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副業する人・しない人で収入&幸せ格差が広がる? 元LinkedIn日本代表・村上臣がエンジニアに説く「稼ぎ方2.0」

働き方

会社員として働くエンジニアが収入を増やそうとする場合、今いる会社でポジションアップしたり、給与ベースの高い会社に転職したりするケースが多いだろう。

また、ここ数年で新たな選択肢として国内でも浸透してきたのが、副業によって収入を増やす方法。それと同時に「パラレルキャリア」という言葉を耳にする機会は増えたが、実践している人はまだ少ないかもしれない。

元LinkedIn日本代表で、書籍『稼ぎ方2.0』(SBクリエイティブ)の著者・村上臣さんは、「自動生成AIの進化による後押しも加わり、これまで以上に副業しやすくなっている」と話す。

村上臣さん

「欧米では、コロナ禍を機に『クリエーターエコノミー』(※)が本格的に到来し、会社の外で新たな収入源を獲得するエンジニアが一気に増えました。日本においてもこの波が近々やってくると思います」(村上さん)

エンジニアの給与が安いと言われる日本ーー。これから先、日本のエンジニアの「稼ぐ」環境はどのように変化していくのだろうか。来たるクリエーターエコノミーの波を乗りこなす方法を、村上さんに聞いてみた。

(※)インターネット上で個人クリエーターが商品・サービスを提供し、収益を上げるデジタル市場

欧米で副業ブーム到来。一社で働き続けるだけでは“ジリ貧”な時代に

ーー村上さんは書籍『稼ぎ方2.0』でパラレルキャリアのすゝめについて書いていますが、そもそも、日本のエンジニアの給与ベースは今後どうなると思いますか?

DX人材の需要アップなどを背景に、長期的に見れば、各社で給与水準が上向くのは間違いないでしょう。腕のあるエンジニアなら引く手あまたの状況ですから、しばらくは食いぶちに困ることもないと思います。

しかし、終身雇用制度の考え方が根強く残る日本企業の場合、新卒時点の年収が低く設定されているため、30〜40代になっても伸びしろはそこまで大きくない。

そもそも日本のエンジニアの給与水準は、欧米と比較するとかなり低く設定されていますし、今やタイ、ベトナムなどの東南アジアの方が給与が高いくらいです。

実際、日本に出稼ぎに来る意味がないので、東南アジアのエンジニアたちは次々に国に帰っているような状況ですしね。

そんな中、優秀な人材を採用するために、エンジニアの給与アップに踏み切る会社は増えていますが、従来の相場観を引きずっている会社が多いのも事実。

今後も、国内企業一社で働き続けても“ジリ貧”というケースも増えていくでしょう。

ーーその場合、副業で稼ぐ方法が有効だと。

村上臣

そうですね。今の時代、副業はかなりハードル低く始められますし、「稼ぐ」だけじゃなく「好きな仕事」を手掛けるきっかけにもなりますから。

実際、欧米ではNFTブームの後押しもあり「クリエーターエコノミー」が盛り上がりを見せていて、個人でものづくりをして発信し、それを販売するエンジニアが目立つようになりました。

そして、好きなことをきっかけに始めた副業の方が華開いて、仲間と一緒に起業してしまう人なども、これまで以上に増えてきた印象ですね。

ーーなぜ欧米では、エンジニアの副業がそこまで盛んになったのでしょうか?

欧米ではコロナ期間のロックダウンが長かったので、家で時間を持て余したエンジニアも多くいました。そこで、余暇の時間に作ったものをせっかくなら発信したり、売ったりしてみようと考える人が増えたのだと思います。

さらに、自動生成AIの台頭も追い風になっています。今や、絵を描く技術がない人でもAIを使えばプロのような絵を描けますし、文章を書くことも、ゲームや音楽をつくることもできる。

プログラミング関連の作業も、言語の置き換えなどであれば、自動生成AIの得意分野です。

このようなテクノロジーの普及がエンジニアのできることを増やしたり、作業効率を上げたりする一助となって、副業をするハードルをますます下げている。

日本も国が副業推進に取り組んでいますから、きっとこれからますますクリエーターエコノミーが活性化する可能性は非常に高いと思います。

副業探しのコツは、「好き・学び・収入」の三つが重なるものを選ぶこと

ーーいざ副業を始めてみようと思うと何をすべきか迷う人もいると思いますが、どのような観点から副業を選べばいいと思いますか?

大切なのは、自分が楽しめることや、頑張らなくてもできることを選ぶこと。

最初から「月10万稼ぐぞ!」などと考えてしまうとやれることが限られてしまいますし、負担が大きいと長続きしませんからね。

最初のうちは「稼げたらラッキー」ぐらいに考えることがおすすめです。

村上臣

ーー「稼ぐ」こと自体を目的にしない方がいいと。

そうですね、長く続けられなければ結局大した収入にはならないはずなので、「稼ぎは後からついてくるもの」と考えておく方が得られるものはむしろ大きいのではないでしょうか。

その上で、仕事に対する「好き」、スキルアップにつながる「学び」、そして「収入」の三つが重なり合う部分から副業を探すと、続けていきやすい。

例えば、ポッドキャストが日本よりもはやっている欧米では、最新のテック事情をエンジニアが語る番組や、プロダクトマネジメントのノウハウをPMが語る番組などが増えています。

それがどのくらいの収入になるかは人それぞれだと思いますが、自分の興味のあることを人に発信するのは楽しいはずだし、発信するために勉強すればそれがその人にとっての学びにもなる。

また、情報発信がきっかけで転職先から声が掛かったり、自分がやりたいと思っていた副業のプロジェクトに呼んでもらえたりすることもあると思います。

ーー新たな収入源というだけでなく、思わぬキャリアの扉が開くこともあるかもしれないんですね。

その通りです。すぐにはまとまった収入に結び付かないかもしれませんが、それでもエンジニアが副業を始める価値はあると思います。

あと、自分の仕事に対してお金を支払ってもらえることって、承認欲求を満たしてくれるものでもあるんですよね。

会社の給与は毎月固定の額が当たり前のように支払われるので忘れがちですけど、自分で選んで始めた副業先からもらう報酬は、「あなたの仕事にはお金を払う価値がある」と言われたような、そういう実感が得られやすい。

また、今の会社以外にも自分を認めてくれる先があると確認できるだけでも、気持ちに余裕が生まれますし、キャリアに対する不安も払しょくできるようになりますから。

日本の情報を英語で発信できるエンジニアの価値が上昇中

ーークリエーターエコノミーはグローバルに広がっていると思うのですが、日本のエンジニアが特に求められている領域はあるのでしょうか?

村上臣

そうですね、日本のマーケットに関心がある海外の人に対して、日本のエンジニアだからこそ話せる内容を英語で発信する活動は個人的におすすめですね。

海外企業にとって日本は魅力的なマーケットですが、それと同時に特殊なマーケットであるがゆえに、なかなか進出できないことってよくあるんですよ。

ですから、そういう企業との間に入って、日本に進出する架け橋になってあげられるような人の需要はすごく高いと思います。

例えば、「日本のユーザーはこういうものが好き」「日本のものづくりやサービス開発はこうやって進む」という情報を与えてあげるようなYouTubeを海外のビジネスパーソン向けにやってみるとか、ブログを書いてみるとか、そういうことでもいい。

情報発信をする本人に英語力があればベストですが、難しい場合は、翻訳ツールを使って字幕をつけるなど、テクノロジーを活用すれば解決できますね。

ーーその発信活動がきっかけで、海外企業からスカウトされたり、思わぬキャリアのチャンスを得られたりするかもしれませんね。

ええ、本当にそうだと思います。また先述したように、好きなことやスキルアップしたいことを副業で実現するのももちろんおすすめです。

その際は何らかのコミュニティーがあると、良い方向に活動が発展しやすい。

エンジニア界隈では、同じ職種の中でつながれるコミュニティーは充実していますが、他職種の人とつながる機会はそれほど多くはありません。

しかしPMやマーケ、デザイナーなど、ものづくりに関わるさまざまな役割を持つ人たちでコミュニティーを作ることができれば、より完成度の高いものを作ったり、何らかのプロジェクトにコミュニティーとして参加したりすることができるようになります。

私の知人にGo Andoさんというデザイナーがいるのですが、彼はコロナ禍のステイホーム期間に机に興味を持ったことがきっかけで、コードレス環境を実現する机をフリーランスのギルドで作りました。

ものづくりに協力してくれる仲間がいれば、アイデアが形になるスピードも速い。副業で発信活動をする場合は、協力し合える仲間づくりも同時に行えると、プロジェクトが進展しやすいと思います。

幸せに働き、稼ぐために「職務経歴書」を定期的にアップデートせよ

ーー副業を始めるにも続けるにも、自分のやりたいことや好きなことが起点になるというお話でした。そうなると、自分の好きなことをを見つめ直す作業も大切ですよね?

村上臣

まさにその通りです。パラレルキャリアを始める前にやるべきは、自分自身を見つめ直すこと。この作業が最も大事です。

せっかく本業に加えてやるのであれば、楽しめることがいいですよね。そういうものを見つけるために、自分は何をしている時にワクワクするのか、どんなスキルアップをしたいと思っているのか、普段の仕事を振り返って考えてみる必要があります。

そして、振り返りを通してやってみたいと思う仕事が見つかったら、どんなかたちでもいいので始めてみること。先ほど申し上げた通り、すぐに収入にはつながらないかもしれないし、何か発信してもすぐに反響がかえってくることはないかもしれません。

でも、活動を継続していくうちに徐々に反応を得られるようになり、新しい仕事が自分にとってのサードプレースのような存在になる日が来るはずです。

ーー村上さんご自身は、どのように「やりたいこと」「好きなこと」を明らかにしていますか?

私は年末年始に、キャリアの棚卸しをするタイミングで職務経歴書も更新するようにしています。

一般的には転職活動をするときに職務経歴書を更新する人が多いと思いますが、転職だと数年に1回程度の人が多いはずなので、その都度ゼロから職務経歴書を書くのは面倒ですよね。

職務経歴書づくりは、自分の経験やスキル、得意なことや好きなことなどを振り返る絶好の機会になりますから、できれば半年に一回は更新するのがおすすめです。

仮に転職しなくても自分自身を振り返るツールになりますし、副業も含め、今後やりたいことをあぶりだすことにも役立ちます。

また、エンジニアを求めている企業は多いわけですから、職務経歴書を常に最新の状態にして公開しておけば、好条件で仕事をオファーされる可能性もありますよ。

ーー職務経歴書の定期的な更新はメリットが大きいですね。思わぬチャンスにつながることもありそうです。

そう思います。今日お話ししてきたように、副業のハードルは皆さんが思っているよりも大幅に下がっていますから、今いる会社の中ではなかなかできないような、「やりたいこと」「学びになること」にぜひトライしてみてほしいです。

クリエーターエコノミーの時代は、テクノロジーに明るいエンジニアには非常に有利な時代です。これまで副業に興味があっても重い腰が上がらなかった人は、今こそ新しいスタートを切るチャンス。

パラレルキャリアへ一歩踏み出すことで、想像もしていなかった方向にキャリアの可能性が広がり、物心両面での豊かさを実感できるようになるはずです。

プロフィール画像

元・LinkedIn日本代表/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部客員教員/ポピンズ社外取締役/ランサーズ社外取締役
村上 臣さん
@phreaky
青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に現・ヤフーCEO 川邊健太郎らとともに有限会社電脳隊を設立。2000 年、ピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴いヤフーに入社。11 年に一度ヤフーを退職。 その後、孫正義が後継者育成のために始めた「ソフトバンクアカデミア」で、ヤフーの経営体制の問題点を指摘したことを機に、当時の経営陣に口説かれ、12 年にヤフーへ出戻る。36 歳でヤフーの執行役員兼CMO に就任。600 人の部下を率いて「爆速経営」に寄与した。 17 年11 月、米国・人材系ビジネスの最前線企業LinkedInの日本代表に就任。国内外の雇用事情に精通した「キャリアのプロ」として、NewsPicks アカデミア講師、日経電子版Think!エキスパート等を務めるなどメディアにも多数登場し、転職や働き方について発信。 複数のスタートアップ企業で戦略・技術顧問も務める

取材・文/一本麻衣 撮影/吉永和久 企画・編集/栗原千明(編集部)

書籍紹介

村上臣

『稼ぎ方2.0』 (SBクリエイティブ)

日本人の働き方を根本から変える「クリエイターエコノミー」を解説すると共にクリエイターエコノミー時代に活躍する「稼ぎ方2.0」ついて、元LikedIn日本代表・村上臣氏が解説。会社員も、会社員ではない人も、これからを生きる全てのビジネスパーソンの必携の書
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