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を支援する仕事が中心で、主に通信事業者向けのプロジェクトに携わっていました。

    そこではビジネスプロセスの見直しとは言いながら、データベースの設計やRAD(高速アプリケーション開発)の導入など、当時としては最先端の技術に触れながらコンサルティングの仕事をしていました。

    その後に入ったノーテルでも、広帯域固定系無線アクセスシステムの日本導入プロジェクトなどをやっていたので、立場が変わっても一貫して「ビジネスと技術をつなぐ役割」を担っていた形になります。その経験が評価されたのではないかと思っています。

    及川 なるほど。

    古屋 PMの役割の一つには、ビジネス側とシステム側をつなぐ通訳のような側面がありますよね? ビジネス側の人間はしばしばアウトプットのみを語りがちですが、そうではなく、インプットとアウトプットを正しく定義できて、めざす姿をロジカルに説明できることが重要かと思います。

    また、「ビジネスと技術をつなぐ」という点で言うと、アンダーセンに入社してすぐに受けたプログラミングの研修も、システム思考を身に付けることができたという意味で役立っていると感じます。

    及川 その後、『Audible』の事業部長になるまではどんなお仕事を?

    古屋 消費財部門などを経て、2010年から2014年まではモバイルショッピング事業のPMをやっていました。

    及川 今、柳田さんが見ている事業ですね。

    古屋 ええ。当時は日本でスマートフォンの普及がやっと始まり出したころで。「スマホで本当にモノを買うの?」と聞かれるような時代でしたが、日本はガラケーの普及率が高くモバイル先進国だったこともあり、スマホ移行を急ぐことで実績を上げられるだろうと。

    それでUS本社に掛け合いながら、スマホアプリの開発とWebサイトのモバイル最適化を先導した結果、何とか事業を軌道に乗せることができ、他国のモバイル戦略で先行事例として扱われるようにもなりました。

    そこで次のチャレンジとして、日本では新規事業となる『Audible』の事業統括をやってみようと思い、今に至っています。

    【アマゾンにおけるPMの役割】変化を促すチェンジドライバーであり、オーケストラの指揮者のようなもの

    アマゾンジャパンの柳田晃嗣氏、古屋美佐子さん、Incrementsの及川卓也氏

    グローバルに事業展開しているアマゾンのPMは、どうチームリーディングをしているのか?

    及川 では次に、アマゾンジャパンにおけるPMの役割について教えてください。柳田さんから見て、PMの役割はどういったものになりますか?

    柳田 とことんカスタマーを中心に考えるというのがアマゾンの企業文化であり、そこからビジネス企画・商品企画を作り上げ、開発チームと連携しながら形にしていくのがPMの役割になります。

    その後、実際に開発を進める際はどういうやり方がいいのか?や、どれくらいのリソースが必要か?などを取り仕切るのは、テクニカルプログラムマネジャー(以下、TPM)の役割。

    さらにそこから先の開発チームマネジメントは、エンジニアリングマネジャーが担っています。

    及川 会社によって、PMは事業推進と開発チームのマネジメント両方を行う立場だったりします。一方、アマゾンジャパンさんではPMとTPM、エンジニアリングマネジャーが分かれているとのことなので、それぞれが分業し合う形になっている?

    柳田 いや、実際にはプロジェクトの規模や内容によってケースバイケースです。

    アマゾンはグローバルに開発拠点があるので、開発を日本国内でやることもあれば、海外のエンジニアチームに依頼することもあります。先ほど古屋が話したような「日本先行」のプロジェクトもあれば、グローバルで足並みをそろえながら進めるプロジェクトもあるためです。

    基本的には、PMが世界各国の開発チームの動向を把握しつつ、TPMを通じて日本のニーズを伝えて優先順位を上げるように促していく……というのが仕事の流れですが、プロジェクト内容によってはPMがTPMの役割を行うこともあります。

    古屋 当社では、PMの役割自体がすべて決まっているわけではないんです。トラフィックや売り上げを向上させることに専念しているPMもいれば、システム的な企画までやるPMもいる。例えば私が書籍販売のPMをやっていたころは、前者寄りの仕事を中心にやっていました。

    及川 大小さまざまなプロジェクトが世界規模で動く外資系だと、守備範囲はプロジェクトごとに変わってきますよね。

    柳田 そうですね。ただ、読者向けにおおまかに説明するなら、PMはプロダクトプランニングをやる人、TPMは開発で必要な各種調整を行う人、エンジニアリングマネジャーは実装フェーズを管轄する人、といったように職域が分かれています。

    及川 私や柳田さんが勤めていたGoogleにもTPMがいましたが、彼らはどちらかというと開発プロジェクトを管理することに特化していました。アマゾンにおけるTPMは、ちょっと違うように思います。

    柳田 ええ。Googleと比較するなら、アマゾンのTPMは「開発指揮官」で、一方のPMは彼らとビジネスサイド、すべての関わる人たちを巻き込みながら一つのシンフォニーにしていく「オーケストラの指揮者」のような感じです。

    及川 古屋さんは、アマゾンジャパンのPMを定義するなら何と答えますか?

    古屋 チェンジドライバー、でしょうか。担当する事業領域をドライブしていくために、どうやって変化を起こしていくかを企てる人というか。

    とはいえカスタマー第一主義が徹底されているので、例えば「担当事業で短期的に売り上げ増が見込めるキャンペーンを考案したけど、Amazon.co.jp全体のUXは下がるかもしれない」といった内容だと、即座に却下されます。

    この辺のバランスの取り方が、当社のPMの難しいポイントかもしれません。

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