コラボlab
エンジニアが異業種、異職種の人同士の集まる混成チームにアサインされた時、どのようにコラボレーションして新たなイノベーションを創出していくのかに焦点を当て、その極意を発見・発掘していく
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エンジニアが異業種、異職種の人同士の集まる混成チームにアサインされた時、どのようにコラボレーションして新たなイノベーションを創出していくのかに焦点を当て、その極意を発見・発掘していく
異業種、異職種の人が集まる混成チームをうまく舵取りしている、さまざまな分野のリーダーを取材してその極意を見出し、コラボレーションの本質に迫る本連載。
三回目となる今回は、システム開発においてエンジニアリングスキルに強みを持ちながらも風通しのよい社風で知られるオープンストリームの代表取締役社長、吉原和彦氏に話を聞く。彼曰く、同社のパフォーマンスの高いエンジニア育成は社内のマーケターやディレクターら、他職種とのコラボなくしては語れないという。その真意について聞いた。
株式会社オープンストリーム 代表取締役社長
吉原和彦氏
1991年4月ヴァルテック(現 SCSK)入社。システム開発会社を経て、2003年オープンストリームに入社。営業マネジャー、営業本部長などを歴任し、15年4月より現職
Webとモバイルアーキテクチャに基づくSI事業を行うオープンストリーム。同社におけるエンジニア育成の大きな特徴は2つ。アナログな社内イベントで心のハードルを下げることと、『新サービス創造プロジェクト』だ。
SI事業の特性ではあるが、同社ではいつも同じメンバーで仕事をするわけではなく、プロジェクトの進捗度とともにさまざまなメンバーが離合集散する。そのため、吉原氏はプロジェクトチームの立ち上がりスピードを成功のポイントのひとつと考えており、あえて社員旅行、忘年会、運動会、合宿などアナログ的なイベントを毎年開催しているという。
「チームが組まれた時に『何となく見たことがある』とか『この人知っている』という感情が心のハードルを下げ、チームビルディングのスピードが加速すると考えています。このようなアナログ的なイベント効果を定量的に測ることはできませんが、これが風通しのよい社風にもつながっていると思います」
同じく『新サービス創造プロジェクト』についてはこう話す。
「オープンストリームではプロダクト事業とSI事業の二つを柱に成長してきました。しかし、2020年度に向けて新たに自社サービス事業を立ち上げるという目的で14年度から『新サービス創造プロジェクト』を開始したんです。1年に1個新しいサービスを創り、10年後にその中からひとつでも事業化できればいいと思っています」
『新サービス創造プロジェクト』の参加者は、SI事業部とプロダクト事業部の混成チームで、エンジニア、営業そしてマーケターもいるという。毎年30~40名が参加しチームに分かれ5~6回のワークショップを重ねる。そこで立案した事業企画を経営層向けにプレゼンし、選ばれたものを開発、新サービスとして世に出していく、事業部の垣根や職種の壁を越えたコラボレーティブな取り組みである。
「SI事業では、エンジニアが良くも悪くもクライアントからの要望を言われたとおりに作ろうとする文化があります。しかし、最近は、顧客自身もこれで良いのか、と迷っているケースも多い。そんなとき、顧客視点で提案できる企画力・事業創造力を備えていれば、エンジニアとしての市場価値が高まり、長きに渡って活躍できるエンジニアになるかもしれない。そんな力を身に付けてほしいとも思っています」
さまざまな職種のメンバーで新サービス創造という経験のない事を考える。これにより、エンジニアに企画提案力、事業創造力が身に付くと吉原氏は考える。
「『新サービス創造プロジェクト』の1年目では、「訪日タイ人向けの情報提供サービス」が新規プロダクトとして選ばれました。マーケットからみれば中国、韓国、ベトナムがメジャー市場なので『なぜタイ人向け?』と思われるかもしれません。しかし、あるエンジニアが、近年の経済成長率や、他の東南アジア諸国よりも高いスマートフォンやSNSの利用率、親日であるところに着目して提案したんです。マーケティングデータからビジネスの可能性があるということを自ら導き出せるエンジニアは少ない。このビジョンが持てるエンジニアの市場価値は自然と高くなるはずです」
後に『Edamame』と名付けられたこのサービスでは、開発メンバー自身が自らの手で、訪日タイ人向けにイベントを企画して、そしてイベントの中でのサービスを自ら紹介・PRし、使う人に直接触れあうことで、ユーザーの要望にいち早く対応していくというスタイルで開発、改良を重ね、完成させた。
さらに、同様に『新サービス創造プロジェクト』から誕生し、迷い猫をIoT技術を使ってなくしていこうというコンセプトの『ねこもに』(現在開発中)も同例だ。企画途中の段階から早々に「むさしの地域猫の会」と連携し、予め情報を仕入れており、サービスリリースと同時に「猫の会」に向けたPRをするまでのイメージをも描いている。
「『Edamame』同様、お客さまの生の声をシステム開発にすぐに反映することができる体制を企画初期から意識しています。ちなみに、『ねこもに』の位置推定機能は特許出願中なのですが、これも開発途中にエンジニアから上がった『特許が取得できるのでは?』という意見がきっかけでした」
「当社の強みは、そんな多角的な視点を持ったエンジニア・マネジャーがビジネスを主導することです。通常のプロジェクトマネジメントだけでなく、既存の顧客のビジネスプラン作成や新規顧客への提案活動も担当するんです。期初のタイミングで、マネジャーは担当しているお客さま向けのビジネスプランを作成し、社長である私にプレゼンします」
それは、あるエンジニア・マネジャーが、ビジネスプランのプレゼンをひと通り終えた後だった。「このビジネスをさらに加速させるために、トップマネジメント同士での関係構築が必要です。ぜひ、社長の力を貸して欲しい」と事業成功に賭ける熱い思いで、吉原氏に要請してきたという。
「この件はとてもうれしかったのを覚えています。自分の枠組みだけで考えを止めず、会社・組織、社長をも動かしてでも、成果の最大化を図ろうと考えられるのは喜ばしいことで、社員がレベルアップしてきていることを実感した出来事でした。会社のレベルアップは、エースを育てることも大事ですが、社員一人一人のレベルを上げる方が重要だと思うんですよね」
自社のエンジニアに対し、「社内で通用するエンジニアではなくてIT業界全体の中で通用するエンジニアになってほしい」、「いつでも転職できるスキルを身に付けてほしい」と伝えているという吉原氏。
「こんな言い方をしてもオープンストリームで働き続けたいと思ってもらいたい。そのために、会社も仕組みや制度で努力し、社員と会社が対等な関係でありたいと思っています」
さまざまな視点が人を成長させる――。
実は吉原氏自身もそんな考えで転職した過去がある。
「私のファーストキャリアはエンジニアなんです。エンジニアとしてお客さまとの接点を持てることはとても楽しかった。しかし、これから先、自分の強みをどこにするか考えたときに、技術の分かる営業という領域であれば、高いレベルで勝負できるのではないかと考えて、転職に踏み切ったんです」
オープンストリームがB2Cのシステム開発を得意とする理由。それは自社サービスを提供している事で、クライアントの現状の課題を正しく理解でき、どうすれば良いサービスになるのか提案する事ができるからだ。
「私たちがクライアントに選ばれる理由と自分たちのサービスが成功する理由を結び付け、各事業が独立して成功しつつ、しっかりと連携している状態を5年後10年後につくっていきたい。そしてオープンストリームは、高い技術力と事業創造力、企画提案力を身に付けたエンジニア集団でありたい」と吉原氏は語る。
あらゆる領域に技術が必要になった今、ただ「コードが書ける」以上のエンジニアの価値が求められている。オープンストリームのエンジニアのように、他職種の人とのふれあいを通じて、自分自身の価値を高めていくことも必要なのかもしれない。
取材・文・撮影/田中千晶
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